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「スープとイデオロギー」


2022年8月某日

「スープとイデオロギー」
監督:ヤン ヨンヒ

ヤンヨンヒ監督は「間に合った」と思う。

私ごとながら自分の母と同年代のオモニの姿に、
一周忌を終えた母との濃い関係を思い出し、
吸い込まれる様に観た。

ヤンヨンヒ監督のことは「かぞくのくに」の話題の後に知り、
あらすじ読んで「観たい」と思ったけどまだ観てなかった。

なのでこれが初めてのヤンヨンヒ作品。
でもTwitterを見ていて、なんだかちょっと知ってる人の家族を観る様な気持ちがしていた。

朗らかなアボジと楽しげに食事をしたり、
足腰が丈夫で家事や料理をテキパキこなしたり、
羨ましいような元気なオモニで、仲も良いなと、前半思えたけども、
パンフレットを読むと「価値観も性格も真逆で口論が絶えなかった」と監督が書いている。
はたから観るとよく似ている、息ぴったりの母娘なんだけど、
(特に同性の)親子って多かれ少なかれそうなんだろう。

高齢の親の元に通う日々を
「愛情よりも義務だった、母の存在を重荷に思っていた」
と語る。
実感をもって深く共感する。まったくもって同感。
介護のプロフェッショナルの人のように愛を持った態度なんて出来ない。
肉親だから苛立つし、平常心にはなれないし。

それでも監督は、母の遺言の様な、
母の体内の、真っ赤な心臓のような、
もしかしたらたった1人で抱えて死んでいってしまったかもしれない塊を、
しっかり受け取っていたと思う。

済州島でのオモニの様子をみると、
もうこれ以上、現世で受け入れられない、
限界を超えた重い記憶なんだと伝わってきた。
アルツハイマーのせいとは思うが、殆ど眠っている様に意識が薄そうに見える。

でもヨンヒがひたすらに涙を拭って語る時に、
母はふと手を娘の方に伸ばしたし、
虐殺の犠牲者達の墓で、眠る様に黙ってからも、
ヨンヒが「忘れなきゃ辛すぎるんだよね」(言葉違ったかも、記憶曖昧)
と言った時や、
「でもやった方の人は忘れちゃだめだけどね」
と言った時、小さくウンウンと母は頷いていた。
現場では見えたかどうか分からなかったけど、
編集などで見返せば絶対に監督自身にも見えている筈。

済州4.3の事はしっかり引き継いで、
しかも娘はこんなに立派な、世界に誇りたい良い作品を撮る映画監督だもの、
オモニはどんなに誇らしいだろう。

あと何よりこの映画で良かったのは監督のダーリン荒井カオルさん
(ダーリンとちょっと呼んでいたよね?)
エンドロールを見たらエグゼクティブPDとあって、
映画づくりのいつものパートナーなのかと思いきや、
パンフレットを読むと普段は別の仕事の方らしいではないか。

こんなかっこいい男性が日本人だとなると、
これはものすごく世界の(!)希望だ。
初登場の日のスーツとTシャツ(狙ってるな!?笑)
ヨンちゃん大好きを隠さないお手振り、
美味しすぎる事を知ったスープに舌なめずりする様子、
高齢者ビジネスの軽率な商人に食ってかかる悪い口調(笑)
なにもかも素敵で、めちゃくちゃ頼もしかった。

多分、男に寄り掛かって生きたいとか少しでも思っている女には、
こういう最高の男性は透明に見えるかもしれない。
ヤンヨンヒにはクッキリ見えたのかな!
でも、海外のドラマや映画にはこういうタイプの男性わりと登場するな…
うーん🤔日本ではあまりお目にかからない…
(いや、私がダメンズ(懐かしいフレーズ)しか見えない目をしてるのだろうか?)

オモニがこの映画のポスターの様な綺麗な笑顔で過ごした日。
あの写真も、この娘婿も、辛そうだった済州への旅も、
オモニの魂はきっと芯から癒された筈、と願う。

親が生きてる間にここまでやれる事は稀有な事だと思う。
勇敢なヤンヨンヒ監督だからこそだとも思う。

思い出すのは #ゆきゆきて神軍 (またしてもこれを引用)
あれで言いたくない戦中の事を無理やり言わされた人がいた。
墓まで持っていこうと思った苦しみを
強引に言わされてしまったのに、
そのあとほのかに柔らかな表情になっていたことが印象的だった。

あまりにも凄惨な辛い記憶、
それを語る事はアルツハイマーを加速させる程の苦行だったに違いないのだけど、
それでも結果的に娘に託せたこと、
自分の故郷で娘が号泣していたこと、
きっとオモニの魂はまるっと受け取っていると思う。
それがきっと母娘なのかなぁ、と思いたい。

それにしても、
韓国ドラマなどでいつも素敵なリゾート地として登場する済州島に、
そんな歴史があると全く知らなかった。
518の日には、今日は韓国で #光州事件 があった日で、
サブスクで #タクシードライバー や #弁護人#光州518 などを観られるよ、と呟いてくれたヤンヨンヒ監督、
お陰で最近色々見たり読んだりしています。
朝鮮半島の混乱の歴史に、日本は直接にも間接にも大いに関係している。
日清戦争、日露戦争、二度の大戦、そしてその後も
日本は朝鮮半島をグチャグチャにして、韓国・朝鮮の、またそのルーツの人々への民族差別を未だに強く内包している。
#民族差別 の罪は拭えない。
だからせめて今からでもと、もがいています。

#スープとイデオロギー
#ヤンヨンヒ#荒井カオル
#済州43#映画鑑賞記録

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