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「女と文明」中公文庫

「女と文明」
著者:梅棹忠夫

夥しい数の付箋を付けてしまった。
この様なレイシストの書いた本は読む価値なし、
と言いたくて付けた付箋なんだけど、
読み終わってみれば、
宜しかろう、刀を収めてやろうではないか、
という気になったのが悔しい(笑)

主に専業主婦についてのもっともな指摘に溢れている。
お役所仕事と似た様なもので
無駄にハンコを押しまくり、
増える仕事の自己欺瞞に気付け
という論理だ。
もっともだ。
60年前にして脅威の慧眼の書だ。
家庭版 #ブルシットジョブ (くそどうでもいい仕事)の指摘である。

私からしても、
憧れの専業主婦への嫉妬から
そーだそーだとも思うところなのだけど、
今は人生初めて殆ど専業主婦的な状態になり、
ようやく映画やら読書やらが出来て浮かれているのは、
やはり夫が勤め人なお陰であるのでなんとも惨めな気持ちで読む。

これが書かれたのは私の母が結婚したり子を産んだりしていた時代で、
母の本棚には妻であり母であり女である事を悩みに悩んだと思われる、
数々の書籍が並んでいた。
母は結局離婚して、子を持ちながら自立する道を選んだ。
幸いバブル期に入ったので仕事は選択肢があり、
私はそれ程ひもじい思いをせずに育った。
(その後は読む時間がなかったのか、何十年も母の読書は止まっていた様だ)

戦争も終わり、時代が動いて豊かさに突き進む時代、
貧しさ苦しさから解放され、
熱心に夫と子供、そして自分の暮らしを素敵なものにしようとして華やいでいた専業主婦達にしてみたら、
本当に怒り心頭だったと思う。
(指摘がもっともなのが怒りを激しくしただろうw)
著者本人は「賛否両論」だったと言っているが、
あとがきでの上野千鶴子氏は「ごうごうたる非難を浴びた」と書いている笑。

社会を知って何事をもを遂行する能力を身に付けていると自らぬかす、高下駄を履いた男から、
「妻は無駄な仕事を増やさず怠けるべし」と説かれるのだが、
その後に、実際としてどの様に家事のやり方を変革してゆけば良いかとこと細かく解説する。
はい?
である。
「そのやり方で家事をしながらどうぞお一人で暮らして下さいませ」
とよく妻君が実家に帰らなかったなと思う。

つまり、ミイラ取りがミイラになり、
俯瞰出来ずに入り込んじゃってるので理論が破綻しているのだけど、
今で言うなら炎上商法のポピュリストの如くに露悪的に書いて主婦を刺激しているから、
女達も冷静になる余裕なんかなかったのだと思う。
これは論争になりますよね。

(時代とは言え、女に対する言葉遣いが、
下等な生き物に話しかける言葉遣いなのが生理的に嫌。
これは私の例えだけど、
犬猫に「ご飯をあげる」のは間違い、
「エサをやる」が正しい日本語だ、というみたいに、
女にやるのはエサだ、と、こんなイメージを連想した。
この言葉遣いや価値観が明治、大正生まれの男であり時代だったのだね。)

本人が当時論争に巻き込まれていた時に、その自覚がなかったと言うのも成る程いかにもバカ男子らしい。
加害者の自覚に気付かずに
蚊帳の外から乱暴に鉄の手を突っ込むからだ。

しかし、この様な刺激的な論考を書いたのは本書の中盤に収められたものであって、
前半、後半は非常に興味深いものだった。

アフガニスタンの街では女性を見ない事については、
中村哲氏の著者でも少しだけ語られるし
昨年夏にタリバンが再び政権を取ってしまった際に世界で多く報じられ、
首都で女性達がプラカードを持って抗議しており、
世界のフェミニストも口を出していた。
(田舎との実情のズレもとても気になるところ)
また、真逆か!と言う様なタイの様子もとても興味深かった。

そして、後半などは、
月日が経ってから、しかも対談形式の章もあり、
著者が思想をアップデートして行ける柔軟な人物であり、
また挑発的な文章に反して人柄の良い人物の様だったとうかがわれる。
(編集者は物書きのこの様なギャップによく遭遇するそうです)

めまぐるしく価値観が更新される現代で
このアップデートができない者、
つまり森喜朗系の爺さん婆さんはあっという間に社会からクビを言い渡されてしまう。(と願いもする)

この著者梅棹忠夫氏は民族学、比較文明学の専門家だと言うから、
例えば、まさか黒人奴隷を指して
黒人はそもそも資本主義社会の中で社会人として働く意志も教養も無いのであるから
せめて自分の仕事を工夫しさっさと社会に出てみなさい

等とトンデモお門違いな事は絶対書かないだろうし思ってないだろう。

でも「女」には言う。
とりわけ世界と比べて「日本の主婦」は恵まれているから、
他の被差別マイノリティへ向ける様な配慮は不要と言うわけだ。

女が相手なら炎上はしても本が売れ
これは先見の明に溢れた慧眼の書だと言われて2020年に文庫が新たに出されたりする。

おめでたい事だ。

しかしこの著者のフィールドワークに興味がある。
大阪に行ったことがないのだけど国立民族学博物館はぜひ訪ねてみたい。
イライラが落ち着いたら氏の他の著書も読みたいですね。

写真では、連想した面白い作品を並べました☺︎

#女と文明
#だから荒野
#スカイキャッスル
#上野千鶴子
#読書

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