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散文詩 『ラピス・ラズリ』

ラピス・ラズリ   

鉱石のような恋をしなさいと母さんは言いました。
私は青紫色の瞳を感じて、誘われるようにカーテンを綴じます。
むかし飼っていたハムスターのお墓を柔らかく思い出しながら
君が赦した金属光沢をするらり撫でるのです。

 ふと嗅いだマスカットの匂いにつられて家を出る。外はぞっとするほど暗くて、足下だけが上からの光を反射している。遠くの工場が琥珀色に光って深く煙を吐いているのが見える。サンダルで歩くには少し肌寒い。少し悩んでやはり前に歩き出したのは君を考えたいからだ。本棚にある大判の本。その真ん中を開くように。

らぴすらずり。ゔぇるーりや。青金石の仲間たち。同じくらい青い星のなかで、原子核が衝突する亜光速。なとりうむを赦しなさい。あるみにうむを赦しなさい。しりこーんを赦しなさい。その他ありとあらゆる自由電子を赦しなさい。そのアイで、薔薇を嫉妬させなさい。

 今日は曇って星が見えない。気の向くままに歩いて、気づけば街は白く歪んでいる。君と出会ったら僕は消えてしまうだろう。ラピス・ラズリ。奇跡のような出会いの果てに生まれた光。惹かれ合い暖め合った結晶。君を考えるときの私の手には必ず白い手袋が。カーテンのほつれをそっとひっぱる。

今日もしやんしやんと灯りの降る音が聞こえます。
手紙にかけた香水のかたちをあなたはいつもわかってくれました。
私の傷を金色にしてくれてありがとう。夢の中で。
ラピス・ラズリ。私の星空。あいしてる。

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