話の長い患者さんには「今は5分しか時間がない」とあらかじめ伝える
病院で働いている医療者なら、通りすがりに話しかけられ、そのまま話し込まれてしまった経験があるのではないでしょうか?
話があっちに行ったりこっちに行ったり、そうかと思うと同じ内容を繰り返したり……。30分から1時間も、ひとりの医療者を捕まえて話し続ける方もいます。
雑談ならまだいいものの、その行動が患者さんの不安から来ていて、その不安を何とか医療者に伝えたい、と思っている場合もあります。本人が、不安の正体に気が付いていないことも少なくありません。
僕が働いていたのは精神科だったため、「話をさえぎったらよくない影響があるのでは」と、途中で止めることができませんでした。「ちゃんと聞いてあげたい」という思いもあります。
そのため、いつまでたっても話は終わりません。話が長くなるほど、時間の経過や溜まっている仕事が気になり、相手の話に集中できなくなっていきます。
こんなときは、どうすればいいのでしょうか。
いつも話を長く聞いてしまうと、患者さんによくない影響も
長い話を延々と聞いて、患者さんの不安がある程度取り除かれたとしましょう。それは良いことのように思えます。患者さんが不安を感じているなら、話を聞いてあげたいと思うものです。
ところが、長い目で見ると悪い影響があります。
それは、患者さん自身が「長く話を聞いてもらわないと不安が取り除かれない」と学習してしまうことです。その学習によって、余計に医療者を引き留めて、長く話を聞いてもらおうとします。それは、医療者に対する依存につながります。
でも、本当は5分や10分でも解消できる内容かもしれません。
短い時間で話してもらうための工夫
よくない学習をしないように、また、医療者の時間をむやみに使ってしまわないように、話す前に「今は5分なら話を聞けます」と伝えておくのがいいでしょう。
患者さんも「5分しかない」とあらかじめわかっていれば、その中で伝える方法を考えます。もしかしたら、5分では収まらず、10分になるかもしれません。それでも、最初に何も言わなかったために1時間拘束されるよりはずっといいでしょう。
5分や10分で話が聞けたら「前回は1時間かかりましたが、今回は短い時間で話せましたね」とフィードバックしていきます。患者さんは「5分でも話せるんだ」と学習し、さらに整理して話ができるようになります。
短く話せた経験は、患者さんのためになる
自分が話す側でも、同じように感じたことはありませんか? 話している最中に「もう時間がないから」と言われると、「時間がないなら最初から言ってほしかった」と思いますよね。
患者さんとしても、最初から「短く話してほしい」と知っていたほうがいいのです。
呼び止められたときに「5分しか時間がありません」と伝えるのは申し訳ないような気持になるかもしれませんが、自分のためだけでなく、患者さんを守るためでもあります。
短い時間で話をまとめ、楽になる方法を長期的に学習していくと見越したうえで、声をかけていく必要があるでしょう。
新人看護師さんほど気を付けて
新人看護師さんほど、患者さんの話をていねいに聞いてあげようとするようです。患者さんも「新人だから話を聴いてくれそう」と思う人が多いのです。
また、適当にあしらっているベテラン看護師を見て、「なんてひどい扱いをするんだ」なんて思うこともあるかもしれません(僕には、ありました)。ところがほとんどの場合は、ベテラン看護師だからこその意図のある行動だったのです。
話し手:坂本岳之
ライティング:栃尾江美
カバーイラスト:金子アユミ
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