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240327 叫ぶこと、私の身体


彼女は叫んでいた。
その振動が私の肌を揺らして、自分の中にある衝動が震えるのを感じた。

演劇を観に行った。

音楽が好き、アートも好き、ライブや展示会も大好きだけど、演劇を観るのは初めてだった。どこか自分には縁遠く感じていて、どんな劇団の何から観ればいいのか分からないまま、「面白そ〜」という気持ちだけ持っていた。

そんな折、演劇をやっている友人が声をかけてくれた。友人が何かに打ち込んでいることを知ると自分の目で見に行きたくなるのが私というもので、彼女が教えてくれた公演を観に行かない選択肢はなかった。

始まると、彼女は叫んでいた。
ああそうだよな、と思った。

人間って本当はもっと叫びたい生き物なんだろう。

多忙なスケジュールの中をなんとか生きていたころ、街中で叫びそうになったことがある。「危ない危ない」と意識が後から追いついて不審者にはならずに済んだけれど、その「危ない危ない」と考える数秒前の私は、私の身体は、叫ぼうとしていた。思考を介さずに、ただ外に出ようとする何かを通過させる身体。その何かを叫びではない他の方法で表出させる術を持っているのが人間なのだと思うけれど、叫ぼうとする身体を自覚したとき、ただ命ある生き物としての自分を見たようでなぜかワクワクしたことを覚えている。


叫ぶ彼女に、自分にもあるその衝動が掘り起こされた。

私には彼女が友人としてではなくその世界の「あの子」として見えて、私は新しい出会いを得たのだと不思議な気持ちでいっぱいだった。

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