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2.5次元の真骨頂 生身の人間の力で「戦争根絶」を描く、舞台『機動戦士ガンダム00』

ガンダムシリーズ初の舞台化である本作(略称:ダブステ)のファーストシーズンの上演は2019年。長い延期を経て、今月セカンドシーズンが上演された。
ガンダムが好きな人にも、2.5次元舞台が好きな人にもぜひ観てほしい、とてもおすすめの作品。

原作「ガンダム00(ダブルオー)」は従来のガンダムシリーズとは異なり、西暦を用いる時代の物語。実在の紛争地域も登場する未来史的なアニメだ。ガンダムってどこから観たらいいのかわからない、と思っていた当時、勧められるがままに観て少しだけガンプラまで作った(ちなみに推しはアレルヤだったので、キュリオスとアリオスを作りました)。

この舞台作品の存在を知った当初は、それほど興味をもたなかった。2.5次元舞台化されるアニメやゲームは山ほどある。数は少ないものの、好きな原作の舞台は観てきたなか、全部を手放しで気に入ったわけではないからだ。
あとからわざわざファーストシーズンのBlu-rayを購入したきっかけは、主演である橋本祥平さんの他の出演作を観たこと。彼の演じる刹那・F・セイエイを観てみたくなったのだ。2.5次元舞台は原作ありき・キャラクターありきのエンターテインメントだと思われる節もあるが、結局もっとも大事なのは演出と演者だと思う。この人の作る舞台、あの人の演じるキャラクターでしか出せない、原作とは一味違う舞台ならではの深みがあるから愛される。

ロボットアニメの戦闘シーンを舞台でどう再現するのか不思議だったが、観たら度肝を抜かれた。なんだこれ!? 一歩間違ったら事故必至、人力フル稼働のアクションである。機体(モビルスーツ)そのものは舞台上に出てこない。コックピットを再現した「ライザー」(台車)が板の上を縦横無尽に走り回り、目まぐるしい戦場となる光景には圧倒される。「ライザー」を動かすアンサンブルキャストの緻密な技術と連携なしには絶対に成り立たない。

そんなこんなで、生身の人間のもつ魅力と技術に惹かれて、セカンドシーズンの上演を楽しみにしていた。本来なら劇場で観たかったが、感染症対策のため配信で画面に向き合った。2月20日まではディレイ配信が観られるので、いまちょうど再生している。生の空気を感じられないのが残念だが、配信は配信で、じっくり何度も観られるのがいいところ。

全50話の原作を再構成した物語は、細部を省いてシンプルにしつつも、キャラクターやアクションの魅力を削ぐことなく十分に描いている。原作を知っている人なら宇宙空間でモビルスーツの戦う様子が目に浮かぶだろうし、知らない人であっても地球全体を巻き込んだ大きな戦争、個人の感情の両方が受け取りやすく、とても味わい深い作品である思う。緩急のバランスがとても良く、3時間の上演時間はあっという間だった。本当に本当に観られてよかった。

あとは箇条書きで感想を残しておこうと思います。

・女性キャストが多くてすき

2.5次元では女性キャラクターをカットされてしまうことが多いのだけれど、ダブステでは主要キャラクターがほぼカットされていない。ありがとうございます。ただし、メインヒロインのはずのマリナ姫は一切出てこない。もし出てくるなら映画(完結作である劇場版ダブルオー)を舞台化したときかな、と思われる。
私がダブステで特に好きなのは、伊藤優衣さん演じるネーナ。欲望や感情に素直で戦闘は派手な一方、自分の存在の虚しさに翻弄される様子がいじらしい。

・イノベイター(イノベイド)組がかわいい

造られた存在「イノベイター」の人間らしさが、際立っていてよかった。
人間への好奇心を強く抱いたリジェネ、高い知性と戦闘能力をもつ誇り高いリヴァイヴ、好戦的なヒリングとイース。人類のための道具になることを拒み、人類を導く神になろうとしたリボンズ。彼らにも彼らの意思があっての戦争だったのが、キャストの魅力によってさらに感じられた。

・恋愛要素はさっぱりめ

2期の舞台化で一番気になっていたのは、恋人アニューの存在がカットされたライル(ロックオン)がどう描かれるのかだった。結果として、兄の役目を引き継ぐことへの葛藤や、後輩ガンダムマイスターとしてのあり方だけで十分キャラクターが確立していて、舞台のライルもいいなと思った(アニューの代わりに、フェルトとの淡淡とした関係性はある)。他のキャラクターを見ても、原作では描かれていた男女の恋愛要素がだいぶ薄くなっていて、湿度が低い。

・「争わずにわかり合える」がわかる

これは舞台だからというのもあるし、私自身が原作を観てから時間を経たせいもあると思う。

ダブルオーの面白さであり、同時に解せないと思っていたのは、「武力介入による戦争根絶」「対話すればわかり合える」という根幹のテーマだった。
そんなこといってもさ、戦争は経済や権力の微妙なバランスによって起こるものだし、理解の及ばない他者との衝突を避けるのは無理。それでも戦うことをやめる方法を見つけなくちゃいけないから難しいんでしょうが…!?とアニメ当時は首を傾げていた。ダブルオーのテーマを「綺麗事」と思っていたけれど、それは私が若くて青臭くて、わかったふりをしていただけかもしれない。

少ないながらこの十数年で見聞きしてきたことで、社会情勢は一部の人間だけが作り出すものではなく、あらゆる人間の生み出す空気によって変わっていくものだと感じている。いい方向にも、悪い方向にも。
一部の人々は大義を掲げ、ただ一つの手段として大衆を戦争へと煽る。そこで命を奪われ、人生を壊される個人には目を向けず、ひたすら鈍感になれと強要する。

本当にそれぞれの感情に向き合うなら、人を傷つけることも人から傷つけられることも、誰もが避けるはずだ。いま殺そうとしていた相手が一人の人間であると感じてしまえば、武器を振り上げた手はきっと止まってしまう。
舞台のお芝居は身振りが大きく、声を張るもの。だからこそ、クライマックスでキャラクターたちがぶつけ合う言葉は真に迫っていた。
戦争は他人事でしかなかった沙慈とルイスという恋人たちの顛末、GN粒子によって二人の対話を聞いた戦場の人々、刹那とリボンズの決戦。人と人が真剣に関わることが、たしかに「世界を変えていく」。綺麗事ではなく、そうなるのが自然だった。

現実ではいまもまさに戦争が起きているし、起きようとしている。私たちの生きる世界は、フィクションよりもずっと冷酷で乱暴だ。わかり合うほどの余裕もない。
でも、ダブルオーの物語はそらぞらしい理想ではないと思うのだ。

・パトリック・コーラサワーをありがとう

AEUのエースパイロットという輝かしいポジションでありながら、上官カティにメロメロ(死語)で、戦場でもコミカルな活躍を見せる「不死身のコーラサワー」。
凝縮された3時間のシリアスに次ぐシリアスな展開のなか、短いシーンで持ち前のお茶目なキャラクターを十二分に発揮して観客を和ませてくれる。この塩梅が最高。戦争の緊張感を削がないタイミングとボリュームで差し込まれるコーラサワーが私はめちゃくちゃに好き。瀬戸祐介さんのお芝居が素晴らしいので、ぜひ見てほしい。誰に言ってるのか自分でもわからないが。見てほしい。

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