【Board Game Design Advent Calendar 2020】ボードゲームにおける入力のメカニクスの分類
この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2020 の 18 日目の記事として書かれました。
筆者は前々から読む側として、いつも楽しみにしていましたが、今年からブログを始めたこともあり、ついに書く側として参加させていただくことにしました。
読む側としても、書く側としても、このような機会が定期的に設けられていることは、非常に価値のあることだと思っています。このような場を設けてくださることに感謝致します。
まず、筆者の簡単な紹介をさせていただきます。
arsenicと名乗っており、BGDACでは珍しく(?)非ボードゲームデザイナーで何もしていない一般人です。あえていえば、毎週土曜日に中重量級ゲームを一つ取り上げ、その感想をまとめています。
普段は、ボードゲーム一つを取り上げて、その感想を書くという形式を取っていますが、今回はボードゲーム全体のメカニクスに対しての記事として書きました。
入力のメカニクスというものを定義し、その一覧を示すことで、ゲーム制作やアイデア出しに有用な材料を提供できないかと考えたものですが……心意気だけは立派なその実体は、以下のようなものになりました……
※注意
筆者の経験・技量・考察不足から、誤った情報を含んでしまっている可能性があります。誤りや不足している情報、ご意見等がありましたら、筆者のTwitterアカウントにご連絡いただければ幸いです。
以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
◆1.序言
今年、「ゲームメカニクス大全」という本が売れた。原著の時点で話題になっていた本だが、翻訳されたことにより、より多くの人が、それこそ、あまりボードゲームをやらない人まで手に取られるような広まり方をした。
これをきっかけにして、多かれ少なかれ、皆がボードゲームのメカニクスについて考えた年になったことと思われる。
ここで、筆者は、入力のメカニクスという分類を定義したい。
この、入力のメカニクスというのは、プレイヤーにどのような選択肢が用意されるか、というものであると定義する。その選択肢を用いることで、プレイヤーはゲームに影響を及ぼす。
いわば、入力のメカニクスは、プレイヤーとボードゲームの橋渡しになるものだと言える。
たとえば、ワーカープレイスメント。
たとえば、デッキ構築。
入力のメカニクスは、プレイヤーが最も触れるものであり、目につきやすく、ボードゲーム自体のジャンルにも使用されることがあるほどだ。
その一方で、モジュール的であり、比較的入れ替えが容易なメカニクスだとも考えている。(もちろん、ゲームにもよるが……)
たとえば、「クルセイダーズ」をマンカラではなく、ワーカープレイスメントにすることは容易に想像ができる。
もちろん、それが面白いかどうかは別だが、交換はしやすい。
よって、ここでは、入力のメカニクスそれぞれの特徴について考え、どういったものに向いている可能性があるかを検討したい。
これによって、新規・既存問わず、各ボードゲームの入力のメカニクスについて検討を可能にし、他のメカニクスに切り替えたり、調整を加えることによって、完成度を上げたり、別のゲームとして成立させることができるようにすることを目的とする。
◆2.説明
まず、注意しなければならない点として、以下の一覧は全て、筆者が勝手に分類を行い、個人的な見解を述べたものになっている。
本当ならば、根拠の提示や、定義付けを行うことで、客観的な分類をしたかったのだが、入力のメカニクスはゲームの顔ということもあり、複合的で、独自のルールがあるものも多く、ある側面を見ればAというメカニクスの変形だが、ある側面を見ればBというメカニクスの変形と見ることができてしまい、客観的な分類を行うのに十分な根拠が用意できなかった。
そのため、以下はあくまで筆者の主観的な分類となるため、その程度のものとして、参考の一つにしていただければ幸いだ。
次に、一覧における各項目の説明を行う。
中点(・)の後にはメカニクスの名称を入れている。基本的には、「ゲームメカニクス大全」や「Board Game Geek」を参照したり、一般的な名称を検索したつもりだが、見つからなかったり、定義が異なると考えた場合に、筆者が作成しているものがある。
採用例では、そのメカニクスを入力として採用しているボードゲームを挙げ、概要では、そのメカニクスの最も一般的な形を簡単に紹介する。
また、このような灰色の枠で、完全に個人的な見解を載せている。
1プレイヤーとしての意見が何らかの参考になるかもしれないと考えた。
メカニクスを検討する際には無視することを推奨する。
また、要素という単語を使用している。これはカードやタイル、トークンなどを指す汎用的な用語として使用した。
◆3.一覧
・メニュー式
<採用例>
「テラミスティカ」「カタン」など
<概要>
いくつかのアクションから、一つを選択して実行する。
ポイントが1で統一されたアクションポイントと見ることもできるが、それではアクションポイントの特徴がなくなっているため、別の区分とした。
基本的に、コストなどをクリアすれば、全てのアクションが選択可能であるというのが特徴である。
選択肢が多くなると、把握しにくくなるため、サマリーやプレイヤーボードに全ての選択肢とその概略が書かれていると良い。
・アクションポイント
<採用例>
「パンデミック」「アンドロイド:ネットランナー」など
<概要>
一定のポイントが与えられ、それを消費してアクションを行う。
実行できるアクションの組み合わせが必然的に多くなるので、ダウンタイムも長くなりがちで、現代ではあまり採用されない。
少人数だったり、協力型だったりすると、欠点が小さくなるかも。
各アクションの価値を細分化することができるのが大きな利点。
カードゲームでよくあるように、手札とアクションポイントの二重で縛るといった工夫もある。
・使い切り
<採用例>
「スコットランドヤード」「ジ・クルー」など
<概要>
ある区切り(ラウンドやゲーム)で使用可能な要素が配れ、それを消費してアクションを行う。一度使用すると、再び使用することはできない。
「スコットランドヤード」のように配布される種類や数が固定されているものや、多くのトリックテイキングゲームのようにランダムで配布される場合がある。
また、使い切りの区切りがゲーム全体の場合、行動不能な状態に陥るとプレイヤーがゲームから脱落することになってしまうため、何らかのサポートが必要であると考える。(他の方法でゲームに干渉できるなど)
・共通デッキ
<採用例>
「ブラス:バーミンガム」「カルカソンヌ」など
<概要>
そのゲームで使用される可能性のある要素をデッキにまとめ、そこから各プレイヤーが引き、それぞれが使用する。
手札の有無で細分化でき、手札なし(「カルカソンヌ」など)、共通手札あり(「羊と花畑」など)、各プレイヤー手札あり(「ブラス:バーミンガム」など)といった分類ができると考えている。
もちろん、後者の方ほど、運要素が減り、戦略性が増し、秘匿情報も増えるが、情報量も増えたり、場や手を占有するため、ゲーマー向けとなる。
共通手札で、なかなか使用されない要素のコスト削減が含まれた場合は、ダッチ・オークションに分類されると考える。
共通手札の補充が手番ごとでなく、一定の期間になっている場合は、ロチェスター・ドラフトと取ることができると思う。
各プレイヤーが全要素を使用できる可能性があるのが特徴である。
要素がユニークであった場合、強力な要素をあるプレイヤーが使ってしまうと、他のプレイヤーは使えないということとイコールであるため、差が付きやすくなってしまう。これでは運の要素が強くなりすぎる。
そのため、各要素がなるべく同価値に近いものを使う場合に、このメカニクスの採用を検討すべきと思われ、差が大きい場合には他のメカニクスとの混合にするなど、何らかの工夫があると良いと思われる。
・固有デッキ
<採用例>
「主計将校」「桜降る代に決闘を」など
<概要>
各プレイヤーに固有のデッキが配られるか、あるいは特定の要素からデッキを構成する。そのデッキを各プレイヤーがゲーム中に使用する。
プレイヤーがデッキを作り、以降のフェイズでそれを使うゲームもこちらに分類した(本来の意味でのデッキ構築)。
プレイヤーごとに違うデッキを渡すことで、非対称のゲームを設計することができるが、その場合は、渡されたデッキでゲームの結果が決まってしまったと思わせないバランス調整が必要になる。
共通デッキよりも、組み合わせが制限できるため、個々のデッキには、より特別な能力を設計しやすい……かもしれない。
・ムーヴ・アンド・アクション
<採用例>
「イスタンブール」「マラカイボ」など
<概要>
自分の駒を特定のルールに従って動かすことで、止まった場所に対応した処理を行う。
アクションを行う順序や頻度に制限を付けることで選択肢を少なくし、ダウンタイムの削減やパズル感の向上がもたらされることが期待できる。
駒を共通にするのか、固有にするのか、いくつ用意するのか、干渉はするのか、場所はトラックか、一方通行か、スクエアか、へクスか、といった変形で、特徴の調整を色々と行うことができる。
ワーカーを回収せず、制限された移動を行うワーカープレイスメントと見ることもできる。
場所を円環トラックにするとロンデルになる。
また、タイムトラックの仕組みと組み合わせることで、ムーヴ・フォワード・アンド・アクションになるが、この場合、実質的にはオークションに近い仕組みとなるので、自分や他プレイヤーにとってのアクション価値を把握していないと、適切なコスト以上の支払いをしてしまいがちだ。
・オーダーカウンター
<採用例>
「ゲーム・オブ・スローンズ/七王国の王座」など
<概要>
各ユニットやエリアに対して、どのような行動を取るのか、トークンを伏せて置き、それらを一定の順序や任意で公開していき、実際のアクションを行う。
計画と実行を分離するため、ダウンタイムは長くなりがち。
その分、読み合いの緊張感が生まれ、重厚なプレイ感が得られる。
政治や戦争のように陰謀渦巻く雰囲気に向いていると考える。
非公開情報が多く、初心者にアドバイスなどがしにくいため、ゲームからのフォローが必要かも。
・アクション/イベント
<採用例>
「トワイライト・ストラグル」「ラプトル」など
<概要>
要素(通常はカード)に、アクションポイントとイベントが書かれており、一定のルールに則り、あるプレイヤーがアクションポイント制で実行を行い、残りのプレイヤーがイベントの効果を受ける。
駆け引きの要素が強いためか、元々はウォー・ゲーム由来で発達したメカニクス(らしい)ためか、2人用ゲームで実装されているイメージが強い。
あまりこの経験がないため、特徴がつかみ切れていない。
・アクションフォロー
<採用例>
「レース・フォー・ザ・ギャラクシー」「タイニータウン」など
<概要>
あるプレイヤーのアクションと同じアクションを他のプレイヤーも行う。
基本的には、他のメカニクスと組み合わせて使用する。
相手の損得を考える必要があるため、高いインタラクション維持でき、読み合いを発生させやすい。
また、組み合わせたメカニクスによって、インタラクションやパズル要素の度合いを調整することができる。
『ヴァリアブル・フェイズ・オーダー』という言い方があるが、基本的にはフェイズに合わせてプレイヤーが同じアクションを行っていた時代からの視点であり、現代から見れば特筆すべき特徴を持たない(たとえば、『ロチェスター・ドラフト』と『アクションフォロー』の組み合わせ、というような言い換えができる)と思っている……
・複合アクション
<採用例>
「サイズ 大鎌戦役」「アンダーウォーター・シティ」など
<概要>
あるアクションをした際に付随して別のアクションも行うことができる。
同時に発生するアクションの合算で価値や実行順を考える必要が生まれるため、簡易に複雑化することができる。
少ない手番で多くのアクションが行えるため、プレイ時間を短くすることにも貢献できることもあり、最近は採用例が多い印象がある。
組み合わせたアクション同士の関連性が完結しすぎると、それだけを選べばよくなってしまい、関係がなさすぎると、あまり意味がない。
適切な組み合わせか、それを生み出すルールを設定することがキモか。
・ワーカープレイスメント
<採用例>
「アグリコラ」「ワイナリーの四季」など
<概要>
派生型がとても多く、基本型を定義するも難しいが、
『それぞれがワーカーを持ち、それをアクションが書かれている場所へと置いていき、対応したアクションを行う。誰かが選んだプレイスは使用できなくなる。何かの区切り(未配置ワーカーがなくなるなど)でリセット』
基本的には、ワーカーを置いた場所の効果が発揮されるというシンプルなものでありプレイスにルールを委託できるため、基本ルールを簡潔に保つことができ、わかりやすく、拡張性も高い。
ゆえにバリエーションが無数にあり、ここだけで本が書けると思う。
どこを本質とするのかが難しく、本稿の元の目的が挫折した原因の一つ。
ワーカーだけを見ても、ワーカーを使うか資源を使うかダイスを使うか、増員できるか否か、自動的であるか否か、と無数に派生していく。
しかし、その調整のしやすさこそ、このメカニクスの最大の強みだと考えており、今後も発展を続けることだろう。
・ロチェスター・ドラフト
<採用例>
「アズール」「コインブラ」など
<概要>
ラウンドごとに、共通の場に各要素が公開され、各プレイヤーが順番にその中の一つを選択していく。
全てが公開情報であり、早取りでもあるため、インタラクションが強い。
先手であることや、他者と需要が被らないことが重要であり、そういった優位を保てないプレイヤーへのフォローがあると良いと考える。
公開情報量が多いことから、妨害を重視した選択(ヘイトドラフト)もしやすかったり、キングメーカーが発生しやすいと考えている。
特に少人数の場合には、「世界の七不思議:デュエル」のように非公開情報を一定量入れるなどの工夫が必要と思われる。
・ウィンストン・ドラフト
<採用例>
「スパイネット」「マメィ」など
<概要>
共通の場に非公開の要素の束を数個置く。設定された順番に従い、ある束の要素を全て確認し、それらを取得するか、それらをパスし、次の束を確認するかを選択する。
取得したか否かにかかわらず、確認した束には要素が追加される。
束全てをパスした場合にはデッキから要素を取得する。
非公開情報が発生するため、少人数でもロチェスタードラフトより緩いドラフトにすることができる。
一方、束の内容を確認しなければわかないことが多く、ダウンタイムが長くなりがちで、その間に検討を行うことも難しい。
これらの特徴から、少人数に向いているドラフトと考える。
・ブースター・ドラフト(平行ピックアンドパス・ドラフト)
<採用例>
「世界の七不思議」「ヴォーパルス」など
<概要>
一定数の要素を各プレイヤーが保持し、それから指定数の要素を選び、残りの要素を全て次のプレイヤーに回す。それを繰り返す。
人数によらず、同じ時間でドラフトを行うことができ、大人数でもプレイ時間を短くすることが可能である。
非公開情報が多いため、カードプールへの理解を求められたり、アドバイスがしにくかったり、といった欠点を持ち、初心者にはあまり優しくないメカニクスと言える。(その分、上達は感じやすいか)
また、人数が少なければ、登場するカードの総枚数が少なくなり、相手の選択が分かりやすすぎたり、カードパワーが足りなくなったりする。
一方、人数が多ければ、手元に返ってくるカードが少ないため、読み合いが難しくなるという問題がある。
・スネーク・ドラフト
<採用例>
「グランド・オーストリア・ホテル」など
<概要>
ロチェスター・ドラフトの変形で、手番が同じ順序で回らず、1周した後に折り返す形で逆順でもう1周する。カタン回りとも言われる。
選択順の総数が同じになるため、比較的公平なドラフトを行うことができ、早い手番が有利というロチェスター・ドラフトの欠点を補っている。
一方、次の手番が来るまでの時間がプレイヤーによって異なり、ダウンタイムが長くなりがちであることから、セットアップのみなど、部分的に使用することが多く、手番に使用されることは少ない。
少人数の場合のみ、手番に使用することが検討できるだろう。
・ソロモン・ドラフト
<採用例>
「もっとホイップを!」など
<概要>
特定のプレイヤーが要素をいくつかの組に分け、他のプレイヤーはその組を選んでいく。『私が切って、あなたが選ぶ(I cut, You Choose)』とも。
各要素の価値の見極めや、各プレイヤーの目的などを読み取る必要があることから、非常に技量が必要なドラフト。
要素数が多くなると、考えられる組み合わせ数が非常に多くなるため、「もっとホイップを!」のような縛り(ピースを飛ばして組みにすることができない)を入れる必要があると考えられる。
ダウンタイムが長くなることから、2人用ゲームや、入力後の処理が軽いゲームの方が向いていると思われる。
・デッキ構築
<採用例>
「ドミニオン」「イーオンズ・エンド」など
<概要>
各プレイヤーがデッキを保有し、そこから特定の枚数を手札として引き、そこからカードを使うことにより、アクションを行う。
手札や使ったカード、デッキに追加したカードは捨て札になる。
デッキがなくなった場合、捨て札のカードがデッキになる。
「クランク!」がこれを入力としてチキンレースをしているように、実際に使用されているよりも、もっと汎用性のあるメカニクスだと考えている。
見た目よりも運に左右されがちなため、捨て札をデッキにする時にシャッフルしなかったり、手番を超えてリソースを保持できたり、捨て札とデッキのリセットを何度か行えたり、と何らかの工夫を入れるか、そもそも、運要素が強いゲームであると提示すると良いのではないかと考えている。
また、「グレート・ウエスタン・トレイル」のように、入力ではなく、資源管理の部分に採用するという形もある。
・バッグ構築
<採用例>
「オルレアン」「アルティプラーノ」など
<概要>
本質的にはデッキ構築と同等だが、チップやキューブを使い、バッグ(袋)を使用する点が異なる。
デッキ構築のシャッフルに関する問題を改善することができる。
ただ、本質的にはデッキ構築と全く同じ。
しかし、チップの大きさから、情報量が多いものは採用しにくく、色や数値など、1つか2つぐらいのタグ付けが限度のように思える。
また、裏面を使用できるという利点が存在(カードでも本質的に同じことはできる)し、面白いことができそうなのに見たことないと思っている。
・ハンド構築
<採用例>
「コンコルディア」「ニュートン」など
<概要>
手札のカードを使用することにより、対応するアクションを行う。
プレイしたカードは特定のアクションを行ったり、区切りを迎えることにより、手札に回収することができる。
デッキ構築が、結局のところ、引きに左右されるという要素を持つ一方、ハンド構築は運要素がないことが挙げられる。
どの程度まで手札を強化するか、どこから強化した手札を回していくのか、という切り替えが重要になるゲームが多いように思われる。
ただし、手札を使いまわせるという特性上、最初に手札を整えて回すという動きが強くなりがちであり、バリエーションを持たせたい場合には、後半ほど強いものが公開されるといった工夫が必要と思われる。
デッキ構築の変形との捉え方もあるが、ランダム性の有無から、筆者は別のメカニクスとして分類した方が良いと考えている。
ロンデルの変形との見方もあるが、各効果の順番による制限が特徴のロンデルを順不同にしており、拡張性もあるため、これとも別のメカニクスとして分類した方が良いと考え、別のメカニクスとした。
・配列構築
<採用例>
「アンドールの伝説:災いの島の冒険」など
<概要>
カードを複数個の束にまとめ、最も手前にあるカードのみを使用することができる。使用したカードはその束の最も奥へと移動する。
あまり採用例がない(筆者はある作者のゲームしか知らない)のだが、汎用性もあり、発展の余地があるメカニクスのように思える。
ただ、その肝心の作者が別のメカニクスのゲームを作り始めている辺り、特徴を生かすのは難しいのかもしれない……可能性を感じるが……
・アクションキュー
<採用例>
「ROOT」など
<概要>
特定のキューに従い、アクションを行う。
通常、キューを変更したり、追加したりすることができる。
キューの入れ替え頻度などにもよるが、計画性を求められる。
「ROOT」では、キューが実行できない場合にデメリットを設けることで、計画性だけではなく、チキンレース的な側面を持たせることに成功しており、面白い実装であると考える。
・投票
<採用例>
「ディクシット」「レジスタンス」など
<概要>
何らかの投票を行い、開票した結果が適用される。
匿名投票の場合は、往々にして正体秘匿系のゲームであることが多い。
コミュニケーションゲームでは、プレイヤーと票が結びついており、誰の投票なのかがわかるようになっていることが多い。
投票、開票という流れに時間がかかりやすかったり、匿名投票の場合、本当に匿名にするのが難しい(物理的な痕跡が残ってしまうことがある)という問題はあるものの、プレイヤー間の意思や政治を端的に表現できる入力であり、今後も使われていくと思われる。
・マンカラ
<採用例>
「クルセイダーズ」「Five Tribes」など
<概要>
色々なルールで遊ばれている伝統的なゲーム「マンカラ」に類似する動作(ある場所の要素を全て取り、一つずつ場所を移動しながら、要素をそこに一つずつ置いていく)を行い、その結果を入力とする。
マンカラ自体がボードゲームなので、パズル感がかなり強い。逆に言えば、その他の処理をシンプルにしても、重厚なプレイ感が維持できる。
マンカラでコマを操作することに何らかの意味を持たせる必要があり、ここの実装がキモという感じがする。
「Five Tribes」はプレイヤー全体で共通の2次元マンカラ、しかも色に着目するという他とは一線を画する仕様になっている。
まだまだ発展の余地はあるように思える。
・ダッチ・オークション
(オープン・ファーストプライス・オークション)
<採用例>
「八分帝国」など
<概要>
支払い額は公開情報となっていて、十分に高い額から始めて、購入者が現れるまで値下げをしていくもの。いわゆる値下がりのオークションと言ってイメージするもの。ボードゲーム的な実装として、公開された瞬間の場所は価値が高く、それよりも価値が低い場所の要素が購入されたり、除去されたりした場合に、安い方にスライドしていくというものが多い。
勝手にバランスが揃えられるが、不要なものが溜まってしまうこともあるので、公開数が少ない場合は十分に値下がりしたものを除外する仕組みを取り入れるのも良いかも。
ゲーム内の購入に採用されることは非常に多いが、手番に使用しているゲームはさほど多くないと思われる。
「プエルトリコ」のように複合的に取り入れている場合は多い。
・イングリッシュ・オークション
(オープン・セカンドプライス・オークション)
<採用例>
「モダンアート」「Homesteaders」など
<概要>
支払いの額が公開情報として値上がりしていき、支払えないと思ったプレイヤーが下りる。最終的に残ったプレイヤーが支払いをし、利益を得る。いわゆる値上がりのオークションと言ってイメージするもの。
時間がかかるというのがこのオークションの欠点で、イングリッシュ・オークションそのままの形で実装される場合は、競りに重点を置いたゲームが多いと思われる。
押し出し競りも、これの派生と言え、こちらの場合は、ドラフトに近い要素もある。(まあ、ドラフト自体が競りの一種ともいえるが)
・封印入札オークション
(封印入札・ファーストプライス・オークション)
<採用例>
「ゲーム・オブ・スローンズ/七王国の王座」「サイズ 大鎌戦役」など
<概要>
支払い値を秘匿した状態で決定し、一度に全部を公開する。最も高額なプレイヤーが支払いをし、便益を手に入れる。カードを伏せたり、握り競りの形で実装されることも多い。
情報が公開されないため、相場が把握しにくく、いわゆる勝者の呪い(オークションには勝ったが、トータルでは損をした状態)が発生しやすい。
そのため、あまり初心者に優しくないメカニクスだ。
「サイズ 大鎌戦役」のように、消費量に限界を持たせたりするなど、何らかのセーフティが必要であると考える。
欠点はあるが、政治や戦争といった雰囲気をかなり強く表現することができるので、これからも形を変えつつ採用され続けるだろう。
・ヴィックリー・オークション
(封印入札・セカンドプライス・オークション)
<採用例>
「ラスト・パラダイス」(……らしい)
<概要>
何かに対して、皆が非公開で値付けをし、公開後、1番高い値を付けたプレイヤーが2番目に高い値を支払うオークション。
どうしてそうなるのかの詳細は他に譲る(調べると出てくる)ので省くが、正直な値付けで申告するのが最適解であり、一度の入札で終わるため、かかる時間も短い。
ただ、あまり直感的でないためか、採用例が少ないようだ。
また、そもそも、オークションというメカニクス自体が、自分にとっての最適な値付けというものができていないと損してしまうので、色々とサポートする必要のあるメカニクスと言える……
・描画
<採用例>
「ピクチャーズ」「エセ芸術家ニューヨークへ行く」など
<概要>
ペンや物品を使用し、図画を描画する。
描画内容や使用する器具などに何らかの制限がかかっていることが多い。
画力に個体差があるため、それでも大きな問題が起こらないような構造にする必要がある。
描画内容の制限などで、ルールに曖昧さが含まれないように注意する。
・デクタリティ
<採用例>
「サフラニート」「KLASK」など
<概要>
物理的に何かを操作することで、ゲームに干渉する。
選択ができていても、技量が追い付かないと、適切な結果が導けず、他のメカニクスを採用したゲームとプレイ感は大きく異なる。
ボードゲームというより、スポーツに近いかもしれない。
・発言/記載
<採用例>
「コードネーム」「ジャストワン」など
<概要>
言葉による指示を行ったり、何らかの単語を記載する。
大抵の場合、内容に何らかの制限がかかっていることが多いが、その厳密性というのが非常に難しいながら、肝となる部分だと思われる。
たとえば、ワードゲームでどこまでが単語なのか、とか、どこまでが言い換えではないのか、とかの制限の判定のことである。
「デクリプト」のように、対戦相手(チーム)に事実上のルール監視に近い役割を持たせると、曖昧さが発生しにくいため、良い実装だと思われる。
◆4.結言
このように羅列してみると、多くのメカニクスが、選択に制限を付けるために導入されていることがわかる。
あまりにも有名な話だが、選択肢を多くし過ぎると、人は逆に固定的な選択肢を選ぶようになってしまう。負荷が大きすぎるのだ。
選択の自由度を保つためにも、一定の制限を行う必要がある。
加えて、制限はパズルのようにも働いたり、インタラクションを高めたりもする。どのように自然な形で制限を与えるのか、という工夫が、それぞれの入力のメカニクスには隠されているように思える。
また、このように並べてみると、多くの場合、選択の本質は競りであることが多いと感じる。各プレイヤーがそのアクションにどれぐらいの価値を置いているかで、選択が決まってくるのだ。
このような視点を持って、各ボードゲームや、その入力をとらえることで、デザインするボードゲームの完成度が上がるかもしれない。
この記事がその一助になることを願ってやまない。
◆参考文献
「ゲームメカニクス大全」
「入門 オークション」
「BoardGameGeek」(Webサイト)