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「アーク・ノヴァ」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。


無題


◆0.前提

・2人プレイのみ。



◆1.概要

ゲームの流れ
 手番を回していき、最終的に勝利点の高いプレイヤーが勝利となる。勝利点の算出は少し変わっている。訴求点と保全点という2つの数値が1つのトラックを使って表現されており、逆側から互いに接近していく。これが交差した時にゲームが終了し、その差が勝利点となるのだ。「ガンジスの藩王」で特徴的なガンジストラックと呼ばれるものを採用している。

 手番で行うことは、手元の5つのアクションからの選択だ。これらはカードで表現されており、左から順に1~5の数値を持って並んでいる。この数値はアクションのパワーを示し、数値が大きいほど強力なアクションが行えるようになっている。アクションをした後は、そのカードは一番左(つまり1)に配置され、その空白を埋めるようにカードは右へと詰められる(つまり数値が1上がる)。これは「シヴィライゼーション:新たなる夜明け」の入力メカニクスと同じだ。

 ゲームの主体としては、カードプレイで、主に動物を表現したカードをプレイすることによって、訴求点を得ることとなっている。動物には要求されるコストがあり、金銭の他、囲い地の要求がある。囲い地は各プレイヤーの個人ボードにあるヘクスマップに配置されるタイルで、大きさや地形への隣接が条件として活用される。カードはかなりの量があり、オールユニークとなっているため、数値の設定も相まって、「テラフォーミング・マーズ」的と言われている。

 日本語のルールは公開されているため、詳細はそちらで確認できる。



◆2.考察

訴求点と保全点という勝利点
 このゲームでは、訴求点と保全点という2つのパラメータが実質的な勝利点を担う。この点をみていきたい。

 まず、訴求点。これは主に動物カードをプレイすることによって上昇する数値で、後述する休憩によって得られる金銭が上昇するという仕組みになっている。これが特に序盤における主な争点で、これを上げるために工夫を行っていく。良い点として、ゲーム終了条件と勝利点に関連していることが挙げられる。前述した「テラフォーミング・マーズ」では、収入に関連するTRや各資源の生産力がゲーム終了条件と直接関わっているわけではないので、ゲームの収束性が悪い、ということが良く言われている。このゲームではそのようなことはなく、基本的にカードをプレイしているだけでもゲームは終了に向かっていく。

 次に、保全点。これは事実上は勝利点に近い概念で、目標などを満たすことによって獲得したりすることができる。ただし、序盤の方にはトラック上にボーナスがある。つまり、序盤は生産力を生む、ということができ、単純な勝利点というわけではなくなっている。この点に加え、ボーナスには早取りの要素もあるため、序盤から勝利点を伸ばしていく、という拡大再生産のゲーム全般では悪手になりがちな行動に価値がしっかりとあり、有効な選択を増やしている。

 ここで注目したいのは、序盤は両者とも生産力を持ち、ゲーム終了時まで両者ともゲームを終了に向かわせると共に勝利点である、という仕様だ。

 拡大再生産と、膨大なデッキ(とカードプール)を持つランダムドローのカード主体のゲーム、という組み合わせは、ランダム性における振れ幅が大きくなる。拡大再生産は、序盤に生産力を上げて、終盤はそれを勝利点に変換したい、という明確な勝ち筋を提供するのに対し、膨大なデッキはそれを順当には選ばせない状態に持って行きやすい。序盤における訴求点と保全点に生産力を持たせることで、序盤における多くのカードに意味を持たせている。また、あらゆるカードがゲームを終了に向かわせるので、ランダム性を確保しつつも、収束性が高いままになっている。

 しかし、差別化も出来ていて、保全点は序盤のボーナスを除けば生産力を持たないが、勝利点への影響が訴求点よりも大きい。訴求点から得られる金銭はゲーム終了時に意味を持たないので、終盤は訴求点の価値が低くなる。



野生復帰というメカニクス
 簡単に言えば、すでにプレイした動物カードをなかったことにして、その分保全点を得る、というアクションになる。

 これは生産力を勝利点に変換するアクションであると言える。近年のウヴェ作品である「レイクホルト」や「ハラータウ」にも畑を売却するアクションがあり、それに近いものと言える。

 しかし、このゲームで特筆すべき役割として、ヘクスタイルがまた使用できるようになる、という点がある。

 カード自体は山のようにあるのだが、自身のボードにあるヘクスマップはもっと限られている。カードプレイには空いている囲い地が必要となるが、次第にマップが埋まっていき、新しい囲い地を用意できなくなっていく。

 そこで、野生復帰をすることにより、勝利点を大きく稼げる他、さらに新しい動物カードをプレイできるようになる。いわば、カードプレイによるタブローという制限のないものと、ヘクスマップという制限があるものをつなぐメカニクスになっていると言える。



ヘクスマップの役割
 各プレイヤーはヘクスマップを持っており、そこにヘクスタイルを配置していく。これは囲い地と呼ばれ、動物カードの条件になっている。

 これによって、カードのプレイというリニアで単調になりがちなアクションに複雑性を加えている。岩場や水場というヘクスマップに関する配置の問題もあり、小さなパズルになっている。

 しかしながら、ランダム性の強いデッキドローと、不可逆的要素であるヘクスタイルの仕様が合っているか、というと疑義がある。さらにヘクスタイルを置いておき、そこに合わせた動物カードを獲得する、という行為にはリスクがあり、先に動物カードを見たいと思うプレイヤーは多いと思われるがデッキは多くのカード種類がごった煮となっており、必要なカードが引ける可能性は高いわけではない。また、入力メカニクスの関係から、ずっとあるアクションをしない、という状態があまり良いわけではないので、噛み合いが良い時と悪い時の差が出やすくなっていると感じる。



共通の手札
 場にはカードが並べられ、ダッチオークションの仕組みを導入している。これはアクションを強化すると、共通の手札のように使うことができる。

 これによって、ドロー運によるプレイヤー間の偏りをある程度削減し、インタラクションを高めている。

 ただ、これらをフルに活用できるようになるのは、手元のアクションカードを強化した後であり、アクションの強化には一定のコストがかかる。

 拡大再生産のゲームである以上、序盤に生産基盤を強化することがかなり強いアクションとなっており、そのようなカードが手元に来ているプレイヤーが強くなりやすい。共通手札はそれを軽減してくれるかと思いきや、その序盤に十分に活用できないため、結果として、カードのドロー運を改善する効果は限定的であるように思われる。



拡大再生産と、カードドローの価値、休憩というメカニクス
 強力な拡大再生産のエンジンを持っておきながら、大量の多種多様なカードを一つのカードデッキとし、そこからドローすることを基盤にしていることに問題があるように感じる。

 前述したように、訴求点は収入に直結する。つまり、訴求点を上げると収入が増えて、その収入で囲い地やカードのコストが払えるようになり、また収入が増えていく。ポジティブフィードバックなのだ。

 しかし、カードデッキには多くのカードがあり、序盤には事実上、プレイできない(あるいはコストが割に合わない)カードも大量に含まれている。ドローが完全にランダムである以上、噛み合っている人とそうでない人の差が激しいと思われる。前述したように、終盤の勝利点争いでは機能している共通手札も序盤には機能していると言いにくい。

 問題なのは、これによって、序盤に勝敗の帰趨が決してしまう、という点だ。プレイ時間の長いゲームなのに、後半はすでについた結果を延々とみせ付けられることになり、差は埋まっていかない。

 条件の緩い動物カード、厳しい動物カード、後援者カード、保全計画カード……そういったものがデッキから現れる可能性がある。そのほとんどを活用できる後半ならまだしも、選択肢が限られる序盤におけるドローの価値の振れ幅が大きすぎる。

 これは多くの類似ゲームで発生している問題であり、根本的に解決できているゲームは、プレイ時間が短いものぐらいだと感じている。このゲームは長時間のゲームであることもあり、解決できているとは感じない。


 また、休憩というメカニクスがこれを助長していると考える。休憩トラックという共通のパラメータがあり、これが閾値を超えると休憩が発生する。収入はここで発生する、という仕組みだ。ラウンドというものを導入しない代わりに、可変のラウンドに近い役割を持っていると考えてよいだろう。

 この休憩トラックが進むアクションは、カードというドローアクションと後援者というアクションで金銭を得ることにした場合となる。手札が悪いプレイヤーは、手札を改善する必要があるから、ドローアクションをしなければならいし、収入も低いから、金銭を得るアクションを選ぶ頻度も高い。しかし、結果として発生する休憩では、全てのプレイヤーが収入を得る。十分な訴求点を持っているプレイヤーは、その報酬だけで上手く回せてしまう。結果として、不利なプレイヤーが有利なプレイヤーをより有利にしているように思えた。

 また、休憩がどのようなタイミングで発生するかを読み解くのはかなり難しく、序盤にそれが発生した時に訴求点をタイミング良く伸ばせていたプレイヤーの利益が大きい、という構造になっている。


 全体として、様々なゲームで見られたメカニクスを上手く組み合わせており、上手くルールが構成されていると思うが、この『強力な拡大再生産のカーブを持つが、多種多様な膨大なカードデッキをランダムにドローする長時間のゲーム』という基幹が矛盾しており、既出のゲームと同じく、それをフォローすることはできていても、解決することはできていないと感じた。



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