「パンデミック:レガシー シーズン0」の感想(ネタバレなし)
シーズン1・2を共にプレイし、非常に楽しんだため、パンデミック:レガシーシリーズの最新作であり、前日譚でもあるシーズン0を購入し、プレイした。この作品単体だけではなく、シリーズを通して見えてきたものがあるので感想をまとめたい。
また、前日譚という設定からもわかるように、シーズン2のように前作を遊んでいないとプレイできないわけではなく、本当にシーズン0からやってもシリーズ全体を楽しめると思っている。
そのため、こちらの記事はパンデミック:レガシーシリーズ全体に関して、シナリオやレガシー要素のネタバレなく記載し、開封時のルールブックやプロローグで明らかになる箇所についてのみ言及する。
逆に言えば、開封時やプロローグの分に対しては言及するので、それも避けたいと思う方は、これ以降の文章を読まないことを推奨する。
以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。
◆0.前提
・「パンデミック:レガシー シーズン1」「パンデミック:レガシー シーズン2」をプレイ済み。
・2人プレイのみ。
◆1.概要
・ゲームの流れ
シーズン2よりは、本家の「パンデミック」に近いシステムとなっている。自分の手番に4回のアクションを行い、それぞれのキャラクターには固有の能力があるという点は全く同じだ。
ただし、世界に広がるのは病原菌コマではなく、工作員であり、アウトブレイクがない代わりに事件というものが起きる。プレイヤーたちは工作員を世界から取り除き、月毎に決められる目標を達成することを目的とする。
各ゲームの目標はシナリオごとに決められており、2~3つ用意される。全てを達成すれば即時にゲームに勝利するが、1つだけ未達成の状態でゲーム終了条件を満たしてしまっても、その月は充分であったと判断され、シナリオは進む。それらの条件を満たさずにゲームが終了した場合のみ、その月の上旬が終了し、下旬をプレイすることになる。下旬で失敗した場合にも、シナリオは進み、次月になる。
事件というのは、工作員が3体いる場所にさらに工作員が追加されることになった場合に発生するもので、アウトブレイクとは異なり、周りに工作員が追加されることはない。その代わり、脅威デッキ(感染デッキの代わり)の底からカードがめくられ、その事件欄に書かれている効果が発揮される。
事件の内容は基本的には不利なものだが、地域が限定されていたり、以前事件が起こった箇所を参照したり、後述するチームを移動させるものだったり、といくつか用意されており、状況によっては意味がないことも多い。
研究基地の代わりになるのは隠れ家で、いくつかの悪い効果を受けないという能力があるが、シャトル便は本作にはない。
隠れ家で手札を消費して作るのは、治療薬ではなく、チームと呼ばれるものだ。これはいわば、「パンデミック」におけるNPCの衛生兵としてのような働きをする。
プレイヤーは自身の駒でなく、チームを動かせることができ、チームが有効な場所にいれば、プレイヤーがカードを引く前にチームがそこの工作員を全て排除してくれる。
チームは非常に強力であり、目標を達成するために必要とされることも多いことから、重要な要素となっている。
また、チームにも関連することだが、世界は同盟、中立、ソ連という属性に分けられており、チームはそれぞれに対応した場所でしか働かない。
中立のカードを手札から消費して、中立のチームを設立し、そのチームが効果を発揮するのは、中立の都市のみ、と言った形だ。
他にも、都市カードには地域(ヨーロッパやアジアなど)が書かれており、それらを参照するアクションもある。
このような、「パンデミック」の独立拡張のような、少し変わったルールで計12ゲーム以上をプレイすることになる。
・ゲームの流れ
言うまでもなく、パンデミック:レガシーシリーズの最新作である。
前日譚となっており、噓偽りなく、シーズン1・2をプレイしていなくてもプレイできる。
これまでの話とは打って変わって、冷戦期の話となっており、政治的にシビアな題材を使っている。もちろん、完全にフィクションではあるものの、拒否反応が出る人もいるだろう。
シーズン1はパンデミックパニックもの、シーズン2はポストアポカリプスもの、シーズン0ではスパイアクションもの、とジャンルが大きく変わっており、通じてプレイしても飽きがきにくくなっている。
◆2.実践
・プロローグ
「パンデミック」とルールが異なるため、シーズン2と同じく、システムに慣れるためのプロローグが用意されている。
こちらには、レガシーの要素は一切なく、安心してルールの確認を行うことができる、チュートリアル的なものとなっている。
しかし、プロローグとは言え、なかなか歯ごたえのある難度となっており、躓くプレイヤーも多くいるだろう。
レガシーという取り返しのつきにくいシステムである以上、基本的な動きを把握してから、本編に臨みたい。
◆3.感想
・より複雑になった基本ゲーム
プロローグで行うのは、レガシー要素が除かれたゲームだ。それでも、本家よりも複雑さが増していると感じられた。
たとえば、事件の効果は序盤では致命的になりにくいことから、ここは事件発生の可能性を残してでも、チームを作っておきたい、といった選択が生じるのは、アウトブレイクとは異なる仕様があるためだ。
また、都市カードには複数の情報が含まれていることから、チームを作れるけれど、必要な地域のカード枚数が揃ったから、地域を参照するアクションの方を優先したい、と言った選択が生まれ、より複雑になっている。
とはいえ、チームは強力な効果を持っていながら、目標の達成に必須であるためから、それを優先するという基本方針はしっかりとしているし、盤面からなるべく工作員を取り除きたいという基本的な要素は同じだ。
「パンデミック」シリーズが初めて、という場合には面喰らうかもしれないが、そうではなければ、対応はしやすいと感じる。
筆者は、「パンデミック」シリーズをいくつかプレイしているが、その中でもかなり好みのゲーム性であると感じた。
◆4.考察
・シナリオの連続性
これは厳密には、プロローグだけで分かるものではないのだが、公式にも発表されており、未プレイの方も気になる部分だと思うので、記載する。
このゲームは、シーズン1・2をプレイする前にプレイしても問題がない。ケースの裏に書かれている文句に間違いはない。
逆に、シーズン2にはシーズン1をプレイしなくてもプレイできると書かれているが、それはシステム上、ルール上の話であって、絶対にシーズン1をプレイする必要があるが、シーズン0ではそうではない。
これには、前日譚という設定が上手く機能している。「スター・ウォーズ」をエピソード1から観ても、問題がないのと同じだ。
もちろん、シーズン1・2をプレイしているからこそ、色々とわかることがある。イースターエッグのようなものも多く、ニヤニヤしながらプレイできて、楽しい。
しかし、裏を返せば、色々なことがわかってしまっているということでもある。
シーズン1・2をプレイしていなければ、シーズン0で新鮮な驚きを味わうことができるだろう。そして、シーズン1・2をプレイした時に抱く感情も、より豊かなものになるに違いない。それは、間違いなく楽しい経験になるだろう。羨ましさすらも感じる。
これは知る、という不可逆な現象が織りなす、シリーズもの特有の面白さに他ならない。
よく、「スター・ウォーズ」のような時系列と公開順が異なるシリーズ映画では、どこから観るべきなのか、という議論がなされる。筆者も色々なパターンを経験してきており、(たとえば、「スター・ウォーズ」は時系列順に観ている)どちらが良いとは一概には言えない。
ただ、パンデミック:レガシーシリーズにおいては、シーズン0→1→2でも、シーズン1→2→0でも、間違いなく楽しめることは保証する。
シーズン1・2をすでにプレイした人と、まだプレイしていない人が混じって遊ぶことすらできるだろう。(もちろん、既プレイヤーがシーズン1・2のネタバレに最大限に気を付ける必要がある)
そういう良さが、前日譚には、「パンデミック:レガシー シーズン0」には存在すると考える。
シーズン1・2をプレイした人には、すでに決まっている未来に対しての歴史や理屈の穴埋めが、プレイしていない人には、全ての始まりの物語が、それぞれ提供される。それは素晴らしいことだ。
・都市カードの多情報化
都市カードがいくつかの情報を持つことになった。
都市名が書かれているのは従来の「パンデミック」と同じだが、所属(同盟・中立・ソ連)と地域(ヨーロッパ・アジア・北アメリカ・南アメリカ・アフリカ・環太平洋)が記載されているのだ。
アクションによって、所属を参照するのか、地域を参照するのかが異なり、よりどのように手札を消費していくかの悩ましさが増した。
また、都市が決まれば必然的に所属と地域が決まる、従属的な情報となっており、情報量が増えた割には、大きな負担にならずに済んでいる。
・移動アクションの制限
基本的に、移動アクションが制限されている。
まず、非常に強力であったシャトル便がなくなっている。
これは、パンデミック:レガシーシリーズの建物を永続的に建てられる効果とバランスを取るためだと考えられる。
また、都市カードを消費して、その都市に移動するというアクションのルールが変わっており、中立の都市に関してはいつも通りだが、同盟の都市に対してはカードを公開するだけで良く、ソ連の都市に対しては移動することがそもそもできない。
これにより、友好的であるか敵対的であるかと言ったフレーバーがより感じやすい他、ソ連の中枢都市には行きにくいという偏りが発生する。
また、便利な同盟の都市カードをいつ消費するか、と言った選択も生まれ、より悩ましくなっていると感じる。
とはいえ、同盟の都市カードが1枚でもあれば、その都市に行ってから、その都市のカードを捨てることでどの都市でも行ける(この場合はソ連の都市にも行くことができる)というアクションが取れるため、いざと言う時にはソ連の都市にもアクセスはしやすい。
・アウトブレイクと事件の違い
シーズン0において、最も運要素が強いと感じるのは、この事件というルールの仕様だ。
デッキの底からカードを引き、効果が発揮されるのだが、その効果が凶悪である一方、範囲が狭い。
たとえば、『特定の地域の事件トークンがある都市に工作員を追加』という効果は、その地域に事件トークンがなければ何も起こらないが、そこに3個の工作員がある場合は、また事件が発生する。
『隠れ家がない都市にいるチームがワシントンに送られる』という効果も、チームがいなかった場合には意味がないが、あと次の手番で目標を達成するはずの計画が一気に崩れることもある。
このように、効果が発揮する状況は狭いが、発揮した場合には致命的になり得るという要素は、理不尽だと感じやすい。
レガシーという、後々に影響を与えるシステムにおいて、このようなピーキーな効果を悪い影響を与える部分に入れるのは一長一短だと感じる。
ただ、基本的には終盤になればなるほど致命的な条件や効果になっていることから、序盤に運が悪すぎたり、手番で失敗してしまっても、そこまで問題にならない一方、終盤は気が抜けず、緊張感を保っていられるという特徴があるように感じられた。
この面においては、アウトブレイクよりも大きく優れていると感じられるため、更なる発展に期待したいと思う。
・衛生兵能力の外部委託化
いくつか説があるとは思うが、一度でも「パンデミック」をプレイしたことがあれば、衛生兵の能力(1アクションでその都市の病原菌コマを全て取り除ける)の強力さはわかるだろう。
「パンデミック」というゲームにおいて、リソースはアクション数と手札とみることができる。このうち、アクション数というリソースの削減ができ、病原菌コマの存在数とアウトブレイクの回数というゲーム敗北条件を抑えることができる衛生兵という役職は、かなり強力である。
シーズン1では、各役職の能力は本家「パンデミック」にほとんど忠実だった。そのため、衛生兵を選ぶプレイヤーも多いだろう。
シーズン2では、その能力が強力だという認識があったのか、そもそもゲーム性が大きく異なったためか、衛生兵能力に該当するものはなかった。そのため、盤面で大きく後れを取ると、それが命取りになりやすかった。
シーズン0では、この能力をチームという要素に外部委託することになったと言える。要素としては、治療薬に該当するチームであるが、それと同時に、強力な衛生兵を皆が使えるようにしたとも考えられる。
能力を選ぶことができるパンデミック:レガシーシリーズにおいて、あまりに強力な能力があった場合、プレイヤーの1人がそれを選ぶかどうか、プレイヤー人数が多いか少ないか(その役職の手番数が異なるため)、と言った点でバランスが変わってしまう。
このように、皆が活用できる形にしたのは、正解の形の一つだと思った。
・キャラクター作成の発展
キャラクター作成の部分、特にフレーバーの箇所は順調に発展している。
シーズン1では、役職ごとのカードを使うだけだった。役職ごとに顔写真は決まっていて、選ぶことはできなかった。
シーズン2では、いくつかのイラストが用意されており、その中から選択することができる。
シーズン0では、髪や服、アクセサリーと言ったパーツごとにシールが用意されており、自分で好きなように組み合わせることができる。
これはスパイの変装というフレーバー部分にも合っているし、シンプルながらに皆が創ったキャラクターを見ることができ、アナログらしさもある、良い実装だと感じた。
簡単に言うと各パーツが着せ替えシールみたいになっている
また、能力の枠にも着目したい。
シーズン1では、役職はシートに印刷されており、それぞれが能力や障害の枠を持っている。
シーズン2では、役職にこそ枠があるものの、それ以外は自由で、能力か障害か、どちらかという枠が存在しない。
シーズン0では、枠が存在し、シーズン1と同じ形に戻っている。
これには、明確なデザインの意図があると感じられる。
枠がない場合には、そこに能力を貼ることができるのだが、障害を負うことによって、それに上書きするようにシールが貼られてしまう。つまり、プラスがマイナスになるわけであり、落差が大きい。
また、これらは負のフィードバックを持ち、上手くいかなかったから負の効果のシールが貼られたのに、そのせいでさらに上手くいかない、といったことが起こるのは想像に難くない。
それらを緩和するために、固有の枠を復活させたのだと考える。
・各役職の能力の強化
シーズン0の役職の効果は、従来のものに近いが、より強力になっているものが多い。
たとえば、『医学会議の調整役』は本家で言うところの『通信指令員』の能力(他プレイヤーを1アクションで1マス動かせる)だが、3マス先まで進めることができるようになっている。
移動アクションが制限されていることもあるだろうが、各役職の効果を強力にし、その上でバランスを取ることによって、より役割分担がしやすく、気持ちの良いプレイがしやすいと感じられる。
また、これはチームという強力な要素を少ない手札で作成できる『病院管理者』(本家の『研究者』に対応)に合わせてバランスを取った結果であるとも考えられる。
・コアシステムの堅牢度
概要でも触れたが、各シーズンによってフレーバーが大きく異なるにも関わらず、それぞれがきちんと機能し、面白さを保っている。
「パンデミック」関連作品として、多くの独立拡張が生まれており、それぞれのフレーバーも大きく異なっているが、これらもきちんと成立しており、一定の評価を得ている作品が多い。
これも、「パンデミック」のコアシステムが応用しやすい優れたものであるがゆえであると考える。
レガシーの中でも成功している作品の多くが、既存のゲームがあり、それをレガシー化したものとなっている。始祖である「Risk: Legacy」を見てもそうだ。
レガシーシステムはデザインやバランス調整が難しく、膨大な手間がかかったり、コンポーネントから値段が高くなりやすい。しかも、一度しかプレイできない。
それゆえに、開発者側もプレイヤー側も、すでに面白さが確立しているコアシステムをレガシー化するという方向に行きやすいと思う。
ただ、レガシーというとがった要素に適したコアシステムが採用されているとは限らないように見え、「キングスジレンマ」のようにレガシーのために創られたゲームがもっと増えればよいとも考えている。
◆5.まとめ
「パンデミック:レガシー シーズン1」から数えて、計40回程度のプレイ回数となり、流石に飽きるかとも思ったが、最後まで楽しくプレイできた。なかなかの充足感があり、素晴らしい経験ができたと感じる。
これも、シーズンを通して、素晴らしいゲームデザインがされているおかげだろう。それらを、一部でも理解したいと思い、感想をまとめた。
プレイするのが難しいゲームだとは思うが、同時にとても評価されているゲーム群でもある。シーズン1・2・0をプレイするでしか得られないものは確かにあると思うので、機会があれば、是非プレイしていただきたい。
また、全てのシーズンをクリアした方向けの記事は、以下のものとなる。
◆参考作品
「パンデミック:レガシー シーズン1」
「パンデミック:レガシー シーズン2」
「パンデミック」
「Risk: Legacy」
「キングスジレンマ」
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