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不動産営業を3ヶ月で辞めた話

目次
1.不動産営業マンになるまで
2.入社後
3.転職の決意
4.転職状況
5.退職
6.最後に

1.不動産営業マンになるまで
 自分は元々法曹になりたいと思い、法科大学院(ロースクール)を修了し、司法試験を受験していた。3回受験したものの結果は失敗。当時年齢は26にもなっており、新卒カードを捨てておりこれ以上失敗するとアラサー職歴無しの無敵の人になってしまい、今後市場価値を上げていくことも困難となりいよいよ人生が詰んでしまう…彼女との結婚も夢のまた夢となってしまうと思い司法試験からの撤退を決意し、就職することにした。

 就職するにあたって重視したことは市場価値を上げられること、キャリアに関係無く稼げることであった。未経験や第二新卒に強いとされる就活エージェントにも複数登録し、初めはインフラエンジニアか施工管理をおすすめされ、それが良さそうとも思ったが、インフラエンジニアは最初のうちは夜勤を伴う、資格等を取得しても上流の工程に関わる機会が無ければ収入や市場価値を上げることが困難ということ、施工管理は業界の平均年齢が高く平均残業時間も長いと知り他の道を探ることとした。
 そんな矢先に興味を持ったのが不動産営業であった。不動産業界は収入源が基本給よりもインセンティブであることから勤続年数に関係無く稼ぐことができる、昇進も勤続年数ではなく成績のいいものがするから若いうちから管理職経験をすることができるという点に魅力を感じ、不動産営業に絞って就活することとした。
 その際は不動産業界に特化した転職エージェントを利用した。応募した企業は大手財閥系デベロッパー、その子会社の流通部門、ビッグ7の一角のマンションディベロッパー、投資用不動産コンサルのベンチャー、住宅系飛び込み営業等色々だが、これがまたなかなか上手くいかない。多くは社会人経験が無いという理由で書類選考で落とされたり、熱意が見られないと言われ面接で落とされたりと。そんな中で内定を貰えたのが前職であった。
 特定に繋がるためあまり詳しくは言えないが、前職はセンチュリー21の加盟店で、関東近郊某県に本社を構えていたが、会社規模や売上拡大のために都内に新店舗を設ける予定であった。面接担当者や社長の人柄も良く、稼ぐならうちにおいでよというスタンスであったため、そこに就職することにしたのであった。

2.入社後
 晴れて社会人としてのスタートを切ることができたわけだが、もう少し前職の会社について説明しておく。
 従業員数は本店と都内の新店舗合わせて20人くらい。東京の新店舗は管理職と自分と同期1名、加えて事務員兼宅建士1名の4人とかなり小さいところであった。自社HPも未完成で国土交通大臣免許も当時降りていない状態であった。
 業務内容としてはいわゆる反響営業と言われるもので、具体的にはSUUMOやat homeに物件情報を掲載してお客様からのお問い合わせを待つというスタンスであった。そのため、物件の内見、案内、役所調査以外は基本的に社内にいるものだと思っていた…これが大きな間違いなのだが。
 実際の業務内容としては
①SUUMO等への入稿
②現地販売
③ポスティング
④物件調査
⑤委任訪問
⑥その他事務作業
が挙げられる。以下にて具体的に説明する。

①SUUMO等への入稿
まず、SUUMO等への入稿であるが、これはただSUUMOに掲載すればいいというものではない。みなさんがSUUMOを見るとき、賃貸でも売買でも同じ物件を複数の業者が出しているのを見たことがあると思う。これは、不動産屋は売主ではなく仲介として物件を掲載していること、仲介は基本的にどの業者でもできることが理由である。とはいえ、本当にどの業者でも無条件に物件を掲載できるわけではなく、これが私を苦しめる理由の一つとなった。というのも、不動産営業マンはまず指定流通機構(レインズ)から物件情報を調べ、売主や売主側の仲介業者に問い合わせ、広告掲載の許可を得なければならないのだ。無断で広告掲載をしても別に違法にはならないが、業界のルールとしては絶対的なタブーであり、レインズの運営も絶対にするなと言っているのである。さらに、レインズに掲載されている物件のほとんどは広告掲載NGである。理由としては色々挙げられるが代表的なものとしては、売主(現所有者)が嫌うから(たくさん広告に載ると売れていないと思われるからとか、内見が増えると物件が汚れるからとか)、売主側業者が両手仲介をしたいから(業者が売り手と買い手双方の媒介をすると仲介手数料が倍になり美味しいため、買い手側も自社で用意したい)といったところである。そのため、何件何十件と物件を調べても1件もSUUMO等への広告掲載許可を得られないということもザラにあるのである。これは、反響営業としては絶望的事態である。
②現地販売
 現地販売というのはその名の通り営業マンが現地物件に赴きその場でお客様のご案内等をするイベントであり、主に週末に行われる。
 この現地販売であるが正直言ってとてもキツいのである。朝から晩まで一日中外にいて呼びかけやら案内をしなければならない。また、今夏は記録的な猛暑であったことから、体力の消耗も激しく汗や日焼けも尋常ではなかった。
 さらに現地販売用の看板の設置も肉体労働でありとても負担が大きい。また、現地販売は重要な集客機会であると同時に土日祝に行われるため、土日祝に有給等を取ることは基本的にできない。そのため、入社してすぐの時点で現地販売を経験し、この世界で長くはやっていけないと確信した。
 しかし、現地販売も悪いことばかりでは無く良い点も多い。具体的にはお客様とのコンタクトが早い、SUUMOよりも熱意のあるお客様が来る、なんならSUUMO経由よりも契約に繋がりやすい点が挙げられる。
 実際自分が担当したお客様のほとんどは現地販売をきっかけとした人たちだったため、現地販売はやはりアツい集客方法といえる。また、現地販売物件で契約にならなくても、それをきっかけに他の物件を紹介したりヒアリングしたりして次に繋がるし、一度会っている時点で再度会いやすいということもある。とはいえ、キツいのが勝つわけだが。
③ポスティング
 ポスティングは現地販売に付随して行われるものである。というのもなんの事前告知もなく現地販売をしたとしても人々がその存在に気付かなければ何の意味も無いのである。そのため、ポスティングによって現地販売を周知する必要がある。
 このポスティング、体力的には別にキツくはないが精神的にとても来るのである。
 みなさんは帰宅した時に郵便受けに大量のチラシが入っていた時どう思うだろうか?フィットネス、脱毛、デリバリー、区議会や市議会の広報、不動産色々あるだろうが大抵はゴミだと思うはずである。また、そのゴミを捨てるためにこちらも多少の労力をかけなければならなくなることから鬱陶しいと思うはずである。現に「チラシ投函お断り!」と書かれたシールがあなたの住むマンションの郵便受けに貼られているのを見たことがあるはずである。また、管理人や管理会社もチラシのポスティングをかなり嫌がっており、場合によってはいきなり喧嘩腰で怒鳴ってきたり、通報するぞと言ってくることもある。さらに、通常ポスティングというのはバイトがすることが多く、ポスティング自体には何のスキルも求められないものであるから、大学院まで出た自分が何が悲しくてこんなことをしているのだろうと悲しくなったりもした。職業に貴賎をつけるのはよくないし、こういう考え方はプライドだけが高いと思われても仕方ないかもしれないが事実としてそうである以上ご容赦願いたい。そのため、自分がされたら嫌なことであり、管理人から怒られ、やっていて悲しくなることを長いことやる気にはなれないと思ったのである。
④物件調査
 物件調査とは、自分が担当する物件について、広さや間取り、登記簿情報のみならず、用途地域(当該地域内にどんな建物なら立てて良いかについて都市計画法上定められた地域)やハザードマップ等について役所に赴き調査するというものである。これは基本的に役所内で簡潔にするし、わからないことは担当者に聞けば教えてくれるからそこまできつくないので、説明はこれくらいにしておくとする。
⑤委任訪問
 個人的に前職の業務内容で1番良心が痛んだのがこれである。
 まず、委任訪問とは、レインズにて他社が売主側として媒介契約を締結している物件でかつ、所有者居住中の物件を調べて、業者ではなく所有者の所へ直接行き、自社とも媒介契約を締結するように営業することである。他社でも委任訪問と呼ぶかはわからないが。
 これの問題点かつ心が痛む理由は、この行為がいわゆる抜きと言われる業界のタブーであるからである。抜きとは前述の通り業者を通さず直接所有者に突撃して自社とも媒介契約をさせることである。これが成功した場合自社で買主を見つけ契約に至った場合、売主側から代金の3%、買主側から3%の合計6%の仲介手数料を貰えることから会社にとってはとても美味しいのである。しかし、それは同時に元々売主側と契約していた業者からすれば一銭も手数料が入らないことから気に入らない話なのである。そのため、法的に規制されているわけではないが、抜きは業界の3大タブーとされている。残り二つはお客様だけで内見される飛ばしと、広告掲載承諾無しに広告掲載する行為である。
 このような違法ではないが不当とも言えるグレーな行為をしなければならないことについて、法律というルールを学んできた自分としてはどうしても良心の呵責を抱かずにはいられなかったのである。さらに元々反響営業だったから入社を決めたのに所有者の所に直接赴くわけだからこれでは飛び込み営業であり、聞いていた話とは異なる。ここに怒りを感じたところもある。
⑥その他事務作業
 主に販売図面の作成、お客様とのアポ調整、社内清掃、来店したお客様や業者への対応等である。

3.転職の決意
 転職を決意した理由としては上記内容に挙げたことに加えてもう一つ重要な理由がある。それは、求人票記載の内容と実態があまりにもかけ離れすぎているからである。
 実際に異なった部分としては、勤務時間、月平均残業時間、基本給、営業スタイル、休日、宅建士手当の金額、年間休日数である。
 勤務時間は平日土曜が9:30〜19:30、日曜祝日が10:00〜18:00となっていたが、実際は曜日関係無く9:00〜19:30となっていた。さらに本来定時は18:00なのだが、18:00〜19:30は時間外労働という扱いになっており、その日の仕事が終わっていても強制的に19:30まで残らされるというシステムであった。
 月平均残業時間は求人票には20時間程度とあったが、実際は35〜40時間に及んでいた。毎日1.5時間残業していたら月勤務日数が20日としたら30時間になるし、実際20時頃まで残業せざるを得ないことも多かったため、20時間で済むはずがないのである。
 また、月給は25万円でその中には30時間分の固定残業代が入っているのだが、実際の固定残業代は35時間分であった。そのため5時間分基本給が求人票よりも低いということになる。そもそも固定残業代35時間分が出ている以上、35時間分までは残業しても残業代が出ないのはまあ当然としても、35時間必ず残業させるのはあまりにも酷な話である。
 営業スタイルについても反響営業と聞いていたのに実際は上述した委任訪問という飛び込み営業もさせられていたため、聞いていない話である。
 休日についても、求人票には水曜日+シフト制との記載があったが、実際は火水休みで、そのうち5週以上ある月は5週目以降の週の火曜が出勤日になるというものであった。そのため休日の融通が効かないのは痛手であるし、2週にわたって週休1日の週が続くのは体力的にかなりきついものであった。
 宅建士手当については、これは自分が宅建士免許を取得していない以上あまり関係は無いものの、求人票には2万円とあったのに実際は1.5万円しかなかったようだ。業界の相場としては1〜3万円であり、相場の範囲内だが、上記相違と相まってここまで求人票と実態がかけ離れているのはもはや会社への信頼など失墜し切っているも同然である。
 また年間休日も110日以上とかいていたにもかかわらず実際社内カレンダーを確認すると106日しか無かった。
 他にも通常内定時に労働条件通知書や契約書が送付されるところ、入社当日までこれらが渡されなかった。
 こうした求人票と実態の乖離、体力的しんどさ、収入の不安定さ(退職金が無いとか、固定のボーナスが無い等)、さらにはこれは業界では常識かもしれないが、度重なる上司からの叱責、詰め、将来への不安等が相まって入社後わずか1ヶ月で転職を決意した。

4.転職状況
 転職するにあたり軸はインセンティブではなく固定給で安定したものであること、福利厚生の充実さ、職種はこれまで学んできた法律の素養を活かせる法務職に絞って転職活動をした。
 リクルートエージェントやdodaの大手を始めビズリーチ経由で複数の中小のエージェントにも登録した。実際使ったのはリクルートとdodaくらいであるが。
 転職活動の最難関はどの業種職種も書類選考であると感じた。実際全エージェント合わせて130〜140社ほど申し込んだが、書類を通過したのは10社いくかいかないかであるから確率で言えば10%を切る。いくら法科大学院を修了していても実務経験が無ければ書類通過はかなり厳しいものなのである。これについてはどの業種職種も同じなのだが。
 なんだかんだで現状大手Gの子会社1社から内定をもらえたのでまあいいだろうという感じである。

5.退職
 無事内定をもらえたため、退職願と退職届を出すことを決意する。実はもう2社面接が控えているが早く辞めてしまいたいし、退職届を出してからも1ヶ月は働かなければならないため早めに出すことにしたのだ。
 退職理由としては一身上の都合とか親の介護とかパートナーの転勤とか色々考えられるがどれにしようか、詰められたらどうしようか色々考えており、退職の意思表示をするのが最も大変であった。それと、退職届等は白の無地の封筒に入れるのがマナーとされているが、コンビニや百均、スーパー、ドンキ等どこに行っても白の無地の封筒は売っていないため注意してほしい。Amazonとかで買っておこう。
 そして、退職願と退職届を出すのだが、引き留めもなく理由を追求されることもなくすんなり受け入れられ、退職願退職届も不要と言われた。あまりにも呆気なかったため拍子抜けした。また、退職の意思表示をしてから1ヶ月を待つまでもなく翌日付で退職となったのである。契約上は30日前に申告しろとのことだったがあれはなんだったのか…というところだが、1ヶ月気まずい状況で働かなくてもいいと考えればまあいいかなというところである。
 こうして自分は晴れて不動産営業をやめることができたのである。そして、法務職としてのキャリアをスタートさせることとなる。

6.最後に
 不動産営業はインセンティブで稼ぐため、頑張ればフルコミでなくとも年収1000万や2000万に到達できるため確かに夢はある。ただ、それはごく少数の天才や秀才にしかできないものであり、私をはじめとする凡人には無理なのである。事実、不動産業界の平均年収は400万円台と他業界に比べればやや低い水準となっている。その理由としてはたくさん稼げる営業マンがごく少数で多くは普通のサラリーマンかそれ以下の収入しか得られていないからである。なんならフルコミなら契約を取れなければ収入は0だし、基本給が15万程度の会社なら契約0なら高卒以下の収入になる。もちろんここには事務職も含めているためデータとしての信憑性にやや疑いは残るが。
 また、不動産営業は休日であってもお客様から問い合わせがあれば応じなければならないし、物件の資料を集めたりレインズの確認をしたりしなければならず、休日明けにそれをしていないとバレると凄く怒られるため、休日はあってないようなものであり、ワークライフバランスという概念が存在しない。そのため、休日も働き続ける営業マンも多く、いくら稼いでいても時給換算するとバイト以下なんてこともざらにある。そのため、思っていたよりも夢は無いのである。
 ただ、それでもやりがいを感じてがむしゃらに頑張りキラキラした生活をしている営業マンがいるのも事実である。そのため、どうするかは自分次第ではあるが、正直言って不動産業界に安易に入ることはオススメできない。相応の覚悟を持って入った自分ですらすぐに辞めてしまったのだから、きっとつらくなると思う。それでもどうしても不動産営業をしたい!と思うのであればぜひ頑張ってほしい。
 また、不動産営業はとても過酷であり、保険営業と並んで激務と言われる職種である。それ故に不動産営業から転職する場合はプラスに働くこともあるし、多少忙しくても不動産営業に比べればマシと思えるのでこれはメリットかもしれない。
 いずれにせよ不動産営業がつらいならとっとと辞めていいと思うしなんだかんだでその後もどうにかなるので、自分と同じ悩みを抱えている人たちの希望になれれば幸いである。

【追記】
専門商社に転職してもうすぐ半年が経つ頃だが、前職の情報を調べてみたら想像以上にヤバい事態になっていることに気がついた。まずは労働条件だが、以下に示すと…

①休業日について
変更前→毎週水曜、火曜(5週以上ある月は5週目以降の火曜日は営業)
変更後→無休

②営業時間
変更前→9:00〜19:30
変更後→9:00〜20:00

③年間休日
変更前→105日
変更後→100日

このように改悪されまくっている。通常企業はブラックであればそれを是正して少しでも働きやすい環境にするはずである。にもかかわらず、前職は逆にブラックに向かっていっている…
また、前職の会社は溝の口の本社の他に、城南エリアに1支店、川崎市某所に賃貸部門の支店が1店あったが、これらはSUUMOやGoogleマップから削除されており、閉店となった可能性が高い。
宅建業者の存続率が低いことに鑑みるとおそらくこの会社は業績不振であり、少しでも利益を出そうと残った従業員をこき使っているのだと思われる。
正直言ってここまでの状態になっている企業に未来は無い。辞めて正解だと心の底から思っている。

以上

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