見出し画像

ヒップなエディトリアルシンキング⑩

第10回
マーケット感覚を持とう

先日の日経新聞に「緊急事態宣言解除、それでも個人消費の回復が鈍いワケ」という記事があった。その中で消費が伸びない理由が述べられているのだが、ビジネス需要のあれこれがリモートワークで減ったというのがそのひとつであるという。

新幹線の利用者の大半は、出張などのビジネスが目的。しかしオンライン会議が交通機関の利用に待ったをかけた。さらにインバウンドの衰退。こちらはこの先持ち直す可能性もあるが、出張は難しいだろうという論調だ。

俗に「4時間の壁」というのが交通機関にはあるらしい。旅客が旅行に際し飛行機を使うか鉄道を使うかの分岐点だという。確かに自分が大阪に出張する場合ほぼ新幹線を選ぶが、岡山以西になると飛行機を選ぶかもしれない。厳密に4時間かどうかはともかく、誰もがその時間の壁とやらを持っている。

JRと航空会社はこうしたマーケットで戦っている。そしてJRが何年も前に出した結論がリニアモーターカーである。研究は1960年台から、計画は70年代から始まった。「東京ー大阪間を何時間で」というのが、夢物語のように語られているのをずいぶん長いこと耳にする。完成予定は2027年以降というから気の長い計画だ。

しかし普通のマーケット感覚を持っている側からするとこの計画、かなり無理筋じゃないか。コロナ以前から複数の専門家も述べていたが、採算に合うかどうか疑わしい。技術力の発展のために研究開発し、それを海外に売って利益をあげるという計画ならまだいいが、住民に無理言って立ち退かせたり、地形を変えたりいろんな歪みを生み出しながら無理に計画したところで一体なんになるんだろう。まるで戦前戦中の日本の軍部のようだ。サンクコストに恋々としてやめたり引き返したりできない。

そしてコロナに襲われた。

JRはZOOMやSkypeが自分のライバルになるとは思いもよらなかったに違いない。

ライバルは異業種のなかに

好むと好まざるとにかかわらず、すべての業種はテクノロジーの発展によって、まるで異種格闘技の世界に放り込まれた。

「ライバルは携帯電話だ」と言ったのはSONYの久多良木さんだ。1999年「プレステ3」発売の前のことである。「人の最大の娯楽はコミュニケーションだから」というのがその理由で、20年以上前からいまの状況を予言していたと言える。

いま好調なSONYの業績がこの言葉から紡がれてきたものなのかどうかはわからないが、こうした先見の明が与しているのかもしれない。

自己表現の手段のひとつ、ファッションがインスタグラムに取って代わられたり、海外旅行の代わりのキャンプ需要がアウトドア関連商品の売上増に繋がったり、競合も多様化してきているから、商品・サービスを提供する企業は大変な環境に放り込まれている。

画像1


同じ池のなかだけで競争するのではなく、近くの川や湖、海というフィールドで競り合いをしている相手もライバルなのだ。もしかすると水辺だけではなく、陸地も競合マーケットかもしれない。

コロナの緊急事態宣言によって、世界中の飲食店は店内飲食に制限、あるいは禁止を余儀なくされた。アメリカではピザの売り上げがとてつもないことになったという。運びやすくて安く、そしてみんなに愛される。

マーケット感覚というのは需要と供給のマッチングを見極める目である。コロナでデリバリーが盛んになることを見越した飲食店経営者は「ゴーストレストラン」に舵をきり、中華、和食、メキシカンなど複数の業態をひとつのキッチンだけで賄う、厨房だけの店舗を開設して成功している。

社会、経済、技術の発展に合わせ、マーケットはどう変わるのか意識しないと時代に取り残される。凄腕の切符切りも、10分間に700文字打てるタイピストも公衆電話も、いまではほとんどお呼びでない。

これは紙の雑誌からWEBマガジンに軸足を移して事業を続けている自分にも自戒を込めていつも言い聞かせている。

人はどこに「価値」を置いているのか? あるいは見出すのか?

コンビニだと100円のコーヒーを、何倍もするスタバのカウンターでパソコン開くために払うのか?

どうしてホテルのラウンジで1500円のコーヒーを飲むのか?

あなたが喫茶店を開こうとするならこんなことが真っ先に頭に浮かぶはずだ。それがマーケットを意識しているということだ。優れたマーケターは、ここから適解を見つけられるかもしれない。

山小屋で缶コーヒーがどうして500円もするのかと文句を言っている人にはマーケット感覚はない。

来たボールを単に打ち返すのではなく、どうしてここに行列ができるのか、どうしてこんなに売れるのか、自分の頭でいつも考えることが大切だ。

読者が望む情報を集めて編むのが編集者の仕事。そこがズレていては話にならない。

自分はぶつぶつ文句いいながら500円払うタイプです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?