コミュ将(コミュニケーション将軍)
子供を乗せた幼稚園バスが走り出し、見送りが終了しても、天候が悪くない限りは母親たちはそこに立っていた。バス発着所であるコンビニの前は母親同士で話す貴重な情報交換の場となっていた。
その日は、いつものように会話が始まろうとする3人のフォーメーションに近づく爺さんの姿があった。
何かしらの信頼関係に基づくかのようなその爺さんの近づき方に、2人は清美のお義父さんか祖父に違いないと思い、気を使いとっさに2人だけで話を回し、清美も自分の問題としてフォーメーションの外で爺さんの対処を始めた。そしてその爺さんが帰った事をきっかけとして、一同は解散となった。3人の母親はこの限られた時間でコミュニケーションを取る程度の間柄のため、あの爺さんがいったい誰だったのかという答え合わせは無かった。
翌日も幼稚園バスを送り出すと、すでにあの爺さんがおり、3人のフォーメーションに加わらんばかりの位置で清美に話しかけているのだった。
爺さんは急に、清美の隣にいた佳苗に照準を向けこう言ったのだ。
「子供のオモチャがいっぱいあるからもらって欲しい」
この時、清美が爺さんに対しても佳苗に対しても無言だった事が、清美がこの爺さんとは全くの無関係だということを証明していた。
爺さんはゲリラ豪雨のような存在だったのだ。
1人残された陽子は、状況証拠から爺さんに容赦する必要が無いことを理解すると、巻き添えを食らわないよう遠くを眺めていた。
人の良さそうな清美は爺さんの申し入れをキッパリと断れなかったのだろう。
佳苗が「オモチャがたくさんありすぎて困っている」と一掃すると、爺さんは自転車を漕ぎ去った。
子供をダシに道理の通った善意にしか聞こえないような提案を持ちかけるという方法で、世の中のママとコミュニケーションを取るという旨味を知った爺さんは、もう何年もこの辺りの幼稚園バスの発着所を自転車で回っている。
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