2022/01/31(月)

僕の隔離療養、彼女の自主隔離は今日も続いている。

実家から食料が届いた。パウチ、レトルト、フリーズドライ、などなど。カップヌードルのレジェンド4(オリジナル、カレー、シーフード、チリトマト)が網羅されているのは嬉しかった。ちなみに、レジェンド4は今僕が名付けた。

そして、どん兵衛も4つ入っていた。天ぷら蕎麦、きつねうどん、天ぷらうどん、鴨そば。悪くない。

彼女が、

「あ、私はね、このきつねうどんが一番好き。」

と、喜んだ。

僕は頭を抱えた。

・・・

彼女も先週の木曜日、僕の陽性が発覚した日、仕事からの帰りにスーパーでたくさん食料を買ってきてくれた。そして、その中にはカップ麺もいくつかあった。

「ほら、鴨そば買ってきたよ!」

と、一つ目のカップを出す。これは、今日実家から届いたのと同じどん兵衛のもの。僕が以前、美味しいよということを彼女に話していたので、買ってきてくれたのだ(結局、彼女が自分で食べていた。美味しかったらしい。よかった)。

しかし、他のラインナップが不思議だった。

「これも!あと、これ!」

と、袋からいくつか出してきた。

「お、おう。」

と、僕は戸惑い気味に頷いた。

「何、嬉しくないの?」

彼女は、責めるように聞き返した。

袋から出てきたのは、どん兵衛の”揚げ玉そば”、そして”緑のたぬき”だった。

僕は戸惑った。どの軸で考えて選んできたのか。あるいは、どの視点から彼女は間違えて買ってきたのか。

”緑のたぬき”を軸にした時、それとセットになっているものは明らかに”赤いきつね”だろう。疑いようのない事項だ。しかし、彼女が買ってきたのは”赤いきつね”ではない。

しかし、彼女は別の赤いものを買ってきた。

それが”どん兵衛の揚げ玉そば”。僕は買おうと思ったこともない種類のものだった。えんじ色のパッケージは何処と無く渋い印象を与えてくれる。実際、今日食べたがうまかった。

彼女はきつねうどんが好きだ。どん兵衛の”きつねうどん”が好きだ。

しかし、彼女はどん兵衛の”揚げ玉そば”を買ってきた。そして、”緑のたぬき”も買ってきた。

「緑と赤を買ってきたの。だって、緑と来たら赤だし、赤と来たら緑でしょ。」

と、彼女は言った。

それはそうだけど、ちょっと待ってほしい。彼女はどん兵衛の”きつねうどん”が好きだ。

だったら、”どちらの意味でも彼女は間違えている”ことになる。そのことに気付いていない。

まず、どん兵衛は色で選ばない(ですよね?そうですよね?)。何なら、どん兵衛の配色はマルちゃんの配色と逆だ。つまり、どん兵衛のうどんは『緑だ』。

彼女は緑を取った。”緑のたぬき”を取った。そして、”最初に緑を取ったから”次に赤を取った。うどんかそばは、どうでもいい。どん兵衛か赤いきつねかはどうでもいい。赤いものを取った。そしてそれは、きつねうどんではない、僕が食べたことのない”揚げ玉そば”だった。

「きつねうどんが食べたかったんだよね?」

「うん、そうだよ。」

「どん兵衛の。」

「うん。」

「でも、緑のカップを取ったから、赤を取ったんだよね?」

「うん、だって必ずセットでしょ。」

「だったら、なぜ、せめて”赤いきつね”を買ってこなかったの?どうして、急にどん兵衛の”揚げ玉そば”なの?」

「知らないわよ、そんなの。そんなのは瑣末なことでしょ。大切なのは緑と赤が揃うこと。あなたに早く食べさせたくて買って来たの。それだけよ。」

「でも、”どん兵衛のきつねうどん”が好きなんだよね?」

「ええ、そうよ。」

そして、彼女は”緑のたぬき”と”どん兵衛揚げ玉そば”を買って来たのだ。紫色のどん兵衛鴨そばを一緒に。

彼女の好きなきつねうどんは含まれていない。

僕は頭を抱えた。

・・・

そして、今日、

「私、明日このきつねうどん食べるからね。」

と、彼女は言った。どん兵衛を胸に抱えながら。

僕は、

「あぁ、もちろんさ。よかったね、好きなものが入ってて。」

と、微笑んだ。

「えぇ、もちろんよ。」

と、彼女は言った。意味は分からなかった。

明日のお昼が楽しみだ。

僕は何を食べるか、まだ決めていない。

・・・

今日も夜が来ました。

Good night.


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