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林業の活性化に補助金は必要だろうか?

1 造林補助金



私は昨年4月から、造林補助金(いまの事業名称は森林環境保全整備事業)の仕事をしています。

山に木を植えたり、下刈り(農業の草むしり的な作業)や間伐(農業の間引き的な作業)などの手入れをしたりすることに対する補助金です。

造林補助金は、1964年(昭和38年)の木材の輸入自由化に伴う国産木材価格の下落に伴い誕生したのかと、わたしは思っていました。植林や手入れに充てるお金が減ったから創設された補助金だと。

でも、違いました。

明治時代から林業の補助金はあり、公共事業になったのが第二次世界大戦後でした。戦後復興のために木が沢山伐られて、はげ山が増え、災害が多発したからです。もっと遡れば、江戸時代から植林を奨励している藩がありました。(出典 平成25年度森林・林業白書

木材価格が高かった頃から造林補助金があったとは!

2 森林未来会議という本

私は、初めて担当する造林補助金の仕事に翻弄される中、本屋である本を見つけて読みました。

林業の現状について、
第一線で活躍なさっている方々が描いた
素晴らしい内容の本です。


岐阜県立森林文化アカデミー森林施業を教えていらっしゃった横井秀一さんの章もありました。

多様な森林経営と森林施業は、林業界に漂う閉塞感を打破し、林業を活性化する。

森林未来会議 第7章

これが、横井さんの仮説です。その経営・施業の多様化を阻む要因が、補助金を含む画一化を助長する施策、コロコロ変わる施策、技術的合理性を欠く施策とのことです。
(この本で横井さんは、問題の原点が「人」だとし、技術者育成について描いていらっしゃいます)

正論過ぎる…

自分が実際に造林の施業をしているわけではなく、補助金申請を受けて検査するだけの仕事ですが、造林補助金の検査(特に現地検査)は、私にとっては大変な仕事です。
なのに、補助金を含む施策が林業の活性化を阻んでいるなんて…

はたして、造林補助金は必要なのか?という疑問が、私の脳裏をよぎります。

3 外国の補助金事情

さて、この本では、日本の林業のヒントになるよう、オーストリアやドイツ、アメリカの林業について紹介してくださっています。

他の国の造林補助金はどうなっているのでしょうか。気になります。

〈オーストリア〉
・補助金の支給は2000年頃まで
・EU加盟時に保安林や被災林以外の人工林造成への補助金は廃止
・代わって、広葉樹林や針広混交林の造成に対する補助金が支給された

〈ドイツ〉
・補助金のことは書いていなかったかも
・日本同様の零細な林業経営だけど、木材共同販売組織が大規模製材工場への安定供給を可能にしている

〈アメリカ〉
・私有林に対する各種補助金がある
・木材生産からレクリエーション活動まで森林の多様な価値を高めるための「森林投資ファンド」が主流であり、補助金に重きを置いていないように感じる

これらの国々は、既に補助金無しでもやっていける匂いがプンプンします。

4 補助金は必要だろうか


私が現在担当している地域では、木材を生産する方法が間伐から主伐(皆伐)に徐々に移行してきている印象です。だから、もし補助金が無ければ、伐りっぱなしで天然更新の森林だらけになると予想されます。

天然更新で森林が成立するか、しないか、は、もともと何が生えていたか(人工林になる前)や、土地の肥沃度、地形などの条件によると思います。あとは、ニホンジカの生息数によります。(幸いうちの地域は、いまのところ林業被害がでるほどはシカがいません。いまのところは。)
天然更新に失敗すると、笹などの藪になる可能性もあるのではないかと思います。

造林補助金の現地検査をして、森林組合の方々や現場作業者の方々のお仕事に触れ、林業の一端に触れたうえで、
表題の問いに対して、自分なりに出した答えは、現時点では以下の通りです。

再造林→補助金必要
拡大造林は、いらないかも)
下刈り→補助金必要
枝打ち→この地域はしていない(人手不足)
除伐→補助金必要かも
間伐→保育間伐(切り捨て間伐)は必要かもしれないけれど、搬出間伐(利用間伐)は補助金いらないかも
森林作業道→将来も見据えたインフラ整備として、林道とともに公共事業でバンバンつくって欲しい(でも管理が課題)

私が、部分的に造林補助金を必要だと感じる理由の1つは、林業の作業の大変さです。補助金は、最終的に森林所有者の経費負担を軽減します。しかし、真夏の炎天下での下刈りなど、過酷な作業をする方々の負担も軽減してほしいと個人的に思います。そうでないと、林業の担い手がいなくなると感じます。(しかし、いまの造林補助金の仕組みでは作業者の方の負担軽減に繋げるのは難しいか…?)

もう1つの理由は、森林の災害防止機能です。最近、極端化してきた気象災害に備えるには、国土を災害から強い状態にしておくことは不可欠だと思います。

とはいえ、補助金で手入れされた造林地=災害に強い森林とは限らないとも感じます。
オーストリアが補助金を広葉樹林や針広混交林の造成にシフトしたように、多様な構造の森林の方が、災害に強いと私も考えています。病害虫獣の被害にも。

スイスでも、針葉樹の単一樹種の人工林が災害に弱いと経験で学び、近自然的な森づくりをしています。(参考文献 スイス林業と日本の森林 (近自然森づくり)

一方で、一つ一つの作業や作業回数が、本当に必要かを科学的に検証して見直していく必要はあると思います。
耕さない農業のように、目から鱗のやり方(やらないやり方)が林業にも在るのかもしれない。

5 答えは、山が教えてくれる


結論としては、その土地にどんな森林が在るのが最適なのか、いろいろな面(①地質、土壌、地形などの木が育つ環境、②近くに守るべき家などがあるかの立地、③木材生産、災害防止、レクリエーションなどの森林の利用の仕方など)から検討、選択し、その森林を造成するのに適した補助金があれば活用する、のが理想だと私は考えています。

まず、補助金ありき ではなく、まず、その土地に最適な森林ありき です。
ゾーニングだったり、適地適木だったり。

なので、針広混交林を目指して「更新伐」をするのもあり、だと思います。私は補助金申請で「更新伐」を見たことはないのですが…。

↓この方は更新伐をしている!


日本は東西南北に長細く、気候風土のバリエーションが豊かなので、そんな場所で育つ木々もバリエーション豊かです。
雪国である当地域では、肥沃な土地ではスギの成長は良いですが、その分、草の繁りかたも半端ないので、全国一律のやり方に倣って下刈りを省くことは難しいと感じます。一方、雪折れ被害もあり、スギの不適地では、自然に針広混交林化している場所もあります。

結局、答えは、山が教えてくれる…

いま行う森林施業が、いま、だけでなく、10年後、50年後、100年後の森林と私たちの生活に関わってくるけれど、未来がどうなるかは分からない。
いまは、カラマツやスギの需要が高いけれど、将来どうなるかは分からないし、新型コロナウイルスのように新しい森林病害虫が発生するかもしれない。

だからこそ、横井秀一さんがおっしゃるように、多様な森林をつくるための、多様な施業と多様な経営が必要なのだと思います。

6 「個の可能性」の登用とネットワーク化

最後に、この本の第5章を描いた、中村幹広さんの言葉が心に残ったので、引用します。
中村幹広さんは、岐阜県庁の森林・林業の専門技術職員として勤務なさっています。また、飛騨市に出向して、市町村フォレスター(森林総合監理士)としてもご活躍されていたそうです。

日本の森林・林業政策は、戦後の復興から現在に至るまで、「組織あるいはシステム」によって制度政策を推進しようとしてきた。
(中略)
今後、日本の森林・林業界も新しい発想や情熱を持った「個の可能性」を多様な形で登用し、それをネットワーク化することができれば、専門的で制約があまりにも多い林務行政のような仕事であっても、これまで疑いもせず信じてきた限界を軽々と超え、既存の価値観にとらわれない大胆な挑戦が可能となり、それは新たな地域社会を創る大きな力となり得るだろう。

森林未来会議 第5章より


林業の活性化には、補助金を含む「組織あるいはシステム」による施策よりも、「個の可能性」の登用とネットワーク化の方が重要だということです。
このことばが、わたしの心にじわじわと浸透してきています。