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木の伐り方にも種類がある 更新伐とは

今回は「木の伐り方(施業方法)」の中でも
特に「更新伐」という方法についてまとめたいと思います。

このお話での用語の意味
 立木・・・山林に生育している樹木のことで、伐倒する前の木の状態
 伐る・・・林業において立ち木を伐倒することは"切る"ではなく"伐る"を使います
 施業・・・林業現場での業務を行うこと 施業地は林業作業をする地の意味です
 伐採適齢期・・・伐採に適した木の年齢 スギは一般的に50年ぐらい

※ここでいう木の伐り方というのは施業方法のことであり
 伐倒の向きなどのテクニックやチェーンソーなどの使用技術についての話ではありません

木の伐り方の種類

木を伐る施業の方法にも、実はたくさんの種類があります。
ここでは、伐った木を搬出してお金にするための木の伐り方について紹介します。


施業の区分=主伐と間伐

ざっくりと、弊社で行っている材の搬出を目的とした施業をまとめると下の写真のようになります。

施業区分

もちろん、細分化していったり、地域によって解釈が違ったりするので、
あくまでも弊社で行っている施業の区分を便宜上まとめたものになります。

まず、大きく2つに区分すると、間伐と主伐に分けられます。

間伐とは、木を間引いて残した木の成長を促進し、森林環境を保全する機能を高めるために行う
⇒ 搬出間伐 → 単木間伐・列状間伐

主伐とは、木を収穫することを目的に、比較的まとまった大きな面積で伐倒・集材を行う
⇒ 皆伐・更新伐

間伐は施業地の中で伐る木と伐らない木を選別することで、
伐らずに残した木の成長を促進させて将来も木を収穫できるようにします。
また、木を間引くことで次のような循環が生まれます

  • 木1本あたりの土中の栄養や水分、日の当たる量が増えて光合成が進み、成長が促進される

  • 成長する過程で、光合成により空気中の二酸化炭素を吸収することで地球温暖化を防止する

  • 成長する過程で、根が広く深く張り、土砂崩れを防ぐことができる

  • 成長したことにより、将来に収穫できる木が太くて背の高い価値の高い材となる

他にもいろいろな山の機能が活性化され、たくさんの効果を得ることができます。

きれいな川の水が流れるのも
きちんと整備された山の機能のおかげ


間伐 搬出間伐って?

さらに搬出間伐は、単木間伐と列状間伐に分けられます。

単木間伐は、施業エリア内でまんべんなく伐る木を選ぶ方法です。
エリア内にある立ち木の状態を確認して収穫する木を選ぶことができます。

山林の立ち木の状態を見て
「この山林は細い木が多いから単木間伐してバイオマスの燃料として搬出しよう。そしたら残っている太い木がもっと成長していい木になるはず!」
「この山林は樹高が高い木ばかりだから一旦搬出しよう。そしたら今は低い木に光が当たって成長するはず!」
「この山林は台風で倒れた木が多いな。将来重大な災害が発生するかもしれないから被害にあった木だけ搬出しよう!」
といったように、理想とする山林にあった方法をとることができます。

木も生き物なので必ずしも理想通りに生著数るわけではないですが、
「将来の山林をどうしていきたいか」に合わせて伐る木を選ぶことができる方法と言えると思います。

弊社でも行っている自伐林業も、今はまだ作業道を付けている段階ですが、将来はこのやり方によって搬出間伐を行う予定です。

列状間伐は、道に対して1列に並んだ木を伐る木とする方法です。
木の集材には林業機械を使用することが前提になってくるので、木を伐ってから道に出してくる作業がやりやすいという効果があります。

作業道のそばにある木を伐っていくので大型の機械が入れるため効率的
ドローンで上空から見ると
道沿いで木が抜けているのがよくわかる

主伐 皆伐と更新伐って?

一方で、主伐は木を収穫することが大前提となり、比較的大きな面積で大規模な作業となることが多いです。
これは、一度に収穫できる量を多くするためだけではなく、
重機や現場に行くための車、材を運ぶためのトラック、集材に必要な架線の設置、
さらには木が大きく成長するために必要となった費用(植林や下刈り、枝打ちなど)といった膨大なコストの回収のためにも作業効率を上げる必要があるためです。

架線集材の様子
山にワイヤーを張って木を出していく

主伐はさらに、皆伐と更新伐に区分できます。

皆伐はその字の通り、施業範囲の全て(=皆)の立木を伐る施業になります。
施業地を選んだらその範囲内にある立木はすべて伐倒対象となります。

更新伐は、少し表現が難しいのですが、列状間伐と皆伐の悪いところを補う方法になります。

皆伐をすると、その跡地に植林をしたとしても次に収穫できるのはおよそ50年後(収穫にはこれぐらいかかるといわれています)。それまでに災害などで植林した苗木がダメになってしまうと材での収入はゼロになります。

列状間伐では、収穫できる木の量が少なく、人件費や林業機械の購入費用など経費を賄うための売上を上げるためには、広大な施業地が必要になります。

この両方のデメリットを補うのが施業が、更新伐であると言えます。

更新伐では、施業地の選定方法がより重要になってきます。
あるエリアを決め、そのうちの20~40%に当たる面積を伐採地とし、
残りの部分は伐採は行わず、保護林として施業を行わないエリアとします。

更新伐の中でも「樹高の2倍以内の伐採幅にしなさい」「1つの伐採面積は1ha以下にしなさい」など制約の種類があって選択することにはなりますが、伐採と保護の対象となる森林を区分して決めながら施業するスタイルという特徴は変わりません。

更新伐の現場の写真
縦向きに帯状に木がない部分が伐倒エリアであり
その両側の木が残っている部分が保護エリア

これにより、現在と未来の収穫材を確保できる下記のような循環体制を整えることができます。

①最初の伐採エリアで伐倒・集材・植林の施業を終えて、また別の場所で施業を行う
  ⇓
②保護エリアが伐採可能となり、施業を行える
  ⇓
③最初の伐採エリアに植林した木が成長して伐採時期を迎え、施業を行える

伐採を行う時期をずらしていくことで、伐採に適した年齢(伐採適齢期)になるまでの森林整備を行いながら、伐採適齢期の森林で材の搬出施業を行うことができます。

エリア一帯を管理しながら施業を進めることにもなりますので、育林施業(下刈りや除伐など植林した苗の成長を促進するための施業)の年間施業量が計画しやすかったり、定期的に施業エリアに入ることで食害や風倒木といった自然災害に早期に気づきやすいといった効果も期待できます。

しかし、伐る時期をずらして施業計画を組む必要があるため、広大な山林を確保する必要がある施業方法でもあります。


なんのために伐り方を変えるの?

伐り方をかえる大きな要因は、「作業道がつけられるか」によるかと思います。

日本の山林は急峻だったり谷が多く入っていたり複雑な地形をしています。
梅雨時期には雨も多く、夏には台風が来たりもします。
こういった地形や気候の影響を無視して作業道をつけてしまうと、崩れやすい危険な道となってしまいます。
そのため、作業道を抜かなくても空中にワイヤーを張り巡らすことによって作業が可能となる架線集材が古くから盛んにおこなわれていました。

また、林業現場では多種多様な高性能林業機械が登場し、昔と比べると作業員の肉体的・精神的負担ははるかに軽減されてきたことは確かです。
しかし、山林で大型の機械を使うためには作業道が必要になり、機械の大型化に伴ってどうしても作業道の道幅も大きくなってしまいます。
無理に施業を優先してしまったことで、結果的に崩れやすく災害の起きやすい山林になってしまった事例も確かに存在します。


高性能林業機械「プロセッサ」
立木を指定した大きさに伐り揃えるのが得意
昔は1つずつ長さをはかりながらチェーンソーで伐っていた造材の作業が効率化された

一方で、林業の重要な収入源である「木を伐採して売る」ことができないと産業として成り立ちません。
日本の山林に植えられたスギやヒノキの多くは伐採適齢期を迎えており、
「今が稼ぎ時」であると同時に、適切に伐って若い木が育つ環境にしていかないといけない時期になっています。
林業が衰退して山林の整備が行われなくなってしまうことは、
木材の供給だけでなく山林の環境自体も衰退することを意味しています。

こうした条件や背景を考慮して
「ここは道がつけられるし若い木が多いから、搬出間伐をして木の成長を促そう」
「ここは年齢の高い木が多いから、皆伐して再植林をしよう」
「ここは施業地が広く取れるし木の成長が見込めそうだから、更新伐にしよう」
といったように、その場所にあった施業方法を決めてやることが重要だと思います。

必ずしも「木を伐ること = 環境破壊(悪)」ではありませんが、
山林と対話するように、山林の状態をよく知ってから施業方法を決めてやらないと
取り返しのつかない結果になってしまいかねません。

伐ることは必ずしも悪ではないが、大きな責任を伴う


まとめ

今回はだいぶマニアックな「林業の施業方法の区分」
その中でも「更新伐」についてまとめました。

今回お伝えしたいのは、
お金を稼ぐだけのために木を伐っているわけではなく
山に住む生き物や地域の方々の環境を保全するために
そして今だけでなく10年・100年先の未来も考えて施業を選択している
ということ。
そのために地形の条件や環境への配慮、将来像や目的などいろいろな条件を考えて選択して作業しているということ。
そんな林業の奥深さを少しでも知っていただければと思って書かせていただきました。


著者:おおだいら

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