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被災地の神社復興を妨げる国家神道論──島薗進東大大学院教授の国家神道論を批判的に読む 6(2011年4月1日)


 一昨日の3月30日、今上陛下は皇后陛下を伴われ、大震災の被災者約290人が避難している都内の東京武道館を訪れ、被災者を見舞われました。

 ジャンパー姿の陛下は、予定を上回る約50分の時間をかけ、すべてのグループに直接、声をかけられ、励まされました。

 被災者の1人は取材記者に「本当に心配してくださっている気持ちが伝わってきた」と語った、とメディアは伝えています。

「民の声を聞き、民の心を知る」のが天皇の伝統であり、天皇は国民の喜びのみならず、悲しみや憂いをも共有され、つねに「民安かれ」と祈り、国と民を一つのまとめようとされます。

 その祈りは危機のときにこそ発揮され、国民の感性にやさしく響き、国民の心を揺り動かし、復興への勇気と力を与えます。祭祀王なればこそでしょう。

▽1 神社には厳格に、他宗教にはゆるやかに


 さて、大震災に関して、一般メディアがあまり伝えないことの1つに、各地の神社の被災があります。上空から見た被災地の爪痕はGoogleの航空写真で分かりますが、たとえば宮城県神社庁の「お知らせブログ」を見ると、津波で社殿が流されてしまったというようなもっと生々しい窮状を知ることができます。

 以前、取材でお世話になった年配の神職さんは、「神社はムラのものだ」とくり返し語っていました。千年余の歴史を持つ古社であればなおのこと、土地の人々が生を受け継いできた証であり、であればこそ、心のよりどころともなります。

 その日本人の聖地が復興できるかどうか、障害となるのは、憲法が定める政教分離規定を日本の宗教伝統である神道・神社には厳格に、他宗教にはゆるやかに解釈・運用する二重基準です。

 2年前、メルマガで書いたことですが、新潟中越地震から5年も経つというのに、長岡市の蒼柴(あおし)神社の境内にある80基の灯籠が倒壊したままになっていると地元紙が伝えていました。

 同社は長岡藩主が建てた、地元のシンボルですが、不況で寄付が集まらない上に、文化財に指定されていないことから、県の基金が活用できないのでした。神社が鎮座する悠久山は大正時代に神社が無償で土地を提供し、市の公園となりましたが、逆に現代の行政機関は神社の窮状を救えずにいます。「政教分離の観点から神社への助成はできない」というわけです。

 しかし神社以外では、文化財にしていない宗教施設が公金を使って復興される事例もあります。

 たとえば長崎・新上五島町の江袋カトリック教会です。県内最古の木造教会が火災で焼失し、柱と壁を残すだけとなったのは4年前で、文化財未指定のため復興が危ぶまれましたが、2カ月後、町は全焼した教会を文化財に指定し、復興に弾みがつきました。

 教会を所有する長崎教区の大司教は、政教分離の厳格主義者として知られますが、行政の支援を遠慮したとは聞きません。

▽2 国家神道こそが軍国主義の源泉!?


 なぜ政教分離政策のダブルスタンダードが行われているのか、といえば、戦争の時代といわゆる国家神道のおぞましい歴史を引きずっているからです。もっと正確にいえば、戦前史の事実ではなくて歴史理解の問題です。

 当代随一の宗教学者・島薗進東大大学院教授は『国家神道と日本人』で、「第二次大戦後、GHQは日本の軍国主義や超国家主義は宗教のあり方と深く関わっていると考えた。とりわけ政教関係に大きな問題があったとして早急に手を打とうとした。日本人を無謀な侵略戦争に導いた宗教とイデオロギーの悪影響を取り除かなくてはならないとの判断だ。そこで神道指令と天皇の人間宣言が下された」と書いています。

「国家神道」こそが「軍国主義・超国家主義」の源泉であるとアメリカが本気で考えていたのは戦時中からであり、戦後ではありませんが、それはともかく、アメリカはそのような歴史理解を占領後期には取り下げています。ここが重要です。島薗教授の歴史論には占領史がすっぽりと抜けています。

 日本に「侵略戦争」を二度と起こさせないため、いわゆる神道指令を発し、天皇に「人間宣言」を出させたとするのなら、なぜ昭和24年に松平初代参議院議長の参議院葬は議長公邸で行われたのでしょうか。神道指令直後は駅の門松やしめ縄まで撤去させられたのに、です。

 アメリカはなぜ神道を敵視するようになったのか、そしてその敵視政策をなぜ簡単に取り下げたのか、アメリカ研究を深め、歴史の虫干しをする必要があります。そうでなければ、戦後最大の自然災害に見舞われている被災地の神社復興はそれだけ遠のくことになるでしょう。

 思い出してみてください。阪神大震災10年の追悼式典で、キリスト教音楽の最高傑作といわれる、モーツアルトの聖体賛歌「アベ・ベルム・コルプス」が流れたことを。これが日本の政教分離政策の現実なのです。

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