先帝陛下「米寿」のお誕生日に、将来の皇位継承を思う(令和3年12月23日、木曜日)
先帝陛下は今日、88歳の米寿をお迎えになった。歴代最高齢である。心からお祝い申し上げたいが、惜しむらくは、在位のまま迎えていただけなかったことである。
これまでの経緯を簡単に振り返ると、先帝が「私は譲位すべきだと思っている」と参与会議で仰せになったのは、平成22年7月と伝えられる。6年後、28年7月のNHKのスクープに端を発して、「生前退位」なる奇妙な新語がメディアを席捲するようになった。
翌月にビデオメッセージで「お気持ち」が表明されると、あれよあれよという間に「退位」特措法が作られ、御代替わりを迎えることとなったのである。
特措法の採決時には「政府は女性宮家の創設など安定的な皇位継承のための諸課題について、皇族減少の事情も踏まえて検討を行い、速やかに国会に報告する」との附帯決議が行われ、その結果、今回の有識者会議が設けられたのだった。
今年3月から13回の会合を経て、昨日、報告書がまとめられ、岸田首相に提出された。官邸のサイトに載る報告文によると、「附帯決議」とは大きな変化が見受けられる。「附帯決議」に関する有識者会議なのに、報告書には「附帯決議」にある「女性宮家の創設」が見当たらない。この変化は何によるものなのか。
▽1 皇位継承策の脱落
すでに7月の会議資料では「今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」「当面は皇族数の確保を図ることが喫緊の課題ではないか」と報告書の内容が先取りされていた。
また、前回、12月6日の会合に配られた「報告書骨子案」では、「皇位継承のあり方」が脱落し、「皇族数の確保」に焦点が絞られていた。
そして今回、報道でも指摘されているように、「皇位継承策については示さず」(朝日新聞)とされたのである。岸田総理は「大変バランスの取れた議論」と評価したが、女系継承容認派には「結論の先送り」と受け止められることだろう。
とにもかくにも、女性天皇・女系継承容認にブレーキがかかったことは、伝統派から見れば一定の評価はできるということになる。
平成17年11月に皇室典範有識者会議が「皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要」「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」(結び)と明記する報告書をとりまとめたときとは隔世の感がある。
今回の報告書は関係各位の尽力の結果であり、その労を多としたいが、糠喜びは禁物だろう。女系派の巻き返しがあることは目に見えているからだ。
▽2 説明されざる「ありがたさ」
ところで、これに関連して、先日、私も参加したチャンネル桜の討論会で、外交評論家の加瀬英明先生が「皇室をいただくありがたさ」を何度も繰り返されたのが印象に残っている。そのことについて蛇足ながら書いておきたい。
討論会の出席者は男系派ばかりだから、「ありがたさ」を疑問に思うなどということはまずない。しかし一般論として、「ありがたさ」が情緒的にではなくて、理性的に、科学的に自覚できる日本人はどれほどいるのだろうか。
「天皇陛下、万歳」と三唱する光景は、戦後はほとんど見かけなくなった。忌まわしい戦前・戦中の記憶と戦後の民主教育の結果、忌避する人たちは相当数いるに違いない。そんな人たちにとっては「ありがたさ」はあり得ないかも知れない。
それでも「ありがたさ」をいうのであれば、その意味が誰にでも分かるように合理的に説明されなければならない。保守派にはその責任があるのではないか。説明責任が十分に果たされていないことが、皇位継承問題をめぐる今日の混乱の大きな原因だと私は思う。
いみじくも政府は、皇室の「ありがたさ」が安定的に継続されることを目的として、皇室典範有識者会議などを設置してきたのではない。あくまで憲法に定められた「象徴」天皇、すなわち「国事行為」をなさる特別公務員の安定継承が目的なのであった。
他方、国民は「象徴」天皇に「ありがたさ」を感じるのではない。有識者会議での議論とはそもそも次元が異なるのである。そして、「ありがたさ」の理由は皇位の男系継承主義の理由とも通じているはずだ。けれども、いずれの理由もいまだ説明されずにいる。
となると、皇位の男系継承は将来も守られていくのだろうか。
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