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「きめ細かい調整・見直し」が実施されていたら──ご公務ご負担軽減を検討しなかった有識者会議? 7(2017年6月12日)


 前回は平成22年の陛下の「ご日程」から「お茶・茶会」を抽出し、全体で36件だったこと、したがって21年の宮内庁によるご負担軽減策実施にもかかわらず、「お茶・茶会」の件数はまったく減ることがなかったこと、逆にその後、増えていったこと、をより明確化させました。



 今回は、さらに「お茶・茶会」を対象者で分類し、何がどう変化したのかを分析することにします。件数が増えた理由が少しは見えてくるかも知れません。

▽1 外務省関連の「お茶」が減らない


〈1〉退職認証官 計2件(3年は4件。19年は2件。27年は2件)
 お茶(退職認証官)(宮殿) 計2件[2月8日(月)天皇陛下。2月15日(月)天皇陛下]

 退職認証官の「お茶」は、いずれの年も、天皇陛下のみで行われています。27年は場所が宮殿から御所に移りました。御所に移ったのは正確には24年からのようです。

 22年の場合、宮殿で行われたわけですから、お住まいの御所とは違い、スペースは十分あるはずです。陛下のご負担軽減を図るのなら、2週に分けずに、一度に行うことはできないのでしょうか。

 オモテもオクも外務省OBが近侍するなかで、外務省が率先してご負担軽減に協力する体制はつくれないものでしょうか。

〈2〉赴任・帰朝大使夫妻 計4件(3年は帰朝大使のみで3件。19年は帰朝大使のみで9件。27年は帰朝大使夫妻10件、赴任大使夫妻7件の計17件)
 お茶(帰朝大使夫妻)(御所) 計4件[1月13日(水)天皇皇后両陛下(カンボジア,ハンガリー,ポーランド)。5月10日(火)天皇皇后両陛下(モロッコ,イエメン,スーダン,ウルグアイ)。11月1日(月)天皇皇后両陛下(大韓民国,中華人民共和国,オーストラリア,ベトナム)。11月17日(水)天皇皇后両陛下(国際連合日本政府代表部,バチカン,カタール,シンガポール)。]

 帰朝大使夫妻の「お茶」は、3年は宮殿で行われていましたが、19年には御所で行われています。したがって場所の変更は21年のご負担軽減策実施の結果ではありません。

 件数としては、21年のご負担軽減策実施以降、逆に増えているようです。月ごとにまとめられれば件数は抑えられると思います。そんなに難しいこととも思えませんが、できない特別の理由があるのでしょうか。

 帰朝大使夫妻に加えて、赴任大使夫妻の「お茶」が行われるようになったのは、正確には27年で、それ以前は赴任大使夫妻の場合は「拝謁」「ご接見」でした。ご負担軽減に逆行するように見える「お茶」に変わったのには、どのような経緯があるのでしょう。

 外務省関連の「お茶」の件数が減らないのは、なぜでしょうか。幹部に外務省OBが多い宮内庁で、ご負担軽減が率先的に進まず、むしろ関連するご公務の件数が増えているように見えるのはなぜでしょうか。外務省からの指示でもあるのでしょうか。

〈3〉新任外国大使夫妻 計11件(3年は4件。19年は8件。27年は9件)
 お茶(新任外国大使夫妻)(宮殿) 計11件[1月18日(月)天皇皇后両陛下(モザンビーク,ガーナ,ドイツ)。2月18日(木)天皇皇后両陛下(マレーシア,フィジー,グルジア)。3月11日(木)天皇皇后両陛下(ウズベキスタン,モルディブ,タイ)。3月18日(木)天皇皇后両陛下(ブルガリア,シリア,カタール)。4月14(水)天皇皇后両陛下(タジキスタン,中華人民共和国,タンザニア)。9月9日(木)天皇皇后両陛下(ボスニア・ヘルツェゴビナ,イラク,チリ)。10月13日(水)天皇皇后両陛下(コソボ,ケニア,モーリタニア)。11月25日(木)天皇皇后両陛下(スーダン,ホンジュラス,スイス)。12月9日(木)天皇皇后両陛下(エストニア,バングラデシュ,アイルランド)。12月15日(水)天皇皇后両陛下(インドネシア,セネガル,レソト)。12月22日(水)天皇皇后両陛下(ボツワナ,スロベニア,チェコ)。]

 新任外国大使夫妻の「お茶」は3年、19年、22年は宮殿で行われていますが、27年には御所で行われています。ご負担軽減に配慮してのことと推測されますが、実際のところ件数が減っているとはいえません。

 月1回にまとめられれば、これも件数を抑制することは可能かと思われます。

 なお、離任外国大使には「ご引見」が行われています。

〈4〉外国要人 計2件(3年は3件。19年は4件。27年は8件)
1 お茶(元ケニア環境・天然資源副大臣)(御所) 1件[2月17日(水)天皇皇后両陛下]
2 お茶(中国日本友好協会会長(平成4年中華人民共和国御訪問時の首席接伴員))(御所) 1件[6月22日(火)天皇皇后両陛下]

 外国要人の「お茶」が増えているのは国際社会の進展によるものでしょうか。

 これも広くいえば、外務省関連のご公務です。

〈5〉国内学術・芸術・スポーツ功労者 計10件(3年は6件。19年は8件。27年は8件)
1 お茶(日本学士院第一部会員)(御所) 1件[3月11日(木)天皇皇后両陛下]
2 お茶(日本学士院第二部部長始め学士院第二部会員)(御所) 1件[4月22日(木)天皇皇后両陛下]
3 茶会(バンクーバー冬季オリンピック入賞選手及び役員)(宮殿) 1件[5月10日(月)天皇皇后両陛下]
4 茶会(バンクーバー冬季パラリンピック入賞選手及び役員)(宮殿) 1件[5月27日(木)天皇皇后両陛下]
5 茶会(日本芸術院賞平成21年度受賞者及び新会員等)(宮殿) 1件[5月31日(月)天皇皇后両陛下]
6 茶会(日本学士院賞本年度受賞者及び新会員等)(宮殿) 1件[6月21日(月)天皇皇后両陛下]
7 お茶(日本学術院第二部部長始め第二部会員)(御所) 1件[7月8日(木)天皇皇后両陛下]
8 お茶(新認定重要無形文化財保持者夫妻)(宮殿) 1件[9月6日(月)天皇陛下。皇后陛下には,ご不例によりお取りやめ]
9 茶会(文化勲章受章者及び文化功労者等)(宮殿) 1件[11月4日(木)天皇皇后両陛下] 注、前日には天皇陛下による「文化勲章親授式・拝謁・お礼言上(文化勲章受章者)」が宮殿で行われている
10 お茶(日本芸術院第一部部長始め芸術院第一部会員)(御所) 1件[11月15日(月)天皇皇后両陛下]

 日本学士院関連の「お茶」は、3年は第1部会員、学士院賞受賞者・新会員が対象の2件でしたが、19年には学士院賞受賞者・新会員の「茶会」が宮殿で行われ、会員の「お茶」が御所で2回行われるようになりました。

 これが22年には、ご負担軽減策実施にもかかわらず、第2部会にも拡大されたのです。

 当時、宮内庁は「御公務の調整・見直しに当たっては,御公務の重要性と一心にお務めになってこられた両陛下の御公務に対する御姿勢に鑑み,御公務そのものを削減するのではなく,それぞれの御公務の内容・方法等について,両陛下の御負担を少しでも軽減するという観点から,きめ細く調整・見直しを図ることと致しました」(平成21年1月29日)と説明していました。

 しかし「きめ細かい調整・見直し」の結果、ご公務の件数は増えたのです。言行不一致以外の何ものでもありません。そしてやがて陛下は「譲位」を表明されることになったのです。どう見ても自然な流れとは思えません。

 ちなみに学士院は日本学士院法に基づく、功績顕著な科学者を優遇する機関で、第1部会は人文科学分野(定員70人)、第2部会は自然科学分野(定員80人)とされます。

 芸術院関連の「お茶」は、3年は芸術院賞受賞者・新会員が宮殿で、第1部会会員が赤坂御所で行われていました。19年には芸術院賞受賞者・新会員の「茶会」が催されることになりました。「お茶・茶会」に先立って、陛下は芸術院会館での授賞式にもご臨席になっています。

 日本芸術院は日本芸術院令(昭和24年)にもとづく、功績顕著な芸術家を優遇するための栄誉機関で、第1部は美術(定員56名)が対象とされています。

 新指定重要無形文化財保持者の「お茶」は、3年は赤坂御所で行われましたが、19年、22年、27年は宮殿で行われています。

 22年には、対象者がスポーツ分野にも拡大されました。これが宮内庁によるご負担軽減策の実態です。

〈6〉外国ご訪問関連 計1件(3年は3件。19年は2件。27年は2件)
1 お茶(在トロント日本総領事夫妻(平成21年7月カナダご訪問時のトロント日本総領事夫妻)(御所) 1件[3月17日(水)天皇皇后両陛下]

〈7〉その他 計6件(3年は1件。19年は0件。27年は計7件)
1 お茶(新旧警視総監)(御所) 1件[2月8日(月) 天皇陛下]
2 茶会(元長官,元参与,元側近奉仕者,元御用掛,松栄会会員等)(宮殿) 1件[10月20日(水)皇后陛下お誕生日。天皇皇后両陛下] 注、3年、19年の「ご日程」では「祝賀行事」と記載されるのみで詳細は公表されていない
3 茶会(ご進講者始めご関係者)(御所) 1件[10月20日(水)皇后陛下お誕生日。天皇皇后両陛下] 注、3年、19年の「ご日程」では「祝賀行事」と記載されるのみで詳細は公表されていない
4 茶会(元長官,元参与,元側近奉仕者,元御用掛,松栄会会員等)(宮殿) 1件[12月23日(木)天皇陛下お誕生日。天皇皇后両陛下] 注、3年、19年の「ご日程」には「祝賀行事」とあるのみで、詳細は公表されていない
5 茶会の儀(各国の外交使節団の長等)(宮殿) 1件[12月23日(木)天皇陛下お誕生日。天皇皇后両陛下] 注、3年、19年の「ご日程」には「祝賀行事」とあるのみで、詳細は公表されていない)
6 茶会(ご進講者始めご関係者)(御所) 1件[12月23日(木)天皇陛下お誕生日。天皇皇后両陛下] 注、3年、19年の「ご日程」には「祝賀行事」とあるのみで、詳細は公表されていない

 3年は衆議院,参議院役員の「拝謁・お茶」が宮殿で行われた1件だけで、19年には0件でしたが、ご負担軽減策実施後の22年には5件に増えましたが、これはお誕生日の祝賀行事の詳細が「ご日程」に記載されるようになった結果と思われます。

 その後、27年には新旧警察庁長官、歌会始詠進歌選者の「お茶」など7件(お誕生日の「茶会」を含む)に増えましたが、これは明らかにご公務ご負担軽減に逆行するものといえます。

▽2 もしかしたら「譲位」の表明もなかった?


 以上、22年の「お茶・茶会」を対象者で分類してみると、宮内庁が説明する「きめ細かい調整・見直し」にもかかわらず、「お茶・茶会」の件数は減らず、とくに外務省関連の「お茶」が増えていることが分かります。

 有識者会議最終報告の「参考資料」の説明にあるように、昭和天皇と比べて今上天皇のご公務件数が多いとか、「行幸啓や茶会等の国民と接する御活動や外国ご訪問など全般に増加傾向」にあるというような単純なものではありません。

 かつて宮内庁当局が表明していたように、ご負担軽減のために、もし「きめ細かい調整・見直し」が実施されていれば、陛下のご負担は確実に減らすことができただけでなく、陛下がご公務問題で懊悩され、「譲位」を表明なさることもなかったかも知れません。

 そうすれば、昨夏以来、皇室典範改正か、特例法かと大激論をかわす必要もなかったでしょう。

 いや、それどころか、こんどは「女性宮家」創設の大議論が再燃し、提唱者の1人である、外務省出身の元侍従長の露出度も増しています。つくづく尋常ならざる展開だと私は思います。それにしても、外務省のカゲが目立つのはなぜでしょうか。

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