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キャメロン首相はゲイ・コミュニティに訴えた──ピンクニュースを読む

イギリスに、LGBT+コミュニティ向けのオンライン新聞、ピンクニュース(PinkNews)がある。設立は2005年。月間1億5千万人以上がアクセスする、世界最大かつ、もっとも影響力を持つメディアを自認している。

ピンクニュースで「David Cameron」を検索すると、2389件(4月23日現在)の記事がヒットする。そのなかのいくつかを読んでみると、創刊以来、ゲイ・コミュニティがキャメロンを熱心に支持していることが分かる。

古い方では、2005年10月20日の記事「保守党が同性愛者票を獲得するにはキャメロンでなければならない(It’s got to be Cameron for the Conservatives to get the gay vote)」がある。はじめて党首選に出馬した若きキャメロンにエールを送っている。〈https://www.thepinknews.com/2005/10/20/its-got-to-be-cameron-for-the-conservatives-to-get-the-gay-vote/〉

12月にキャメロンが新党首に選出されると、ピンクニュースは「保守党の新党首、デービッド・キャメロン氏は同性愛者問題に関する約束を守らなければならない(New Tory leader, David Cameron must keep to his promises on gay issues)」と応じ、「彼は今、保守党と同性愛者コミュニティとの関わり方を変えることができることを証明しなければならない(He must now prove that he can change the way that the Conservative Party relates to the gay community.)」と訴えた。〈https://www.thepinknews.com/2005/12/06/new-tory-leader-david-cameron-must-keep-to-his-promises-on-gay-issues/〉


サマンサ夫人の影響

しかしキャメロンは以前からゲイ・コミュニティをサポートしていたわけではないらしい。

むしろそれまでは「反同性愛(anti-gay)」の立場で、同性愛嫌悪法第28条(the homophobic law Section 28)の支持者だったようだ。しかし党首になると、劇的な変化を遂げ、そして保守党は支持を拡大させていったという。(インディペンデント。2010 年 2 月 4 日。ヨハン・ハリ記者。https://www.independent.co.uk/news/uk/politics/let-s-talk-about-sex-johann-hari-grills-david-cameron-over-gay-rights-1888688.html)

日本では皇位継承問題は男女平等(equality of the sexes)問題と理解され、女性の権利拡大と同列に論じられている。けれども、イギリスの王位継承問題の議論はそうではないように見える。

発端は「同性愛者の権利(gay rights)」であり、「ジェンダー平等(gender equality)」が論点であった。キャメロンはゲイ・コミュニティに保守党の支持を訴え、影の内閣に同性愛者が入閣し、ピンクニュースに保守党の政治広告が載った。

それなら、何がキャメロンを変えたのだろうか?

ピンクニュースはサマンサ夫人の影響を伝えている。(「キャメロン首相の妻、第28条について考えを変えた(Cameron’s wife changed his mind on Section 28)」。2008 年 2 月 18 日。トニー・グルー記者。https://www.thepinknews.com/2008/02/18/camerons-wife-changed-his-mind-on-section-28/)

記事によれば、キャメロン夫妻の共通の友人で、同性愛者でもある政治家がラジオで、同性愛嫌悪法第28条について、「デービッドは、なぜこれが不快なものなのか、長いあいだ理解できなかったが、サマンサは、特定のグループを完全に不当に汚名を着せようとする試みであることをはっきりと理解していた」と語った。

第28条は学校における同性愛の「促進」を禁止するものだった。サッチャー政権時代の産物だったが、少なくともこの記事ではそれ以上の言及はなく、残念ながらキャメロンが政策転換した経緯と理由を詳しく説明するものではない。

その後、2010年5月に下院議員選挙で保守党が勝利する。保守・自民連立政権が成立し、いよいよキャメロン内閣が組織された。

翌11年10月、男子優先から絶対的長子優先主義へと王位継承ルールの改革を定めたパース協定(Perth Agreement)が結ばれるころ、キャメロン首相は保守党大会で、議員らに同性婚(gay marriage)の支持を訴えた。〈https://www.thepinknews.com/2011/10/05/david-cameron-urges-tories-to-back-gay-marriage/?_gl=1*1gommdy*_ga*NDg3MzQxNzcwLjE3MTM4NTAxODQ.*_ga_BX9CRJ4BBP*MTcxMzg1MDE4My4xLjEuMTcxMzg2MDQ3NS41My4wLjA〉

そして、2006年の党大会での発言を引用し、こう語ったという。

「私は一度、保守党大会の前に立ったが、そのとき、コミットメントが男性と女性の間、男性と男性の間、または女性と女性の間であるかどうかは問題ではないと言いました(I stood before a Conservative conference once and I said it shouldn’t matter whether commitment was between a man and a woman, a man and another man or a woman and a woman.)」〈https://www.thepinknews.com/2016/06/24/pinknews-editorial-david-cameron-will-leave-behind-a-proud-legacy-on-lgbt-rights/〉

パース協定を前に、キャメロンは書簡で、「私たちは生活の他のすべての側面において男女平等を支持している(We espouse gender equality in all other aspects of life.)」と述べたと伝えられるが、その背景には共通する「ジェンダー平等(gender equality)」の考え方がうかがえる。(ザ・ガーディアン。2011年10月12日。https://www.theguardian.com/uk/2011/oct/12/cameron-commonwealth-royal-succession-reform)


「男女平等」ではなく「ジェンダー平等」

繰り返しになるが、キャメロンが追求してきたのは、日本で議論されるような「男女平等(equality of the sexes)」ではなくて、「ジェンダー平等(gender equality)」である。これを支持してきたのは、女性解放運動家でも男女平等論者でもなく、ゲイ・コミュニティの人たちだった。

だとして、キャメロンが進める王位継承法の変革をLGBT+の人々はどのように見てきたのか? ふたたび、ピンクニュースで検索を試みたが、関連する記事は残念ながら見当たらなかった。問題関心が異なるということだろうか?

イギリス王位継承法(Succession to the Crown Act 2013)はパース協定を経て、そして2013年4月、エリザベス2世の裁可を得て、成立した。他方、同性婚法(Marriage (Same Sex Couples) Act 2013)は同年7月、女王の同意を得て発効した。

2013年王位継承法の第1条は「ジェンダーによらない王位継承(Succession to the Crown not to depend on gender)」と明記される。他方、2013 年同性婚法は「同性カップル(Same Sex Couples)」と表現している。

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