七夕観察
はじめに
これは僕がつい最近見た夢のお話です。
なんか季節外れの七夕の話。
多分僕は夏に呪われてるんだねきっと。
登場人物
僕 山口広彦(ヤマグチヒロヒコ)
アナタ 織阿小七夕(オリアコナユ)
アイツ 牛相繋(ウシアイツナグ)
A 江口モモ エロい。
B ムロ子 無口。
C ケイコ デスマス調。
D ヤン子 ヤンキー風。
顧問 稲井潮(イナイウシオ)
シーン1
高校、部室。演劇部。
部員は少ない。埃まみれの部屋。
僕「(片手に少年誌、もう片方の手には演劇の練習用台本を持っている。)」
アナタが部室に入る。
それに気づき、僕はすかさず台本を少年誌で隠し、台本を読み続ける。
いつものアナタなら「ちゃんと練習しようよ」っては僕を箒の柔らかいところで叩くのに、今日は少し違っていた。
それに気づいてしまう僕。
どこか忙しないアナタ。
アナタ「ねぇ」
僕「ん?」
アナタ「カッターマット最後どこ置いたっけ」
僕「そこの引き出し入ってないの」
アナタ「(引き出しを開けながら)ない」
僕「嘘つけほんとに目ん玉ついてんの?」
アナタ「ほんとだって、あれほんとにどこやっちゃったのかな」
僕「じゃあ俺が見つけたらジュース奢りね」
アナタ「はいはい」
僕「(引き出しを開けて奥の方に手を伸ばし)あるじゃん」
アナタ「えーあったの、ありがとう」
そうしてアナタはそそくさと部室を去ろうとする。
僕「ちょちょ」
アナタ「何」
僕「それ、何に使うの」
アナタ「なんでもいいでしょ」
僕「いや、別にいいけど」
アナタ「いいんじゃん」
僕「いいけど、なんか教えてくれてもいいじゃん」
僕「ジュース」
アナタ「また今度」
僕「えー」
アナタ「えーって」
アナタ「じゃああててみ、絶対わかんないから」
僕「ええ、文化祭とか?」
アナタ「びー」
僕「あぁ何、彼氏にプレゼントとか?作んの?」
アナタ「びっ(僕の耳をツネル)」
僕「イッタ」
僕「何、もう怠いんだけど」
アナタ「シーだよ」
アナタは僕に耳打ちして教えてた。
それは僕にとって何一つ意味不明なものだった。
同時に憩いの時間を終わらせるチャイムの音。
シーン2
僕「何飲むの」
僕「なあ」
僕「何飲むの!」
アナタ「(女児向け雑誌を読みながら)うーん、なんでもいい」
僕「なんでもいいって」
僕「ほい(ピルクルを投げ渡す)」
アナタ「サンキュー。またピルクルじゃん」
僕「なんでもいいって言ったじゃん。」
アナタは僕の声に反応しない。
アナタは夢中になって太い雑誌を読んでいる。
僕「この前の中間何点だった?」
アナタ「何が?」
僕「いや、いいわ」
アナタ「あっそ」
僕「そういえば母ちゃんがこの前また今度家来いって」
アナタ「ふーん」
僕「ふーんって」
アナタ「暇だったら行くわ」
僕「何読んでんの」
アナタ「言ったってわかんないよ」
僕「何それ」
僕は躍起になってアナタが読んでいる雑誌を取り上げる。
アナタ「ちょっと何すんのよ」
僕は少しイタズラをする。
アナタ「返して」
僕は雑誌の中身を見ても、何がアナタを突き動かすのかわからなかった。
アナタは僕のことなんか目もくれず、夢中で雑誌を取り返そうとした。
アナタが夢中になっているから、僕は雑誌のことなんかよりも少しあたる胸や少し香る柔軟剤、若干小鼻にできた角栓の方に気を取られてしまった。
だから、本は少しだけ破れてしまう。そして飲んでいたコーヒーが少しだけかかってしまう。
アナタ「あー!」
アナタは、世紀末が起こったかのように、はたまた伝説的な海外アーティストが来日してたまたますれ違ったかのように、もしくはお気に入りのものを捨てられてしまったことに気づいたかのように、大声をだした。
アナタ「最悪…。最悪最悪最悪」
僕「あぁ、ごめんごめん、そんな感じで来るとは思わなかったから」
アナタ「最悪」
僕「ごめんって、あー、うんそれまた買ってくるからちょっと待ってて。」
アナタ「(ため息)いや、もういいよ」
僕「いいって、すぐ買ってくるから」
アナタ「もういい、もういい。もうあんたとはこれから会う予定無いし」
僕「ええ、なんで」
アナタ「私部活辞めるし」
僕「え」
アナタ「本当、最悪」
僕「いや、えなんで」
アナタ「もう邪魔だって」
僕「なんでなんで、えこれ破ったから?」
アナタ「もう破ったからとかじゃないし、それさっき言ったじゃん」
僕「は?」
アナタ「私は編集長になるの!じゃあ!」
足音を意外にも立てずに去っていくアナタ。
僕「俺あいつと演劇できないよ」
シーン3
アイツ「呼んだ?」
僕「うわ」
アイツ「うわって、いやうわって」
僕「アツいよ」
アイツ「アツいのが俺の専売特許ですからね」
メガネクイッ
アイツはたまたま同じ部活になっただけの奴。
アイツは空気感が似てるから仲良くしようぜって初対面で肩組んで、カフェオレ無理やり飲み切って『ア゙〜』っていうタイプのメガネ。デブ。
僕「じゃあ苦しいわ、暑苦しい」
アイツ「腹減った〜」
僕はアイツがウザったい。
男女問わずグイグイ話しかけるし、そこで得た話を僕に輸入してくる。
アイツ「あ、セリフ覚えた?」
僕「いや」
アイツ「あっそう、でもどうすんの、もうあと1ヶ月しかないべ」
僕「どうすんのって言われても」
アイツ「ベーコンエピうめ〜」
僕「最悪だ」
アイツ「食う?」
僕「いらないよ」
アイツ「そんなこと言って〜チラチラ見てんじゃーん、パルミジャーノ」
僕「じゃあちょっと」
アイツ「あげないーの、レッジャーノ」
僕「うぜぇ」
アイツ「ていうか、ナユちゃんは?まだ来てないの?」
僕「え、お前それで呼んでんの?」
アイツ「え、うん」
僕「いやヤバいって、その呼び方は」
アイツ「本人許可得てるよ、みんな〜呼んでるし、俺もなゆちゃんって呼んでいい?メガネクイッ。アッ…ウンイイケド〜」
僕「ちょっと引かれてるじゃん」
アイツ「えぇ!?引いてるのこれ、えぇ!?」
僕「驚く間もなく分かるだろ文脈」
アイツ「ここに来て現代文赤点が響いてきたか…」
僕「関係ないだろ」
アイツ「ベーコンエピうま」
ガラガラと勢いよく扉が開き、アナタが入ってくる。後ろに知らない女子たちを引き連れて。
アイツ「あ、ナユちゃ〜ん」
アナタ「フフフ(苦笑い)」
僕「ほら引かれてるじゃん。あ」
ふと、いつものようにアナタと目が合う。
本当にいつものように。でも僕らの間ではずっと苦い間。
僕「アッ…アッ…アッ」
アイツ「いや、カオナシか」
A「ねえ、ナユ」
アナタ「ん?」
A「誰?」
アナタ「あァ、まあ同クラ?」
A「ふーん」
アナタ「今日からここ、ウチらの部室だから」
僕「は?」
B「はい」
知らない奴Bは、僕たちに知らない紙を見せてきた。
『部活動申請書
学内広報活動部
活動人数 4人以上であること ✓
活動内容 未定
※作成物が顧問により承認されること
活動費 部員から徴収する ✓
活動場所 C棟4F 406号教室 (旧演劇部部室)✓
主顧問 稲井潮 ✓』
と書かれていた。
僕「何これ」
C「というわけなので」
D「今日からここ」
女子「ウチらの部室なんで夜露死苦〜」
僕「えぇ〜」
アナタ「えぇ〜じゃなくて、早く部外者は出てって」
僕「あの大会は」
アナタ「3人でそもそもできると思ってた?」
僕「いやァ…」
アナタ「顧問の稲井先生も承諾してくれてるしハイ」
A「うぇ〜あ、まあ演劇部も3人しかいないからな〜こうも部活動が動いてないと僕の立場としてもナア〜」
アナタ「ね?」
僕「ねって」
アナタ「だいたい渡した台詞も覚えてないでしょ」
僕「…」
アナタ「はい、じゃあそういうことで、」
僕は部室からの退出を余儀なくされた。
アイツ「ナユちゃん、俺は?」
アナタ「ん?」
アイツ「入部!入部!」
アナタ「はァ…」
A「ウチらの部活に」
B「男」
C「NGなんです〜」
D「つか空気読めよデブメガネ」
アイツ「ウッス…」
アイツも部室を出てきた。
僕「空気読めよ」
アイツ「んだ!おめえ!俺の必殺アタックファンクション、ライトニングランス決めちゃうぞコノヤロウ」
僕「ちょっとマジで」
アイツ「ウッス」
こうして僕とアナタの静かな部室は
不可抗力にも
流れてしまった。高二の6月。
シーン4
アイツ「アッつい…」
僕「うん」
アイツ「7月、紫外線が…」
僕「うん」
アイツ「うわ、見て日焼け止めが流れて白い汗出来てる」
僕「うん」
アイツ「うん」
アイツ「暇になったね」
僕「うん」
アイツ「どうする」
僕「うん」
アイツ「俺、囲碁将棋部とか入ろうかな」
僕「お前正座できんの」
アイツ「出来るよ」
僕「じゃあやってみ、今」
アイツ「いいよ、ほら、おうし座」
僕「おもんな」
アイツ「あァ天文部とかにしようかな、俺結構星座好きだしほら(正座をする)」
僕「だからもういいって、つか出来てないから」
アイツ「嘘だべ、出来てるじゃんほら、」
僕「いや膝、分度器みたいになってんじゃん」
アイツ「なんだよ膝分度器って、アハハ面白いね」
僕「いや別に面白くないだろ」
そんな僕たちの前をアナタ達は通り過ぎる。
僕たちには目もくれず。
僕「あ」
アイツ「あれ」
僕「何してんだ、あれ」
アイツ「あれさ」
僕「そうだ、うん」
アイツ「そういうことだよね」
僕「うん」
アイツ「部室使えるじゃん!」
僕「アソコ立ち入り禁止だよな、は?」
アイツ「クーラー!サイダー!扇風機!」
僕「そこかよ」
アイツ「もう早くいこう、アッつい」
僕「いや、そっちじゃないでしょ、あっち」
アイツ「いやいやいやいやいやいや、隊長、もう限界です、僕のモビルスーツがオーバーヒートしてます」
僕「えぇ、でも」
アイツ「じゃあ、はいわかったはい、ジャンケンねジャンケンで決めよ」
僕「おけ、」
アイツ「最初はグー、あ俺パー出すね、ジャンケン」
僕「いやいや何その弱い心理戦」
アイツ「もういいから、早く、ジャンケン」
A「ポン!」
僕「え?」
アイツ「誰?」
A「初めまして、ちょっととりあえず暑いから部室いこ」
僕「え、うん」
アイツ「やったー」
A「じゃあいちばん遅かった人がアイス奢りね!ヨーイドン!」
シーン5
D「なァ」
D「なァー」
アナタ「何ー」
D「ここどこ」
アナタ「もうすぐ着くから」
C「ちょっと休憩したいです〜」
アナタ「えぇ〜もうちょっとなのに」
D「(Bに向かって)あんたもなんか言ってよ」
B「うん、あのちょっとだけ」
アナタ「まぁいいか、ちょっと休憩しよ」
D「よっしゃ〜、はァ疲れた。水、水水」
C「あ、はいどうぞ」
D「でも、ホントここ初めて来たけどどこなのここ」
C「学校からすぐ近くではありましたけど、立ち入り禁止って」
D「お前なんか知ってる?」
B「ううん」
D「ちぇ、なんだよ。おーい、ナユ〜」
アナタ「なにー?」
D「そんなとこいたら危ないぞ〜」
アナタ「大丈夫ー!」
D「じゃなくて、ここどこー!」
アナタ「ここで宇宙人さがすのー!」
C「宇宙人ですか?」
D「何言ってんだアイツ」
B「…」
アナタ「(皆に近寄りながら)ここはね、宇宙人が出るって噂なの」
僕とアイツ「宇宙人?」
A「そう、宇宙人」
僕「そんな都市伝説まだ信じてる人いるんだ」
A「いや、あながち都市伝説じゃないかもって噂」
アイツ「というと?」
A「7/7の七夕の夜、空から宇宙人がやってきてこの街の女性を1人攫っていくって噂」
アイツ「キャトルミューティレーション!」
僕「でも都市伝説でしょ」
A「意外とそうでもなくて、コレ見て」
見知らぬ女子Aは僕たちに数年前の地域新聞を何部か見せてきた。
そこには7/7、毎年1人の女子中高生が夜な夜な行方不明になっているという記事があった。
中にはデカデカとUMAの存在を仄めかす記事もあった。
ただ、今の僕らにとってはそんなことよりも、見知らぬ女子Aのチラ見えする胸元の方がよっぽど都市伝説だった。
A「ナユはそれの取材に行ってるってわけ。」
アイツ「ふーん」
僕「何がふーんだよ」
アイツ「都市伝説なんでしょ、大丈夫でしょ」
僕「いやいや、どうするんだよ、もし」
A「好きなんだ」
僕「え?いや?そんなカンジじゃないし」
A「都市伝説」
僕「あそっちね、」
アイツ「そっちってどっち?なに?」
見知らぬ女子Aはほとんど初対面だったのに、僕は何故か1年一緒にいた様な雰囲気を感じていた。
互いのパーソナルスペースをあやふやにしながら。
僕「あ、でもなんか、ん?」
A「何?教えて」
僕「いや、前に編集長になるって言って、カッターマット持って部室飛び出して、宇宙人の取材ってなんかよく繋がらないなと思って」
A「なんだ、全然ちゃんと聞いてなかったんだ。」
僕「聞いてなかったっていうか、教えてくれなかったっていうか」
A「ナユはね、女児向け漫画雑誌を作ろうとしてるの」
アイツ「女児向けって、あれ?ちゃおとかなかよしとか」
A「そうそう、んでその都市伝説の話したら思いのほか好みの設定?だったみたいで、見出しの漫画は宇宙人と高校生の青春ラブストーリー。」
僕「それ、女児向けなの?」
A「多分?まあセーラームーンとかあんなん当時の子どもには話わかんないでしょ、医学部の男とか言われても」
アイツ「セーラームーンって、そんな僕らに優しくないんだ…トホホ」
僕「ふーん」
A「んで、他の漫画も書かなきゃだから他に何人かいるってワケ」
僕はふと色々思い返した。
3人で何とか2年生のいない演劇部に入部して、あくせくしていた時のことや、新入生を募集するために色々アナタが動いてくれていた時のことを。
そして、疲れが見て取れるような手つきで扉が開く。
アナタ「あ、えぐっちゃん。どう?」
A「図書館で集められそうなものは集めてきたよー」
アナタ「あァありがとう、ってなんでいんのよ」
僕「ァ」
A「部室の場所忘れちゃってさ、たまたますれ違ったから案内してもらった、アハハ」
アナタ「ここは!男子禁制!早く!でる!」
僕「あ、ごめん。おい、いくぞ」
アイツ「う、うん」
僕とアイツは何故か少しの罪悪感を感じて部室を出た。元々は僕らの場所なのに!
A「あ、ありがとね、はいこれ」
僕「これ」
A「これ、電話番号。これで後でライン登録しといて」
僕「あ、うんありがとう」
A「私、江口モモまたなんかあったら連絡するね」
僕「あ、うんありがとう」
A「じゃあね」
急に江口さんは僕の手を握ってきた。
電話番号くしゃくしゃにさせながら。
何それ。ふとアイツの顔をみるとちょっと下唇噛んで悔しそうな顔を見せていた。
アイツ「これってさ」
僕「女子の連絡先」
アイツ「差別だよね!?」
僕「登録しよ」
アイツ「よこせ!」
僕「やだよ、これ俺が貰ったもん!」
アナタ「はァ、疲れた上にアイツら見るのホント」
A「はい、これ」
アナタ「ありがとう〜、これこんな昔からあるんだ。よし、今日の取材でいっきに色々描けそう!」
C「ちょっと足が…パツパツです…」
D「あたしも、つかさ、誰が描くの」
アナタ「何を?」
D「何をって漫画」
A「確かに」
D「あたし言っとくけど書けないよ。」
C「私も絵はあんまり自信ないです…」
A「私もかな」
首を振るB
アナタ「そのためにこれがあるんじゃん!」
アナタは親から借りてきたであろうカメラを片手に仁王像も顔負けの立ち姿をしていた。
アナタ「キャ〜いいね!えぐっちゃんもうちょっと顎引いてヤンちゃんの顔みて!ヤンちゃんもうちょっと迫って!そこで一言!」
D「今夜は君をキャトルミューティレーション?」
A「どういうこと?」
アナタ「キャー!」
C「写真なのに、セリフっているんですかね…」
Bは首を傾げている。
アナタ「あー、もうちょっとこう筋肉のむきって感じが欲しいんだけど」
D「何言ってんだよ、無理だよこんな腕じゃ」
アナタ「じゃあ筋トレしてもらって、」
D「なんでだよ!」
アナタ「だって、男いないしここに」
A「男ならいるじゃん」
C「確かに」
D「あァあいつらね、いいじゃん」
アナタ「アイツら…?」
アナタ「いや、いやいやいや無理無理無理無理。あんなん資料にしたらゲロ吐いちゃうって」
A「まあでもヤンちゃんにやってもらうよりかはリアルよね」
アナタ「えぇ」
A「ムロちゃんもそう思うよね」
B「グッ」
アナタ「ムロちゃんまで…」
A「じゃ、そういうことで明日呼んでみるね」
アナタ「えぇ〜」
唐突に響くチャイムの音。
A「じゃ!私塾があるので!」
C「私も習い事がありますので…」
D「私も帰るわ〜遊びの約束あるし」
アナタ「えぇ〜、ムロちゃんはない…よね…?」
Bは既に帰る準備を済ませていた。
ABCD「じゃ!グッドラック!」
アナタ「えぇ〜まって、じゃあ、私も帰るから!」
いつもより笑顔が増えて、心から楽しんでいるような気がするアナタ。
ずっと見てるから分かるよ。
シーン6
僕「ただいま」
母「おかえり、弁当箱だしといてね」
僕「うーん」
母「あ、言っといてくれた?なゆちゃん。」
僕「うーん」
母「何、うーんって曖昧」
僕「うーん」
母「もう、もうすぐご飯できるからね」
僕「はーい」
母「そこははいなのね、変なの」
僕は今日の出来事がだんだん気持ち悪くなってきた。なんであんなエロい人が僕とアイツに話しかけたんだ。なんで電話番号貰えるんだ。
考えれば考えるほど気持ち悪くなってくる。
でもそれに比例してムズムズもする。
僕は考えるのを辞めてもっとエロい人を探すことにした。
僕「やっぱ天使もえかな」
ズボンのチャックに手をかけた時、突然江口モモから電話がかかってきた。
僕は突然の事で慌てて電話に出てしまった。
僕「もしもし?」
A「もしもし、あやっぱこのアカウントだったんだ登録ありがと」
僕「あ、うん全然てか、プロフィール画像凄いね」
A「え?プロフィール?」
僕「あ、いやごめんごめんごめん、そういうつもりじゃ」
A「アハハ、いやまあヤバいよねこれ普通」
僕は江口さんのプロフィールに登録してある赤いビキニの話をアイツに話すような雰囲気で話してしまった。
僕「あァでごめん、なんか用?」
A「うん、えっとね明日のお昼空いてる?」
僕「明日!?あ、あ空いてるけど」
A「良かった、じゃあ今日競争したところで待ち合わせ、14時ね」
僕「うん、わかった」
A「じゃあね」
僕「じゃあ」
意外とあっさり電話は切れた。
こんなものなのか、デートの誘いって。
いや!まてこんな僕に会って一日でデートの誘いをする訳ない。ということは、
アイツも誘われてるのか?
いやまてまてまてまて、じゃあグループラインとか作る方が効率!
母「ご飯できたよ!」
僕はご飯のことなど今はどうでも良かった。
そんなことより明日だ明日、土曜日。
何を着る?14時って事は汗かく、制汗スプレー必須!じゃあスニーカーか?スニーカー泥だらけじゃん。洗うか。いやそんな面倒臭いこと、待てよ、敢えて泥だらけのスニーカーで来て、『意外とアウトドアなんだね、タイプ〜』の可能性もあるだろ!
よし、敢えて、敢えての普段通りで行こう。
そうと決まれば!
母「ご飯できてるけど、何してんの」
僕「お母さん、ご飯山盛りでお願い」
シーン7
僕「お待たせって」
アイツ「よ」
僕「なんで」
A「なんでって何となく?ギュウシゲくんもいた方が楽しいかなと思って」
僕「マアソウダネ」
アイツ「てかもうあちぃーよ、早く行こ」
僕「行くってどこに」
A「あれ、言ってなかったっけ、あそこ」
僕「あそこ…」
A「お待たせ〜」
アナタ「遅い」
A「ごめん、ごめん」
僕「え、なんで」
アイツ「あれ、聞いてない?今日撮影するらしいよ俺たちモ・デ・ル」
アナタ「そんないいもんじゃないから、早くこれに着替えて」
僕「ここで!?」
アナタ「いいから」
僕「み、見るなよ」
D「誰も見ねえよ」
僕「すんません」
僕は何故かタキシードにハット、アイマスクを付けられ撮影が始まった。
あいつは何故か牛の着ぐるみになっていた。
C「やっぱり男の人に着てもらう方がいいですね」
D「まあ顔はもっと違うのが良かったけど」
僕「悪口?」
アナタ「そこ!私語厳禁!」
僕「僕ら!?」
アイツ「俺喋ってないけど」
アナタ「よし、ムロちゃん見せて、OKじゃあ次のシーン。えぐっちゃんお願い。」
A「はーい」
江口さんは白い浴衣のような袴のような服を1枚だけを着た姿で僕の目の前に立っていた。
僕「エッッッッッ(ロ)」
アナタ「あんた」
僕「あ、いや全然ごめんなさい」
D「謝ったら負けだろ」
どうやら僕と江口さんが主役でアナタは感動的な出会いのシーンを撮りたかった様子だった。
僕は撮られることも女子(こんなエッロい女子)に迫られることも慣れてないからどうすればいいか分からなかった。
ただ分かることは目の前の江口さんはそんじょそこらの女子とは格別に可愛く見えていた。
なんか
江口さんでもいいかも。
アナタ「カット〜!ムロちゃん見せて」
D「なんか」
C「あの2人近くないですか?」
B「だ、大丈夫、で」
アイツは嫉妬心からなのか下唇に跡が残るほどまでグリグリと噛み続け、握りしめた右手からはポタポタと血が垂れていた。
アナタ「えぐっちゃん〜!最高〜!」
A「あ、うん!OK?」
アナタ「OK〜あんたは早く下がれ!」
僕「え、あ、う、はい」
僕は何が起こったか分からなかった。
まさか出会って1日も経ってない江口さんと。
いや、そんな事は無いと思う。多分。
でもアイツはこれまでに無いくらい怒っている様で、目の前の江口さんはなんか泣いてる?
アナタ「OK、今日は日も暮れてきたしこれで終わろうかな、ムロちゃんデータあとでよろしく!じゃみんな!明日からガンガン描いてこ!」
D「へえ」
C「はーい」
アイツ「お前、もう…そっち側に行ったんだな…」
僕「え、そっち側って」
やはり僕にとって江口さんといる日は今までにないくらい濃密で怒涛で時間の感覚が狂ってしまう。
A「今度写真送るね」
写真。心の上っ面では欲しくないって言ってる。
僕「え、うん…」
シーン8
アナタ「ヤンちゃん、どう?」
D「もう終わるよ〜」
アナタ「おっけ、ムロちゃんベタ塗りの感じ見せて、あー!最高!ここ忘れずにね!」
アナタ「ケイコセリフの校閲どう?」
C「問題ないと思います〜けど、 」
アナタ「けど?」
C「なんか全体的に物足りないような感じがしまして…」
アナタ「物足りない」
D「さっき私も思った、なんかインパクトに欠けるっていうか」
アナタ「インパクト…」
Bも首を縦に振っている。
アナタ「そうだ!来週、だっけ再来週か!これ!」
アナタは名案を思いついたかのように携帯の画面を見せてきた。
その顔は誰が見ても可愛いと言わざるを得ないようだった。可愛いね。
シーン9
A「ふふ、やっぱ似合うね」
それから数週間後、僕は江口さんに呼び出され、町の七夕祭りに来ていた。今度は漫画の資料は関係ないからと言われ、僕は慣れない浴衣に草履の姿で待ち合わせ場所で向かっていた。
ちなみにあの時撮った写真はNGを食らったらしく、結局キスをしたのかどうかわからなかったじまいになってしまった。
僕「ごめん、草履慣れてなくて」
A「まあそうだよね」
僕「あれ、今日はアイツ」
A「一応声掛けたんだけど、用事があるから来れないって」
僕「用事?」
A「そう毎年恒例七夕験担ぎ背負い投げ大会に出なきゃいけないんだって断られちゃった」
僕「ああ、なんかあったねそういうの」
A「だから普通に今日は2人で楽しもう!」
僕「お、お〜」
僕は流れに身を任せ江口さんとのお祭りデートを楽しんでいた。途中鼻緒が変に刺さって親指が痛かったけど痛みを忘れるくらい、やっぱり江口さんは可愛いかった。わたあめをたべて、ヨーヨー釣りして、射的もしたかったけどなんかずっと射的してる人がいてできなかったから代わりに当たりもしないだろうゲーム機目指してくじ引きをたくさんしていた。
アナタと来れていたらどうだったんだろう。
A「今、違うこと考えてる?」
僕「え」
A「ううん、別にいいの」
僕「あ、漫画は?どうなったの?」
A「今、多分ナユちゃんが最終仕上げ?するみたいで学校行ってるよ。」
僕「こんな時間まで?変なの」
A「変なのってひどいね」
僕「そ、そう?」
A「うん、ひどい、お互い様だけどね」
僕「?」
何となく江口さんのテンションが今日あった時より下がっていることが見て取れてそうだった。
そうだよね、江口さんは優しいからね。
D「あ、おい」
C「江口さん」
A「あれ2人とも」
僕「今日漫画の仕上げするって言ってなかったっけ」
D「何の話だ、それ」
僕「え?」
C「今日は取材でみんなでお祭り行こうって、江口さん何か知らないですか?」
A「私は」
突然電話が鳴り響く。
B「何してるんですか」
シーン10
アナタ「すみません〜先生。あ、先生すみません、ここ初めて来るところでちょっと迷っちゃって、遅れちゃいました。あ、これこの前のお昼言ってたヤツです。まだ追加する部分はあるんですけど一応中身みてもらっていいですか、ちゃんと部活動として認めてもらいたいので」
顧問「初めてじゃないでしょ」
アナタ「え」
顧問「ここにくるの」
アナタ「いや、ここにくるのは初めて」
顧問「うい〜あ、そうだったねここまで来るのは初めてか、そうだねそうだったね」
アナタ「はい…?」
顧問「まあまあこっち、座って」
アナタ「はい…」
顧問「そうだね、うんやっぱりうん」
アナタ「なんか近くないですか」
やっぱりアナタだね、今年の贄は。
僕「何してんだ、先生」
は?何故山口とムロ。江口さん?お前何やってるんだ。
僕「ナユ、こっち」
アナタ「え、何これ」
どうする、どうする僕。
とりあえず口と手を縛るか、こいつらはそれからだ、これは儀式なのだから。
顧問「来るな!来るなよ、来るな来るな来るな。1歩も動くなよ、動いたらこいつがどうなるか分かってるな」
よし利口なガキだ。まあ動いても動かなくてもこいつは贄になるのだからな。まずはこいつの服を脱がせて、こいつを着せなくては。ほ、ほぇ〜。贄としては十分な肉付き。これならあの方も喜んでくださるに違いない。
にしてもこの胸。D、いやFか、まあ儀式まではもう少しある、少しくらい楽しませてもらうか。
僕「何やってんだてめえ!」
A「だめ!」
僕「離せ!江口!」
よしいいゾ江口さん。さすがあの人の孫なだけあるな。
顧問「おい、動くなと言っただろ!分かってるな、江口さん」
A「はい…ごめんね」
僕「は?いっでぇぇぇぇぇ!」
よし、まずは右足。練習通り左もやるんだ江口さん。
アヒャアヒャ、こうもすんなりいくのを見てるのはやはり痛快だな。左も終わったな。ムロももうショックで立てもしないだろう。
ではもう少し楽しませてもらうか。
ハハハ、人は絶望すると力もでないよな。分かる分かるぞ。俺も少し前までそっち側だったからな。
でももう少しの我慢だ。
足音が聞こえる。
あの方か、時間はいや、少し早いな。
まあいい、職務は全うした。
さあ!今年はこの私稲井潮がやらせていただきました!戸を開けてしかと見てください。
アイツ「ん?何してるんすか先生」
A「ギュウシゲくん…!?」
顧問「な、何故…」
アイツ「何故って大会優勝したからきたんだけど」
顧問「馬鹿な、町の中でも腕っぷしを毎年集めてるはずなのに…」
アイツ「時に悔しさは人を強くするんすよ。先生。で、景品ってどれだ」
僕「アイツ…」
アイツ「お前何寝てんだよ」
僕「アイツを」
アイツ「ん?先生か?なんで?あれなゆちゃんじゃんなんで先生跨ってんの、セクハラじゃん。写真撮っとこ」
顧問「貴様…貴様のせいで!」
あれ…地面が空?
アイツ「先生、数学ばっかじゃダメだよ。体動かさないと」
僕「お前、なんかかっこいいな」
アイツ「いやずっと俺かっこいいわ、勝手にデブメガネブスキャラにするな」
僕「ごめん、手貸して」
アイツ「自分で立てよ、しょうがないなあ」
僕「ごめん、ありがとう。あナユとムロさんも」
アイツ「ムロさんって言うんだ、立てる?ん?」
僕「どうし?ん?」
僕「江口さん?」
A「ごめんね」
7/7 この町の七夕祭りは何事も無かったかのように終わる。
数人の高校生が行方不明になったことだけは除いて。
勢いで書いたので何とも言えない終わりになっちゃったね。ごめんね。
サイトウナツキ