【戯曲】花束ドロップアウト 第一部
―花束ドロップアウトー
作 サイトウナツキ
登場人物 (計25名)
・少数精鋭特殊部隊『オリガミ』
1 イチガヤ・タクミ
2 シタナガ
3 ミタビ
4 アズマ
5 フノボリ 弟
6 フノボリ 兄
7 ナナ
8 モトヤワタ・アラタ
9 クダンシタ・タクミ
・株式会社『アケボノホールディングス』
男A 大島・アケボノ 社長兼博士
男B 本八幡・アラタ 秘書
女C 浜町・マオ 秘書
男D 大島・リョウ 部長
女E 篠崎・ウメ 主任
男F 菊川・ナツ 上司
私 雨宿・モン
男G 船堀・テン 派遣1
女H 住吉・サキ 派遣2
男I 一之江・ユウタ 派遣3
男J 森下・シンラ 被験者1
女K 市ヶ谷・ミズエ 被験者2
猫L ジンボ 被験者3
猫N イワモト 被験者4
猫M バクロ 被験者5
猫O ヨコヤマ 被験者6
猫P オガワ 被験者7
①
シーン0 開演の合図 ダンス・イン・ザ・ディスコ
客入れ時の照明は仄暗い。薄気味悪いような印象を与える。
開演15分前、J~Pが楽器を持って舞台上にイリ。
各々、所定の位置につき、チューニングを始める。
開演時刻になると、Aは指揮棒をを持って舞台中央に現われ、一礼をし、
前説を始める。J~Pはみな不気味なまでに笑顔で客席の方を見ている。
一礼を済ませると照明はAのみに当たる。
A「皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。
本日、この楽隊の指揮を務めます。私、アケボノと申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
開演に先立ちまして、お客様にいくつかお願いがあります。
スマートフォン等の電子機器は必ず電源からお切りいただきますよう
お願いいたします。私、もうこんな年ですから、ここに
ペースメーカーを付けています。こいつは、電波の影響でたまに
めちゃくちゃなことになってしまうのでね、あはは。よろしくお願い
いたします。また、会場内での飲食、喫煙、許可のない撮影は
ご遠慮いただいてます。
あ、トイレはそっちです。行きたい人は今のうちにどうぞ。
ここは、遠慮しなくてもいいですよ。さあどうぞ。
もう、いませんか。ならよかった。
ではそろそろ始めさせていただきますね。出来るだけ、お静かに。」
照明が舞台全体に広がると、笑顔だった役者たちは皆、不気味な真顔を呈示している。Jだけは真剣な顔つき。
A「おいっちにのさんしッ」
J~P「手のひらを太陽に」演奏。
演奏終了、役者はこれまでの自分を讃えるように拍手。
A、一礼。役者ハケ。
シーン1 僕は何者?
暗転
水滴のような音が舞台一面に響き渡る。
水ではない、粘り気のあるような水滴音。
明転、Jの咳をきっかけにFスポット。
J「(せき込む)〇月〇日。東京は晴れ。あの頃の、これでもかと突き刺す夏の日差しは北風にその地位を譲り、どうしようもないくらい冷たい風に僕は耐えている。(ため息)あー。あー。あー。メーデーメーデー。こちら夢の箱庭。聞こえますか。聞こえますか。(せき込む)遥か彼方、どこかの誰か。聞こえてくれはしませんか。お願いです。誰か、ああ。ははは。目まぐるしく移ろうこの時に、僕は、何を」
OP IN
暗転
「花束ドロップアウト ①」投影
明転
OP OUT
「時間だ」
「起きろ」
「立て」
「入れ」
「次の実験は72時間後、それまでに何かあればこれを押せ。」
J「え、なんだここ。白い。眩しい。」
J「寒い」
J、壁を触ったり、床を嗅いだりする。
J「ここにいれば、一週間後には50万。」
J「一週間後には50万」
Jの背後から5匹の猫イリ。
L「お兄ちゃん。初めまして?」
J「あ?ああ?!?」
N「みねえ顔だ」
J「いや、ちょっと、なにああ、俺、猫アレルギーなんだよ。」
M「動くな」
P「もしや、スパイ!?」
O「コイツ、くせえ!」
猫、各々くせえ!と連呼する。
J、猫アレルギーの影響で吐きそうになる。
N「危ない!吐くぞ!」
O「袋!」
L「はい!」
猫「うんとこしょ、どっこいしょ、まだまだかぶは抜けません。うんとこしょ、どっこいしょ、それでもかぶはぬけません。はい。うんとこしょ、どっこいしょ、ようやくかぶが抜けました!」
J、ゲロを吐く。
猫「吐いた!吐いた!ハッピーバースデー!トゥーユー!」
拍手
O「ちゅーもーく!」
他猫「はい!」
O「そろそろおねえちゃんが戻ってきます!」
他猫「はい!」
O「各員!準備!」
他「ウィシェフ!」
K、イリ。先ほどのJのように連れられてくる。
L「お兄ちゃん、水飲む?」
J「うっぷ」
猫「しー!」
N「はい、お姉ちゃん。」
K「ありがとう」
K、世迷い言を弾き語る。
拍手
O「お姉ちゃん、見て、初めまして」
K「あら、」
J「初めまして・・・おっプ」
N「大丈夫?」
他猫「大丈夫?」
J「大丈夫・・だから近づかないでおっぷ」
K「それは、薬?それとも実験?」
J「え?」
P「これのことだよ」
J「なにそれ」
P「これはね」
K「やめなさい。まだ早いわ」
P「はーい」
K「気持ち悪いのはここにきてから?それとも持病?」
J「あ、ここにきてから、あの、僕、猫アレルギーで」
K「そうなの」
M「猫アレルギーってなに?」
N「知らない」
L「お姉ちゃん、教えて」
K「簡単に言うと病気の一種。薬を飲んでも治らないから、あまり近づかず、そっとしといてあげて」
猫「はーい」
K「あなた、名前は?」
J「名前?」
K「そう。名前、教えて。」
J「森下です。森下シンラ、あえっと三重県の県庁所在地に羅針盤の羅で、シンラです。」
L「お兄ちゃん」
N「三重県ってなに。」
M「県庁所在地?」
O「羅針盤?」
P「なーんもわかんないや」
K「森下クンね。ありがとう。私、ミズエ。よろしくね。」
J「ミズエ。よろしく。」
P「こら、初対面には敬語だよ、そんなことも知らないの。」
K「この人はいいの。特別。」
P「えーなんでー。」
K「あなたたちも敬語使えてないでしょう。」
猫「は!」
J「あの、この子たちは。」
K「ん?」
J「この子達のことはなんと呼べば」
K「ああ、この子たちには名前がないの。一応名前みたいなものはあるんだけど、この子達にとっては屈辱的だから、呼ばないであげてね。あと、この子達はここで生まれたの。だから、何も知らないし、何もわからない。少しイライラするかもしれないけど、多めに見てあげてね。」
J「う、うん。」
「神保町、時間だ」
L「え」
L「みんな」
猫「バイバイ、グットラック」
L「グットラック」
L、首輪を繋がれ、ハケ
N「みんな」
猫「うん」
猫、腕をまくり、傷跡をこする。
猫「ラミパスラミパスルルル。ラミパスラミパスルルル」
猫、呪文を唱えながら円を描き、歩き始める。
P「はい、お兄ちゃんも」
J「え」
猫J「ラミパスラミパスルルル。ラミパスラミパスルルル」
猫「は!」
猫、その場で倒れ始める。
L「キャー!!!!!!!」
猫、呼応するように痛み始める。
J「何、これ」
J「ちょっと、まって、ここ、ただの治験だよね。俺、一週間したら帰れるんだよね。ねえ、ミズエ」
K「治験?」
J「え?」
K「ここは治験なんて生易しいところじゃないわ」
K「ここは夢の箱庭。新人類誕生のための道徳なき礎」
暗転
シーン2 就職
私、背伸びをして肩甲骨を少し回す。
私、ため息を一つ。
E、イリ
私、Eとぶつかる。
E「あちゃちゃ~。大丈夫?」
私「あ、あの」
E「ごめんなさいね、いると思わなくって。
私、最近ボーっとすること増えちゃって、これが歳ってやつかしらァ」
私「え、ああ」
E「お医者さんにも言われたのよ、
もうちょこびっと働く時間削ってみませんかーって、
お医者さんってなんでいつもあんなに
わかってる風の言い方なのかしらね、やだわァ。うん?
(何かを確かめるように)あー。えっと。あ!
もしかしてあなた雨宿さん?」
私「え」
E「なんだ、来てたのね。よかったわ~。
いやね、今日からお仕事だよって伝えるのオリエンテーションの時に
伝えるの忘れてて、さっきカレンダー見て思いだしたもんだからさァ。
もうあたしったら焦っちゃって焦っちゃって。ヤァねェ。うふふ。
あら、ごめんなさいね。喋りすぎかしら。」
私「あ、いや」
E「ごめんなんだけどさ、さっそく今から働き始られる?」
私「え」
E「あらやだ、もうこんな、あーもう、
いつもの買いに行けなかったわァ。まあいいや。うふふ、
じゃあはい。こっち来て、これ着てね。」
私「あの!」
E「ん?」
私「(今日からなんて聞いてないんですけど!)よろしくお願いします!」
E「うん、はいよろしくね」
E「うちはこれ着るのが基本だから、毎日忘れないようにね。」
私「はい」
E「じゃあこっちきて」
J~P、同じような衣装を身にまとい、舞台イリ
シーン3 職場
前シーンの途中からFGHIイリ。
工場作業員のような情景を想起させる。
E「はーい。朝礼、始めますよー。」
E「はい、皆さん。おはようございます。今日の天気は晴れ。いいね!
気分爽快ってカンジ!グットラーック!(静寂)あはは。
あ、そうだ。えーっと。本日から一緒に働くことになりました。
雨宿、アマヤドリ、あまやどり、雨宿ちゃんです。
じゃあ、雨宿ちゃん。一言もらってもいい?」
私「え、あ、えと。あの、あの、あの」
G「すみません。主任。シンラはどうなったんでしょうか。
あれから連絡も取れないのですが、」
E「アァー!森下クンね。えーっと、あの後、
大島部長に任せちゃったから私もわからないのよね。
うーん、連絡が取れないのは心配だから、私から聞いてみるわね。」
HI、目配せをする。
G「はい。わかりました。ありがとうございます。」
E「ごめんねェ。
はい、じゃあ午前の業務、張り切って頑張りましょうか!
本日もよろしくお願いします!
じゃあ、雨宿ちゃんは私についてきてね。ここのこと色々教えるから。」
私「はい。」
E「えーっとこっちが荷物置く場所ね、でここがあなたのロッカーで」
私E、ハケ
H「やっぱ、あそこなのかな」
I「きっとそう、そうにちがいない」
G「なあ、キックン。お前からもなんか言ってくんないかな」
F、黙っている。
G「なあ、わかってんだろ。」
H「ちょっと」
F「もう、無理なんだ。」
I「無理って」
G「お前が一番」
F「さっさと、さっさと持ち場につけ。同じ目に遭いたいのか」
GHI、黙ってしまう。
F「いけ。いけ!」
GHI、ハケ
F「(電話をかける)お疲れ様です。菊川です。アラタさん。今少しよろしいでしょうか」
F、ハケ
シーン4 元凶
A「手のひらを太陽にすかしてみれば~真っ赤に輝く、僕の血潮~っと」
B「曙様、お願いします」
A「はああい」
A、笛を鳴らす。
D~P私がぞろぞろと舞台に現われる。
B「ただいまより、曙様からの説法をありがたく頂戴します。」
D~P私「はい」
A「え~うっふん、あはん、いやんダメダメ。え~今日も良い天気で、ありまして、よいお天気であり、良いお天気であること、大変ありがたく思います。これも私が毎晩欠かさずあれよこれよと我らが唯一神であるカナドメ様にお祈りしとるおかげでありますと。南無南無。」
D~P「南~無~」
私「すみません、これなんですか」
E「し!私語厳禁」
B「おいそこ、何をはなした。」
A「ん?」
B「お前だ、おかっぱ」
私「あえ。、っと」
E「すみません。この子新人で、ほんと入って間もなくて」
B「天誅だ」
E「ひえ、どうか、どうかご勘弁を」
A「まあよいど。おかっぱちゃん。名前は?」
私「へ」
B「名前ぐらいさっさと答えろ」
私「あ、あま、雨宿、雨宿もんです。です」
A「モン?どうやって書くかな」
私「あの、キです。あえっと木曜日のもく」
A「ほええ、珍しいね。キラキラネームだね。」
私「キは輝きませんけど」
B「貴様、口答えするな」
私「ひい」
A「まあよいね。よいよい。若いってカンジでいいじゃん!グットラック」
B、舌打ち
A「はあ!ヤドリギだ。君、今日から名前はヤドリギちゃんね。」
私「え?」
A「ヤドリギちゃんの誕生に大きな拍手を!」
D~P、拍手
私「え、どういうこと」
A「はあ、なんか飽きちゃったから、今日はこれでおしまい!また来週~」
B「皆解散!曙様こちらへ」
F「連れていけ」
GHI、被験者を連れてハケ
F「大島部長、少しよろしいでしょうか。」
D「なんだ」
F「森下のことなのですが」
D「お前もガキだな」
F「すみません」
D「いつまでも高校生のままでは、お前も変わってないな。」
F「しかし、森下は部下です。所在がわからないのは上司としても」
D「お前、俺のおかげでここ入ってんだよな。」
F「・・・」
D「余計な詮索はするなよ。じゃなきゃお前も同じ目に、いやそれ以上かもな」
D「一つ、いいことを教えてやる。あいつは知ってはいけないことを知ってしまったんだ来週の今頃には人間じゃないかもな。」
F「え」
D「じゃ、ちゃんと仕事してくれよな」
D、ハケ
G「キックン、今の話」
F「聞いてたのか」
I「やっぱりキックンも動いてくれて」
F「黙れ。これは森下とは何も関係がない。」
H「でも」
F「黙れといっているんだ。お前らも少しは自分の立場を考えろ。ただの派遣だろ」
F、ハケ
G「くそ、くっそ」
H「キックン、どうしちゃったんだろう」
G「もういいよ。あいつは俺たちだけでやろう。」
H「やるって言ったって、何も」
G「ここにいる限り、何も出来ないわけじゃない。モッさんを救うんだ。」
I「あのさ二人とも」
I「あの被験者さんの中に、森下クンいなかった?」
G「え?」
H「ホント?」
I「いや、確証はないんだけど、森下クンさ、わかんないことがあったらたちまち固まっちゃうじゃん?身体。なんか、あの時、森下クンぽい人いるなと思って。」
G「本当か、それ」
I「自信ないけど」
H「そしたらあの地下室に、森下クンが」
G「でも鍵が」
I「鍵、あるよ。返すの忘れて」
G「でかした!」
H「まって、ちゃんと考えよ。大島に見つかったらわたしたちどうなるか」
I「確かに」
G「大丈夫、方法ならある」
HI「え」
G「こっち」
GHI、ハケ
シーン5 初日
私「あの、さっきのって」
E「あー、あんまり気にしないで。社長の御言葉みたいな。」
私「はあ」
E「学校でもあったでしょ、長ったらしい校長先生の話。ああいうやつよ」
私「なるほど」
E「でもよかったわね。あだ名もらえて。うちには変なジンクスがあってさ。社長から指名されると将来出世するってジンクスあるんだよね」
E「だから、将来雨宿ちゃん、出世するわよ~、もう大大大出世。社長とか受け継いじゃうんじゃない?」
GHIイリ
私「はあ」
E「まあ、当分先の話か。うちの部長、社長の息子だし」
私「そうなんですね」
E「だから、言葉遣いには気を付けてね、私も怒られちゃうから」
私「はい、気をつけます」
E「じゃあ、さっきの続きね」
E「えーっと、まずはここ。ここが主な製薬現場の一つ。うちは製薬会社なんだけど、作るときは人の手を使って、一から作ってるの。社長が頑なに手作りだってうるさくて。あ、ついでにうちのメンバーも紹介するわね。あそこで練りこみしてるのが、フナボリ君とイチノエ君。あ、黒髪の方がフナボリ君ね。あだ名はペリーだって。イチノエ君は高校の時バンドやってたんだって、だからあんなピアス開けてるの、すごいよね。んで、そっちの派手髪の女の子が住吉サキちゃん。彼女は主に梱包とかしてもらってる。うちは髪の毛とか自由だから好きに染めて大丈夫だから。」
E「で、最後があの人、菊川君。彼は私たちの統制をしてくれてるの。いわば管理職だね。ほんとは私の仕事なんだけど、体のこととかちょっといろいろあって、これからは彼に任せようかなと思って、今やってもらってるってカンジかな。」
私「なるほど」
E「なんか質問とかある?」
私「私は何をすれば」
E「あ~えっとね。なんも考えてないんだ。実は。いや無計画ってことじゃないよ?ただ、ヤドリギちゃんにも得意不得意あると思うし、これから決めようかなって。ほら適材適所ってこと」
私「わかりました。」
チャイムの音
E「あ、みなさーん。おやつの時間ですよ~ヤドリギちゃん、ちょっと手伝って。」
E私、舞台裏からドーナッツを持ってくる。
E「はい、今日も今日とてドーナッツです。」
I「またドーナッツ」
H「もう慣れだね」
G「これで健康診断いけてないんだよな」
E「ほら、文句言わないの。」
私「なんでドーナッツなんですか」
E「そういえばなんでだっけ」
G「秘書の浜町さんがそう決めてるらしい。あの人甘いもん大好きだから。」
I「なんか噂ではしょんべんから砂糖そのまま出てるらしいよ」
H「やめてよ食べてるときに」
E「そうだったのね~じゃあなんであだ名はハムマヨなのかしら」
GHI「確かに」
私「菊川さんは食べないんですか」
G「あいつはかっこつけて食べないんだよ」
HI「ちょっと」
E「はいもう食べる時は食べるの!はい食べたら仕事仕事~あ、ヤドリギちゃんはこっち、ちょっとだけ座学みたいなことするから」
私「はい」
E私ハケ
I「あの新人。」
H「言いたいことわかる」
G「なに」
HI「馬鹿だよね~」
G「はあ」
H「なんかわかる?Fランってカンジ」
I「わかるわかる、なーんも考えない人生ってカンジ」
HI「やあねえ」
G「あほくさ」
H「ちょっと同類扱いしないでよね」
I「あたしたちの方が何倍も賢いんだからね~」
G「頭悪いとか関係ないだろ、そもそも同じ職場なんだし」
H「同じっつったてね」
I「中身が違うのよなかみ!」
D「中身ね」
G「大島」
D「ちゃんと仕事してる?働いてる?」
I「ちゃんと働いてるっつーの」
D「なに?聞こえないなァ」
I「ちゃんと!」
F「すみません。部長。私の教育不足で。」
D「しっかりしてよ~。全く。せっかく僕ら同じ高校出身で同級生なのにさ。」
D「それとも何?また、やっちゃおうか。あんときみたいにさ。あれ、サキちゃん、また胸大きくなった?」
H「キモ」
D、Hを殴る。止めに行こうとしたGIも共に殴られ、圧倒される。
D「はあーほんとに、さ。立場わきまえてよね。バカのくせにさ。あー馬鹿だからわかんねえか。あんまりにも馬鹿だと俺、殺しちゃうかも。アハ!」
D「父さん、明後日から出張だからさ、父さんいなくなったらまたバック、してあげるよ。あはは」
F「明後日?出張?」
D「そうだよ。あれ、聞いてなかった?明後日から出張だよ。インドネシア、海外まで展開するんだってさ。全く急だよね。俺も置いていくなんてさ。」
F「明後日」
D「何。なんか文句でもあんの?」
F「いや、別に」
D「はっ、沢尻エリカかよ。まあいいや、ここにいると蕁麻疹起きちゃうし、じゃあね」
F、ハケ
H「ほんとキショい、あいつ」
I「なんだよ、蕁麻疹って。小児科でもいってこい」
F「明後日」
G「なあ、二人とも今日、空いてる?」
HI「え、空いてるけど。」
G「腹くくっといて」
H「え」
I「それって」
G「詳しくはあとで」
F「明後日か……」
全員ハケ
シーン6 ここはどこ?
O「足痺れた」
P「眠たいよ~」
L「新しい人はいってたね」
N「ヤドリギさん?」
M「変なの」
K「悪口言わないの」
M「悪口じゃないもん。ただの感想~」
J「あの」
K「外していいよ」
J「ふう、暑い。」
K「あついよね。これ」
J「ほんとに、てかあれなんですか。なんとなくしゃべっちゃだめなのはわかったんですけど。」
K「あれがすべての元凶。私たちの敵。」
J「元凶?敵?」
K「し!」
C、イリ
手にはドーナッツを持っている。
床を数回ノック
猫たち各々現われる
猫「ドーナッツだー!」
猫、ドーナッツを取り合い、貪る。
J「え!ドーナッツ?やったー!」
K「だめ」
J「え?」
K「あのドーナッツは食べちゃだめ」
C「あら、食べないの」
K「イチゴは最後に食べる派なので」
C「そう、もったいない。」
J「僕、ドーナッツ好きなのに」
C「僕、ドーナッツ好きなの」
K「しゃべっちゃだめ」
J「はい。好きです。」
C「じゃあ、お姉さんから一つ教えてあげる。天国に行きたければ自分で行動しなさい。あら、近くでみると案外イケメン?」
K「森下クン」
C「女の子の方は、この前より皺増えたんじゃない??」
C「じゃあね」
C、ハケ
猫「最後の一個だ!ジャンケン」
L「お兄ちゃんたち食べないの?」
K「みんなで食べな」
猫「ラッキー!」
J「ねえ、なんであれ食べちゃダメなの?」
K「あなた、わかってるの?」
J「わかってるのって、ちょっと過激な治験じゃないの?」
K「もう、ここがどこか教えてあげる。」
J「え、どこって、ここ大手製薬会社の」
K「ううん、違う。もっといえば製薬会社で間違いはないのだけど、実態はそうじゃない。ここに来る前、ニュースとか見てた?」
J「いや、そんなには見てないけど」
K「ここアケボノホールディングスでは日夜色んな薬が作られている。アケボノは初代創設者で世界で唯一風邪薬を開発したとして世界的にも超有名。その風邪薬は今や全国で販売されているの。」
J「そんなすごい人だったのか」
K「でも、今現在、この地球ではそんな風邪薬なんかよりも強大な感染症や地球温暖化による海面上昇が危惧されている。そこに目を付けたアケボノはあることを始めるの」
J「あること?」
K「動物と人間の融合手術。」
K「ピンとはこないでしょうけど、あの子たちはその犠牲者。現時点ではまだ研究段階のため猫と人間のハーフを無理やり作っている状態ね。定期的に呼び出されるのはそのせい。」
J「いや、ちょっとすみません。全然わかんないんですけど。えっと、まず動物と人間の融合?なんですかそれ」
K「地球温暖化の影響で、ここ日本においては将来東北地方の一部地域と北海道のみになると言われているの。そのために権力者たちはみな北へ移住を開始しているのだけど、それでは海面上昇後、今北海道や東北地方に住んでいる一般市民たちから反感を買うでしょう。ほら、そこでアケボノは政府から直々に動物と人間のハーフを作ることを頼まれた。例えばそうね、魚と人間が融合して鰓呼吸が出来るようになれば温暖化とか関係ないでしょっていう甘い考え。生態系とかそういう小難しいこと特に考えてないのよ。」
J「でもそういうのって希望を募ったりとかするんじゃないですか?任意というか」
K「そうね、そうした方が道徳的にはいいかもしれない。この場合倫理っていうべきかしら。でもアケボノは違う。あいつは世界中ほとんどの人間を動物にする気なの。そうして少なくなった純人間の中で頂点に立ち、独裁国家をつくる。これが真実。」
J「ちょ、ちょっとまってください。あの、話がSF過ぎて」
K「ごめんね。わかりづらくて。つまるところ、まとめると私もあの子たちもそしてあなたも、この非人道的な実験に参加させられているってこと」
J「えェ。じゃあ、もしかしたら死ぬってことも」
K「往々にしてありえる」
J「嘘だろ、おい、嘘、嘘だろ。ええ、じゃあ50万は?」
K「50万?」
J「うん、一週間の参加で50万の報酬貰えるってきいて。え、ミズエはそうじゃないの?」
K「いや、私は」
J「いいや、そうか。そう、そうか。うん、よし50万はもういいや。話もわかんないし、ミズエ、一緒に抜け出そう」
K「え?」
J「こんなところ抜け出してさ、先に北海道とか行っちゃおうよ。」
K「でも」
J「俺もドーナッツ食べたいしさ、ね?」
N「無理だよ」
J「え?」
L「抜け出すなんて無理だよ」
M「私たちはずっとここにいるの」
O「そういう運命」
P「だから無理だよ」
J「どうしちゃったの君たち」
K「わからない、最初は私も抜け出してやろうと思ってた。でもこの子たちが止めに来るの。怪我もいとわず。」
J「ええ」
猫「無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ無理だよ」
J、猫に体中を埋め尽くされる。
J「いや、ちょっとまって、僕、猫アレルギーなんだって」
J、ゲロをたくさん吐く。
猫「くちゃーい!!!!」
L「あれ」
N「私たち」
M「何してたんだっけ」
O「なんか頭の中が」
P「むずむずする」
猫「はっくちょい」
猫の口からくしゃみとともにビー玉が出てくる。
猫「なんかでた」
猫、ゲロ特有のにおいに反応し、くしゃみが止まらなくなる。
K「なんか、なんかわかったかも」
K、Jの腹を殴り始める。
J「いった、え、なに?」
K「みんなも、せーのカム着火ファイアー!」
J「うッ、オエ」
K猫、Jの腹を殴りながらハケ。
シーン7 偏光
F、イリ
辺りを見回す。
Bイリ
F「すまん、こんなところで」
B「ゲロ臭いけど、場所なんか選んでられない。」
F「単刀直入に聞くが、例の件、聞いたか。」
B「ああ、急な予定変更だった。」
F「なあ、今からでも動かせないか。」
B「これから連絡してみる。今日は眠れないぞ。」
F「頼んだ」
D「あれ、菊川君、社長秘書となんか関わりあったっけ。」
F「大島」
D「さんをつけろよ、デコスケ野郎。一応これでもお前の上司なんだから」
B「大島君こそなんの用かな、こんなところで」
D「いやあ、年寄りってのは本当に気持ち悪くてさ。変なことには人一倍敏感なんだよね。君たち、なんか企んでるのかな。あんまりにも変なことしてると、わかってるよね。」
B「さてどうなっちゃうのかな」
F「やめろ、あまり刺激するな」
D「ちなみに、もう父さんいないから」
F「は!?」
D「今頃、空港とかで飯食ってんじゃないかな~。(笑)」
B「いや、そんなこと私も」
D「知らないんじゃないかな、浜町さんも知らないみたいだし。」
B「くそっやられたか」
D「アハ~気持ちいいね、その顔。じゃ、僕の用事は済んだからお邪魔するね~じゃね~アハハ」
D、ハケ
F「くっそおおおおおおおおおおおおお。やっと、やっとモッさんを助け出せると思ったのに。なんで、何でなんだよ」
B「大丈夫だ。まだ間に合う」
F「何がだよ、もう、もうダメだ」
B「強行突破だ。こい」
B、Fを連れてハケ
シーン8 僕も好きだよ?
K、Jを殴りながらイリ
K「おら、おらおら!全部だせ」
L「お姉ちゃん」
N「さすがに」
M「なんか」
O「可哀想な」
P「やりすぎだよ~」
K「そうかな」
J「もう、ちょっとだめ」
K「でもこんだけたまれば上等よ」
J「それ、どうするの」
K「ひみつ!」
K、ハケ
L「大丈夫?」
J「うん、大丈夫でも、あの子力強くない?」
N「そりゃあね」
M「カンガルーだから」
J「カンガルー?」
O「お姉ちゃんから臭うでしょ、カンガルーのにおい」
J「カンガルーのにおいって何」
P「わかんない」
J「わかんないんかい」
N「お兄ちゃん、お姉ちゃんのこと好き?」
J「何いきなり」
M「え、好きなの!?」
L「キュン」
J「え、そういう?いやそういうんじゃ」
O「どこ?どういうところが好きなの?」
P「やっぱ顔?それともおっぱい?」
J「いや、いやいや、そういう好きじゃないし、対象外だから」
N「なーんだ」
M「つまんな」
J「ごめんね、僕、ゲイだから」
猫「そうなの!」
J「その概念はわかるんだ」
O「だってほら、あの子」
P「ゲイ?オカマ?」
N「こういう時ってどっち、どこ隠せばいいの?」
M「やだちょっと、まずは友達から」
J「ああ、なんかごめんなさい。」
M「えっ」
L「振られましたな」
J「ああ、いやそういう意味じゃないんだけど」
P「でも私たちみんなお兄ちゃんのことすきだよ」
O「ね」
J「ああ、ありがとう僕も、好きだよ」
M「だから、友達からだって、照れちゃう」
J「アハハ、あれ」
N「吐いてない」
O「治った~」
P「わーい」
L「やったね」
猫「グットラック!」
J「グットラック」
K「みんな!聞いて!ここから抜け出すぜ大作戦!」
全員ハケ
シーン9 開始
I「なあ」
I「なあ」
I「なあって」
GH「(Iの頭を叩きながら)しー!」
I「なあ」
I「なあ」
I「なあって」
GH「(Iの頭を叩きながら)しー!」
I「なあ」
I「なあ」
I「なあって」
GH「(Iの頭を叩きながら)しー!」
I「これ本当に大丈夫なのか?」
G「大丈夫。ばれないって」
I「でも鍵ってさっき返したじゃん」
H「みてこれ」
I「え、返してなかったの?」
H「ううん、ちゃんと本物は返したよ」
G「今日ほど工業高校出身なのを喜んだ日はないね」
G「よし、ここか。住吉頼んだ。」
H「合点承知」
H「あれ、開かない」
I「早く」
H「わかってるって、でもあれ?」
G「貸せ」
G「ええなんで」
D、イリ
D「よ!無能派遣4人組。あ、今は3人だったか」
G「大島、何で」
D「いやあ、遺伝なのかな、こういうのって、悪い予感ピンピンしてたんだよね~。いや、まさかとは思ったけど。ちょっと~ダメよ~ダメダメ」
H「もしかして」
I「ジエンドってな」
D「お~ザッツライト。あのドーナッツ食べてる割には賢いね」
G「ドーナッツ?」
D「あれ、食べてない?ドーナッツ。あのドーナッツね、糖分のほかに、少量の糖質コルチコイドに酢酸化合物、メチルプレドニゾロンを含有していて人間の脳に少しずつ影響を与えるんだよ。」
H「それって」
I「俺たちがあの工場で」
D「そう!やっぱ感がいいね~みんなが必死こいてつくってるあれ。あれによって人間の脳みそはどんどんどんどん大きくなって、限界までいくと今度は小さく萎み、その結果、どんどんどんどん動物のような本能的な思考になっていく。あーもうこれでわかったよね。もうここに倫理とか道徳とかないってことだよね!もうパンドラの箱は開いちゃってるってこと!」
G「やっぱお前ら下衆だよ」
D「人聞き悪いなあ。じゃあもう一つ教えてあげる。君たちが解放しようとしてる森下クン。彼がいる部屋に他に何匹か手術済みの奴がいる。そいつらもどうせ逃がしちゃうんだろうけど、そいつらが自然に触れたらどうなっちゃうかな!?それこそゲスの極み乙女ってカンジじゃないかな!?」
G「くそがよ!」
G、Dに殴りかかる。
D、難なくGを返り討ちにし、足にナイフを刺す。
HI「ペリー!」
D「あ~やっぱ校則ってない方がいいよ。こんなことも平気で出来ちゃうしナ!(Iを殴る)高校んときやったボクシング、覚えてる?それでさ、お前らがオレに勝ったこと一度だってあるか?ないよな!?ないよな!?時間が経ってもお前らは勝てないの。力でも権力でも俺には逆らえないの!バーカ!!!!!!!」
G「くそ!くそ!くそくそくそ」
D「あ、サキちゃんは見逃してあげるよ。ずっと俺の穴ペットになってくれるならね(笑)(Hの胸をつかみ、頬を舐める)」
H「・・・」
G「イチノエ」
D「アハー!いいね!写真とってもいい??ほら、サキちゃんも、こっちにおいで、見てみなよ。すごく、滑稽!」
G「住吉」
端末の電子音。
D「あ?」
D「は!おい、みんな喜べ、お前らが会いたがってた森下クンから呼び出しだ。アハ!ハー!久しぶりの再会ってやつですな!!!!じゃあ俺は行ってくるから、お前らはそこでくたばってろ、カスどもアハハ!」
暗転
シーン10 作戦失敗?
679、イリ
K「いい?解除音が聞こえたら私に合図して。私の見立てではあいつの息子がここに来るはず。いい?」
猫J「ウィシェフ!」
K「全員でここから抜け出そう」
解除音
J「来た」
銃声音
J「え」
明転
猫「お姉ちゃん!」
猫、怒りのあまり特殊部隊へ飛びつき反抗。
特殊部隊、敵だと認識し、発砲。
9、もみ合いの末、銃を落とす。
猫K、地面に突っ伏す。
J「ちょっと、ちょっとあれ、ホントに息子さんですか?」
J、7に頭を殴られ、気絶。
3「0450、目標の地下室へ到着。うち一人確保。帰還します。」
679、ハケ
静寂の間
L、息絶え絶えながら階段を上る。
D、イリ
D「なんなんださっきの音は」
D、足元のLを見つける。
D「ひい!」
D「なんだあいつ」
D「なん、なんじゃこりゃ!」
D「なにがあった?はあ?あいつらか、クソ!は!父さんもこれを知って、」
D、落ちている銃を見つける。
D「もう何してもいいんだよな?」
D、Kに向かって一発撃つ。
D「アハ!アハハ!」
DL、ハケ
暗転
シーン11 変革
荒い呼吸が響く。
「ここはどこだ」
「なんか、臭い」
「火薬?汗?」
「ミズエ、汗臭いよ」
「あれ、僕、ちゃんと歩いてる?」
「頭、痛いんだけど」
「ミズエ、あ、そうだ、ミズエ」
J「ミズエ!」
明転
J、6におんぶされてる。
J「ちょっとまって」
6「ちょっと黙ってろ」
7「9番!」
9「はい!」
7「返事はいらない!何してる!遅い!」
9「すみません!銃を落としました!」
67「!?はあ!?」
J「ちょっとまって!ちょっとまって!ちょっとまって!」
J、6から降りる。
J「頭痛いから、ちょっと待って」
7「どこで落とした。」
9「わかりません」
7「心当たりは!」
9「もしかしたら、さっきもみくちゃになった時に落としたかもです」
7「6番!急げば間に合うか」
6「・・・」
7「6番!リミットは!」
7「6、」
7振り返る。J、6を人質に取っている。
J「戻りましょう。さっきのとこへ」
7「(銃を構えて)放しなさい。」
6「7番打て」
J「打たないでください。こ、これがその人のなくした銃です。僕も今何がどうなってるのかわからないんです。さっきの場所へ戻るか。このまま失態晒してお役御免か、どちらか選んでください。」
6「一般人が弾けるわけない。迷わず打って目標回収。任務優先」
J、6の足に一発撃つ。6を地面へ放り投げる。
J「もう、今の僕は何も感じてません。さっきの場所へ戻ってください。」
7「9番、6番を」
9「はい」
全員ハケ。
暗転
第一部 完
イメージ曲 Analogfish 『Is It Too Late?』