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⭐️七宝の塔

⭐️第二十三品 【 合戦前夜の語らい 】


夜空には満点の星空が広がっている。
剣華団の皆は、本日も猛稽古を終えた。

皆、寝る準備をしている中、梅松は大蘭と縁側に腰掛け話ししている。

蛙の鳴き声が何か季節らしさを感じさせ、夏の夜の空気が二人を包む。

梅松は星空を見ながら大蘭に感慨深げに口を開いた。

「 いよいよ明日ですね。
  河乃内剣士隊との決戦。」

大蘭も星空を眺めながら梅松に

「 あぁ。やっとだ。
  やっと龍獅子剣華団の強さを皆に
  見せられる。」

梅松は少し心配そうに大蘭に聞いた。

「 壇独の旦那、奏剣、蓮翔は、本当に
  大丈夫なんですか?
  まだ、怪我治ってないんじゃ。」

大蘭はこの決戦で
不戦敗も視野に入れていたが、壇独、奏剣、蓮翔の三人が昨夜、大蘭の部屋を訪れ出場の直談判を行った。

大蘭はその三人の熱意に突き動かされ出場を許したのだ。

「 怪我は、大丈夫ではないな。
  三人共、完全に治癒していない。
  ただし、梅松。
  お前と百蘭と冠、そして玄蔵が
  いる。
  この四人で三人の分も走り回り
  助けてやってくれ。」

梅松は大蘭の言葉を噛み締め深く頷き
いつもお喋りな梅松が静かに短く

「 はい。」

と答えた。

「 だから、怪我した三人は大丈夫だ。」

「 え?」

「 お前らという仲間がいる。」

梅松はにっこりと微笑むと大蘭も静かに笑みを溢した。

「 それと、気になる事が。」

梅松がそう喋り出すと大蘭は梅松の言葉を待った。

「 壇独の旦那、奏剣、蓮翔が怪我したのって
  誰も知らない筈ですよね?」

「 あぁ、恐らくな。
  
  知ってる者が居るとすれば、うちの剣華団
  の者と三人を怪我させた奴くらいだろ。」

「 やっぱり。」

大蘭は梅松の顔を覗き込み

「 何がだ?」

と尋ねると梅松は

「 河乃内素哲の馬鹿息子に会った時に
  言われたんです。

  壇独も奏剣も蓮翔も居ない
  お前らに何が出来るんだ!って。」

大蘭も薄々は勘づいてたが、確信に変わりそれは烈火の如く怒りへと変化した。

それを感じ取った梅松は大蘭に

「 大丈夫です。明日は必ず勝ちます!
  勝ってあの卑怯者軍団をぶった斬る!」

その魂のこもった言葉を聞いて大蘭は少し心を落ち着かせ、深く頷いた。

大蘭は、梅松も剣士隊らしくなったもんだと嬉しく感じた。
  

その時、風呂から上がって縁側の廊下を通ろうとした百蘭が縁側に居る二人を見つけた。

百蘭は、背後からそっと近づき驚かさそうと考えた。
足音を立てずにそっと背後から近寄ろうとした時

「 あ、それと。」

梅松は大蘭に聞こうと思っていた話を思い出した。

百蘭は、もう少し待とうと考え、驚かす絶妙な機会を待った。

「 冠は、川で拾ったんですよね?
  その時の話を聞きたくて。」

そのまま梅松の言葉を聞くと
大蘭は、梅松をじっと見つめたと思うと
またゆっくりと、星空を見上げて、語り出した。

「 あの時、俺は新宮(にいみや)の無量寺
  で用事を済ませて帰ろうと山沿いを歩いて
  たんだ。。」


ー 山沿い ー

大蘭は、思いの外、用事が長引いてしまい、外も暗くなっていた。

山沿いを歩いていたその時、大蘭の目の前を何か獣の様な物が素早く通りぎて林の中へと入っていった。

大蘭は、最初は猪か狼の子かと思った。
が、何か様子がおかしいと気になり林の中へ
入ってみる事にした。
暗い夜も手伝い林にそれらしき物は探せない。

林を通り抜けると目の前に川が流れてあって、暗くて目が慣れるまで時間がかかったが川の中から、麻袋をその獣が引っ張り出そうしていたのが分かった。
急いで大蘭は、その獣の元へ向かうとその獣は、逃げる様に物凄い速さで林へと消えていった。

大蘭は、とりあえず急いでその麻袋を川の中から出して麻袋を開けてみると、そこには、死んでるのか生きてるのか分からない幼い少年が入っていた。

それが、、冠だった。

ーーー

百蘭は柱の陰でその話を聞いて
驚いた。
冠を救い出したのは、大蘭先生だったのか。。

大蘭から冠と出会った経緯を聞くと梅松は
質問した。

「 その、獣は、川から冠を助け出そうとして
  たってことですよね?」

「 恐らくな。」

そう大蘭に言われると
梅松は、思い切って大蘭に気になっていた事を尋ねた。

「 その獣は百蘭。
  そうですよね?」

「 かも知れないな。
  折角だ当人に聞くのが一番早い。
  教えてくれないか?百蘭。」

そう大蘭が振り向きもせずに言うと百蘭は慌てた。
大蘭には、百蘭がずっと背後に居るのが分かっていた様だ。
百蘭は、驚かす為に柱の陰に潜んでいたが、反対に大蘭に驚かされた。

梅松が後ろを振り向くと柱の影から百蘭が跋の悪そう(ばつのわる)に出てきた。

「 百蘭居たのか!」

梅松が百蘭に向かってそう言うと、百蘭は頭を右手で掻きながら二人の元へ歩み寄り縁側に腰掛けた。

「 
  あの冠を暴行した大汽を
  殴ったあの獣も。

  冠が捨てられた川から
  救い出そうとしてた獣も。

  百蘭。お前だよな。」

そう単刀直入に梅松が百蘭に問い掛けると、百蘭は、胡座をかき直してから返事をした。

「 あぁ。」


「 教えてくれよ。
  一体全体どう言う事なんだ?
  冠とお前はなんなんだ?
  なんで、助けた?
  なんで冠を知ってたんだ?
  
  あぁ、いっぺんに質問されちゃ
  頭が矜羯羅がっちまうよな。

  教えてくれよ。」

梅松がそう言って百蘭を見つめた。
大蘭も百蘭を見つめながら百蘭の言葉を待った。

百蘭は庭を見つめる視線のまま話しだした。

「 たまたま、見つけたんだ。
  あいつの母親と大汽、そして冠を。。」

ーーー

夜の月が雲に覆われて翳り出した頃。
百蘭は、今日も飢えに苦しんでいた。
何処かで食料を頂こうと集落の家々を物色していたその時、ある家から激しい物音が百蘭の耳に聞こえて来た。
走ってその家の庭の方へ回ってみた。
百蘭は、傷んで隙間が出来ている家の壁の板と板の間に左目を近づけた。

家の中で裸で正座をさせられている冠が居た。
背中には入れ墨が入れてある。

冠の片目は腫れて視界が塞がってる様だ。
七歳の冠はずっと泣いている。

そして、若い男と女が冠に怒号を浴びせていた。

女が正座してる冠の頬を足で蹴った。
そのまま横に冠は倒れ
冠は二人に向かって何度も何度も

ごめんなさい。

ごめんなさい。

良い子にするから。

本当にごめんなさい。

と泣きながら訴えていた。

大汽は何度かその冠を踏みつけた後に

「 早くどっかに消えてくれ!
  お前見てると腹が立つんだよ!」

と言い放った瞬間、凄い速度で石が大汽の額
目掛けて飛んできた

「 痛っっ!!」

そう言って、後ろに尻餅をついた。
大汽の額から血が出ている。

「 なんだ!なんだ?」

大汽は何が起きたか理解出来てない様だ。
女も慌てて大汽に寄り添った。

「 大丈夫?血が出てる!」

そう女が言うと大汽は畳の上に転がってる石を見つけた。

そして、飛んだ来たであろう、板の隙間を覗いたが分からなかった為、急いで玄関を出て庭に回った。

誰も居ない。

首をあっちこっちと回しながら辺りを見回す大
汽がまたもや叫んだ。

「 痛っっ!!いたたたたっ!!」

今度は
数十個の石が大汽の頭にに向かって降って来た。

誰も居ない筈なのに石が空から飛んでくる。

その石の雨に、大汽はこれは、天からの罰だ。
と思った途端、急に恐ろしくなり家へと走って戻っていった。

それから、事あるごとに、百蘭は冠の家の様子見に行く様になった。

男と女が、冠に何か罵声や暴力を振るおう事があるものなら決まって天からの罰が大汽と冠の母親を襲った。

そして、二人の目を憚り十分では無いが、多少の食糧や水をこっそり冠が目につく様な所へ置いて行った。

だが、飢えているはずなのに、冠はその食糧に手をつけることはしなかった。

母親からお前は食べることに値しない生き物だと言われていたからである。

百蘭が、冠に気付いてから数日が経とうとした時、百蘭は初めて冠と接触を測った。
だが、百蘭は姿を出さず草むらに身を潜めて
庭に出てきた冠に喋りかけた。

「 おい。そこの者。怪しい物ではない。
  大丈夫か?」

その声を聞いた冠は草むらに近づこうとした。

「 おい!そこの者!近づくでない。
  もし、お主が辛いのであれば
  こんな家、逃げ出してもいいのだぞ。
  おれが連れ出してやる。」

冠は、微笑みながら草むらに向かって

「 あなたですよね?
  いつも、ぼくが殴られたり蹴られたりする
  度に石とか投げてるのは。」

「 うむ。天罰だ。
  おれは天の神だ。
  もうこんな家は捨てろ。」

「 無理だよ。ぼく、母上が好きだもん。
  昔は、優しかったんだよ。
  母上。」

草むらに身を潜めてる百蘭はそれを、聞いて暫し沈黙した。

「 。。。。
  ま。どうしてもという時は
  言いたまえ。」

「 ありがとう。神様。」

「  。。。う、うむ。」

そして、数日後に冠は川へ捨てられた。

百蘭は、その日。
いつもの様に冠の家の様子を見に行った。
板の隙間を覗いても誰も居なかった。

何処へ行ったのだろうと百蘭は思ったが腹も減ったことだし、何処か町にある飯屋の捨てられてる食べ物でも漁りに行こうと考えた。

ふらふらと通りを歩いていると、路地の方で
良い雰囲気の男女が目に止まった。

それは冠の母親と大汽だった。

二人の話し声に耳を傾けた。

「 どうせ放って置いても死ぬんだ。
  川に捨てたのは、おれらの慈悲ってもん
  さ。」

「 新宮の川へ捨てたら
  もう今頃死んでるだろうね。
  あの川は、人も通らないから。」

その言葉を聞いた百蘭に衝撃が走り百蘭の足は新宮の川へと向かっていた。

ーーー

「 そういう事か。」

梅松は百蘭から話を聞いて腕を組みながら納得した顔で下を向いた。

百蘭は話を続けた。

「 助け出そうとした時、誰かがこっちに近づ
  くのを知って、その場を離れて草むらに身
  を潜めた。

  そして冠が助けられたのを確認してから
  その場を離れた。」

梅松は閃いた様な表情で百蘭に問い掛けた。

「 それが大蘭先生だとは知ってたのか?
  百蘭は。」


「 知らなかった。
  今、知った。驚いてる。」

「 そこなんだよな!
  そんな偶然というか!縁というか
  凄くねぇか!
  その冠がここに居てよ!
  お前も大蘭先生の元に来てよ!

  この世にこんな不思議な縁が
  あるもんなのかってよ!

  いや、こらぁ驚きだ!

  。。。」

大蘭はそう梅松が言い終えると二人に優しく話しかけた。

「 そうか。やはりあの獣は百蘭だったか。」

そう言うと大蘭特有の豪快な笑いが出た。

梅松は咄嗟に百蘭に聞いた。

「 でよ!なんで大蘭先生は、その事を百蘭に
  今まで聞かなかったんです?
  百蘭も今まで、なんでその事を話さなかっ
  た?」

大蘭は深く思いを巡らせながら視線は百蘭に定めたまま梅松に言った。

「 俺が聞かなかったのは、
  百蘭に言い出せない何かがあるのでは
  ないかと思ってな。」


百蘭は、観念した様な表情を滲ませながら
ゆっくりと口を開いた。

それを大蘭と梅松は聞いた。

「 実は。。」

大蘭と梅松は百蘭の方を向きじっと百蘭の顔を見つめた。

すると百蘭は静かに息を吸い込み息と共に言葉を吐き出した。

「 冠は俺の弟なんだ。」

⭐️第二十三品  【 合戦前夜の語らい 】
           終わり

第二十四品へ続く。。

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