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⭐️七宝の塔

🌟第十二品 【 片目と片腕と副頭 】

〝 立石座と言う町の雑木林の奥に
  金風火(こんふうび)の巣窟がある 〟

腹拵えを終えた玄蔵が金風火(こんふうび)の副頭との決闘の為、金風火の住処へと向かった。


立石座の雑木林。


髪は長くボサボサで右目だけ前髪で隠れている。
薄汚れた顔にズタボロの着物、腕や足、見える肌は傷だらけ。

ここ最近は、畑で盗んだ食料などで飯にありつけている。

片目の少年は天涯孤独の身で、こうして、なんとか一人生きてきた。

何の目的もなく、ふらふらと歩いていると雑木林に入った。

片目の少年は、何故かこの雑木林が故郷に似ている気がして、心が落ち着いた。

その中でも、一際存在感がある立派な木が聳えていた。

その木を見上げて掌を当てると、何か心が落ち着いた。

その木に凭れ(もたれ)かかり座り込んだ。

暫く休もう。

そう思い、うとうとしていると。
すぐ側で草むらが動く物音がした。

片目の少年は目を閉じたまま、その音を聞いて
動物ではなく、人間だなと気づいた。

「 お前何してる?
  死んでるのか?」

そう問いかけられてやっと片目の少年は目を開け、その声の人物を見上げた。

目の前に
吊り目の右手が無い片腕の少年が立っていた。

咄嗟に片目の少年は、後方に飛び跳ね四つん這いの態勢になり距離を保つと
獣の様な唸り声を上げた。

まるで獣の様な片目の少年を見て、片腕の少年は驚いた様子で見ていた。

「 よく分からんがお前とやり合うつもりは
  無い。
  先を急いでるんだ。」

そう言って通り過ぎようとする片腕の少年の左腕を掴んだ。

「 お前、人殺しに行くのか? 」

「 え? 」

「 殺意が見える。」

「 いや、今からやり合う奴は、殺すわけじゃ
  ない。
  剣で決闘を挑むだけだ。」

「 じゃあ、なんだこの殺意は?」

執拗に殺意に対してこいつは、感じ取ってくる。

この後の片腕の少年の目的を見透かしてるようだった。

不思議なこの男に片腕の少年は名を尋ねた。

「 お前、名は何という? 」

「 名は無い。
  呼ばれたこともない。」

名は無い?なんてふざけた事を。
そう思ったが
そんな事を思ってる暇はない。

「 俺は田多玄蔵。
  …。
  すまんが、行かせてくれ。」

「 お前が殺そうとしてる相手は強いか?」

そう片腕の少年に問いかけてきた。

暫く考えてから片腕の少年は答えた。

「 分からん。
  だが、護衛など人数はいるかも知れん。
  相当、手強いのは確実だ。
  。」

片目の少年は片腕の少年を暫し、じっと見つめたままだった。

やっと片目の少年が口を開いた。

「 俺とやるか?
  俺は相当強いぞ。
  敗けた事はない。」

片腕の少年は、我に返った。
復讐の為…血が昇っていた。
早く百人斬りを達成したく、急いでいたが。
この目の前の少年。。。

確かに、、、相当強い。
片目の少年から放たれる気がそう感じさせた。

今まで、幾多の修羅場を乗り越えてきた片腕の少年は、木を見て森を見ずとなっていた。
金風火の副頭という木を見過ぎていた。

この少年という森は相当デカい。

何故、この片目の少年が自分と戦いたがってるかは、よく分からない。

片目の少年が片腕の少年に条件をつけた。

「 もし、俺が勝ったら
  一つだけ何でも言うことを聞け。」

なるほど。どうやら何か頼み事があるらしい。
この俺と戦いたがってるのは、そういうことか。


「 あぁ、良いとも。」


「 漢に二言は無いな。」

「 漢に二言は無い。」

片腕の少年はもう迷わず百人目をこの少年に決めた。

「 手合わせ願おう。」

  
ーーー

金風火の巣窟 (こんふうび)の巣窟

自分達で拵えたのだろうか。
少々雑な部分はあるが暮らせるだけの雨風凌げる大きめの家だ。
ここは、ならず者の剣術集団、金風火の住処である。

金風火の 郡司名 駿太(ぐんしな しゅんた)は骨太で体格も良く漢気が顔からも分かる。

だが最近はいつも、浮かない顔をしてため息ばかりついてる事が多い。

紺色と赤色の縦縞模様の着物を羽織った
郡司名駿太は、古めた木の箱に座って足を組んでいる。

「 はぁー。
  なぁ、、。
  あいつは、いつになったら帰って
  来られるんだ?」

そう聞かれた呆一(ほういち)も
郡司名の前で木箱に座っている。

ぽっこり出た腹の下の方を掻きながら

「 きっと、もうじき帰ってくるはずですが
  ね。」

郡司名は、熱血な気持ちが籠りながら

「 第一、なんでアイツが捕まらなきゃ
  ならないんだ!
  俺が代わってやりてぇよ!」

ぽっこり腹の出たお腹を今度は摩りながら

「 アイツのことだから。
  自分が捕まることで頭を守りたいんで
  すよ。
  全部一人で被るつもりなんじゃ。 」

そう言い終わると同時に郡司名駿太の怒号が飛んだ

「 そもそも、あれは、あの紡湯の野郎が悪い
  んだ!
  なんで、罪も無いアイツを
  捕まえやがんだ!
  居ても立っても居られねぇ!
  言って話してくる!」

そう言って立ち上がり行こうとする
郡司名をぽっこり腹の呆一は立ち上がって両手を広げて首を横に振った

「 ダメです。
  頭が行っちゃぁ、全てが水の泡です。
  あいつは、俺らより上の上級剣士の身分。
  
  拷問は無いし、ちゃんと身分相応の扱い
  を受けてる筈です。
  だが、頭が捕まればそうはいかねぇ。
  下級剣士には酷い拷問が待ってます。
  あいつは、それを分かってそうしたん
  です。」

十日程前にある事件が起きた。

郡司名が一人通りを歩いていると
周防国の大名 谷増口 紡湯 (たにますくち ぼうとう)を乗せた駕籠(かご)が前からやってきた。
※駕籠 人を乗せて運ぶ乗り物。

郡司名駿太は、下級剣士の家の生まれ、当然、道の端に寄り膝をつき平伏していた。

この当時、身分が高い大名などの顔を庶民や下級剣士さえも拝見する事などない。

剣士の中にも身分がある。
金剣士
銀剣士
上級剣士
中級剣士
下級剣士である。
勿論、庶民よりは、上であるがこの時代は
剣士の中の身分でも露骨な差別が存在していた。

十数年前に百華家が実権を握り、この身分制度撤廃を公言したが、事実上はこうして、身分制度は残っていた。

郡司名駿太が頭を下げて平伏していると。

覗き窓から、外の様子を見ていた谷増口 紡湯 (たにますくち ぼうとう)が駕籠を止まらせて護衛の者に何か覗き窓から指示を出すと
護衛の者が郡司名駿太の前に来た。

「 おう、郡司名貴教恒
(ぐんしな たかのりつね)殿の御子息ではな
 いか。」

郡司名駿太は頭を下げたまま地面を見ながら

「 はっ!」と勢いよく答えた。

「 殿がお前の親父は元気か?と。」

「 はい。元気にしております。」

「 殿からの伝言だ。
  小便貴教恒(しょうべんたかのりつね)
  お前は役立たずであったと。
  そう伝えとけ。だそうだ。」

そう言って、足で郡司名駿太の後頭部を押さえつけた。

昔、郡司名駿太の父親は少しの間、大都へ来た時だけ、谷増口紡湯の護衛を努めた事があった。

その時、下級剣士という身分からか、よく詰(なじ)られていた。

ある日、叱責した後、紡湯が周りの者に指示を出し郡司名駿太の父親に罰としてその紡湯から指示を受けた者が駿太の父親に小便をかけたのだ。
それから上の者の中では、小便貴教恒。
そう呼ばれていた。
勿論、そのような出来事を父親が子に話すはずなどない。

郡司名駿太は、その出来事は知らないが父親が虐められているのは知っていたし、何せ、父親が小便呼ばわりされた事自体、十分な愚弄である。
怒りが頂点に達するのに十分だった。
  
「 もう一度行ってみろ? 」

まだ足で後頭部押さえつけられたまま
震えながら郡司名駿太は、もう我慢ならずに口から言葉を吐いた

「 ん?なんか言ったか?」

郡司名駿太は、刀に手をやった。

もう、どうなってもいい。
父親を愚弄されて黙っていられなかった。
こいつらを斬る!

そこに、たまたま通りかかった。
郡司名駿太の右腕
金風火(こんふうび)の副頭(ふくかしら)がその様子を見つけて走って来た。

走る足音に気付き郡司名駿太が顔を上げた

顔を上げたので、紡湯の護衛の者も後頭部を押さえつけた足が跳ね上がり態勢を崩したその瞬間、副頭は郡司名駿太が止める間もなく
右拳をその護衛の者のコメカミにめり込ませた。

勢いよく紡湯の護衛は、地面に倒れた。
砂埃が舞った。

郡司名駿太は、声を上げた!

「 蓮翔!!」

金風火 副頭 蓮翔。

蓮翔は、この事件がきっかけで牢獄へと投獄される事になるのである。


第十二品 【 片目と片腕と副頭 】終わり

第十三品へ続く。

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