⭐️七宝の塔
⭐️ ー 終章 ー
昨夜から降り続く大雨に道もぬかるむ中、足元は、土だらけ。
ずぶ濡れになりながら、軽快な足音が一定の律動を刻む。
長方形の箱に担ぎ棒が付いていて、一歩一歩と歩を進める度に箱と担ぎ棒がぶつかる音が鳴る。
走る足と吐息が、連動しながら頼まれた手紙を筑前国の吉貝塚(よしかいづか)という町まで飛脚が運んでいた。
跳ね返る濡れた土も普段なら不快感でしかないが、人に届けるという使命感が全くそれを感じさせない。
百蘭は、依頼人から頼まれれば、こうして、
忙しい傍ら、週に二日程、走る。
最初は、この飛脚という副業は、乗る気では無かったが、今では、自分でも分からないくらい、人に届けるという事に没頭している。
最初は、休みながら、走っていたが、今では、十五里くらいなら休まず走って届ける。
※六十キロくらい。
汗と雨で髪の毛もべったりと顔にへばりつく。
少し左目に掛かった前髪を右手の薬指と小指で払い除けた。
暫く、林道を走っていると、少し先の方から
細長く黒煙の様な物が空に向かって伸びていた。
こんな大雨だというのに火事だろうか?
それが、目に入ると百蘭は、黒煙の方へと向かった。
黒煙の原因であろう集落に着くと、民家の殆どが倒壊し、目の前には、倒壊したであろう家の瓦礫の山が渦高く積まれていた。
その瓦礫の山の天辺の中央辺りから細長い黒煙が立ち上っている。
下の方に火が燻っているのだろうか。
まぁ、とりあえず、この大雨だ。
火が激しくなる事は無いだろう。
ここだけでは、なく、あちこちの瓦礫の山から黒い煙が立ち上っていた。
この町が戦に巻き込まれ罪の無い町の人々も
被害を受けた様だ。
それよりも目を覆ったのが、この町の人たちであろう、屍の数々だ。
あちら、こちらで倒れている。
弓矢が刺さって倒れてる者や、刀で斬られた者など、男女、大人子供問わず倒れていた。
夥しい(おびただしい)数の鎧を纏った兵も至る所に倒れている。
百蘭は、その凄惨な風景の中、辺りを見回していると瓦礫の山の陰に隠れ膝を抱え座って泣いている女の子を見つけた。
両親をこの戦で亡くしたのだろうか。
女の子に近寄り百蘭はしゃがみ込んだ。
「 父上や母上はどこ?」
女の子が泣きながら喋るから聞き取りにくい。
百蘭は、もう一度聞き直した。
「 父上、母上は、どこにいる?」
女の子は、汚れた真っ黒な顔を百蘭に向け
「 ちんだ! ちんだ! 」
と泣いている。
多分、死んだと言いたいのだろう。
百蘭は、担ぎ棒を肩から下ろし、背中に背負っていた籠から、傘を取り出して
女の子の頭の上にさして上げた。
「 うちに来るか? 」
泣いていて答えてくれる気配はない。
それから、百蘭が何を聞いても、三歳くらいの女の子は、泣いてばかりだった。
「 雨に濡れたら傘が入るのが道理
らしいぞ。」
そう言ってはみたが三つの女の子に分かるも筈もないかと、すぐ様気付いた。
百蘭は、気づいて無かったが、莉里の妹の菜々
に良く似た女の子だった。
百蘭は、籠から御結びを取り出してその女の子に、差し出した。
すると、その子は、泣きながらも
その御結びを口に運ぶと
「 あっとぅ!あっとぅ!」
と何度も言った。
ありがとうと言う言葉さえも拙いが女の子は、一生懸命、百蘭に向かってお礼した。
百蘭は、孤独と飢えに苦しみ、剣華団の道場に忍び入った時の自分と重ねた。
百蘭は、その女の子の頭に手を置き
女の子に言った。
「 お前の苦しみを俺にも背負わせて
くれないか?」
女の子には勿論。伝わってはいない。
百蘭は、雨の中、その女の子を力強く抱きしめた。
百蘭の後ろ姿は、まるで、龍獅子剣華団の大団長、大蘭の様だった。
⭐️ ー 終章 ー
終わり。
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