⭐️七宝の塔
⭐️第二十八品【この戦況をお前が変えろ❗️】
梅松が退陣となり、龍獅子剣華団五人
河乃内剣士隊六人。
梅松の位置が空いた為に又大が敵陣へと歩を進めた。
そして、奏剣と対峙していた鯉本流馬は、その場を岸万次郎に任せより深く敵陣へと入り込んだ。
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曇鮫新二郎
●梶方俊文
●坂上孫介 ⚪️玄蔵
※一本 ⚪️冠
●又大
⚪️奏剣
※一本●岸万次郎
●鯉本流馬
⚪️壇独
※一本 ⚪️百蘭
🔺
ーーーーー
梶方俊文と玄蔵はまだ、尚、攻防を続け鍔迫り合いの形となっている。
梶方俊文は、顔を近づけて玄蔵に向かって言った。
「 しぶといやろうだ。。
おまえ、一体どこの流派だ?
見たことも無い剣捌きだ。
どこの門下でその剣を習った?」
鍔迫り合いで踏ん張りながら少し力で梶方に押されながら玄蔵は答えた。
「 この剣は、真剣で人を斬って覚えた。
実戦の中で生まれた剣術だ。
流派を問われたらこう答える。」
玄蔵は、そう言うと一気に力を振り絞り全体重を乗せ梶方を押し返すと、少し梶方はよろめいた。
「 百蘭流派❗️
大蘭門下生❗️人斬り玄蔵だ❗️」
そう言うと玄蔵は竹刀を真上から頭上へ一閃
梶方は、やられる!と思ったが、なんとか
竹刀を顔の前に出して間一髪で防御した。
梶方俊文は、玄蔵の剣の気迫の意味がようやく分かった。
〝 剣の技術、剣舞合戦の経験値は
断然俺の方が上だ。
だが、実戦となると場数が違う。。
こいつは、真剣で人を斬り修羅場をくぐっ
てきたんだ。
真剣ならば、すぐに殺されていたかも
知れん。
おれの剣の実力が勝つか。。
それともこいつの修羅場をくぐった
この気迫が勝つか。。〟
玄蔵は一瞬眼孔が光った。
それに危険を感じた梶方俊文は、玄蔵に背を向け一気に自陣へ戻った。
その梶方の背を玄蔵が追いかける。
梶方は、本丸付近のところへ差し掛かった時、振り返り剣を構えた。
玄蔵も急に立ち止まった梶方を見て走る足を止めて構えた。
目の前に、梶方俊文、そして、総大将
曇鮫新二郎。
「 なるほど。
わざと自陣に誘い込んだってわけか。」
そう玄蔵が言うと、梶方と曇鮫は構えた。
奏剣は、冠が放心状態で怯えてるのを見て
岸万次郎の元を離れて、坂上孫介と竹刀を打っては打ち返し、避けては打ち返し、岸万次郎が背後から攻めてきてないか、確認しながら戦っていた。
岸万次郎は、剣華団の陣地に居た。
岸万次郎と鯉本流馬、そして又大は
壇独と対峙していた。
壇独は、百蘭を守る様に立ち塞がる。
ーーー
🔻
●梶方俊文 曇鮫新二郎
⚪️玄蔵
●坂上孫介
⚪️奏剣
⚪️冠
※一本
●岸万次郎 ●鯉本流馬 ●又大
⚪️壇独
※一本 ⚪️百蘭
🔺
ーーーーー
この戦いを見ていた田辺正次郎は、誰に言うでもなく、扇子を仰ぎながら
「 ほーう。面白くなってきましたな。
玄蔵は、敵陣へと誘い込まれ
二対一を作られた。
しかも、ちゃんと、宝塔までは距離を保ち
梶方と曇鮫が線を引いている。
そして、剣華団の本丸前には、岸万次郎に
鯉本流馬、そして又大。
対峙するのは、壇独。
その背後に百蘭。
どう考えても不利だ。
奏剣が坂上孫介を倒し自陣に戻り
壇独たちの援護に回れるか。
それとも、玄蔵が梶方を倒し
総大将まで倒すしか勝つ道はない。
剣華団は、非常に厳しいのう。」
それを聞くと河乃内素哲は、安堵にも似た表情に得意げな口調で
「 もう、勝ったも同然だ!
そうですよね?田辺の親分さん!
がっはっはっはっ。
河乃内剣士隊の勝ちだ!」
そう言うと、鎌谷宗治も鼻の穴を大きく広げて
「 さぁ、とっとと決着をつけてしまえ!
ぶわっはっはっはっ!
それに、奏剣と壇独は負傷していて、
本来の実力は、出せない。。
。。という事は、もう既に勝ちだ。 」
坂上孫介と戦いを繰り広げている奏剣もまた、
蓮翔、壇独と同じく思うように動かない負傷した肘が、痛み出した。
しかも、この傷は刀傷だ。
奏剣は、なんとか応戦するのがやっとだった。
しかも、この坂上孫介の剣は予想外の歪な動きをする。
そういう剣法なのか、それともふざけているのかと思うほど、読みづらい。
奏剣も短刀で肘を刺されてまだ完治してない状況でのこの戦いでだいぶ、体も疲弊していた。
すると、一瞬、奏剣が坂上孫介に振るった竹刀の攻撃が肘の痛みで速度が落ちた。
坂上孫介は、その緩みを逃さなかった。
坂上孫介が素早く放った竹刀が奏剣の左肘を砕いた。
竹刀の弾ける音が剣舞場に鳴り響いた。
ざわめき立つ観衆。
「 河乃内剣士隊一本!」
見届け人が言うと、肘に激痛が走った奏剣は
顔を歪ませた。
そこへ坂上孫介がまた、目にも止まらぬ早さで竹刀を奏剣の頭部目掛けて振り下ろした。
一気にたたみかけてくる。
それを咄嗟に素早く奏剣は竹刀で何とか坂上孫介の竹刀を弾いた。
坂上孫介は、貰った!と確信した剣を防がれ面食らった。
〝 なんなんだ?この奏剣という男は。〟
すると、奏剣は、少し微笑みながら、もう負傷している左手を諦め右手だけで竹刀を持った。
〝 とりあえず一本。
とりあえず一本だ。
大蘭先生に、言われたあの戦法
で、行くしかない。。〟
奏剣は、右手で固く竹刀を握りしめ、身体の中央に構えていた竹刀の剣先を右に逸らして、腰を低く落とし構えた。
坂上孫介も構えた。
お互い睨み合っている。
この奏剣の何を狙っているか分からない空気が
坂上孫介を戸惑わせた。
〝 なんだ、剣先を右に逸らして、
打ってこいと言わんばかりの構え。
迂闊に飛び込めば何かあるかも知れない。
なんだ?何を考えている。〟
奏剣は、一呼吸すると、涼しげな顔で坂上孫介から視線を逸らさず見据えた。
坂上孫介は、奏剣が相打ちを狙っているのだろうと思った。
片手の奏剣に剣の速さで負ける訳が無い、万が一相打ちとなったとしても、奏剣は、既に一本取られている。
相打ちとなれば、次で退陣だ。
しかも、坂上孫介は、まだ一本も取られていない。
勝てる。
勝算しかない。
一気に仕掛ける。
そう坂上孫介は決断し、またもや、読めない歪な動きで揺らりと竹刀を構え一気に下から救い上げるように竹刀をしならせた。
その瞬間、竹刀が体に当たる鈍めの音が響いた。
『 ドフッ! 』
竹刀が坂上孫介の鳩尾(みぞおち)に突き刺さった。
奏剣は右手で坂上孫介に向かい低い姿勢のまま竹刀を伸ばしていた。
坂上孫介は、目の玉が飛び出るくらいの息苦しい表情で悶絶している。
坂上孫介の算段は誤算となった。
自分の方が剣の速度は速いと踏んでいたが、見間違った様だ。
片手といえど、坂上孫介の剣よりも奏剣の剣は
速かったのだ。
観衆の声が波の唸りの様に充満していった。
「 龍獅子剣華団、一本!」
見届け人がそう告げると、奏剣は、大きく竹刀を振りかぶり槍投げのように一気に投げた。
それを見ていた観衆は度肝を抜かれた。
鎌谷宗治は驚きながら
「 何をする気だ?」
と一人呟いた。
この言葉は、この剣舞場に居る大蘭以外の全員の思いであった。
その狙い先は、梶方俊文である。
梶方俊文は、それに気づかず玄蔵と攻防を繰り広げている。
そして、玄蔵の隙を狙おうと曇鮫新二郎が伺い構えている。
そこへ坂上孫介が叫んだ!
「 梶方さん!危ない!」
その言葉に梶方俊文が気づいた時には、
奏剣が投げた竹刀が梶方の膝あたりに衝突していた。
「 龍獅子剣華団一本!」
龍獅子剣華団の応援していた観衆たちが叫び大騒ぎしている。
そして、梶方の膝に当たった奏剣の投げた竹刀は、地面に落ち、一回跳ねて地面を転がっていった。
「 龍獅子剣華団、奏剣!退陣!」
そう言われると、奏剣は、後ろを振り返り
冠に向かっていった。
「 坂上孫介の一本は俺が取った。
あとは、
お前がやるんだ。
この戦況をお前が変えろ。」
奏剣は、自爆覚悟で一本を取る策を取った。
この竹刀を投げて相手方の一本を取る代わりに自身も退陣となる捨て身の策は大蘭から、もし、流れが劣勢になった場合に行えと受けた指示だった。
奏剣は、合戦場から出る時、大蘭の方を見た。すると、大蘭は奏剣を見て笑みを含みながら右拳を上に突き上げた。
奏剣は、その右拳に、大蘭からの
〝 でかした!〟の言葉が聞こえた気がした。
奏剣は、照れ臭さそうに右拳を上げると
合戦場を出ていった。
ー 龍獅子剣華団 奏剣 退陣 ー
冠は、我に返った。そうだ。
俺は龍獅子剣華団の剣士だ。
俺のせいで、梅松さんは退陣させられた。
そして、奏剣さんまでも。
何をやってるんだ。
昔のことに負けたらそれで終わりだ。
昔じゃない、今の僕がどうかだ。
今、勝たなければ、ぼくは、ずっと自分に負けたままだ。
そう言って深く呼吸をして、息を整えた。
坂上孫介が襲ってきた。
それを見ていた百蘭の言葉が場内にこだました。
「 冠!危ない!」
坂上孫介の歪な動きの剣を紙一重で躱し坂上孫介の胴に水平に竹刀を叩きつけた。
剣舞場の観衆たちは、皆、息を飲み沈黙に包まれた。
あの怯えてた冠とは思えない凄まじく速い身のこなしと鋭い剣捌きだったからだ。
剣華団の本陣で見ていた支柱たちも興奮している様だ。
鈴音が叫んだ。
「 冠ちゃーん!やったぁー!」
莉里も叫んだ
「 冠ー!最高ー!」
和代は叫ぶ様に泣いていた。
高みの見物の筈の大汽は驚愕していた。
あ、あの、冠が。。
い、一本取った!
大汽は信じられない様な様子で口をあんぐり開けたまま動かなかった。
「 龍獅子剣華団一本!
合わせて二本!河乃内剣士隊、坂上退陣!」
ー 河乃内剣士隊 坂上孫介 退陣 ー
冠は、初めて自分が試合で一本を取った事に
信じられないといった様子で震えていた。
この震えは今までの怯えから来る震えでは無かった。
この龍獅子剣華団の剣士として試合に出て
一本を取ったという喜び。
そして、この剣士隊の一員として、貢献できた喜びで震えていたのだ。
百蘭がそんな冠に向かって、叫んだ。
「 こっちに援護に来るのか!
それとも敵陣へ攻めるのか早くしろ!」
冠は、その百蘭の声で感慨深げに浸っていた気持ちが冷めた。
そうだ、どうする?後ろに戻り援護するか?
それとも、前線に援護に行き攻めるのか?
背後では壇独が一人で二人相手に善戦していた。
岸万次郎と又大が攻撃を壇独に重ねて行く。
壇独は、肩が疼く中、凄い形相で竹刀を振り回して総大将百蘭に触れさせない。
攻撃というよりも、二人の攻撃を防御する事で一杯一杯の様だ。
だが、守護の中の守護と呼ばれる大立ち回りだった。
岸万次郎の跳躍力を生かし宝塔に跳躍しようとも、百蘭が控える為、この壇独と百蘭の二人を倒す以外にこの合戦に勝つ方法は残されていない。
鯉本流馬は、構えこそしているが、たまに竹刀を振り壇独に攻撃してくるだけで、そこまで攻めてこない。
壇独は、少しその鯉本流馬の動きが不気味に感じていた。
一方、冠は自分がどうすれば良いのか指示を仰ぐ為、大蘭の方を見た。
大蘭は、黙ってこっちを見ているだけで指示を出しそうな雰囲気も無い。
段々と本調子では無い壇独にも疲れの色が見え出した。
又大は、壇独に得意の突きを連続で繰り出すが
何とか辛うじて壇独もその突きを避けるのが精一杯だった。
そこに又大の頭に竹刀が激突した。
又大の頭に激突したのは、背後からの冠の竹刀だった。
冠は総大将の援護を選んだ。
又大は、余りの急な頭部への衝撃に足元がよろめいた。
又大が振り向くともう一発又大目掛けて冠が竹刀を振り翳した。
竹刀がまた、又大の頭部を直撃した。
爆竹の様な音がした後、又大は、膝跨いた。
「 龍獅子剣華団二本❗️
河乃内剣士隊 又大退陣!」
冠の立て続けの河乃内剣士隊二人を退陣に追いやった攻撃に対して剣舞場は、沸いた。
龍獅子剣華団の応援にも熱気が戻ってきていた。
これで、四対四の言い分となった。
観衆も盛り上がりが止む事がない。
冠は、そのまま一気に本丸付近へと戻り
壇独の横に位置する形となった。
これで、自陣では数的有利となる形となった。
ーーー
🔻
※一本 ●梶方俊文 曇鮫新二郎
⚪️玄蔵
※一本 ●岸万次郎 ●鯉本流馬
⚪️壇独 ⚪️冠
※一本 ⚪️百蘭
🔺
ーーーーー
腕を組み床几椅子に座る大蘭が本陣に居る退陣になった剣士、そして支柱たちに言った。
「 見たか?今の冠を。。
奏剣の渡した襷(たすき)をあの 冠が見事に守り切った。
あの弱虫の冠が戦況を変えた。」
そう言うと剣華団の本陣に座っている蓮翔、奏剣、梅松は、微かに笑みを浮かべた。
そして皆、その冠を感慨深そうに見ていた。
ここで
大きな法螺貝の音が鳴り見届け人が声を張り上げた。
「 前半戦終了❗️」
三十分の若き剣士隊たちの前半戦の
戦いが終わった。
あの弱虫の冠が初めて一本を取り、それだけではなく、二人を退陣に追いやった。
幼少期虐待をされ続けられたあの大汽の前で。
それは、冠よりも龍獅子剣華団の皆が心から喜ぶ出来事だった。
あの冠がこの戦況を変えた。
⭐️第二十八品【 この戦況をお前が変えろ❗️】
第二十九品へ続く
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