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⭐️ 七宝の塔




⭐️第二十一品 【 剣舞合戦、不戦敗❗️】

昨夜は大志賀島で地響きが鳴り島全土が揺れた。
 
ここ最近、人々は、頻繁に度重なるこの地震に悩まされていた。

その揺れは建物などを壊す様な程度ものではないが、昔から言い伝えられている言葉

ー 小さき揺れの瑞相あれば必ず大きな※ 雲
  散霧消の大きな兆候現る。ー

※ 雲が散り霧が消え去るように、あとかたもなく消えてなくなること。

という言葉に人々は特別な感情を抱き地震がある度、怯えていたのである。


そんな事を他所に翌夜の
大中洲は、お金を持った富裕層の者たちが遊興し夜の街、特有の賑わいを見せていた。

その賑わう酒場が軒先並ぶ一角に特に高級そうな酒屋の八広(やひろ)という店がありそこへ
河乃内素哲御一行が訪れていた。

二階の座敷に五人が酒を酌み交わしていた。

円の様に囲んで座っている。

中央に河乃内素哲。そして右から

      河乃内素哲

河乃内大汽        田辺正二郎
      
鎌谷長次郎        中田鞠ノ  
                

       鎌谷宗治

素哲の息子そして、鎌谷の息子、そして
田辺一家の田辺正次郎は、親分補佐の中田鞠ノ(なかたまりの)を連れて来ていた。

大汽は谷増口の兵が百蘭と玄蔵を捕り損ねた事に抑えようの無い苛立ちを感じていた。
素哲にもその異様な大汽の苛立ちが伝わっていた。

だが、最早、捕り損ねた今、この剣舞合戦に賭けるしか道は残されてない。

何としても勝たねばならない。
その様な空気がこの座敷にも充満していた。

河乃内素哲は、自信ありげに皆に河乃内剣士隊の状況をお得意の太々しい顔で伝えた。

「 いやぁ〜順調な仕上がりですよ。
  河乃内剣士隊は、必ず龍獅子剣華団に
  勝ってみせますので、親分。
  大船に乗った気持ちでいて下さい。」

すると、田辺正次郎は、徳利(とっくり)
からゆっくりとお猪口(おちょこ)に酒を入れ
一口にクイッと喉に流し込んだ。

右口角から顎に掛けて傷がある顔には感情が読み取れない。
田辺正二郎はゆっくりと喋り出した。

「 うちらは、殺すか殺されるかしか価値を
  見出せん集団や。
  
  両拳会の親分が自害にしろ死んでしもう 
  たのは、龍獅子剣華団との揉めごとでの 
  事や。

  いくら、他所の親分言うても
  一緒に商売やってた仲間や。

  このまま舐められとる訳にもいかんじゃ
  ろ。

  
  龍獅子剣華団がどれ程強い剣術集団やった
  としても、喧嘩師には喧嘩師なりの殺し方
  っちゅうもんがある。

  それをグッと堪えてこうして酒呑んどる
  訳や。
  不味いのなんの。

  あんたの顔を立てて剣舞合戦でケリ
  着けようと賛同しとるんじゃ。

  本当に勝てるんかのう。
  
  アイツらを
  甘く見とったら痛い目合うぞ。」

河乃内素哲の表情から太々しさが消えた。
鎌谷宗治も大きな鼻の穴をヒクヒクさせながらこの酒場の緊張感をひしひしと感じている。

「 河乃内さん。」

そう田辺正次郎が一瞬、素哲を鋭い眼光で睨むと

河乃内素哲は硬直した。

「 万が一や。
  万が一負けたら、、、

  どう落とし前つけてくるんや。
  おう。

  あんたには、金で今まで

  世話になっとる。」

河乃内素哲、鎌谷宗治、そして息子たちは
生唾を飲んだ。

そして田辺正次郎は、また、お猪口の酒を一気に呑み顔を少しばかり歪ませると、静かに言い放った。

「 そんな世話になった人を
  誰が好きで殺さにゃならんのですか。
  頼んどきますよ。」

中田鞠ノ以外、この場にいる一同に衝撃が走った。

河乃内素哲は、今まで少しばかり調子に乗っていた事に気付かされた。
金で色んな力を手に入れ、この町では最早。知らない者などいない有名人。

俠客商売の者たちにも金を工面したり流して来た。
そこから、河乃内素哲はその裏稼業の世界でも幅を利かすようになった。

そして、自分が金では上。
ということは、つまり自分は、この者達よりも力でも上という勘違いに陥り、ここまで来ていた。

だが、目が覚めた。
この者たちは、人を殺す事をも厭わない世界の住人達なのだった。。

暫し緊張感に包まれ沈黙が生まれたなか口火を切ったのが親分補佐の中田鞠ノ(なかたまりの)だった。

「 私も親分の田辺も剣舞合戦は大変好きな
  競技でございます。
  ですが、馬鹿正直に真正面から
  戦うのも。。今回ばかりは。
  こちらの威信もかかっておりますので。

  勝算は少しでも上げた方が良い
  と思います。」

喧嘩師の割には綺麗な顔立ちで堀も深く好青年の様な雰囲気がある。

鎌谷宗治が鼻の穴をより一層広げながら、中田鞠ノに尋ねた。

「 と言いますと?」

「 闇討ちです。」

鎌谷宗治は鼻が千切れるのではないかというくらい鼻の穴が膨らみ驚いた。
息子の長次郎も父譲りの鼻の穴切長な目で驚いた表情を見せた。

河乃内素哲も先程の威勢は鳴りを潜め目を丸くさせている。

息子の大汽も微かに震えている様だ。
大汽はたまらず中田鞠ノに聞いた。

「 だ、誰を闇討ちに?」

田辺正次郎は、誰にも目をくれず淡々と酒を呑んでいる。
徳利の酒が無くなった様で片目で徳利の中の酒を確認している。

その時、中田鞠ノがようやく大汽の質問に答えた。

「 龍獅子剣華団の重要戦力。
 
  壇独、、、奏剣、、蓮翔 。」

そう言うと素哲、宗治、大汽、長次郎一同は、体が固まった。

「 大汽殿、長次郎殿、うちに加勢をお願い
  致したく存ずる。」

大汽は心臓の鳴る速度が速くなるのを感じた。
長次郎も頭にも心臓があるのではないかと錯覚するくらい全身がドクッドクッと血が流れているのを覚えた。

「 何、、殺すわけではない暴徒を装い
  少し痛めつけるだけです。」

夜の空は、真に黒く細長い雲が月を覆い心なしか、不気味な様相を呈していた。
その夜空に蝙蝠(コウモリ)の大群が空を舞い、まるでこれからの龍獅子剣華団の身に起こる事を報せる様であった。


ーーー


壇独、奏剣、蓮翔が見廻りの時に狙う。
ただし、見廻り隊の組み合わせが都合良くこの三人になるのを待つのは難しい為、見廻り隊にこの中の一人でも居れば、見廻り中に一人にさせる策を取る。

もし、運良く三人が揃う見廻りとなる好都合な状況が訪れれば三つの事件を同時に起こさせ、三人を各場所に散らす、そうすれば容易に三人をばらけさせる事が出来る。

その時を狙う。

勿論、今回の闇討ちの指揮は中田鞠ノが仕掛ける。

そうして、着々ともう一段、念には念を重ねて田辺正次郎とも、協議していき中田鞠ノは罠を完成させていったのである。

だが、これは中田鞠ノの取り越し苦労に終わる。

いや、むしろ絶好機が訪れたのである。

なんと、ある日の夜の見廻り隊。

その見廻り隊は

壇独、奏剣、蓮翔だったのである。

しかし、三人だとやはり厄介な相手には間違い無いので、三人をばらけさせる策を取った。


ー 夜 ※亥の刻:十時 大中洲 ー
※( 午後 9時~午後11時)

壇独、奏剣、蓮翔三人が連なり歩いている。

壇独が二人に唐突に話を振った

 「 冠の成長ぶりどう思う。」

それを聞いて奏剣は自らの思いを述べた

「 凄まじい成長だと思う。
  隠れていた、身体能力に蓮翔とまでは
  いかないが、あの歳であの剣捌きは、
  中々出来るものではないな。
  だが、少し心がまだ弱い。
  それを解き放った時、何処までの高みまで
  行けるかが楽しみだ。」

奏剣がそう自身の見解を言い終えると、蓮翔も意見を述べた。

「 心の調節がもし出来る様になれば
  もしや、百蘭程の身体能力を発揮するか 
  も。」

二人の織師屋冠(おりじやかん)に対する思いを聞くと壇独は、
それらを噛み締めながら自分の見解を話した。

「 天才剣士と呼ばれた蓮翔。 
  これから次第ではあるが
  それに匹敵するかも知れん。。」

そう言うと笑みを溢しながら

「 これから、龍獅子剣華団、楽しみだぞ。」

そう言って、豪快に笑った。

奏剣はその笑いっぷりを見て、益々、大蘭先生に似てきたなと思って、笑った。

その笑顔を遮るように、町の者が三人の元へ走って来た。

息は上がり何やら慌てている様子だ。

「 どうしました?」

と壇独が慌ててるその男に問い掛ける。

「 下民人(げみんと)の集落向こうの丘で
  暴漢が暴れてて!」

そう唾の飛沫を飛ばしながら町の者が言うと
壇独は

「 分かりました!
  案内してください!
  奏剣、蓮翔、後は頼んだ。」

そう言って壇独は、その町の者と下民人の集落へ急いだ。

奏剣と蓮翔が見廻りを続けていると、今度は、煌びやかな着物を着た女性が走って奏剣と蓮翔の元へやってきた。

「 お店で呑んで暴れてるお客がいるんです!」

奏剣はすぐさま

「 場所を案内してください!」

奏剣と蓮翔は、その煌びやかな着物を纏った女性が案内する方へ向かった。

すると、目の前で何やら男たちが揉め事を起こしてるのが目に入った。

「 殺すぞてめぇ!」

そう言って、一人の男が短刀を懐から出した。

「 上等だぁ!コラ!」

短刀の男に対峙していた男が腰に差している刀を抜いた

周りにはその二人の仲間と思われる奴らが野次を飛ばしている。

この中に頰被りした大汽や長次郎も混じっていた。

奏剣は、少し迷ったが、放っておくわけにはいかない。

「 蓮翔!この女性の方について行ってくれ。
  俺は後から向かう!」

そう言って奏剣は、目の前の揉め事を起こしている群れに飛び込んで行った。


これで、三人は各自、散りばめられた。

後は事故を装い、剣を使えない様な大事な急所を痛めつける。

この中田鞠ノが考えた策は見事に成功を収めた。


ー 壇独は、丘の方から落石してきたのか、
  それとも何処から飛んできたのか
  岩が肩に直撃し、右肩を負傷 ー

ー 奏剣は争い事を止めてる最中に短刀が
  当たり、左肘を損傷 ー

そして。蓮翔も女性の後を追い向かっている最中に、闇夜で何者かに木刀で左膝を砕かれ
左膝を損傷 。

まんまと、龍獅子剣華団の重要戦力
三人が負傷を負わされたのである。

ーーー

翌日、壇独、奏剣、蓮翔は怪我で安静の為、稽古には不参加となった。

大蘭は、この三人の負傷にきな臭さを感じていたが、証拠も何もなく、手立てもないまま、剣舞合戦の日が迫っていった。

稽古が一旦終わり小休憩となった道場で板張りの床にみんな仰向けに寝そべった。
過酷な稽古が続き皆、体が悲鳴を上げていた。

大蘭は一人立ってその様子を見ている。

冠が息が上がっているせいで、途切れ途切れの
呼吸で大蘭に言った。

「 大蘭先生。はぁ。はぁ。
  壇独さんたち、はぁ。はぁ。
  剣華合戦に間に合いますか
  ね。はぁ。はぁ。」

大蘭は険しい表情をして冠に言った

「 恐らく三人は、厳しい。
  皆には申し訳ないが最悪の場合も考えて
  おけ。」

百蘭が仰向けから上体を起こして聞いた

「 最悪の場合って?」

「 剣士の人数が揃わなかったら
  試合にならん。
  
  俺たちの不戦敗
  敗北だ!」

玄蔵も仰向けから上体を起こした

「 よりによって、剣舞合戦の間近に
  三人が怪我だなんて。」

それを聞いた梅松も抑えきれない感情を吐露した

「 皆んなで猛稽古毎日やってきてさ、
  ようやく、ようやく皆んなで
  結束して来て、いける!って
  なってきたって時によぉー。

  くそっ!」

冠が真剣な表情になり、両膝を抱えて座りながら皆に言った。

「 ぼくたち、残った剣士は。
  目の前の稽古に専念するだけです。

  信じて回復を待ちましょう。」

一同は、これがあの冠なのか?というくらい、逞しい冠に驚いていた。

壇独は部屋で安静にしていた。
布団のうえで天井の板の木目を見ながら考え込んでいた。

あと、二週間ばかり果たして河乃内剣士隊との
剣舞合戦に間に合うのだろうか。
龍獅子剣華団の副団長として、そして剣士隊の主将として、情けない思いでいっぱいになった。
肩はまだ真紫に鬱血していて、腫れ上がっていて痛みが走る。
このままだと難しい。

壇独は天井を見つめながら大きく深い溜息をついた。

奏剣も、自身の部屋で竹刀を右手で持ちながら
握られた竹刀を一点に見つめている。
右肘は白い布で分厚く巻いて首へと固定してある。

俺だけならまだしも、壇独、そして蓮翔さえも
試合に間に合うか分からない。
大幅な戦力減少になる。
間に合うかは天のみぞ知る。
祈り怪我の快方を待つしかない。

奏剣は、ゆっくりと目を閉じた。

蓮翔は、道場前を杖をつきながら歩いていた。
一刻も早く治して稽古に戻らないと間に合わない。
安静にしとかなければならないのに。
じっとしてはいられなかった。

一週間も休めば稽古で調子を上げてた体の状態が少しずつ戻りだす。
決戦に向けて調節していた体の状態を絶好調に持っていく為に管理していたが、段取りが全て崩れた。
剣の稽古をやりたくて疼、疼している。
焦りから独り言が溜息混じりに漏れた

「 この左膝さえ早く治れば。」

少し、膝に痛みを覚えた。

「 ちくしょう。」

その言葉が虚しく空中に吐息と一緒に浮かび
空に溶け込んでいった。


稽古が終わり百蘭が裏庭で薪割りをしていると、梅松がやってきた。

「 どれ、どれ、俺もいっちょ手伝うか。」

そう言って百蘭の横にあった丸太の上に薪を立てると
斧を握った。

百蘭は梅松に

「 体。だいぶ良くなったみたいだな。」

そう言うと

「 あぁ、不死身の梅松とは俺のことよ。
  以後お見知り置きを!」

と軽快に返した。

百蘭は鼻で笑って

「 出た梅松節。」

と独り言の様に呟いた

暫く二人で薪割りをやっていると、梅松がふと百蘭に口を開いた

「 なんだかなぁ。
  俺はお前とどっかで会った事あるんだよ
  なぁ。」

百蘭は不思議そうに作業の手を止め梅松を見つめながら聞いた

「 どこで?」

「 それが、分かんねぇんだよ。
  お前は、元々、大都に居たんだよな?
  ずっと大都に居たのか?」

「 いや、あちこち転々とはしてた。」

「 ここの町は、初めて来たのか?」
  
 「いや、数年前、大都に出る前はここに
  居た
  時もある。」

「 西都崎町にか?」

「 あぁ。」

「 何しに?」

「 特に。流れ着いただけだ。」

「 お前、自分が零って呼ばれてたのは
  知ってたのか?」

「 なんとなく。」

「 なんでお前は、獣の零と呼ばれるくらい
  暴れ回ってたんだ?」


「 爺ちゃんの教えを守って。」

「 爺ちゃん?
  あ、お前の?

  暴れ回る教えってどんな教えだよ。」

「 悪を殺せって。」

「 え?悪を殺せ?」

「 あぁ。」

「 お前の爺ちゃん怖えな!なんか!
  なんだそれ、てゆうかよ、そんでなんで
  お前が有名な悪党として名が知れるんだ
  よ。
  百蘭がその
  獣の零と呼ばれる悪党に成り下がってたじ
  ゃねぇか。」

「 うーん。確かに。」

「 何人殺したんだ?」

「 殺したことはないよ。」

「 え?嘘だろ?教え守ってねーじゃねぇ
  か!」

「 嘘じゃない。
  ま、暴れ回ってたのは真実だ。
  一つだけ真実が分からない事があるとす
  れば、この世で誰が悪で誰が悪じゃないか
  って線引きだけだ。」

梅松は、キョトンとした顔で百蘭を見て

「 ふーん。」

と気のない返事をした。

「 よし、疲れたから
  あとの薪割りお願い。」

そう百蘭が言うと急に梅松は不服な顔をして

「 いや、お前の当番だろが!
  それを、この優しい梅松っちゃんが
  可愛いびゃくちゃんの為に人肌
  脱いでやってんのに、そらないぜ!」

百蘭は、その言葉を無視して

「 じゃ。」

と言うと早々と切り上げて行った。

梅松は、その背中に向かって

「 おい!いや、待てよ! 」

消えた百蘭の方向にまだ梅松は目を向けたまま呟いた。

「 ま、お前が悪では無いってことは。
  真実だと思うぜ。

  よし、薪割りしよー!
  可愛いびゃくちゃんの為だ!」


梅松は、この龍獅子剣華団に来て救われた毎日が楽しくて仕方なかった。

稽古など色々と忙しいが充実してるし、天下統一合戦にいつか出るという夢も出来た。


ただ、やはり、梅松は百蘭と何処かで会ってる気がしてならないのだった。

何処だろ?


⭐️第二十一品 【 剣舞合戦、不戦敗❗️】

第二十二品は続く。。

  

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