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⭐️七宝の塔



⭐️第二十二品 
【 捨てられたゴミ屑。拾われた財宝 】


今日の夜の見廻り隊は、玄蔵、梅松、冠。

本来なら壇独、奏剣、蓮翔のいずれかが一名でも入るはずだったが、負傷している為、この三人が初の組み合わせとなった。

玄蔵は、大蘭から便りを認める紙を頼まれ、一時、使いの為に隊を抜け買い出しに向かった。

なので梅松と冠、二人で見廻りをする事になった。

暫く光安通りを見て歩き大中洲へと、やってきた。

そこへ、たまたま、女を連れた大汽が腕を組んで前から歩いてきた。

冠は、その大汽を見つけると、一瞬息が止まった。

立ち止まったまま動けなくなり
狼狽えた。


鼻が低くなって少し顔が変わってるが。。

。。間違いない!

。。。あの人だ!!


大汽も目の前に居る冠に気づいた。
今まで、冠に会わずになんとか過ごしていたが、とうとう会ってしまった。

こんな時に会うなんて。

と思ったが既に遅い。

もう、今更、隠すことは無い。

明後日に控えるこの剣舞合戦で河乃内剣士隊が必ず勝ってこいつらをこの町から追い出す。

それが大汽の魂胆だ。

だからなのか、もう開き直ってもいた。


冠は、その大汽の顔を見るなり怯えた。
全身が寒気で覆われて吐き気も催してきた。
駄目だ力が入らない。

酒場を見たりして余所見をしていた梅松が
そのただならぬ様子の冠を見て側へ寄ってきて、声を掛けた。

「 冠!どうしたんだい。一体?
  おい。」

そうやって、冠の両肩に梅松は両手を添えた。
そして、前を見ると河乃内素哲の息子の
大汽が居た。

梅松は暫く大汽の顔を呆然と見つめ
急に叫んだ。

「 あっ!!思い出した!!」

冠は震えながら梅松の顔を見た。
大汽も怪訝そうに梅松を見た。


「 百蘭に俺は会ってる!!」


ーーーー

ー 五年前 ー  夜の大中洲

ー 大汽二十五歳。


「あいつ死んでんじゃねぇか。
  お滝(たき)!」

「大汽さん、やり過ぎなんだもん。」

「あいつが悪いんだ。全く言うこと聞かねぇ
 し。第一、おめぇの躾が悪いんだぞ。」

「 違うのよ。誰の子か知らないけど
  その親の血が悪いのよ。
  一歳で拾った時には分からなかったわ。」

「 しかも、あいつガキの癖に
  背中に入れ墨が
  彫ってある。
  ろくな親じゃ無かったんだぜ。
  きっと。」

「 本当、気味が悪いったらありゃしない。」

「 第一、なんで、あんなガキ引き取ったん
  だ。」


「 私が住んでる所じゃ子供が居ると何やら
  と恩恵受けるのよ。
  食料に困れば優先的に分けて貰えるし。

  雨風凌げる家まで用意してくれるんだから
  あの家だって汚くてオンボロだけど、あの
  ガキが居るから住めたんだから。

  ま、大汽さんの言う通り
  あんな薄汚いゴミ屑、今となっちゃ拾う
  んじゃなかったわ。」

「 本当だよ。
 そのせいで、俺が毎日、機嫌悪い。

 お前に似てねぇし、その誰か知らねえ親の面
 影があるから
 無性に腹立ってくんのかな?」

この二時間ほど前、この女の家で、この男は、
女の連れ子の七つの幼い男の子に対して、暴行を加えた。
この二人がお互いに知り合い惹かれあったのは、半年前。

それを境に男は女の家に転がり込んだ。
それからというもの、その女の息子を男は疎ましく思い、その男に恋するこの女も息子が段々と邪魔に思えてきていた。

男と女は
数ヶ月もの間、食事やろくに水も与えず
人間の様な扱いを一切しなかった。

そして、ゴミ屑の様に川に捨てたのだ。

辛気臭い顔をしていた大汽がお滝に仕切り直しと言わんばかりに

「 よし、あそこへ行こう!
  八広!(やひろ)で呑み直しだ!」

「 大丈夫なの?あそこ高いんじゃ。」

「 バッキャロー。俺を誰だと思ってる!
  あの河乃内素哲の息子だぞ!

  金はあんだ!さぁ、行こうお滝!」

そう言うとお滝は、大汽の腕に自分の腕を絡ませて、うっとりした表情をした。

この酔いどれの男女は、これからまた、酒を煽りに向かおうと足もおぼつかないまま歩いてると、二人の前に人影が現れた。


暗くて顔は見えない。


男が叫んだ

「誰だ?てめぇ!」

すると、その人影は
獣のような唸り声を上げた。

男は狼狽したように防衛本能のまま、また叫んだ

「やんのか?なんだよ!てめぇは!」

「やだ、怖い!え、なに?」
女も狼狽しだした。

そこへふらふらと町を歩いていた梅松が何やら騒がしい声に気付き物の影から路地裏を覗いていた。

その人影は一瞬男女の目の前から消えた。

「あれ?どこいった?」 

「え?怖い!なに?どこ?」

空で音がした。

危機を感じた二人は一斉に上を見上げた
その人影が物凄い跳躍力で天に舞い、こちらに襲いかかってきた!

「うわ!」

男の声。

人影は、右足で男の左胸を思い切り蹴り当てた。
息が止まり苦しむ男。

電光石火の速さで左拳で男の右脇腹を殴り、続け様右拳を男のみぞおち目掛けて突き上げた。

いきなりの苦しみに何のことか分からないまま、よろめき、男は膝をつきそうになったが。

着物の襟をすぐさま持たれ、倒れさせてもらえなかった。そう思ったのも束の間、後ろ回し蹴りを顔面に食らわせられた。

男は後方に仰向けに勢いよく倒れた。

そこへ人影は馬乗りになり拳を振り上げ続けた。

血飛沫が止むこともないくらい殴り続ける。

男は血塗れになりながら、その馬乗りなった人影の着物を必死に掴んでいたが、着物は、元々、ボロボロで薄くやがて力尽きたと同時に掴んでいた人影が纏っていた着物も破け、男は気絶した。

女はこの世の地獄を見たように泣き叫んだ。

梅松がその様子を覗いてると人影がこっちへ向かって歩いてきた。
急いで横にある、※大八車(だいはちくるま)に隠れた。

※荷物を乗せる人力車

路地裏から出てきた、その人影が月夜に照らされて容姿が露わになった途端、梅松は驚いた。

小さな少年だった。

そして上の着物はボロボロで上半身部分の着物のは破れて背中が見えた。

入れ墨が彫ってあった。

一瞬だったが、梅松は何がなにやら分からないまま、身震いした。

ーーー

あれは
百蘭だ!!

間違いない。

梅松は会っていた。

梅松が思い出して現実に戻った。

すると大汽が冠に歩み寄り
冠に向かって卑劣な言葉を吐いた。

冠は下を向いたまま震えている。


「 よぉ。ゴミ屑。

  もしかして、また拾ってもらって
  生きてんのかぁ?
  
  とっくに
  死んでると思ったぜ。 」

大汽は、あの夜に冠を麻袋に詰め川へ捨ててから死んだと思っていた。
だが、それから二年ほどくらいだろうか、定かではないが、この町で龍獅子剣華団として居る
冠を見たのだ。

一目で分かった。

冠だ!

大汽は、それ以来、なるべく会わない様にしていた。

「 なるほど!そういうことか!」

梅松は得意げにそう言い放った。

大汽は左眉をあげ機嫌悪そうな表情で梅松を見た

大汽が連れてる少し派手目の女は
ずっと不貞腐れたような顔でいる。

梅松は言った。


「 お前がこの可愛い可愛い冠ちゃんを
  虐めてた男か?

  この冠の顔見りゃいくら阿保な俺でも
  分からぁ! 」

冠の生い立ちは龍獅子剣華団の全員が知っていた。

「 こんな近いやつだったとは知らなかったが
  まさか、おめぇだったとはな!
  てことは、この女が冠の母親か?」


そう言って梅松は、冠の顔を覗いた。

冠は下を向いたまま、首を横に振った。

「 なんでぇ?違うのか?

  大汽!おめぇも取っ替え引っ替え
  忙しいやつだな!
 
  男、梅松、事情を知っちゃあタダで返す
  訳には行かないな。」

そう言うと梅松は拳の骨を鳴らした。

大汽は怯えたじろいだ。

連れている女も怖がりだした。

梅松は軽快に喋るが目が恐ろしく大汽を睨んでいる。

梅松は袖に引っ張られる力を感じ袖を見ると
冠が思いっきり手で震えながら梅松の袖を握っている。

「 梅松さん。
  駄目だよ。」

下を向いていた冠がゆっくりと顔を上げて梅松を強い眼差しで見据えた。

梅松は、冠の見たことの無い決意の現れにも似た目を前に押し黙った。

「 僕らには剣舞合戦があるじゃないですか。

  こういう無駄な報復や血を無くす為の
  剣舞合戦です。

  玄蔵さんだって、人斬りと言われて生きて
  きて、この剣華団に出会った。

  梅松さんだって俠客商売として生きてきて
  死に至ってもおかしくない大怪我から
  九死に一生を得て剣華団という素晴らしい
  仲間に出会った。

  勿体ないです。

  僕らには、夢がある。

  剣舞合戦で勝負しましょうよ。

  ね、梅松さん。」

冠は目に涙をいっぱいに溜めていた。

梅松は、我に返って、大汽に言った。

「 へへへーーん。

  そうだった。そうだった。

  俺らには剣華合戦があるんだった。

  命拾いしたな。

  おい、お前が捨てたこのゴミ屑。」

そう言って梅松は、冠の頭の上に手を乗せて

「 すっごくお前よりも頭良いぞ!
  聞いた?
  まだ十二歳だぜ!

  しっかりした、物の考え、物言い。
  真似できるかい?

  楽しみに待ってろ!

  俺が河乃内剣士隊そして、お前の
  悪の命をぶった斬ってやる!」

大汽は、明らかに動揺しながら叫んだ。

「 何を抜かす!
  壇独も奏剣も蓮翔も居ねぇ
  剣華団に何が出来んだよ!」

梅松は激昂して吠えた。

「 おめぇの腐った目には映らねぇのか!

  だから、おめぇは。いつまでたっても大馬
  鹿なんだよ!

  ここにいんだろ!」

そう言って梅松は、冠を側へ抱き寄せた。

「 この立派な剣士!

  冠がよぉ!!」

冠は驚いて梅松の顔を見上げた。

大汽は、もう言葉も浮かばず狼狽えるばかりで、もうここに居る意味もないとそう思って、女を促し、さっさとここを去る事にした。

その背中を見つめながら
梅松は言った。

「 おめぇが捨てたこのゴミ屑!

  目利きが出来ねぇ、お前には
  分からんだろうが、
  大きな財宝だったぜ!

  馬鹿な事したな!」

梅松は力が篭って、強く強く冠の肩を抱いていた。

「 い、痛いよ。梅松さん。」

冠がそう言うと

梅松は笑いながら

「 すまねぇ!すまねぇ!
  熱くなっちまった!」

それを聞くと冠も笑った。

二人お互い顔を合わせて笑い合った。

冠にはもう大切な仲間がいた。

過去の不幸な漆黒の出来事も今を輝かせる事で
すべてが明るく照らされるのである。

大蘭の使いが終わりようやく玄蔵が二人の元へ合流してきた。

「 ん?何かあったんですか?梅松さん。」

二人の和気あいあいの様子に尋ねた

「 いや、ちょっとな。

  玄蔵、お前、百蘭に助けられて今が
  あるんだろ?」

玄蔵は急にどうしたんだろうと思ったがすぐに返した

「 全く持ってその通りです。
  百蘭様が居なければ俺は居ません。」

それを聞くと大汽は真ん中で冠と玄蔵の肩を抱き寄せてから、冠に言った。

「 不思議なもんだなぁ。
  
  冠。」

冠はよく分からず梅松の言葉を待った。


「 お前も百蘭に助けられてるぞ。」

「 どういことですか?」

意味が理解出来ず冠が言うと


梅松は


「 いや、多分な。
  多分。

  ま、あいつは、悪人ではねぇってこっ
  た!」


三人の今宵の見廻りは、冠と、梅松に取って
とても重要な日になった。

過去を半分背負う事で、いや背負ってもらう事で人間は、何事も乗り越え強くなれるのだ。

冠の顔は何処の、財宝にも、負けないくらい
輝いていた。

⭐️第二十二品 
【 捨てられたゴミ屑拾われた財宝 】
終わり

第二十三品へ続く。。

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