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⭐️七宝の塔

⭐️第二十七品【未来を見据えた蒼い目の男】

河乃内剣士隊の岸万次郎は玄蔵の頭上を超え 奏剣、壇独、蓮翔が連なる中へ攻め入った様に思ったが、その三人さえも一気に飛び越え本丸の百蘭へと襲い掛かった。

百蘭にも匹敵する跳躍力で瞬く間に敵の本丸へと到達した事に観衆は勿論、剣華団の本陣に居る支柱達は、驚きを隠せなかった。

岸万次郎は、竹刀を大きく振りかぶり、百蘭の頭上を目掛け突っ込み叫んだ

「 総大将の首獲ったりー!」

百蘭は、岸万次郎が振りかぶった竹刀を体ごと躱し避けた

竹刀を躱された、岸万次郎は、本丸に着地するや否やまた、身を屈め一気に跳ね上がった。

壇独は、後ろを振り返り思った

《 やられた!一気に宝塔の旗を獲りに行きや
  がった! 百蘭を獲りに行くの
  は、瞞し(まやかし)で、最初から
  旗を一気に獲るつもりだったのか!》

壇独は、焦りの表情を浮かべたが既に遅しどうする事も出来なかった。

岸万次郎が空高く跳ね上がり手を伸ばし宝塔の旗まであと少しとなった時、岸万次郎の眼前に百蘭が現れた。
百蘭も負けじと跳ね上がっていた。
百蘭も跳躍力なら負けてはいない、目の前に現れた岸万次郎は度肝を抜いた。

何故なら、この身軽さと跳躍力に今まで右に出る者など見たことなど無かったからだ。
だが、目の前に百蘭が高く跳ね上がっている、、しかも、自分を遥かに上回る跳躍力で岸万次郎の跳躍の到達点より
上半身分ほど高く上がっていた。

観衆から感嘆の声が漏れた

「 おおおおぉーーー!」

河乃内剣士隊の主将、雲鮫は驚愕した。
あの、岸万次郎よりも遥かに飛べる人間が居るという事実を初めて突きつけられたからである。
河乃内の剣士隊の皆、河乃内素哲や鎌谷など
も高みの見物から一転、衝撃を隠せなかった。


岸万次郎は、これは、旗を獲るのは無理だと諦め、旗を獲らせまいと両手を上げ防御している百蘭の下半身に隙があるのを見逃さなかった。

百蘭は、旗を守る事に集中して、高く飛んでいる為、竹刀を握る右手も上に上げていた。

〝 隙あり 〟

岸万次郎は、百蘭の脛を目掛けて竹刀を当てた
竹刀があたる竹の衝撃音がした。

剣華団の剣士はその音を聞いて

〝 総大将がやられた!〟

と思った。

鈴音は思わず叫んだ

「 百蘭ー!!」

見届け人が叫ぶ

「 河乃内剣士隊一本!」

「 龍獅子剣華団一本!」

剣舞場の観衆がどよめいた。

龍獅子剣華団が一本?

岸万次郎が百蘭に出来た下半身の隙の部位
脛に竹刀を当てていたが、百蘭は咄嗟に右手に持った竹刀を岸万次郎の胸へ突き刺していた。

岸万次郎が空高く飛んで旗を守る事に集中して出来た百蘭の下半身の隙を見つけ瞬時に攻撃したのに際し、なんと百蘭はそれを瞬時に反応して岸万次郎が脛に攻撃した際に隙ができた上半身を見つけ竹刀で岸万次郎の胸を突いていたのだ。

岸万次郎のこの素早い判断の攻撃の後のこの凄まじい反撃の判断。
岸万次郎の倍であろう身体能力、反射神経、速度が無いと対応出来ない。

岸万次郎の身体能力、そして河乃内剣士隊の一気に本丸に攻めるこの奇策に百蘭を総大将として宝塔の下に配置したことは、大蘭の読みが見事に的中する形になった。

百蘭の跳躍力は総大将ながら鉄壁の防御にもなる。
そう、容易く旗は獲れない。

二人は落下し、何とか地に着した。
岸万次郎は、胸を凄い勢いで突かれた為、息が出来ず。
苦しんだ。

百蘭は、着地してから、すぐ様、その岸万次郎に突っ込んだ。
攻撃の手を緩めない。

「 うぉらぁぁああー!」

岸万次郎は、悟った。

〝  このまま、この、本丸に居るとやられ
   る!

   戻らないと!!
   仕切り直しだ! 〟

岸万次郎は、踵を返し驚くべき速度で河乃内の陣営に戻ろうとした。

百蘭が剣華団の剣士達に叫ぶ

「 潰せ!まだ、一本だ!生きて返すな!」

剣華団の剣士達は、敵陣に戻る前に岸万次郎を叩けば二本となり退陣させられる。
そうすれば、一気に五対七と圧倒的有利となる。
壇独は、横を駆け抜ける岸万次郎に対して、竹刀を横から思いっきり振ったが、身軽に避けられた。

そのまま突っ切ると目の前には奏剣、が出てきた、その右横には蓮翔が通せんぼの様に立ちはだかる。

前線は、梅松、玄蔵、冠が河乃内剣士隊の岸万次郎への援護に行かせまいと食い止めている。

        ーーー
         🔻


       ●鯉本流馬
     
     
   ●坂上孫介      ●又大

          
        ⚪️玄蔵
  
   ⚪️冠         ⚪️梅松


    ⚪️奏剣     ⚪️蓮翔

   ※一本 ●岸万次郎
     
        
         ⚪️壇独


   ※一本   ⚪️百蘭

          🔺
        ーーーーー

莉里は、この試合を見ながら和代と鈴音に言った

「 正に袋小路だね。
  敵陣に一人でこんなに囲まれたら
  どうしようもないわ。」

そう言うとそれを聞いていた大蘭が口を開いた。

「 敵の兵を切り崩す前に、一気に総大将、
  敵の本丸の旗を獲りに行く奇策は
  一見、手っ取り早く見えるが、それだけ
  危険も孕んいる。
  だから、中々、この奇策を講ずる者は
  いない。」

鈴音が大蘭に向かって言った。

「 じゃあ、なんでそんな賭けの様な
  奇策を所川大団長は、、?」

すると大蘭は合戦場から目を離さぬまま

「 その奇策の危険度を回避させる
  埋めさせる、何かがあるからだ。」

そう戦況を見つめながら冷静に答えた。
剣舞合戦場では、岸万次郎が囲まれている。
前も敵、背後も敵という状況に置かれ睨み合いが続いていた。

一気に、奏剣が岸万次郎に攻撃を仕掛けた。

岸万次郎は、迎え撃とうと竹刀を構えた。

そこに凄い速さで何者かが奏剣と岸万次郎の前に飛び込んできた。

奏剣と岸万次郎の間に砂埃が舞った。

身を屈め右足を畳み左足を前に投げ出し地面を滑り込んで来た男は砂埃の中、二人の間で立ち上がると高身長の男が二刀流で構える影が見えた。

砂埃が治りその男の姿が露わになった。

鯉本流馬。

青い目に癖毛の高身長の男。

優しげな顔立ちである。

「 中へ一人は都合の悪かばってん、二人なら
  少しは違かかろうもん。」

そう鯉本流馬は言うと爽やかに笑った。

剣華団の剣士達は、二刀流に驚いた。
剣舞合戦に置いて、竹刀を何本持とうが問題は無い。

竹刀二本を持つ者が有利では無いかという意見もなきにしもあらずではあるが、そう簡単な事でもない。

一本の竹刀を扱うのも相当な鍛錬がいる。
増してや、一流の剣士しか集まらない天下統一合戦では尚更である。
地方などの予選では二刀流も見掛けるが未だ
天下統一合戦になると、二刀流で成功した者は居ない。
それだけ、反対にやられる危険性もある。
しかも、竹刀を両手で持つよりも片手で持つ方が不安定にもなる。
攻撃の威力も半減するし、相当な握力が無いと
竹刀は手から離れる。
地面に落ちれば即退陣である。
それを鯉本流馬は、二刀流という剣法を選んでやっているのである。

剣華団の敵陣へと足を踏み入れた者二人。
一人は岸万次郎。
そして、只今、一人また剣華団の自陣に現れた。


二刀流。鯉本流馬である。

剣華団の前線には、玄蔵、冠、梅松が居た。

だが誰一人とも鯉本流馬に気づかなかった。

一気にこの敵陣へと入り込んで来たのだ。

いつの間に。。。


それを剣華団の本陣で見ていた大蘭が感心した様に

「 なるほど、敵陣の中に一人は圧倒的不利だ
  が二人となると戦況は変わる。
  ま、不利には変わりはないが。」

「 じゃ、まだ大丈夫ってことよね?父上。」

鈴音がそう大蘭に尋ねると

「 だが、これから、中にもう一人増えると、、

  戦の盤はひっくり
  返るやも、知れん。


  剣華団の宝塔に近い者が三人になるという
  事だからな。」
  
「 え?」

そう言って鈴音は黙るとまた、真っ直ぐ合戦場へ視線を戻した。

鯉本は奏剣の頭部に向かって水平に竹刀を一振りした。
それを奏剣は、自身の竹刀で捌き防御した。

今度は、壇独が岸万次郎へ竹刀を真上から振り下ろすと、それを岸万次郎が横に身を逸らし避けた

壇独の竹刀が地面に当たり凄く力強い音がした。

壇独は、その衝撃で肩に激痛が走った。

《 くそ。まだ、駄目か。
  これは、時間の問題かも知れん。》

壇独の負傷した肩は、完治には程遠いもののようだ。

岸万次郎は、壇独の腕力、いや、剣力に少し怯んだ。

《 こ、この大男。なんて馬鹿力。。
  当たったら死んじゃうかも。。》


蓮翔が背後から鯉本流馬に竹刀を脚に目掛けて、振り抜くと鯉本流馬は、飛び上がってその竹刀を避けた。

すると、鯉本流馬は、すぐ様、威嚇するように、両竹刀を奏剣と蓮翔に向けて構えた。

緊迫した時が流れた。

蓮翔は、鯉本流馬の恐ろしさに気づいた。

《 こ、こいつ。。馬鹿強ぇ。
  なんなんだ?この男。。。》

奏剣も鯉本流馬のその強さに気づいていた。

《 この男は、、一体。。
  剣華団のどの剣士よりも強い。。
  迂闊に飛び込めない。》

「 なぁ、君たち。
  君たちは、凄い剣士になるばい。」

鯉本流馬は、爽やかな笑顔で急に奏剣と蓮翔に語り掛けた。

「 おれは、十八歳たい!
  君たちは、おれより歳下やろ?
  君らは、可能性の塊ばい。
  うん、目が赫々と燃えとるもん。
  こりゃ俺も頑張らな。
  うかうかしとられんねぇ。」

鯉本流馬は、どこかこの試合を楽しんでる様だ。嬉しそうに笑っている。

だが、この男に誰もが突っ込む事が出来ずにいた。

蓮翔が鯉本流馬に攻撃を仕掛けた!
目にも止まらぬ素早い蓮翔の剣を鯉本流馬は、左の竹刀で捌いている。

どちらも、凄い攻防に剣舞場は息を飲んだ。

右の竹刀で奏剣を威嚇している。
これが、隙が無く奏剣は蓮翔の援護をしたいが、中々飛び込めない。

「 わっはっはっは。
  強いなぁ君!」

蓮翔は攻撃を繰り出しながらむっとした表情を浮かべて

「 お喋りやめねぇと、やられるぜ。」

鯉本流馬は、この甲斐蓮翔という男が
いずれ、表舞台に躍り出るべき剣士だ。
と悟った。
と同時に胸が疼く様な嬉しさも感じた。
そして、甲斐蓮翔というまだ十四の若き底知れるぬ才能に末恐ろしさを感じた。

蓮翔は、どんだけ素早い剣の攻撃を繰り出そうが全て裁かれる事に段々と苛立ちを覚えてきた。


「 うぐぁぁ!」

蓮翔の叫び声が剣舞場に大きく聞こえた。

蓮翔は、地面に座り込み激痛に悶絶していた。
負傷した、膝が悲鳴を上げた様だ。

剣華団の支柱たちは、絶句した。
やはり、試合なんて無理だったのだと皆が感じた。

鯉本流馬は、すかさずその蓮翔に竹刀を二回軽めに当てた。

「 河乃内剣士隊二本!退陣!」

蓮翔は、悔しさでいっぱいの顔で唇を噛み締めながら

「 くそ!」

と誰に言うわけでもなく、叫んだ。

「 君、もしかして、負傷しとうとや?
  未来は長いとばい。
  無理はせんどき。
  ゆっくり休まんね。」

そう優しい顔で見下ろされた蓮翔は余計にその情けが苛立った。

「 いつか、おまえを倒す!
  覚えとけとは言わん。
  俺が覚えとく!」

そう言うと和代と莉里に脇を抱えながら
甲斐蓮翔は合戦場を去った。

ー 龍獅子剣華団 甲斐蓮翔 退陣 ー


河乃内剣士隊本陣 ー。

所川雁助は、脚と腕を組みがながら
貧乏ゆすりをしている。

「 潮目が変わり出した。
  ここで、もう一人、敵陣へと入り込めれば
  敵の宝塔に、近い者が三人。
  合戦場に居る人数は、同じでも
  相手の本丸に居る人数で戦況は全く変わる
  。
  岸万次郎が、自陣へ返る必要は無くなる。
  鯉本流馬次第だ。」


龍獅子剣華団本陣 ー。

大蘭は、全く表情を変えず両膝に手を置き
この刻々と流れゆく戦況をじっと見ている。

「 あの、鯉本流馬という男。
  主将、曇鮫新二郎の法行院抜刀流(ほうぎ
  ょういんばっとうりゅう)免許皆伝とい
  う影に隠れている様に見えるが、いや、河乃
  内剣士隊の三剣士。曇鮫、梶方、岸がそう
  呼ばれているが、この男が一番の剣の使い手
  かも知れぬな。
  とりあえず、どんだけ剣華団の前線が
  耐え忍ぶかだ。
  
  これ以上、一人でも自陣へ入り込まれたら
  うちは、危機的状況に陥る。」

そう大蘭が言うのを黙って支柱の莉里、鈴音、和代は聞いていた。
皆、心は落ち着かずにそわそわしていた。

前線は、梶方俊文が前進し、玄蔵と対峙した。
坂上孫介と冠。 又大と梅松という構図となった。
激しい剣のぶつかり合いを繰り広げている。


        ーーー
         🔻
       曇鮫新二郎
     

       
     
   
       ●梶方俊文 
          
 ●坂上孫介  ⚪️玄蔵   ●又大
  
  ⚪️冠           ⚪️梅松


    ⚪️奏剣    
    
    ●鯉本流馬
    
 ※一本 ●岸万次郎
     
         ⚪️壇独


    ※一本  ⚪️百蘭

          🔺
        ーーーーー

死闘を繰り広げている両剣士に対して、大きな大汽の声が場内に響いた。


「 何やってんだ!
  さっさと、攻め込め!
  特に、なんで、そんなゴミ屑に手こずって
  んだよ!」


〝 ゴミ屑 〟


冠は、胸が痛んだ。
頭の中でその言葉が反芻し冠を襲った。
幼き頃に受けた痛みはそう、簡単に消えるものではない。
ゴミ屑という言葉で簡単にすぐに溢れ出す。

優しかった母上があの男、、大汽と出会って
変わった。
幼い冠に二人は罵り殴り、傷つけてきた。
お腹が、空いたと泣いても
寒いと言っても二人は殴り続けるだけだった。
いつしか、お腹空いたとも、寒いとも言わなくなった。

その代わり冠の言葉は
ごめんなさい。
という言葉に変わった。
毎日、泣きながら、ごめんなさいと声が枯れるまで泣き続けた。

又大と攻防を繰り広げる梅松が横を見て叫んだ!

「 しっかりしろ!冠!」

冠は、最早、竹刀の構えを下ろして、呆然と戦意を失い震えていた。

梅松が、冠に気を取られている隙を又大は見逃さなかった。

「 河乃内剣士隊二本!剣華団、攻戦退陣!」

又大は、素早く梅松の胸と腹を突いていた。

「 ぐはぁっ!」

梅松は膝跨いだ。

莉里、鈴音、和代が叫んだ!

「 梅松ー!」

「 梅松さん!」

「梅松っちゃん!」


龍獅子剣華団 梅松 退陣  ー。


百蘭は、歯を食い縛りながら、その状況を見つめながら大蘭の居る本陣の方を見た。


「 いつまで我慢すんだよ。。先生。 」

剣舞場に設置してある※水時計を見届け人が確認すると、両陣営の大蘭、所川もその水時計に目をやった。

※水時計

水は高さが高いところから低いところへ移動する(流れる)性質があり
異なる高さにある水槽を水で満たされた細い管で繋ぐと、その原理によって水槽の水は管を通って低いところにある水槽へと移動していく。
一番下段の最後の水槽に時の印を付けて昔の人は時間を計った。


鯉本流馬は、構えたままの姿勢を崩さず
呟いた。


「 勿体なかばい。
  これで戦況は一気に乱れる。
  この試合に勝たんと
  
  この世の未来を変える剣士隊にはなれんば
  い。龍獅子剣華団。。  」


前半戦を知らせる※水時計が残り五分を知らせていた。


⭐️
第二十七品 【未来を見据えた蒼い目の男】

第二十八品へ続く。

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