⭐️七宝の塔
⭐️最終品 【 天下取りの名は? 】
龍獅子剣華団と河乃内剣士隊との因縁の決戦は、総大将百蘭に寄る観衆を魅力する程の飛躍の旗獲りで終止符が打たれた。
河乃内剣士隊の若き剣士もまた、大人達の都合により代理合戦という形で、巻き込まれたと言っても過言では無かった。
勿論、この戦いの勝利は、龍獅子剣華団の実力もあっての勝利ではあるが、一番大事なお互いの士気、意欲の差がこの試合の結末になった。
この決着により、龍獅子剣華団は、河乃内素哲や町の権力者たちに公認の警護隊として承認された。
町の治安や秩序を保つ警護隊としても勿論の事、悪事を染めた者への罪の重軽や、差別撤廃など、大蘭を中心に協議を重ね、改善していくという事で一致した。
そして、この戦いのお陰で、後に
侍所が設けられこの大志賀島が
独自に悪を裁く場所が設けられる事となっていく。
これは、大志賀島の人々にとっても、大きな変革であった。
この河乃内剣士隊との決戦は、後に七宝の塔という古書にこう記されている。
ー 剣華団河乃内剣舞合戦 ー
この剣舞合戦の剣華団の勝利により
この大志賀島は平和で安穏な町へと変貌を
遂げた。
この島、この町の歴史を大きく変えた出来事であった。
ーーー
興奮冷めやまぬ中、龍獅子剣華団の皆は、翌年に迫る天下統一大戦の地方予選に心はもう動き出していた。
資金なども必要になってくる為、ただでさえ、忙しい皆であるが、各々剣士隊の者たちは、副業も行うことになった。
壇独は、大工の手伝い
八井田奏剣は、簪屋。(かんざしや)
蓮翔は、蕎麦屋。
穴丘梅松は鰻屋。
玄蔵は、鍛冶屋。
織師屋冠は医術師のお付き。
百蘭は、飛脚。
として皆、週に二日程、その仕事に従する事となった。
ーーーーー
今朝は、薄暗い雲が空一面に広がり雨が降っていて、一枚羽織り物をしないと少し肌寒く感じる。
裏庭の小さな馬小屋に繋がれた
白馬のハクは少し体が大きくなった。
どうやら、ハクの成長は、他の馬より早い様だ。
また少し馬小屋を大きくしなければならない。
そこへ、餌の当番の玄蔵がやってきた。
「 あー。寒い。
よう、ハク。おはよう。
さぁ、餌だぞ。」
そう言って、餌を馬小屋へ入れるとハクは勢いよくそれを食べた。
「 お前は、本当よく食べるな。
体もどんどんデカくなってるし、
壇独の旦那より大きくなるんじゃない
か?」
そう言うとハクは、玄蔵の顔を舐めて甘えた。
玄蔵は、微笑みながらハクの頭に手をやり
「 俺は、百蘭様に恩がある。
あの人は、誤解されがちだが、凄く
立派な人だぞ。
誰が、人の為に長き間、牢に入れる?
拷問に耐え続けれる?
そんな奴はいない。
俺は、必ずあの人を天下に名を馳せる
男にするぞ!
ハクも頼むぞ!」
そう言うと玄蔵は、ハクの顔に両手を添えて額と額をくっ付けると、幸せそうに笑みを浮かべた。
天涯孤独の玄蔵にとって、百蘭は家族以上の人間だった。
昨日の、河乃内剣士隊との剣舞合戦により今日は、剣華団の皆は久しぶりの休息の日となった。
蓮翔は、部屋で一人、布団に寝そべり天井を見上げていた。
地元の金風火の仲間たちの事を思い浮かべていた。
ー 立石座 雑木林の奥。
金風火(こんふうび)の巣窟 ー
十数人の男たちが集まっていた、その中央にはこの集団の頭の男が居る。
金風火の 郡司名 駿太(ぐんしな しゅんた)は骨太で体格も良く漢気が顔からも分かる。
今日も、郡司名駿太は、浮かない顔をしてため息ばかりついてた。
紺色と赤色の縦縞模様の着物を羽織った
郡司名駿太は、古めた木の箱に座って足を組んでいる。
「 蓮翔は、いつ帰ってくるんだ?
え?」
そう聞かれた呆一(ほういち)も
郡司名の前で木箱に座っている。
ぽっこり出た腹の下の方を掻きながら
「 きっと、もうじき帰ってくるはずですが
ね。」
郡司名は、熱血な気持ちが籠りながら
「 第一、なんでアイツがここを離れなきゃ
ならないんだ!
西の方へ行ってから一切便りもよこさね ぇ!」
ぽっこり腹の出たお腹を今度は摩りながら
「 アイツのことだから。
自分がここを離れることで頭を守りたいんで
すよ。。 」
そう言い終わると同時に郡司名駿太の怒号が飛んだ
「 そもそも、あの紡湯の野郎も死んじまったじゃねぇか!もう堂々と帰ってこれる筈だろ!もう我慢ならねぇ!蓮翔の所へ行って連れ戻してくる!旅支度の用意しろ! 」
そう言って郡司名駿太が立ち上がると
郡司名をぽっこり腹の呆一は立ち上がって両手を広げて制してから、首を横に振った
「 ダメです。 頭が行っちゃぁ。蓮翔には蓮翔の考えがあるんだ!もしかしたら、今はここよりもっと、居心地良い仲間と楽しくやってるかも知れねぇ。その幸せを奪っちゃいけねぇっす。」
そう言って呆一が溢れ出る感情を抑えきれず泣き出すと、それを見ていた郡司名駿太も獰猛な動物が雄叫びを上げる様に泣いた。
それにつられて、金風火の皆も泣いた。
実は、このやり取り。
蓮翔が居なくなってから、毎日の様に行われて、金風火の皆はこうして毎日、泣いていた。
ー ー ー
蓮翔は、布団に寝そべっていた体を起こすと、紙と筆を取り金風火の皆に便りを認め出した。
窓からは、雨に打たれて、葉が揺れているのが見えた。
その風景がとても、美しく見え、手紙を書くのにとても、良い心の状態になってる様に思えた。
奏剣は、朝も早くから大蘭と面談中だ。
奏剣が近江(おうみ 滋賀県)の方の剣士隊から、入隊の打診があったからだ。
大蘭もせっかく揃った剣華団、それに剣士長の奏剣に今、抜けられるのは、とても痛いが、奏剣の夢は剣で出世する事であるのを知っていた為、剣華団の為だけに、その夢を潰す事など出来ない。
奏剣の気持ちを尊重しようと、この場を設けたのだった。
実は、久志那剣道会との練習試合の一件から、圧倒的な敗北を受けたが剣華団たちの噂は広がり、壇独、蓮翔にも同じような打診が色んな剣士隊から来ていたが、二人は其れ等を断った。
こういった、打診を行う場合、打診した側がその剣士を所有する剣士隊に金銭を払って獲得する。
強い剣士程、抜けられると困る為、この様に金銭を受け取りその金銭でまた、穴埋めとして別の剣士隊に打診するという流れが出来ていた。
奏剣は、出世の為に一瞬、その近江の剣士隊の名前を聞いて迷った。
どう考えても近江の剣士隊は、名も有名で出世の最短距離であったからだ。
この剣士隊から多くの剣豪たちが輩出されている
名門である。
奏剣は、頭を悩ませてから、少し間を置き大蘭に
告げた。
「 今は、やはり、この剣華団の事しか考えられません。この龍獅子剣華団で天下統一大戦に出たいです。」
大蘭は、微笑みながら
「 だが、いつでもお前は自分が決めた道を
進め。
自分の夢の為に別の道を見つけたら
その時は、いつでも飛び立てばいい。」
奏剣は、笑いながら
「 はい。遠慮なく飛び立たせていただきま
す。」
そう、奏剣が大蘭に思いの丈を述べると
いつもの騒ぎ声が聞こえた。
いつも、あの男が原因の大騒ぎ。
大庭の縁側で野太い怒声が上がった。
「 俺の饅頭をなんで、お前は勝手に
食うんだー! 」
壇独がそう、叫び百蘭を追いかける。
百蘭は、必死に逃げ惑い、柱の影に隠れた
「 そもそも、なんであんなに饅頭を隠し持っ
てんだ?
一個食ったくらいいいだろ?
てか、毎夜数えてんのか?あの饅頭?
体デケェ癖に小ちゃい事してんなよ!
」
梅松は、それを見ると茶化すように
「 びゃくちゃん!そりゃ、言っちゃ
いけねぇよ!
どう考えてもオメェさんが悪いよ!
人様の饅頭を食う罪は何よりも重い!
必ず死んだら閻魔様とご対面
間違い無しだ!
どうだ?壇独の旦那!
あっしは、閻魔様だって怖くない!
その饅頭俺にも分けてくれ!へへっ!」
そう梅松が言うと壇独は今度は梅松に怒りを向けた
「 ふざけるな!和代の家の饅頭屋からの
差し入れを毎回食わずとってたん
だぞ!」
百蘭はまた、梅松に
「 うめつぁんが入るとややこしくなるだろ!歳とった喋り方しやがって!」
するよ、今度は梅松が怒って百蘭を捕まえようと壇独に加勢した。
「この野郎!俺のどこが歳とった喋りなんだ?ずっと裏稼業にいたら、みんな、こうなるんでい!」
三人は縁側から庭へ飛び出し雨などお構いなしにずぶ濡れになりながら、走り回った。
いつかしか、怒りだった筈の壇独と梅松は笑顔で百蘭を追いかけ回っていた。
縁側を、通った莉里がその三人を見つけ和代に
「 なんで、うちの剣士たちは。
馬鹿ばっかりなんだろ? 」
と和代に尋ねると和代は満面の笑みで
「 これが、青い春ってやつよ。」
と呟くと莉里は妙に納得した様な表情になり
「 さ、
お茶入れるから。放って置いて行きまし
ょ。」
「 じゃ、私お饅頭持ってくるわ。」
三人は、莉里と和代にも気づかず、走り回っていた。
何故か、雨が気持ち良く感じていた。
青い春と雨。
意外と絵的にしっくりくる構図だ。
百蘭の周りは、いつも騒がしい。
ー 海辺 ー
冠は、傘を差しながら、女性と二人佇み海を眺めていた。
降りしきる雨が次々と海に溶け込んでいく。
旅立った子供が母親の元へ帰ってくる様に。
その女性が着ている物は見窄らしく髪も乱れている。
「 ごめんね。冠ちゃん。。」
「 大丈夫だよ。平気だよ。
だから謝らないでお母様。」
「 許してくれるの?」
「 許すも許さないもないよ。
恨んでなんかないよ。」
冠の母親は、昨日の河乃内との剣舞合戦をひっそりと観に来ていた。
そして、今日、傘もささずに道場の前を行ったり来たりしていた冠の母親を鈴音が不思議に思い声を掛けたのだ。
母親は、零から大汽が暴行を受けてから数ヶ月後に大汽と別れた。
そして、自分が冠に対してしてきた事をずっと懺悔する日々を送っていた。
そして、冠が生きて、この剣華団に居ると聞き
度々、影から様子を見ていたのだ。
久しぶりの親子二人きり。
いつぶりだろう。
母親は、泣きながら震える声で勇気を振り絞った。
「 冠ちゃん、お母様の自分勝手なお願い聞いてくれる?」
冠は、その言葉に異様に緊張した。
「 うん。。」
そう言うと母親はまた、声を震わせながら
「 最後に抱きしめさせて。」
そう言うと冠は黙って頷いた。
母親は、冠をいっぱいいっぱい抱きしめた。
泣きながら。
何度も何度もごめんね。と呟きながら。
もう冠にとって、過去の事など、どうでも良かった。
昔のあの優しいお母様が帰ってきてくれたから。
それだけで充分だった。
しかも、本当の母親では無いのに、僕を拾ってくれて、育ててくれた。
大汽と出会うまでは、優しいお母様だった。
冠の心には、憎しみなど、露程もなく、感謝しかなかった。
冠は黙ってずっと、いつまでも母親に抱かれ続けた。
やはりお母様は温かかった。
雨が冠と母親の再会を祝福の涙の様に降り続けた。
これが二人の最後の抱擁となった。
これから、程なくして、母親は不治の病でこの世を去った。
ーーー
河乃内剣士隊の剣士は、海中橋の端の雑木林を歩いていた。
いや、もう河乃内剣士隊では無い。
ただの若き剣士隊たちだ。
昨日の龍獅子剣華団との合戦が終わり、夜中に皆で話し合った。
〝 京へ出よう!
そこで、先ずは腕試しだ!
そして、いつしか大都へ出て
百華幕府を倒幕し、名を馳せる!〟
この若き剣士隊たちは、そもそもは、雲鮫の倒幕派の思想に共鳴し仲間になった集団である。
そして。今朝、河乃内素哲の屋敷から誰にも告げず、屋敷を後にした。
草や木々を掻き分けながら歩いていると、雲鮫新二郎が言った。
「 龍獅子剣華団、いずれまた必ず会うことになるだろうな!」
すると、岸万次郎も雲鮫の後に続き草や木々を掻き分けながら
「 はい!きっと、もっと強くなって目の前に現れますよ!ワクワクしますね。早く会いたいなぁ。」
すると、そこへ梶方俊文が口を開く
「 だが、その時のあいつらは、
敵として現れるか味方として現れるか。」
鯉本流馬は、笑いながら
「敵としたら、相当、手強かばい!
褌ば締め直さんと!かっかっかっ!」
そう言って笑った。
すると、何やら草木が騒めく音がした。
風、動物が動いた様な雰囲気ではない。
一斉に雲鮫新二郎率いる剣士たちは、戦闘態勢に入り身構えた。
辺りを見渡すと、三十人の鎧等を纏った、盗賊
たちが剣士達を囲んでいた。
梶方俊文が刀を構えながら
「 京へ行くまで、毎度、こんな事になるのか?先が思いやられるぜ、、」
そう言うと岸万次郎も刀を構えて笑いながら
「 京へ無事に、着きますかね?」
と言った。
鯉本流馬が刀を二本腰から抜きながら
「 こりゃ、京に、着く頃には、最強の
剣士になっとるばい。俺ら。
かっかっかっ。」
鯉本流馬の楽しそうな笑い声が雑木林にこだました。
この血気盛んな若者たちは、大きな志を胸に
これから、京へと向かう。ーー。
昼過ぎになっても、雨は止む事は無かった。
部屋で届いた便りを読んでいた大蘭は、読み終わると部屋に居た鈴音に向かって
「 また、近いうちに大きな
戦が起こるかも知れん。
尾張国の摩天(まてん)
の天鳳(てんぽう)が
百華家を討ちに動いているらしい。」
そう言うと鈴音は震えが止まらなかった。
「 父上。また、戦が。もうそんな、戦い
嫌です。。」
大蘭は、天井を見上げながら
「 何故、人間は懲りんのだろうな。」
と溜息の様な言葉を吐いた。
ーーー
申の刻: (午後 3時頃)
雨は降り続き止む気配はない。
雨に打たれながら、鈴音は、今から起こる戦を憂いて泣いていた。
また、人が人を殺し合い、罪のない人が泣き叫び親も誰も居なくなった孤児が増えて飢えていく。
鈴音は、心が締め付けられて不安で仕方なく、野紺菊が咲いていた海辺の近くで、傘もささずに茫然と立っていた。
そこへ、気になって後を追いかけてきた
百蘭が、傘を持って鈴音の元へやってきた。
「 どうした?風邪ひくぞ。」
そう、優しく百蘭が声を掛けると
百蘭の方を振り向いた鈴音は顔がくしゃくしゃになって泣いていた。
涙か雨か判別つきにくいくらい、ずぶ濡れだが、鈴音は雨にも負けず泣いていた。
「 また、大きな戦があるかもって。。
父上が。。」
そう泣きじゃくりながら百蘭に言うと
百蘭は、鈴音の目を見ながら話した。
「 不安という感情の源は外から
生まれるんじゃない。
不安の感情の源は、自分から生まれる。
だったら、その不安の感情を消せる
のは自分しかいないんだ。
消す方法は一つ。。」
「 俺らがこの世界を
変えるしかない。 」
この言葉は百蘭を人間の道へと導いてくれた
爺ちゃんから教わった言葉だ。
鈴音は、百蘭を見つめながら縋る様に聞いた。
「 変えれるの?」
百蘭は優しく微笑み鈴音に傘を差し出した。
「 変えれる。
俺が変える。
天下統一合戦に出て名を上げて
そして、いつしか俺が必ず
この世の天下を取る!
だから、安心しろ。」
傘に鈴音が入ると百蘭は鈴音の頭を撫でながら
「 俺の傘に入るか?
雨が降ったら傘に入るのが道理さ。
俺の傘は天下を変える。」
そう百蘭が鈴音に言うと、ようやく鈴音から笑みが溢れ出した、父上にそっくりのその物言いが可笑しくて仕方なかった。
そして、百蘭に寄りそう様に身を委ねながら鈴音は口を開いた。
「 そこの、いつしか天下を取る君。。
お名前は?」
百蘭は、その問いに答えた。
「 俺の名は、零。。」
「 え?」
百蘭の顔を見つめる鈴音が戸惑い不安の表情を浮かべている。
すると、百蘭は笑って、鈴音の肩を抱き寄せて
百蘭は言った。
「 俺の名は百蘭だ!」
⭐️最終品 【 天下取りの名は?】
ー 七宝の塔 終わり ー
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