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⭐️七宝の塔

第十一品 🌟【 草戸千軒最強剣士 】

殺人酒を巡る抗争の後、暫く龍獅子剣華団の剣士隊たちに安穏な生活が戻っていた。

奏剣に心酔酒の製造書と小さな赤い花が咲いた母苗(ぼなえ)を渡された百蘭は、考え抜いた挙句、やはり大蘭に渡すことにした。

それを渡すと大蘭は何食わぬ顔で心酔酒の製造書を破り捨てた。

そして、赤い花のついた母苗は
徐ろに自分の机の花瓶に挿した。

それを百蘭が,不思議そうに眺めて
大蘭に言った

「 まさか、先生。。
  殺人酒で金儲け考えてんのか?」


「 馬鹿者。」

と言って大蘭は笑いながら

「 こいつは自分の意思で殺人酒になろうとし
  た訳じゃない。
  ただ綺麗に咲いてただけさ。

  悪い人間にそうされてしまった。
  この綺麗な花を生かすも殺すも
  人間次第さ。

  この世を統治している
  百華家(ももかけ)も。。」

「 え?ももかけ?」

「 いや、なんでもない。」

「  なるほど。じゃあ大蘭先生は
   生かす人間だ。 」


そう百蘭が言うと少し微笑んでから大蘭は
少し真面目な表情で

「 百蘭、河乃内素哲との剣舞合戦
  お前にも力を借りることになる。
  頼んだぞ。
  
  首持ってかれるのは勘弁だ。」

そう言って豪快に笑った。

「 先生。」

「 ん?」

「 俺の傘に入るか?

  首取られたくなけりゃ

  俺の傘に入るのが道理さ。 」

そう百蘭が真面目に言うと大蘭は
大笑いした。

百蘭は.大蘭の言い回しを真似して大蘭が
大笑いするのを見て自分もなんだか嬉しくなり
つられて笑いが止まらなくなった。

こんなに笑ったのは、いつぶりだろう。
百蘭は、この上ない幸福感を噛みしめた。


この抗争で両拳会の親分 
絆田兼五郎(きずなだけんごろう)と若頭の生岡(いくおか)は死んだ。

絆田は切腹により生岡は若い衆の手によって誤って殺された。

この後、頭(かしら)
のいない両拳会は空中分解していくのか分からないが、やられたらやり返す心を持った若い衆が居るとなれば、報復があるかも知れない。

まだこれから先も安心は出来ないだろう。

そして、何とか,一命を取り留めた梅松は峠を乗り越えたらしい。

ただ、まだまだ安静中の身だ。
医者からは生きているのが奇跡だと言われた。

梅松の処遇はというと、奏剣の杞憂で終わった。

何のお咎めも無いようだ。

そもそも梅松は何も知らなかったのだから
当然かも知れない。

今回の件で誰も侍所(さむらいどころ)のお世話になる奴は居ない様だ。
※侍所 今で言う警察的機関

ただ、奏剣と百蘭が大蘭に黙って勝手にした行動はちゃんと大蘭に怒られた様だ。

毎朝の素振り千回と剣華団の屋敷の裏にある
畑の作業は、しばらくこの二人の仕事となった。

剣華団の剣士たちは、皆まだ若い故、これからも、力が有り余り暴走して何をしでかすかは分からない。

でも大蘭は、その若い漲る力こそ未来を変える力だと常に信じていた。


だが、今回の件は、まだ終わった訳では無い。

大蘭は、剣舞合戦に情熱を燃やしている。

大蘭の本来の目的の一つは、この剣舞合戦で戦を減らす事であるから、今回の流れは当然だったのかも知れない。
その怒りや憎しみをこの競技に全て向ける。

剣舞合戦で決着(ケリ)をつける。

だが、まだ龍獅子剣華団は、戦える剣士が足りなかった。

ーーー

ある日の昼頃。

百蘭は、砂浜で横になっていた。
風が今日は、とても気持ち良い。

青空が広がり目を一点に集中させると、周りの景色はボヤけて何か映像が前に迫ってくる様な感覚になった。
これ、どうやってみんなに言えば伝わるのだろうか。
などと考えながらまた、目を一点に集中させて空が迫る感覚をまた楽しんでいた。

ん?鈴音の声がする。少し体を起こし後ろを見てみた。

目で遊んでいた為、少し霞んで見えるが
どうやら、やっぱり鈴音の様だ。

少し遠くから元気よく手を振ってる。

「 百蘭ー!試合が決まったよー!
  二月後(ふたつきご)だって!

  百蘭も支柱から剣士になるみたいよー!
  おめでとうー。
  廊下の所に張り出されてたよ!」

百蘭は、ここへ来た時から剣に特段、興味など無かった筈なのだが、鈴音のその言葉を聞いて
鼓動が高鳴るのを感じた。

「 俺が剣士隊。。」

百蘭は急いで道場へ,向かった。
心なしか足取りが弾んでいた。

ーーー

龍獅子剣華団 道場


廊下の一角に上下にニ枚貼り紙がしてある。

上の一枚は、今晩の見廻り隊の当番表
そして、下の一枚は、剣士隊の名前が貼ってある。

      剣舞合戦  

副団長  主将  壇独 ●守護

剣士長  副将  奏剣 ●攻戦

         蓮翔 ●一番太刀 殿

         百蘭 ●守戦

 剣士    以上四名


百蘭は、その貼り紙を見て身が引き締まる思いがした。
そこを通った壇独が声を掛けた

「 剣稽古 真剣にやれよ。」

そういうと百蘭の肩を叩いた。

続いて奏剣が通り間際

「 素手は反則になるからな。」

そう言って百蘭の肩を叩いた

続いて蓮翔が通った。

蓮翔は何も言わなかった。

「 おい!何か言え!」

すると、立ち止まり振り向いた蓮翔が口を開いた。

「 うちの戦力落とすなよ。 」

「 憎まれ口の他に何か言えんのか
  お前は。」

と言って百蘭は不貞腐れた顔になった。

続いて支柱たちが稽古の道具を持って現れた。
忙しそうにしている。

鈴音が荷物を運びながら百蘭に声を掛けた

「 支柱が一人減ったから大変。
  でも百蘭が剣士かぁ。
  嬉しいなぁ。
  絶対、いつか天下統一対戦の
  てっぺんまで連れてってね。ふふ。」

その後ろで莉里も荷物を両手で抱えながら

「 支柱一人減ったって大して変わらないわ。
  百蘭は役に立ってなかったし。」

  そう言うと片目をつぶって、肩で百蘭の
  背中を小突いて行った。

続いて冠も重たい荷物に悪戦苦闘しながら
百蘭に向かって

「 ぼくも、早く体が丈夫になって、
  絶対、剣士隊になるんで。
  それまで待っててくださいよ!」

そう言って道場へと向かった。

和代は、お茶が入った大きな急須を運びながら

「 すっごい剣士になってね。
  びゃくちゃん!」

そういって、さっさと通り過ぎた。

百蘭は、みんなの声かけに一々対応出来なかったが、心がどこか温かくなった。

早速、俺も稽古しなきゃ。
そう張り切って、稽古着に着替えに行こうとすると大蘭から呼び止められた。

「 少し、話出来るか? 」

「 おれ?…。」

ー 庭 縁側。ー


大蘭は、縁側に腰掛けキセルを燻らせながら、少し青空を見た。

百蘭は、その大蘭の横顔をじっと眺めている。


何の話だろう
そう思っていると大蘭がようやく
百蘭の方へ顔を向けた。

「 ※草戸千軒最強(くさどせんげん)の剣士
  知ってるよな?
  今、何故か海中橋に居る様だ。」

※現在の広島県福山市

草戸千軒最強の剣士!

海中橋にいる?
どうして?

百蘭は頭の整理がつかないようだ。

「 海中橋を通って大志賀島へやって来る
  盗賊やならず者達を通さない様に
  一人で
  海中橋を封鎖しているらしい。
  ※ならず者 = 不良

  理由は何にしろ。
  盗賊やそういう輩がここへ入らん
  様にしてくれるのは良い事だ。 」

百蘭は、大蘭の話を聞いてるのだが、聞こえてない様な表情になってしまっている。

「 ただ、気になるのが
  どうやら聞くところによると
  通さないのは
  お前に恨みがあるやつだけらしいんだ。
  
  ま。お前が今までどんな悪さをしてきた
  のかは知らんがな。

  その剣士はその道を通る者に
  何の用だと聞き

  お前に報復しに来た輩だけ
  その剣士は斬っているらしい。」

百蘭は,次第に落ち着きを取り戻し、我慢出来ずに笑顔が溢れた。

「 玄蔵!玄蔵がこっちにいるのか!
  玄蔵、元気だったのか!!」

もう独り言の様に言いながら、
喜びを噛み締めている様子が大蘭に伝わっている。

「 やっぱり,知り合いか。
  前にお前が草戸千軒最強の剣士を
  素手で倒したことある。
  と言ってたのを思い出してな。 」

燻らしていたキセルの葉が終わった
大蘭は、キセルを横に置き
より一層真面目な顔をして百蘭に聞いた

「 過去の事など
  どうでも良かったが
  俺らは家族だ。
  聞かねば前に進めぬ、俺も
  剣士隊のみんなも。 」

百蘭も真剣な眼差しで大蘭を見つめている

「 聞かせてくれないか?
  草戸千軒最強の剣士とお前の関係

  お前は何故この町へ来た?」


ーーー

ー 大都(おおみやこ) ー

※大都 今で言う東京にあたる。

ー 華葛鹿 (はなかつしか)ー

ー堀切町ー

曇天模様の空の下一面に花菖蒲が咲き香る
花菖蒲に囲まれて、花菖蒲の香りの中、血生臭い二人の匂いがそよ風に吹かれている。

齢十一の目の吊り上がった小さな少年が
大きな男に向かって対峙して鋭い眼光を放っている。

この少年の名を
 田多 玄蔵 (でんだ げんぞう)という。

玄蔵はその大きな男に向かって言った。

「 おめぇか!
  蛇羅剣(だらけん)の頭は。」

蛇羅剣とは、この周辺のならず者(不良)
の若者が集まって出来た剣術集団で、ここらで幅を利かせていた。

玄蔵と対峙している男は
歳は十代後半くらいだろうか、若さ特有の勢いがこの男の身を纏っていて、かなり剣華(けんか)も強そうだ。

「 なんだ?チビ?
  俺に勝てると思ってんのか?
  お前か、最近ここらで暴れ回ってる
  ってのは。
  噂には相当強ぇみたいだが、上には
  上がいる。
  それを今から教えてやらぁ。」

そう啖呵を切られると
玄蔵は刀を抜きながら相手には聞こえない様な囁く声で

「 お前を斬れば、九十九人。
  あと一人でおれの眼目の百人だ。
  負けるわけにはいかねぇ。

  行くぞ。 」

そう言うと対峙した二人は一斉に刀を振り翳した!

男の刀は躱され、おとこの腹を玄蔵の刀が掠めた。

着物が切れて、腹の方から血が垂れた。
浅い傷の様だ。

この一瞬で男は、玄蔵の剣の腕の凄さが分かった。

玄蔵はその男に忠告した

「 今度は腹を抉るぜ 」

それを聞いた男は額から冷ややかな汗を垂らすと刀を落とし膝跨いだ。

「 おれの敗けだ。」

九十九人目。

次で百人斬り。。

玄蔵は、この大都へ出てきて、ひたむきに
剣の腕が立つ奴と戦ってきた。

それも、百人に突入間近だ。

ようやく玄蔵の目的は
終わりを迎えようとしている。

これもあの憎き
谷増口 紡湯 (たにますくち ぼうとう)
への復讐の為である。


草戸千軒で紡湯の護衛に母を斬られ、父をも斬られた。
ただ、身分が違うというだけで殺された。

大半は大都に身を置いているという紡湯の情報を聞いてからというもの、草戸千軒から大都まで途方もない道程だった。

孤独になった玄蔵は、一人。
親の仇を討つためだけを考えて強き相手に挑み剣を磨いてきた。
そして、自分に課せた百人斬り。
あと一人だ。

必ずこの大都に居る
怨敵を討ち取る。
 


玄蔵は蛇羅剣の頭(かしら)の男に戦利品として頂いた銭で、蕎麦を食らって腹拵えを済ませていざ最後の百人目の相手の所へ。

玄蔵は草戸千軒から、ここ大都まで、こうして勝った相手からの戦利品で命を繋いで生きてきた。

最後の百人目の相手は、蛇羅剣の頭から聞いた男 ーー。


『 この町で、お前より強い奴は誰だ? 』
  
『  金風火(こんふうび)という
   ならず者が集まった剣術集団
   の副頭をやってる男だ。
  ならず者の剣術集団の中でも、一番
  強いと噂の男。。
  五人しか居ない集団だが、滅法強い
  少数精鋭の剣術集団だ。 』

『  金風火。。
   なるほど…。

   礼を言う。その金風火の巣窟は
   何処だ? 』


第十一品 【 草戸千軒最強剣士 】 終わり

第十二品へ続く

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