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⭐️七宝の塔

🌟第二十品 【 海中橋の黒壁の死闘 】


文月が終わり葉月を迎えた。
(七月から八月)

龍獅子剣華団一同、夏真っ只中、絶賛猛稽古中。
白馬のハクも元気良くヒヒンと鳴いていて
蝉との大声合戦。

百蘭は、陽がまだ出る前の暗い時間から壇独との二人だけの剣稽古から毎日が始まり、朝の剣華団での合同稽古は冠に剣を教わりながらの特訓。

夜の稽古は、皆と合流して同じ項目をこなすという過酷な日々を送っていた。


百蘭の若く漲るこの有り余る力が夢と希望に溢れた剣舞合戦というこの時代の競技のお陰で
次第に熱中すべき物になっていった。

今までやり場の無かった情熱を全力で注ぎ出している自分に気づき出したのだ。

剣華団の剣士隊は下は十二歳〜上は十六歳の若き剣士達だ。

夢を見続ければ全力で叶える事が出来る。

河乃内剣士隊との決戦日は※長月(ながつき)三日

※九月三日

に決定した。
この剣舞合戦は、大志賀島に、住む人々も観戦出来る様にした。

大志賀島の人々もこの戦いを楽しみにしている。

金持ちや権力者、俠客以外の
庶民の大半は勿論、龍獅子剣華団の応援軍がほとんどであった。

和代は庭で剣稽古をしていた剣華団の皆に饅頭をたくさんお盆に乗せて差し入れを持って来た。

和代は、光安通りにある饅頭屋の娘である。
五人兄弟の長女。

六年前に大蘭達と同じ頃、ここ大志賀島の西都崎町へと家族でやって来て両親が三休饅頭と言う饅頭屋をやっている。

前までは大都で饅頭屋をやっていて、大変有名な饅頭屋だったそうだ。

両親の都合でこっちへやって来た。


そして、両親が龍獅子剣舞団に人生勉強の為に和代を預けたのだ。

「 ここの饅頭、美味いんだよなー!」

稽古終わりの百蘭が真っ先に饅頭に食らいついた。
百蘭もあれから、毎日、壇独と朝の剣稽古を行なって、その後は走り込み。
朝の合同剣稽古。
夜の剣稽古。
見廻りに、畑仕事に、風呂の薪割りに、道場の掃除に毎日、忙しく動き回っている。

だから百蘭は、いつも眠たくいつもお腹を空かせている。

「 ほら、玄蔵!早く食わないと無くなる
  ぞ!」

「 はい!ありがとうございます。」

そう言って百蘭にお辞儀した。

百蘭は、なんか何とも言えない変な表情をしながら。

「 なんか嫌だな。
  その喋り方、、、まだ慣れないな。」

「 そのうち慣れますよ百蘭様も。」

と玄蔵は、淡々としている。

「 ていうか、玄蔵が、慣れすぎだろ!
  よく、切り替えられるな。」

そう言うとまた、饅頭に食らいついた。

壇独は、縁側に、座り支柱たちが入れてくれたお茶を啜りながら饅頭を手に持って二人の様子を眺めていた。

この壇独の様子
まるで初老である。
とても、十六歳には見えない貫禄だ。

蓮翔は甘い物が苦手な為、煎餅を食べている。
奏剣は和代に近づき御礼を行った。

「 ご両親に礼を言っといてくれ。
  毎度、毎度、こんな美味しい饅頭を差し入
  れしてくれるとは。」


和代は人に好かれそうな笑顔で

「 だって、天下の龍獅子剣華団ですもん!
  そりゃあ。
  うちの三休饅頭は、全面的に応援させて
  貰います!」

冠も凄い勢いで饅頭を食べている。
心なしか少し体が大きくなった様にも見える。
冠もまた大蘭と蓮翔と一緒に猛稽古をやっている。
試合までに間に合わせようと皆で冠を支えているのだ。

梅松は、饅頭を頬張りながら

「 このふっくらとした香ばしい生地に
  たっぷりと入った程よい甘さの
  餡子が口の中に広がりこの俺を桃源郷へと
  誘う様だ。
  うん、美味い!
  これには地獄へ俺が言ったとしても
  閻魔様も舌は抜くまい!
  何故なら俺が冥土の土産にこの
  三休饅頭を閻魔様に持っていくからだ!

  閻魔様は、この饅頭を一口食べると鬼の様
  だった顔がほっこりと菩薩さんみたいな
  顔になって、こう言うのよ!

  よし。地獄にもこの三休饅頭!
  この饅頭だけは好きなだけ食べて良い事に
  にしよう!
  舌を抜くとこんな美味い味が分からなくな
  る!
  それは、余りにも可哀想ではないか!
  こう言って
  はじめて閻魔様が同情する訳だ! 」

その独り言の様な饅頭の口上を聞いて
剣士隊、支柱は笑っている。

梅松も、身体がだいぶ良くなり稽古に参加し出した。

鈴音は、口に饅頭一つを丸々含み一人で鳥の羽のように手をパタパタさせながら、庭を小走りで一周している。

一同その様子を見てはいるが誰も言葉を発しようとしないで、鈴音を放っておいてる。

すると鈴音は足を止めて急に一人でお腹を抱えてケタケタと笑い出した。

一同その様子を見てはいるが誰も言葉を発しようとはしない。
鈴音を放置したままだ。

鈴音は、たまに意味不明の行動をしているから、剣華団の一同は日常茶飯時なので、特に何かここで絡む様な事はしない。

下手に絡むと怪我しそうで怖いからだ。

百蘭は、視線を饅頭に戻して一口齧った。
そして、湯呑みを手にすると左横に異様な違和感を感じた。

なるべくなら、振り向きたくない。
でも、絶対に横に居る。
ゆっくりと左を見ると

鈴音が饅頭を含んだまま、ほっぺを膨らませた状態で百蘭を凝視していた。

え?どういうこと?
どうしたらいいんだ?

とめどない疑問符が百蘭の頭の中を襲う。

まだ、鈴音は真顔のまま、ほっぺを膨らませこっちを見ている。

一体なんなんだ?

堪らず鈴音の方が吹き出した。
その吹き出した勢いで口の中の饅頭のカスが
百蘭の顔に飛び散った。

「 うわっ!何すんだよ!」

そう言うと鈴音はまたツボに入ったのか
お腹を抱えてケタケタと笑った。

それを見てようやく静観していた剣華団の一同はどっと笑いに包まれた。
根負けである。

鈴音という娘は非常に面白い娘で普段は真面目であるが、こうして意味不明な事をしかけて
笑いを誘おうとする。
掴みどころが無い部分も併せもった不思議な娘だった。

大蘭は部屋に閉じこもり誰かからの便りに目を通してから、また、自分が送る便りを認めていた。

大蘭は、毎日の様に便りが届くし便りを送っていた。

龍獅子剣華団は、日に日に剣士隊として団結してきたようだ。
笑い声も絶えないし、皆、ここへ来るまでは色んな物を抱えて生きてたが、性格がここへ来て皆と関わるとこで変わったのか、それとも元々の性格が表に出てきたのかは分からないが
良い意味で変わってきたのは確かだ。
何にせよ皆明るくなった様に映る。

そして、この剣華団での忙しい日々の中、百蘭を最も困らせたのが剣華節という舞である。

剣華節とは。
各剣士隊に必ず一つある独自の歌と踊りである。
剣舞合戦に出場する剣士隊なら必ず、入隊している剣士隊の舞を覚えさせられる。

これは、天下統一合戦に限ってではあるが
決勝の合戦に勝った隊、所謂、天下統一した剣士隊のみが、最後に観客の前で、その剣士隊の剣華節を演舞するのだ。

それがとても勇ましく格好良いのである。

それもこの時代の庶民が剣舞合戦という競技の虜になっている部分でもあるのだ。

百蘭は、もう日頃の疲れと、この剣華節の稽古とで頭が一杯一杯になっていた。


この日の晩。

皆が寝静まった頃に大蘭の部屋に一人の来客が来ていた。

名は弥助。(やすけ)

肌色は黒く、髪は長めだが細やかなうねりがあり、一つ一つ同じ形で束ねられた髪が連なっていて頭の上には髷が結ってある。

異国の者のような容姿のこの男は
少し覚束ない言葉遣いであるがとても目が美しく好青年の印象を持つ。

とても立派な着物を羽織り高貴な刀を二本腰に差している。


「 谷増口家ノナナジュウノモノノヘイガ
  大軍デコチラへムカッテルヨウデス。」

神妙な面持ちで弥助がそう伝えると

「 そうか。
  百蘭と玄蔵を捕らえる気か。」

溜息に似たような音色の言葉を吐いた。
そして大蘭は続けて弥助に尋ねた。

「 信長様はお元気か?」


「 ハイ。ゲンキダトキイテオリマスユエ
  ゴアンシンクダサイ。」


「 ふむ。こんな夜更けにわざわざ
  すまなかった。
  七十の兵か。。
 
  弥助すまんが、少し頼み事を願いたい。」

「 ハッ!ナンナリト。」


ーーー

それから、三日後の夜半過ぎ海中橋に七十もの谷増口家の兵が松明を手に集結していた。
もう目の前は西都崎町入り口である。

武装し馬に乗った漢が七十もの兵の前に立った。


大内貞胤(サダツネ)

谷増口紡湯の家臣で右腕だった男である。

大内貞胤(サダツネ)はこの上ない気魄の形相で兵を鼓舞した。

「 我ら谷増口紡湯様の怨敵がこの
  大志賀島、西都崎町にある
  龍獅子剣華団という剣術集団にいる!
   
  憎きこの怨敵を捕らえ!

  谷増口紡湯様の墓前の前で必ずや
  二人の首を斬り
  捧げようぞ!!」


「 おおおおおー!」

という七十人の兵の獰猛な声が夜空に唸った。

「 出陣!行けえぇーー!!」

ーーー

西都崎町入り口にある雑木林

この雑木林に身を潜める男たち。

黒装束を見に纏い刀を背中に差した集団が凡そ二十人。

黒装束を纏った一人は丘の方で大内貞胤(サダツネ)軍の様子を偵察している。
そして、急いで丘を駆け降りてきた。

「 来ました!七十の兵がここへ、入ってきま
  す。」

中心に居た黒装束の一人が刀を抜くと周りの黒装束の者たちが静かに頷いた。

勢いよく向かってきた大内貞胤(サダツネ)軍の七十の兵の前に二十人程の黒装束の集団が道を塞いだ。

馬に乗り突っ込んで来た大内貞胤(サダツネ)は、目の前に立ち塞がる集団を見て、馬の手綱を勢いよく引いた為に馬の前脚が上がりながら後ろ足でなんとか止まった。

大内貞胤(サダツネ)が叫んだ!

「 何奴!?」

そう言うと黒装束軍団の一人が呟いた。

「 ガキチクショウガイル
  コノエドヲジョウドニイタシソウロウ。」

そ言うと二十人の黒装束軍団が七十の兵に突っ込んだ。

七十の兵に二十の兵。
この兵の数だけ見れば勝敗は火を見るよりも明らか。
では何故、七十の兵に対し二十人で挑むのか。

二十人で勝機があると見ているからに違いない。
最初からこの大内貞胤(サダツネ)の軍団の数を知っていたのなら、もっと数を集めたに違いないだろう。

それを二十人で良いであろうとそう踏んだのであれば
この黒装束を纏ったこの武装集団は只者ではない強者達の集まりということである。

後に伝わるこの海中橋の黒壁の死闘

黒装束の軍団二十人が大内貞胤(サダツネ)
七十の兵、そして、大内貞胤(サダツネ)を斬り殺し全滅させるのである。

この死闘での死人は七十一人。

黒装束軍団は負傷者二十人 死人無し。

その黒装束軍団が負った、傷は、皆、軽傷であったという。


そして、この事件は、黒装束軍団という謎の者から周防国の大名家が殺されるという谷増口紡湯の暗殺事件に続き衝撃的な事件として新大和中に流れた。

だが、一体、その軍団が何者だったのか?
その事さえ分からないまま、この事件は時と共に闇に葬られていったのである。

元々、百蘭と玄蔵と谷増口との因縁の為。

みな、我は関係の無いことだと、、

この件に誰も関与もせず追求しようともしなかったのが正直なところだった。

そして、この件で事実上、百蘭と玄蔵は罪人では無くなった。。


ーーー

本日もここ大志賀島は快晴なり。

剣華団の屋敷で朝の名物、壇独の太鼓が鳴り響いた。

「 コラ!体たらく男起きんか!」

太鼓とバチを持った壇独が百蘭の耳元でこれでもかと太鼓を打ち鳴らす。

今朝も百蘭は壇独との稽古を終えて戻ってきたが、少しだけ仮眠を取ろうと布団に入って深く眠ってしまい、合同稽古に遅刻してしまった。

寝惚け眼のまま、百蘭は壇独に首根っこを掴まれて道場へと連れて来られた。

もうみんな準備を終え待っていた。

百蘭は大蘭と向かい合ってる一列の剣士隊の中にすぐさま並び正座した。

大蘭もいる。

「 また遅刻か?百蘭!」

そう大蘭が百蘭に言うと

「 御免!」

と百蘭が頭を下げた。

百蘭を見据えながら大蘭が言った。

「 毎夜、布団に皆が着く頃、何処へ出かけて
  る。」

百蘭は分かっていたのか。と観念した表情になり大蘭に言った。

「 蒸し暑くて寝れなくてちょっと海辺に涼み
  に。。」


「 毎度。遅刻するなら、少し考えろ。」

そう大蘭が言うとそれ以上は咎めなかった。

すると、大蘭は誰に言うでもなく

「 あと、
  大志賀島神社の大木のテッペンの枝が数本
  折れてたそうだ。
  誰か稽古終わり掃除しといくれ。」


冠は一瞬肩が微かに上にあがり焦った様子を見せたが、誰にも勘付かれては無いようだった。


「 黙祷!」

そう大蘭が言うと皆、一斉に目を閉じた。

「 なおれ!」

皆、一斉に目を開けた。

「 それでは、今から剣稽古を始める!」

そう言うと大蘭と剣士達は立ち上がる。

「 構え刀!」

素早く竹刀を構えた。

「 素振り千本始め!」

この掛け声で一斉に気魄の籠った素振りを始めた。
皆、動きが良い。

百蘭も前までなら、心の中で、え?千本?と
愚痴を言っていたが今では何も思わなくなっていた。

人よりも朝に多く稽古をやっているのに、疲れるというよりも、朝に壇独と剣稽古をやる方が気持ちが入るようになった様だ。

素振りをしていると、大蘭が少し腕を気にする素振りを見せた。
何やら腕を痛めてる様だ。

それに気づいた壇独が声を掛けた

「 先生、大丈夫ですか?
  腕を痛めてる様ですが。」

「 なに心配いらん。
  今日は、思う存分やるぞ!

  特に今日は、百蘭!玄蔵!
  みっちりしごくからな! 」

  流石に百蘭もこの言葉には動揺を隠さずに
  言葉を漏らした

「  え〜〜!なんで?!」

龍獅子剣華団と
河乃内剣士隊との決闘まであと、ひと月になろうとしていた。


第二十品 【 海中橋の黒壁の死闘! 】おわり


第二十一品へつづく。

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