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⭐️七宝の塔

⭐️第二十六品 【 剣舞合戦❗️】


剣舞場の外周に並んでいた人々も合戦場に入り終え、満員御礼。

河乃内剣舞場は活気に溢れ賑わい
人々の熱気が場内に広がり興奮の坩堝と化している。

剣舞場に入れなかった者たちは、肩車をして中を覗く者、表門のところで耳をそばだてている者が剣舞場の周りに溢れ返っていた。

この合戦の見届け人として、これまた河乃内素哲が雇った見届け人の経験が豊富である三人がやる事になった。

剣舞合戦の試合は、
見届け人 一人 ※主審
請負人。 二人 ※副審

の計三人で試合を見る。

剣士達は、敵の体のどこの部分であれ竹刀を当てれば、一本となり二本取ると退陣させる事が出来る。

尚、総大将を倒す場合は、三本取らないと退陣させることは出来ない。

剣士の竹刀が手を離れ地面に落とした場合は、反則となり退陣させられる。


河乃内剣士隊、そして、龍獅子剣華団の決戦に向けて着々と合戦の準備が整う中、河乃内素哲が隣に居る田辺一家の田辺正次郎の顔色を伺いながら

「 いやいや、とうとう、この日が来ました。
  こっちが緊張してきますよ。
  田辺さん。
  あの三剣士は、勿論のこと。
  他の剣士もどれも剣の実力は確かで、
  特に
  あの長身で蒼い目の鯉本流馬。
  (こいもとりゅうま)
  あれが、中々の曲者でして。

  実は、あの男、免許皆伝は無い物の
  免許皆伝になってもおかしくない程の
  剣術の実力者なんです。

  自由人すぎる為、どこ行っても破門になり
  今はこうして、曇鮫新二郎について
  この隊にいるのです。
  恐らく
  曇鮫にしか鯉本を取り扱うのは無理でしょ
  う。」

田辺正次郎は、それを聞いて扇子を顔に煽りながら

「 ほぉ。そうですか。
  楽しみだ。
  やはり、剣舞合戦は、こうして生で観ると
  わくわくししますな。
  血が騒ぐ。
  しかと、剣華団の旗を河乃内剣士隊が
  狩り獲る所を見させて
  いただきますよ。」

表情を変えずにそう田辺正次郎が言うと

鎌谷宗治は鼻の穴に小指を突っ込みながら

「 壇独、奏剣、蓮翔がまさか、
  試合に出るとは思わなんだが、まぁ、
  治ってるはずはない。
  後半戦も行かずに前半戦ですぐに
  決着はつくでしょう。」

鎌谷宗治は、そう言って鼻の小指を鼻の穴から抜いて眺めていた。


両陣営、最終確認の戦法会議を大団長を中心に
行っていた。

所川雁助が取り憑かれた様な表情を浮かべ
河乃内剣士隊の者に

「 この戦いに敗れれば我等に未来など存在
  し得ない。
  勝つしか道はない。
  勝てば河乃内殿から特別に勝利の報酬も
  出る。
  心して勝て。」

そう皆に伝えると河乃内剣士隊の若き剣士は、
内心うんざりした。
報酬が全ての様に聞こえたからだ。
剣士隊と大団長所川には温度の違いがあった。

所川雁助が戦術の話に入って、皆に入念に確認
しながら、布陣を伝えた。

一方、龍獅子剣華団は、大団長大蘭の戦術を聞きながら、皆で確かめ合い気持ちを定めていった。

「 上手く行くかは分からん。
  ただお前たちなら、この戦術でも
  上手く活かせられる。」

皆真剣に大蘭を見つめている。
そして、大蘭はこの一言で剣士隊を送り出した。

「 お前らは天下へ躍り出る者たちだ!
  さぁ、暴れて来い!」

剣華団の七人の剣士は戦闘態勢に入り
壇独が叫んだ

「 行くぞ!」

その掛け声に皆気合を入れた

「 おおー!」

そして七人は合戦場へと入っていった。

莉里が大きな声で

「天下の龍獅子剣華団!行けぇー!」

と声援を送った。

和代も莉里に負けじと大きな声で

「 絶対に勝てる!言って来ーい!」

と叫んだ。

鈴音は、順番的に自分が一言言う番だと思うとこの流れに心理的圧力がかかった。
最初に、言っとけば良かった。
三番目、、しかも最後となると、何か気の利いた、いや、皆を鼓舞する秀逸の言葉を言わなければいけないような流れだ。

覚悟を決めて鈴音は、息を吸い込み意を決して叫んだ

「 狂喜乱舞しろー!」

その声に剣舞場に居る観客は、一瞬静まり
そして、その静まりが膨張して爆発するように
どっと笑いが起こった。

剣華団の七人は、ずっこけた。

莉里が笑いながら鈴音に聞いた

「 ねーねー、それどういう意味?」

鈴音は顔を赤らめながら答えた

「 剣舞合戦で踊り狂えというか、、
  まぁ、楽しんできてというか、、」

説明すればする程、鈴音の顔は茹で上がった蟹の様に真っ赤になった。

和代は優しく鈴音の肩を抱き

「 うんうん、うちらの剣士隊には
  伝わってる。伝わってる。」

そう慰めた鈴音は肩を抱かれている自分が余計に情けなく見えた。


そうして
いよいよ合戦の幕が開けようとしていた。

両剣士隊が布陣に着いた。

     ★★河乃内剣士隊 布陣

       🔺
       敵陣


       田甫丸  ★守戦
     (たぼまる) 

 又大★攻戦     坂上孫介★攻戦
(まただい)    (さかがみそんすけ) 

       岸万次郎
      (★一番隊)

 梶方俊文         鯉本流馬
(★守護)        ( ★殿 )

       曇鮫新二郎
     (★ 総大将 )

   ★★龍獅子剣華団剣士隊 布陣  

        🔺
        敵陣


        玄蔵★一番隊
        
 梅松★攻戦  奏剣★攻戦   冠★攻戦
   ★殿
        壇独★守戦

        蓮翔★守護

        百蘭★総大将 


この布陣を目の当たりにして、剣舞場に居る五百の観衆は驚いた。

河乃内剣士隊の布陣は定石の布陣であることに対して一方龍獅子剣華団の布陣の最後尾、本丸に陣取った総大将が何と百蘭だったからである。

一般的に総大将は、剣術の実力は勿論の事。
主将などの心、技、体に長けた者だけが君臨出来る位置なのだ。

それを、最近、入った素人同然の百蘭がその位置を張っているのだから皆が驚くのも無理は無かった。

総大将以外の剣士たちは、布で出来たその剣士隊の旗印が書いてある鉢巻を巻くのだが、総大将は、真ん中は鉄で出来た旗印が掘ってある布鉢巻きを巻く。

毎度、対戦相手と相談の上、鉢巻きの色は変わるのであるが、今回の試合は、龍獅子剣華団の
総大将以外の剣士の鉢巻きは白い色で、総大将の百蘭は、赤の鉢巻きである。

そして河乃内剣士隊の総大将は、黒い色の鉢巻きで、それ以外の剣士たちは、緑色の鉢巻きを
巻いていた。

河乃内剣士隊の最前線は、力士の様に太った守戦の田甫丸(たぼまる)を据えた。
この力士の様な体格から来る突破力に期待して、本来一番隊が陣取る位置に田甫丸を当てた。

坂上孫介は、女性の様に肌が白く柔らかい
中性的な剣士である。
その様な見た目と反して、剣裁きが予想がつかない特殊な歪な動きをする。
その為、所川は、相手を翻弄させる為に前線に置いた。

そして、禿頭の又大は、突きが得意な剣士で、
普通に振りかぶって当たらない剣の距離であっても、突きという技は剣が伸びる。
前線から責め立てられる様、前線を張らせてた様だ。


各々の肩書きの役割の説明をすると、字の如く、剣舞合戦でいう一番隊は、戦の口火を切るが如く特攻隊であり、この最初の攻撃がその試合の流れを作ると言っても過言ではない。
そして、合戦最初の守りとも言われている。

そして攻戦は、合戦で主に旗をいかにして、獲るか、又や、いかにして、本丸の総大将を攻め落とすか攻めを担い、守戦は、総大将を主に守り、旗をいかに獲らせないようにして守るかを考えながら戦う。

そして殿(しんがり)は、その隊が、劣勢に陥った場合、一番隊となり指揮を執り追撃の敵を抑える。

総大将の前に君臨する守護はこれも、字の如く
ひたすらに総大将を守り抜く任務を担っている。
そして、試合全体の司令塔の役割も担う。


そして、総大将が、周りを見ながら、守護に指示を出し守護はそれを皆に伝えるなど、守護は
たくさんの仕事をこなさなければならない。

最後に君臨する総大将はその隊の顔であり主君となる為、全ての戦い、戦況を順次に見極めながら、この戦に勝つ為に最後まで戦況を見極め、ここぞという最後の時に動き出すのが今の剣舞合戦の定石となっている。

旗を獲られるか総大将が三本斬られるかで
勝敗が決まる為、旗と同様、総大将は、剣士隊の命なのだ。

また、剣舞合戦は、総当たりの競技ではあるが、混戦になると敵、味方の区別、判断など
見極めにくく危険度が高い為、大体の合戦では、一気に全員で攻めるというよりも、戦況にも寄るが布陣の順番に戦い相手をどう切り崩していくかの様な戦いになる事が多い。

この龍獅子剣華団の布陣を見た所川雁助は
しかめ面で剣華団の剣士達を凝視していた。

《 玄蔵、冠、梅松を前方に置いて、奏剣、壇
  独、蓮翔を守る様な形か。。
  出来るだけ負傷して調子が良くない三人に
  負担を掛けない様にしているわけか。

  そこをうちらが、どうこじ開けて行くかだ
  が。負傷している、奏剣、壇独、蓮翔が並
  ぶ中へ入り込めさえすれば、一気に三人を
  崩して総大将まで進める。
  だが、素人同然の百蘭を総大将に、据える
  奇策に妙な怪しさを感じる。
  何か企みがありそうだな。》

合戦場の両布陣を眺めながら河乃内素哲は、田辺正次郎に剣華団を小馬鹿にした様な口調で

「 この布陣。何と見苦しい。
  要の三人が負傷して使えないからと言って
  苦し紛れにも程がある。
  百蘭とかいう小僧が総大将なぞと。
  若しくは、うちらを舐めているのか
  それとも大団長の大蘭は、無能の大馬鹿
  者なのでしょうかのう。」


それを聞いた田辺正次郎は、一笑に付して

「 無能はあんたじゃないのかい。」

その言葉を投げられた素哲は一気に表情が引き攣った。
それを聞いていた、大汽、鎌谷宗治、長次郎も
戸惑いの表情を浮かべ、田辺正次郎の方を見た。

「 ま、試合を見てみましょう。
  普通に考えたら、河乃内剣士隊が圧倒的
  優勢に変わりはないですが、剣華団。。
  これは、一筋縄ではいきませんぜ。」

そう言うと不敵な笑みを浮かべた。

素哲や鎌谷達は、田辺のその言葉を聞くと、
この田辺正次郎という男は、一体、味方なのか敵なのか、どっちなのか分からなくなっていた。


そしていいよ、剣舞合戦が始まる時となった。


見届け人が合戦場の中央に立った。
両陣営の本丸の旗は風にはためく。

見届け人が、大きなら法螺貝を口に当てた。

両剣士隊達の顔つきが変わり正に今から
戦が始まるという雰囲気が剣舞場、全体に充満すると、その雰囲気が一気に爆発したかの様に
法螺貝の大きな音が剣舞場に鳴り響いた。


その法螺貝の鳴り終わる前に
一気に河乃内剣士隊の田甫丸(たぼまる)が
玄蔵に突っ込んだ。
田甫丸は、力士のような体付きを生かして猪の様に進んだ。
正に猪突猛進といった感じだ。

玄蔵は、体重が乗った凄い勢いの竹刀を自身の竹刀で受けた。
凄く重い剣に玄蔵は、瞬時に全身の力で踏ん張り受け耐えた。

剣舞場の観衆たちは、その迫力ある重い剣に
どっと湧いた。

《 くっ。なんて、重たい剣だ。
  これは、まともに受けてるとかなりの
  負担になるな。》

そう玄蔵が考えていると今度は胴に向かって水平に左から竹刀が飛んできたのを、玄蔵はまた、すぐ様竹刀で受けた。
その剣の重さに小柄な玄蔵は、衝撃で少し右に体に動いた。

守戦の田甫丸であるが、攻撃こそ守りを体現する剣士である。

その戦況を見つめている大蘭は、その玄蔵と田甫丸の攻防を無表情にも似た表情で見つめていた。

梅松と冠は、竹刀を構えながら、対峙する前方の坂上孫介と又大の様子を伺う。

まだ向こうも動かずに状況を見ている様だ、
動き出す気配は無い。

その時、戦況が動いた。
玄蔵は、一瞬膝を曲げ体全体を屈めた。

田甫丸の視界から玄蔵が消えたと思ったその時、玄蔵は一気に下から上へ竹刀を振り抜いた
竹刀を持つ田甫丸の両手を素早く竹刀で弾くと
空を突き抜ける様な竹刀の音が剣舞場に響き渡った。

見届け人が大きな声で

「 一本!」

田甫丸の竹刀は、弾かれ空に舞った。

その竹刀を田甫丸が拾い取ろうと手を伸ばした時、玄蔵はその竹刀を左から右へと自身の竹刀で弾き飛ばした。

その竹刀は、見届け人の足元に飛びそれを見届け人は瞬時に避け竹刀が地面に落ちた。

落ちた竹刀を見た見届け人は真正面を向き右手を上げその右手を下ろして横に水平に伸ばし

「 反則!退陣!」

そう叫んだ。


玄蔵は竹刀が地面に着けば二本取らずとも退陣になる為、田甫丸に竹刀を拾わせなかったのだ。

河乃内剣士隊  田甫丸 ★守戦 ー退陣ー

すると、一斉に坂上孫介と又大が玄蔵へと詰め寄った、二人が動いたのを見た冠と梅松が玄蔵への援護と走った。

前線は、三対二の構図となり、剣華団有利の状況となった。

しかし、その時、坂上孫介、又大の後方にいた岸万次郎が、鯉本が丸めた背中を踏み台にし、跳躍した。

玄蔵の頭上を越し一気に奏剣が並ぶ中へと飛んできた。

梅松、玄蔵、冠は

《 しまった!》

そう思った。

本陣で見守る鈴音達も息を飲んだ。

だが、その岸万次郎の跳躍は、奏剣、壇独、蓮翔をも超え
総大将百蘭の居る本丸まで伸び、岸万次郎は、竹刀を振りかぶり、百蘭へと襲い掛かった。

「 総大将の首獲ったりー! 」

岸万次郎の叫び声は、剣舞場にこだました。




第二十六品  【 剣舞合戦❗️】終わり


第二十七品へ続く、、

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