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如何賞受賞作発表|2020年12月

如何賞(いかん-)は、Vtuberのサイとが、作家応援を兼ねて、個人的に推したいと思った作品(主にweb小説など)を選定しました。

あくまで独断のため、こちらから作者に連絡することはありません。

如何賞は毎月1日に発表されます。(年末年始多忙により今回遅延)
賞金はありません。

期間
2020年12月1日~12月31日に読んだ作品

受賞・春草―しゅんそう―(作・kiri)

日本画家・菱田春草を主人公に明治期の画壇を舞台にした偉人伝。

物語は三男治(※菱田春草の本名)が上京するところから始まる。
朴訥とした好青年が横山大観をはじめとした一癖も二癖もある大画家たちと出会い、自身の才能を開花させていく。

今でこそ春草は天才と言われるが、この物語を通して見る春草は研究者だ。
親兄弟が理系で彼自身も東京美術学校の時代から美術を研究対象として見ていたのだろう。

しかし、美術を仮説と実験の方法で研究するというスタイルは、まだ明治の画壇には受け入れられず、絶えず酷評が付いて回った。

天才は凡人には理解できない、という悲しい話だけではない。
彼を周囲で見ていた仲間たちが彼を独りにはしなかった

仲間たちは学生時代に彼のそのストイックな様を見て我が振り直した者たちでもあるのだ。

題材がとっつきにくいのは仕方ないが、柔らかな筆致と春草の素朴な人物像が本作を読みやすくしている。

物事が春草の視点で書かれるために、かなり端折って書かれているので分からない作品や人物は読み飛ばして良い。

読み飛ばしても1話ごとにあとがきで登場した人物や日本画の解説があり、これがとても良い。大河ドラマにもあるそれだ。

物語の中で躍動感あふれる発言をした人物も今は昔の存在となりながら、武将であればその土地の人たちに、画家であれば鑑賞者の人たちに、それぞれの忘れえぬ人に思いを馳せることができる。

これが偉人伝の素晴らしいところだ。
本作はそれがある。

ノミネート・総評

あけましておめでとうございます。サイとです。

2020年は500作ほどの小説を読みました。
ご応募ありがとうございます。

年間受賞作は決めません。
いずれも面白く、過去の受賞作に差は無いと感じています。

12月に読んだ作品は50作ほどで、ノミネート作品は5作品です。
偉人伝、ミステリー、ラブコメ、アクション、ハウツーコラムとジャンルがバラバラなのもweb小説を主な対象とする如何賞の特徴だと思います。

受賞作とノミネート作、読書実況に選ばれた作品、選ばれなかった作品。
割合としてはどんな感じか図にしてみました。

受賞率

読書実況に応募していない作品からもノミネートや受賞がありましたが、それらは除外し、細かい数字は端折って、ふんわり集計しています。

他の文学賞と比べるとかなり受賞率が高いですね。
新潮新人賞や電撃大賞のような大きな賞だと0.1%くらいで、専門系の賞や地方文学賞でも1%より上回りません。

私のキャパシティ的にもこれが限界です。
出版社様はこれ以上ない破格の待遇で作品を読んで下さるのだと感じます。

如何賞は作家応援を兼ねた個人的に推したい作品に贈る賞です。
この数字ならその意義は果たせていると思いました。

今年もよろしくお願いします。

死がふたりを別つから(作・ルマランゼ)

幽霊を探偵役とし、女学院を舞台にしたインテリ派な百合ミステリー。

キリスト教(特に聖書)を題材にした謎を主軸に物語が進行するが、とにかく衒学的でルビの振り方や傍点の使い方に癖がある文体で、なかなかテンポ良く読ませてくれない。

文章は好みが分かれる所だと思う。この癖を楽しむのが正しい読み方だろうし、言葉選びなどは決して難しいものではないので、小説に読み慣れている人ならば問題なく読みすすめることができるはずだ。

本作の推しポイントは舞台と題材だ。私も同性しか居ない学院に通っていたので、キリスト教的な規律を強いられる学院に漂う閉塞感と発展性の無さみたいなものにとても共感して読むことができた

この上にオカルティズムとミステリーと百合が乗っかるのだからヤバい。
例えるなら、寿司と焼き肉が一緒に来たみたいな感じ。
いや、この例えはちょっと発想が貧相すぎるか。

ヒロインの名前もすごい
心臓痕 硝子(しんぞうこん がらす)だよ?
日本史の授業で「細川ガラシャ」が出てきた時の衝撃に近い。

この作品の楽しみ方は随所に登場する薀蓄の読み込みだ。
Meteorの『神樹の館』というゲームがあって、これもインテリジェンスを刺激される名作だったが、そういう考察系の作品としても本作は読める。

1話あたりが長いので、まとまった時間と覚悟が必要。
それでも後悔しない面白さがある。

戦隊ヒロインのこよみさんは、いつもごはんを邪魔される! ~君の想いが、料理が、ウチを強くする~(作・サンボン)

戦隊チームに所属するヒロインと一般市民のグルメ系ラブコメ。

傷心の主人公を癒やしてくれた女子は、実は戦隊ヒロインだった!?
特撮ヒーローのバイトなどではなく、本当に怪人が出てくる世界の話だ。

軽快な文体、明瞭なキャラクター、オタク向けな題材の三拍子……、いや三本柱が揃った小説で、ストレートにおもしろい。

タイトルはヒロイン視点の物語に見えるが、中身は男子大学生視点だ。
とはいえ本作はいわゆるside使いの小説なのでヒロイン視点もある。
他のキャラクターの視点にもなるので、かなりゲームっぽい。

これをヨシとするかで評価が分かれる作品だろう。
内容はヒロインが戦って、主人公がヒロインをいたわる定番のやつ。
敵の攻撃を食らったヒロインに「大丈夫か○○!」みたいな。

でも、本作は定番のいたわり方がプラスアルファされている
手料理をふるまうのだ、ヒロインに。普通は逆なんだけど、ヒロインが社会人で仕事でヒーローをしているから許される。

新奇性という面ではこれくらいで十分だと思う。
いや、すごいんだよ。特撮というオタク文脈が強いところは奇を衒う人が多すぎるから、奇を衒わない面白さは称賛に値する。

上海蒸汽朋克姑娘 ~ シャンハイ・スチームパンク・ガール(作・Gyo¥0-)

1930年の上海で蒸気機関と道術が交差するチャイナ・アクション小説。

中編小説だが、クライマックスの盛り上がりは長編小説に劣らない。
細かいことを気にしないというか、多少のケレン味を楽しむ余裕がないといけない作品であることには注意されたし。

武侠小説というのはそういうものだ。
そもそもスチームパンクが登場する時点で察することができるだろう。

上海を舞台に胡散臭い爺さんが出てきて、道術を習う孫娘に秘伝の巻物が譲られて、その巻物は蒸気機関に関わっていて……っていう作品だ。

蒸気機関を近未来の科学に置き換えても良いが、蒸気機関でないと道教と蒸気機関がシンクロする時のバカバカしさが面白くないからこれが良い。
そんなのあるか? と そうなんだよなぁ。が混線して楽しかった。

https://ncode.syosetu.com/n4420gc/

三百枚書けるようになるお得な「小説の書き方」コラム(作・カイ.アルザードSSTM)

小説の書き方についてまとめたコラム。高い網羅性。480万字。

投稿数が多すぎる。
2021年1月の時点で1400話を越える最長のハウツーコラムだ。

内容の充実度は言うまでもないが、何より初心者から中級者にありがちな悩みに対して筆者独自の切り口で何らかの回答があるのが良い。

創作者の悩みは他の人に聞きにくい。
尻込みしたり、反応されなかったりする。
そうだよね。「読まれない作者の話なんて誰が聞くの?」って話だ。

本コラムはそれらの悩みに対する一通りの回答が用意してある。
きみは独りじゃないのだ。

https://ncode.syosetu.com/n8219ej/


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