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24.8月チェロレッスン②:私の無伴奏。

汗疹とじんましんで身体中がかゆいこの頃。
職場は冷房効いているけれど、動いていると暑い。

体のあちこちがかゆくていつもモゾモゾしているから、同僚には変な踊りをしている人に見えているだろう…笑える。
マスクで隠れた顔の下半分は、蒸れもあって大変なことに…。マスクを外せるときは外すようにする。

皮膚科で薬を処方してもらった。

風呂上がり、背中の薬はダンナに塗ってもらう。

「じんましんの原因はさあ、絶対にストレスだよ。仕事減らさないとダメだよ。」
と、ダンナ。

ストレスを受けている自覚はない。
でも、じんましんが出るということは、身体が弱っているのだろう。
働き方をちょっと考えよう。

           ★

いつの間にか、日が短くなった。
外が暗くなってからのチェロレッスン。

「Jさんの様子、何か聞いてる?」

7月に入院した、コントラバス奏者Jさんの様子を気にかけている先生。Jさんは相変わらず先生のメールに返事をくれないらしい。

「先日のオケの練習会は、お休みするというメールをもらいました。私は、退院しましたか?と聞いたのですが、『元気になったらいっぱい話しようね。』というお返事でした。退院したのかは不明です。」

浮かない表情の先生。
先生が面倒を見ているアマオケの本番まで1ヶ月を切った。
Jさんは出演できないまでも、先生としては早くJさんと和解したいだろう。なにより、Jさんの容体が心配だ。

Jさんも先生も、お互い気の毒に思う。

           ★

発表会で弾くことになった、バッハ無伴奏5番プレリュード。

「CとGの弦、替えました。ウォルフラムです。」
「あ、本当だ。これで軽く音が出るようになっただろう。じゃあ、弾いてごらん。」

一通り最後まで弾いてから先生に指導をもらう。

「なんとか最後まで弾いたって感じだねぇ。」

先生が苦笑する。
返す言葉もありません。

「じゃあ、最初から見ていこうか。」と先生。

「序奏、音が軽いよ。もうちょっと聴かせてほしいなぁ!」

軽い...

「ドラマティックにするなって言われたので、抑えめにしたのですが。」
「でも、そういうことじゃあないんだよ。」

...難しい。

「付点8分音符と16分音符の間がスカスカ。
音を抜いてはいけない。その上でもう一度序奏をつくってきなさい。」

先生の指摘はまだまだ続く。

「110小節目からの音程。ココ、元々がモヤモヤなメロディのところだけれど、お前のは♭なんだかナチュラルなんだか曖昧で、わけわからんことになってる。特に、114小節の“シ”は、BベーじゃなくてHハー。お前のは、BとHの間だ。」

細かッ!

でも、言わんとしていること、わかるけどね。
ちょうど曲の半分あたりだから、疲れが音程に出てしまう。

「133小節、4ポジから3ポジへの移動のところ。ポジション変わるんだから、指を広げる幅に気をつけなさい。」

1cmもない、数ミリの間隔の話だ。

「110〜137小節を中心にさらってきなさい。
次、171のドッペルの弓圧。Gは弓圧かけすぎ。」

G線、弦を変える前の感覚で弾いてしまった。
新しくしたから、弓圧かけなくても音量出るようになったのに。
やっぱり、早く弦交換すべきだった。

「222の最後のドッペル。間空けすぎ。もっと詰めなさい。
その前の3、4拍目のGは逆に詰まりすぎだから、一息つくつもりで間を空けなさい。」

はー…今日もたくさんダメ出しされた。

ため息をつく私に先生は笑う。

「出来ているところもあるよ。
たとえば、8分音符の3連符。テーマの音形に入るときは、きちんと切り替えが出来てる。」
「ああ、そこは、マラソンでいうところの給水所だと思ってます。」
「その感覚でいいよ。仕切り直すくらいでちょうどいい。
それから、自分のリズムが出来上がってる。長い曲はいかに自分の弾きやすいペースを作れるかが大事。」

なるほど。

「自分のペースは掴めてきたのですが、表現となると、どうすればいいのか難しいです。」

先生、頷く。

「そうだねぇ。バッハは弾く人によって一十人十色だからね。しかも、永く色々なところで弾いていると、自己解釈も変わってくる。
ボクのバッハも10年前と今では全然違うよ。」

確かに。

「ボクがお前に教えているのは、土台となる基礎の部分だよ。抽象画を描く画家だって、デッサンなどの基礎はしっかり押さえた上で抽象画を描いているだろう?それと同じ。
ボクのバッハはボクなりのものだ。だから、ボクの真似をする必要はない。土台が出来たら、あとは自らの表現方法で夜独自の無伴奏を作り上げなさい。」

           ★

「今日も一日終わりだなぁ。もう9月になるのか。」
先生が背伸びをする。
時計を見ると、22時になろうとしていた。レッスン+おしゃべりで3時間以上も経っていた。

「9月のレッスンも遅い時間ばかり入れてもらってすみません。で、10月の日程もなかなか厳しいです…。」
「学会もあって、時間が取れないって言ってたね。」

「それもなんですが…。」
私、おずおずと話を切り出す。

「大学時代のオケサークルOBから、合宿に参加しないかって誘われまして。それが10月なんです。」
「お前、OBオケの演奏会の予定もあったんだっけ?」

演奏会へ向けて合宿が開催されることがある。

「いいえ、演奏会の予定はないです。ただ現役とOBが集まって、わいわい楽しくアンサンブルしましょうって企画です。」

大学時代はヴィオラだった私。やっとチェロパートOBと繋がりが持てたので、合宿に参加してしっかりと誼を結びたいところ。

ニコニコとしていた先生、私の話を聞いた途端、シラッとした目つきに変わった。

「それ、発表会の2週間前じゃないか。遊んでるヒマ、ないんじゃないの?」

うっ…超絶おっかない。

チェロは私にとって趣味、遊びに近い?、の範囲なんだけどな…どうも先生はそうは捉えていない様子。

となると、合宿に参加して、その後の発表会で万が一大ヘマしたら、根に持ちやすい先生にずうっとぐちぐち言われるのが目に見えている…。

「…わかりました。今回は諦めます。」

しょぼんとする私に先生が笑う。

「自宅の改装工事、順調に進んでるよ。とてもキレイになったよ。10月になったら自宅レッスンにしよう。楽しみにしていなさい。」

それは楽しみだけど。
今回に限らず、私がよその団体に参加するのを先生が良しとしない感じが、気掛かりなのだった。



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