日常雑記、パラグライダー
午後5時。
仕事の合間にお昼ご飯だか夕飯だかを買いに、いつものお肉屋さんへ行った。
「メンチカツとさつまいもコロッケ、一つずつください。」
「はいよー。」
いつも威勢のいい奥さん(社長)。
「先生、元々美人だけど(マジか⁈)、最近なんだかとってもキレイじゃない?何かいいことあった?」
奥さん、私にコロッケの入ったビニール袋を手渡しながら、そんなことを言う。
私、面食らった。
「うわぁ、究極の営業トーク!でも嬉しいから、唐揚げも1パックください。」
「まいど!でも、ほんと、いいことあった?オケの練習がうまくいってるとか。」
オケか…。
「次のシーズンに向けての全体練習はまだ2回目です。私自身は、弦セレの1楽章がメタメタで全くダメですね…。」
「じゃあ、恋愛?ダンナさんに惚れ直したとか?」
奥さん、愉快そうにそんなことを言う。
「昨日、どこからか5kgのお米を手に入れてきたのは『でかした!』と思いましたが、惚れ直すほどではないですね…。」
「じゃ、あのイケメンのチェロ先生?」
私、たじろいた。
「私の天敵ですよ…恐ろしい。
先日も、私が大学OBオケの集まりに行きたいって言ったら、『この大詰めの時期に何を考えてるんだ!』って、一蹴されましたもん。」
「ほんとに何もないの?」
「う〜ん、強いて言うなら、貧血で顔色が白く見えるってところでしょうか。」
「ええ?病気なの?!」
「今回ヘモグロビンだけでなくヘマトクリットも赤血球も少なかったから造血剤打ったんですけどね…あ。じんましん出たはその副作用か。」
「大丈夫なの?」
「心配ご無用です。平常運転です。でも、キレイって言われるとうれしいもんですね。仕事がんばれる〜!」
「おにぎりも付けておいたから。今日は夜勤?がんばって。」
「わぁ、シャケおにぎりだぁ。ありがとうございます。」
まだ温かい袋を受け取って、職場へ戻った。
★
実はちょっとだけいいことがあった。
私の研究分野が先日マスコミに取り上げられた。
できるわけがない、と、当時私は多くの人にそっぽを向かれた。
10年、いや、それ以上、孤独にデータをコツコツと積み上げ、失敗もたくさん重ねて、ここまで来た。
やっと世間に注目されるようになった。
これからは協力者が増えるだろう。予算も付きやすくなるだろう。
何より、これで少しでも多くの人の命が助かる希望が持てるのがうれしい。
★
当直を終えたその日の午後、疲れをあまり感じず元気だった。
お天気もいい。
久しぶりにパラグライダーをしに出掛けた。
入山チェックをしながら、近くにいたパイロットのMさんに、午前中のコンディションはどうでしたか?と、話しかける。
「天気は良かったよ。でもそんなにサーマール(上昇気流)はなかったかなー。これからの時間に期待だね。
夜さんならたくさん飛べるよ、きっと。」
「いやいや、Mさんには敵いませんよ。」
お互いに笑い合う。
このところ、雨や台風や風向きが悪くて、比較的確率の良いこのエリアでもなかなか飛べていなかったそう。
飛べるだけありがたいので、今日は平日にも関わらず、多くのパイロットが集まっていた。
「仕事は?」
テイクオフに着くと、Kさんに話しかけられた。
「終わってから来ましたよ。」
「オレはこれ飛んだら帰るよ。これからの時間がいいんじゃないかな。」
Kさんは先に飛んで行った。
今日はとにかく、機体替えてからうまくいかなくなったランディング(LD)を練習したい。
私の1本目…ぶっ飛び。
サーマル、なかった。
LDはまあまあ。もう少し早いタイミングでフレアをかけると良さそう。
2本目。
雲が出てきた。
風が正面から少し強めに入ってくる。
これは、少し期待できるかも。
この日、私が一番最後にテイクオフした。
アーベントタイム(一面穏やかな上昇気流時間)になったのかもしれない。
そんなには浮かないが、1本目のようにすぐに高度が下がることはない。
飛行時間15分だった。
LDは早めにブレークを引く操作をすることで、着地地点が延び過ぎるのを防げた。コツを掴めたかも。
ああ、楽しかった。
良い夕涼みになった。
次に飛べるのは、いつかなぁ。
★
帰宅して、自宅での夕飯時。
昨日、お肉屋の社長さんに「最近キレイじゃない?」って言われたんだよ、と話した。
「へぇ。よかったね。」
と、アッサリなダンナ。
一番反応がほしいのにッ。
そこへ長男が、
「お母さんはいつだってキレイだよ。」
とニッコリ。
長男〜!感激!
長男がダンナに言う。
「こう言って返さないと。」
「長男よ…どこでそんなこと覚えたの。」
とダンナ。
「常識よ。」
と平然と言う高1長男。なんともカッコいい。
「お兄ちゃん!お父さんとは離婚する。お母さんと結婚しよう!」
「ほらー。お父さんダメでしょう。女性が喜ぶ言葉選びを勉強しないと。お母さん逃げちゃうよ。」長男
「そうそう。料理もできて話もおもしろい長男と結婚する。」私
「…スミマセン。」ダンナ
私、光源氏に出てくる紫の上のように、理想の男性像を投影して長男を育ててしまったのだろうか…いや、そんな意識はなかったのだが。
ダンナには、がんばっていただきたい。