【才能はみだしっ子を育てる⑤】それぞれ個性の異なる3人の才能はみだしっ子たちを子育て中のKさん
Kさんは、8才の男の子、6才の女の子、4才の男の子と、3人のお子さんの子育て真っ最中。子ども達それぞれを個性的な「才能はみだしっ子」だと感じていらっしゃいます。三人三様のエピソードから教えていただきました。
【長男】小説を書き、その世界の地図も作る。学校は疲れるけれど、お友だちが欲しい
英語でのコミュニケーションが好きな長男の子育て
長男は、生後2カ月で夜間の授乳がなくなり、外ではおむつを濡らさず手が掛からない子だなと感じていました。1才のときに少し発語がありましたが一度消え、あまり話さなくなりました。自宅では日本語で接していたのですが、隣家に住む母に預けている間は母が英語で話しかけしていたので、日本語よりも英語で言葉を覚えて発するようになりました。ひらがなよりアルファベットを先に覚え、単語も英語で覚えてから日本語を覚えるという順番でした。
日本語の発達が遅れてしまうのではないかと心配して、英語を使わないようにしてみたこともありましたが、本人が英語でのコミュニケーションが好きだったので、英語を使わないことは無理でした。アニメなども英語版が好きで、よく見ています。6才で英語の文法が楽しくなり、はまりました。
今は、私から「勉強しなさい」などの指示を伝えたいときは英語で伝えます。そのほうが長男には伝わりやすいからです。さらに、スマホのメールでテキストにしたほうが通じやすいようです。本人は、日本語には口調に感情がのりやすく、英語の方がフラットで聞きやすいと言っています。正直言って、長男に英語力で抜かれるのは時間の問題かなと思っています。現在、彼の使用言語は日本語、思考(アイデンティティ)は英語という感じです。
療育ママ友から「ギフ君では?」と言われたことを思い出し、「ギフテッド」について学ぶ
2才の時に受診してASDと診断され、4才で保育園に合わなくなり退園し、小学校にあがるまでは自宅保育をしていました。5歳でWISCの1回目を受けました。6歳の時に小児神経医から「知的に思春期」と言われ、ASDだけではないと親子で考え始めました。
療育ママ友から長男のことを「ギフ君(ギフテッドの事)じゃないかな?」と言われていたことを思い出し、ギフテッドについていろいろと学び始めました。IQ的にはズバ抜けて高くはないものの、非同期発達※の特徴は感じられることから2eの可能性があるかなと考えました。
※非同期発達…特性ごとに異なる年齢レベルの成長をしていること
小学校に通い始めて、すぐに不登校に
好きなことがたくさんある長男は、小学校に入ったらもっともっとたくさんのことを学べるのだととても楽しみにしていたのですが、入学してみたら勉強の内容が簡単すぎる上に反復ばかりで、とてもがっかりしていました。「みんなはcommon(普通)だけれど、僕はrare(めったにいない)な存在なんだ」と通学し始めて1ヶ月で気づいてしまいました。
学校がとてもつらくなり、柔軟な考え方の先生とはなんとか合いましたが、みんなと同じようにできない子どもにばかり目が行く先生とは合いませんでした。
長男は様々なことに興味がありますが、特に空間やデザインが好きで、方向感覚にすぐれ、行った場所の道路標識や素材まで覚えていることがあります。建物の梁、銭湯の絵、家紋などの意匠も大好きです。彼はビジュアルで目に入ってくる物を精密に覚える特性があるのです。
Kさんが息子さんのためにに制作した消しゴム判子
それもあってグロテスクなものを受け付けられず、「鬼滅の刃」ブームでお友だちと話が合わなくなり、登校拒否になってしまいました。現在はフリースクールに週2日、小学校には週1日特別支援学級へ通い、1週間分の課題を一気に片付けています。「まるで仕事をこなしているみたい」だそうです。それ以外は児童デイサービス※とホームスクーリングをしています。
家では、その日の気分でテキストを選び一気にやってしまうのが楽しいようで、算数パズル200問を2日で終わらせたりしています。
※児童デイサービスは「児童発達支援」、「放課後等デイサービス」の両方を指す。
学校は疲れるけど友だちとは交流したくて、自ら「クイズ係」を新設
長男には聴覚過敏と視覚過敏があるので、学校のような集団の中に居ることは「できないことはないけれど、異常に疲れる」ようです。騒がしいときはもちろんダメなのですが、みんなが集中しているムードにも敏感に反応してしまい、他の人の感覚を感じ取り過ぎてしまうゆえの気持ち悪さがあるそうです。テストなどの時に周りがシーンとして集中している状態もつらいのです。塾の公開テストでは人がたくさんいて落ち着かず、結果が出せません。その分、家が楽しいようでそれは何より良いことだと感じています。
こうした状況でもクラスメートとのコミュニケーションをとる方法を自分なりに編み出したようです。担任の先生に自ら申し出てクイズ係を新設しました。週に一回の登校日にクラスメート向けのクイズを出題して掲示板に貼り、次の週までに回答を書き込んでもらい、その答えと新しいクイズを次週持って行くのです。クイズの内容は全てオリジナル。人のために考えることが好きなようで、小さいときから妹・弟に英語を教えたり、教材を作ったりもしています。
長男は、お友だちがとてもほしいのだと思います。だからそのコミュニケーションの手段を自ら考えたのでしょう。彼のアプローチが功を奏したのか、お友だちから理解され始めて、同級生の女の子からは、「頭が良いのにたまに抜けていて、面白い子」といわれたそうです。「学校は好きではないけれど、少し楽になってきたよ」と言っています。
話が合うお友だちを早く見つけてあげたい
彼は自己分析が癖で、英語でダジャレを飛ばします。小説も書いています。今は、塾の先生との交換日記からスタートしたパラレルワールド的な短編を95話まで書いています。仮想の街の道路地図まで作り、小説ともリンクしています。その世界を表現しているノートの中はすごく忙しくて自由です。ページをめくったとたんに世界が切り替わるらしいのです。
自分の世界の中では、瞬時に興味の対象が切り替わるのですが、生活の中での切り替えはむずかしいですね。何かに没頭してしまうと、呼んでも来ないし、返事もしないときも。休んでいる様子もありません。
長男には話が合う相手をみつけることが今の課題です。ギフテッド応援隊のZoomを介して、4年生のお友だちと算数パズルで謎解き系クイズなどをしています。小学校2年生では世界が狭くて友だちと出会えません。コロナで人と会えないことで、寂しい思いをしていると感じています。
【長女】感覚過敏があり、一度見たものは映像でディテールまで記憶する
体に触れられることが苦手だけれど、少しずつ触れ合うコツがわかってきた
今6歳の長女は、妊娠34週の早産で生まれました。当初はとても心配したのですが、めざましく成長し、生後3~4か月健診では、成長曲線の平均値に追いつきました。0才代から話し始め、1才になるころには、日本語の発語がゆっくりだった2才上の長男と対等に会話をしていました。
長女には夜驚症(やきょうしょう)がありました。夜泣きした時に抱っこして背中をトントンすると、接触に対して過敏なのでさらにひどく泣きました。夜、夢見が悪かったりするとすぐに起きてしまいますが、体に触れずに「隣にいるからね」と声を掛けると薄く目を開けて私を確認し、安心すると眠ります。
他の人と接触することに関しては非常に敏感です。手を繋いだりハグするときに、自分からはいいのですが、急に人からされるとだめ。直接ではなく、タオルやショールなどをかけてあげた上で、驚かさず、そっとならOKと、だんだんに変化はしています。
ディテールまで映像で記憶するがゆえの苦しさも
長女はピアノ、工作、ダンスなど指先や体で表現をすることが好きです。夫の母がピアノの先生をしているので、三人とも教えてもらっていますが、譜面を理解して正確に再現をするのが好きな長男に対して、長女は義母が弾いている様子を映像でとらえて再現しています。ちなみに次男は兄姉と競いたくないのか、ピアノはあまり好きではないみたいです。
娘は視覚優位で、動画を録画するように様々なことを記憶します。記憶した内容は「窓が開いたらカーテンがゆれて…」とディテールまで鮮明に説明できるほどです。
その分、嫌なこともはっきりと覚えています。自分が人に対して嫌なことや意地悪をするという感覚がないので、自分がいやなことをされたときに、なぜその様なことをされるのか理解できないために余計に強烈な記憶として残ってしまうようです。2才の時に起きたことが、2年たってようやく消化できる年齢になったときによみがえり、フラッシュバックしたこともあります。経験を消化するまでにもとても時間がかかるのです。
フラッシュバックがあるときは、週に2~3回思い出しては苦しみ、徐々に消化していきます。自分で納得しないと消化できないので、母としてはアドバイスはせず、とにかく話を聞いてあげることにしています。
しんどい気持ちをため込まないで、と伝えたい
彼女は目に見える事象によって状況を理解するので「空気」が読めません。私が腰を痛めて寝ていて、夫が私の腰をトントンとマッサージしてくれていたら「パパがママをいじめている!」と言ったことがありました。「いじめているのではないよ」と説明したら、今度は誤解した自分にショックを受けてしまいました。
保育園でも周りのお友だちがふざけてやっていることがわからず、真面目に受け止めてしまうのでつらいみたいです。長女は、友だちと同じようにしていたいと切望していて、自分だけ人より抜きん出ていることをひた隠しにしています。女の子にありがちな自分の特性を隠す傾向なのでしょう。
だから、帰宅する頃には疲れ果てて機嫌がとても悪くなり、爆発してしまいます。いつも同じ時間帯に妹の機嫌が悪くなるため、兄と弟には彼女がかんしゃくを起こすと「ああ、もう夕方だ」と言われてしまうほどです。
子どもたちにはそれぞれの特性について説明をしています。そして父と母は子どもたちをどんなに大切に思っているかも伝えています。長女には絵本を作り、一緒に読むことで理解を促しました。自分の中にしんどい思いをため込むことなく、小出しにして良いよと伝えています。少しずつ練習していけたら、と思っています。
Kさんが長女さんのために作成した、
自分のことを理解するための絵本
【次男】一見クール、実は一番情熱的なアーティストタイプ
納得がいかないと動けない、正義感が強く、繊細
次男は、理詰めで物事を考え、納得しないと動けません。本音と建て前の解釈などが難しく、とてももどかしいようです。たとえば、保育園の先生がみんなに「こうしなさい」と指示を出したのに、周りの友だちがその指示を守っていないようなとき、自分はどうしたらよいの?と悩んでしまいます。自分のことではないのだから気にしなくていいよと言われても、気にしないなんてできない、と思ってしまうのです。また、他の子みたいに聞き流すことができない、繊細すぎる自分にも気づいていて困っているようです。自尊感情が低くて、生きている意味を問うこともあります。
友だちとの関係では、おっとりした性格の子はいいけれど、やんちゃで口が達者な子とは付き合うのが難しいようです。何を言われたかをずっと記憶していて、「あの子からは、いついつこういうシチュエーションでこう言われたから、近づけないの」と言っていることもあります。先生との方が気楽に話せるようです。
また、自分が発した言葉についても気にする傾向があります。かんしゃくを起こしてお友だちに「近づかないで!」と言ってしまったことを気にして、保育園に行き渋ったことがありました。
「21時の画伯」は、絵を描くことで1日をリセットする
次男は美しいものが大好きで自然の花、昆虫、鳥などの美しさが大好きです。あるとき「紙と鉛筆ない?」と自分から言い、絵を描くようになりました。絵で表現をすることが彼にとって1日のリセットの時間となっているようで、21時になると絵を描き始め2時間ほど集中して描き続けます。その間は邪魔をしないようにして、他の家族は皆静かに寝てしまい、次男は思う存分描いたら自分で寝ます。我が家では次男を「21時の画伯」と呼んでいます。
次男は2才の時にK式発達検査を初めて受けましたが、なぜか全て英語で答えてしまい、担当者の方を困らせたことがありました。4才で再度K式発達検査を受けたとき、認知・適応/言語・社会のインプット(理解)は+2才、アウトプット(表出)は年齢相応との結果でした。本人が時々「分かっているけれどできない」ということがあり、自分の中に発達のズレがあることを実感しているのだなと思います。
親自身が、息抜きできる場所も必要
子どもたちは三人とも検査を受けて、はじめは自閉症と診断されました。けれども、その診断とケアの方法だけではどうもしっくりこない感覚をもちました。学校のようなマジョリティの集団の中ではもちろん浮いてしまう。けれども発達障害親の会や不登校親の会でも浮いてしまうつらさを感じました。
時に、参加者の方からの「知的に高くて勉強出来るなら十分でしょう」という空気や場違い感を感じることもあって、私たちの本当の困りごとを共有することが難しかったのです。
子どもが「学校に行かなきゃと分かっているのに、行ったら倒れそうなくらい疲れきってしまう。こんな弱い自分は嫌だ……、もっと頑張らなくちゃ」と熱を出しながら言うことが、親としてはとてもつらいです。学校には「ギフテッドの子どもたちにも合理的配慮を」と切実に思います。
ギフテッドについて学ぶなかで、うちの子どもたちは日本でのギフテッド判定はないけれど2eなのかな、と思うことで、だいぶ私の気持ちは楽になりました。とはいえ、好奇心や探究心の強い子どもたちの知的欲求を満たすために、親が工夫をし続けることで疲れてしまうことや、忙しい親業をたまには休憩したいと愚痴をこぼせる場を確保できることはとても大事だと思います。
将来、たぐいまれなキャラクターを面白がってくれるパートナーに巡り合ってほしい
我が家の場合は、夫が障害者福祉の仕事をしており、私自身も特別支援級の支援員をしていた経験があります。仕事上の経験からか、少し冷静に子どもたちを見ることができるような気もします。子どもたちには何か困りごとがあるとそれぞれ話し合い、解決していくのですが、夫と話す相手を分担してひとりひとりとじっくり向き合うようにしています。
また、ギフテッドの性質は遺伝すると言いますが、夫、私、私の親や親戚もギフテッド傾向を持っていると思います。家族の特性はひとりひとりとても個性的で、それぞれが自分の個性を活かして生きてきていると感じています。
それでも、「子どもを立派に育て上げなきゃ!」と思うと重責に押しつぶされそうになるので、私の役目は、家族の共倒れ・家庭内玉突き事故を防ぐことだけと割り切っています。子どもたちのそれぞれのベストは求めない、家族5人のベターを優先するという方針です。
目に見える姿は8歳・6歳・4歳でも、8歳の中に15歳が居たり、4歳の中に2歳が居たりするので、何歳だからというくくりでは見ないように気をつけています。子どもをボスにはしないけれど、対等に話し合うことを優先事項にしています。
また、子どもの悩みに巻き込まれて一緒に沼にはまるのではなく、ときには親は鈍感になって楽観的な親を演じることも大事なのだと、最近ようやく気付いたところです。異なる個性の子ども3人の子育ては、手はかかるし大変だけれど「可愛いな〜」とさえ思えていれば、最低限子育てはできているはずと自分に言い聞かせています。将来的には三人が、たぐいまれなキャラクターを良い意味で面白がってくれる人と一緒に過ごせたらいいなと思います。悩みも深いだろうけれど、笑い飛ばせる力をつける事ができたら、その時、私の親としての役目は終了かなと思います。
【インタビュー後記 ~酒井の思い~】
Kさんは以前、上越教育大学の角谷詩織先生が翻訳された書籍「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら」をAmazonで購入して読まれたところ、Amazonのおすすめとして「才能はみだしっ子の育て方」が表示されたことがきっかけで、私の本も読んで下さいました。「ギフテッド」という「神様からの贈り物」という言葉自体がキリスト教的な欧米の感覚で日本人にはわかりにくいのではと思っていたので「才能はみだしっ子」というワードが良いなと思って下さったそうです。
Kさんのお話を聞いていて、とても個性のある三人のお子さんたちに対して細やかにひとりひとりに寄り添い育てていらっしゃるなと感じました。子育てをしていると、世の中の仕組みに合わせる方が生きやすいからと、子どもの性質を社会に合うように矯正するような育て方になってしまうこともあるでしょう。そんななかで、Kさんはあくまでもお子さんの個性と特性を大切にされています。そして社会とはこういうものなのだよ、みんなはこういう風に感じているのかも知れないよと情報として教えてあげるということをされています。敏感に状況を察するKさんの子どもたちは、Kさんからの情報を自分なりに咀嚼し、時間を掛けて自らの個性の理解をしているのではないかと思います。
才能はみだしっ子にとって、心の安全基地となる居場所を確保することはとても大切です。Kさんのご家庭では子どもたちは家にいる時間に安心してそれぞれのやりたいことをして発散していて、その時間があるからこそ、みんな自分なりに外の社会との関係性を手探りで作り出そうとされているように感じました。
ある意味、客観的な視点も持って子どもたちを育てていらっしゃるKさん。Kさんご自身がお子さんたちと似ている性質があると感じられていて、もしかしたらご自分の子ども時代を思い起こしながら「自分だったらこうして欲しかったかな」と、想像しながらお子さんを育てていらっしゃるのではと思いました。Kさんは消しゴムハンコ作りが趣味で、長男さんに家紋のハンコを彫ってあげたりもしています(長男さんのエピソードの箇所の画像を参照ください)。お子さんだけではなく、ご自身にとっても癒やしとなる時間をもたれていることにホッとしました。
シリーズで才能はみだしっ子の保護者の方々にお話を聞いてきて強く感じていることに、才能はみだしっ子たちの学びの場が少ないという点があります。年齢を超えて、様々な関心に対して好奇心を満たし、さらに想像もしなかったような知識や刺激を与えてくれるような場所があればと願います。そのような場作りができたらと思い始めました。
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