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【才能はみだしっ子サポーターズ⑨】 アメリカの歴史あるプログラムを日本へ 一般社団法人Education Beyond

「特定分野に顕著に高い能力のある子ども」向けの研究機関「Center for Talented Youth (CTY)」は、米国ジョンズホプキンス大学により1979年に作られました。このCTYが行っているプログラムを日本に導入しようと活動を始めている一般社団法人Education Beyond。今回はその成り立ちと今後の具体的な展望について、広報・PRご担当の服部絢子さんにお話を伺いました。

Education Beyondの日本への導入までの経緯

Education Beyondは対象となる子どもたちのことをAdvanced Learner(卓越した学習者) ALと呼んでいます。日本ではここ数年ギフテッド・チルドレンがメディアでもとりあげられ、様々な理解がされはじめていますが、「ギフテッド」というやや宗教的ともいえる表現を海外でも使わなくなりつつある傾向があることから、Education BeyondではALという名称を用いています。

CTYのプログラムを香港で手伝っていたEducation Beyond代表理事ポール・リー氏の子どもはALで、CTYのプログラムを受講していました。そしてリー氏はアジア各地からの参加者に比べて日本からの参加者が少ないことに疑問を感じていました。そんな時に学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンの代表理事の小林りん氏も子どもにALの特性があり、通常の学校教育では困難を感じていたことからCTYのプログラムを受講し、とても充実した学びを得た実感がありました。そして、保育・介護業務を展開するポピンズ代表取締役社長の轟麻衣子氏も、子どもがALの特性を持ち子育てに悩んでいた経験からCTYのプログラム内容に共感。こうして3名の思いが重なりEducation Beyond発足へと動き出しました。

発足後、3名の理事に加えてこの団体の活動に共感した人々がプロボノとして参加し、現在組織化して活動を行っています。

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Education Beyondのミッション

CTYのプログラムを日本へ導入することが最初のステップではありますが、Education Beyondの目指す目標はそれだけではありません。

ミッション:ALの子どもが自分の可能性を最大化できる社会へ
ビジョン:
1. ALが学びへの欲求を満たせる場を創出する。
2. ALの保護者が情報交換できるコミュニティをつくる。
3. ALが学校でも理解され育まれるように先生たちと協働する。

その手段の一つがCTYのプログラム提供なのです。

パイロットプログラムを2023年1月に提供開始

Education Beyondは現在2023年1月末から始めるパイロットプログラムを準備中で、参加者を募っています。プログラムの主な内容は以下の通りです。

時期: 2023年1月末開講(土曜日または日曜日)全9回
時間: 9:00~11:30
言語: 英語
内容: 数学系・自然科学系
場所: 東京都内の学校施設
対象: プログラム参加時点で小学校3年生~6年生
参加基準:CTYの指定するテストを受験、もしくは有効スコアを提出し、参加資格を得たもの。
費用:1,400米ドル相当を予定 (決定し次第、ホームページにて告知)
※参加費にはコース受講料、教材費、保険、キックオフイベント(2022年12月中旬開催)、修了イベントへの参加費用を含む。
奨学金制度:世帯収入に合わせて25~100%の奨学制度あり。
募集人員: 1クラス15名×3=45名程度
詳しい情報はこちらから

2時間半の授業では、まず1時間米国のCTYの指導者とオンラインで繋ぎ受講し、その後1時間半は日本でCTYの研修を受けたバイリンガルのティーチングアシスタント(TA)にサポートを受けながら参加者同士でディスカッションを行い、課題に挑戦し解決するという内容です。

英語で受講をするということは、日本の子どもたちにはややチャレンジングではありますが、Education Beyondとしてはまず日本でCTYのプログラムを英語で忠実に実行し実績を作ることが重要です。そしてゆくゆくはプログラムの日本語化や、より幅広い分野でのプログラム提供を展開していきたいと考えています。

今回、理数系の分野を選んだのは、数式や記号という共通言語があり、多少英語力に課題があっても意思疎通がとりやすいという日本人に向けた配慮でもありました。

また、オンラインではなく、リアルに子どもたちが集う形式で行うことについては、代表理事のリー氏の意向が反映されており、「ALの子どもたちは時に孤独を感じやすい。同じような特性を持った子どもたちが出会い、学び合うことがとても大切である」という考えに基づいています。今回はパイロットプログラムということで、東京都内での開催ですが、日本全国のALの子どもたちに対応できるように、まずはパイロットプログラムを成功させ、今後活動を全国に広げていきたいと考えています。

米国のCTYプログラムとは

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米国のCTYプログラムでは、grade 2~12(日本の小学2年生~高校3年生)を対象に、コンピュータサイエンス、歴史と社会科学、心理学、言語芸術、数学、科学・工学、世界の言語、政府と政治など幅広い分野のプログラムを、250以上のオンラインプログラム(通年)と、滞在型と通学型のサマープログラムにより提供しています。2021年時点では世界各地の受講希望者、約13,000人が資格テストを受験したそうです。

オンラインプログラムには、自分のペースで学べる①セッションタイプ、②個別進度タイプの学びがあり、これらの内容は米国の学校のカリキュラムに準拠しています。また、他の生徒と共に学ぶ③ライブタイプ、④課題探求タイプの学びもあります。世界中から参加する子どもたちが時差も考慮してこれら4つのタイプから選ぶことになります。アーカイブ配信はないので、2回クラスを休むと継続は難しくなるそうです。

サマープログラムは7月~8月の期間限定ですが、3週間の滞在型、1週間から3週間の通学型があり、毎年6月に申し込みを締切ります。

子どもたちに必要な学びとは

ALの子どもたちが刺激を受けるのは、決まり切った答えを導き出す問いではなく、人によって千差万別の答えがあったり、科目を横断して発想を繋げたりする問いです。たとえば、アニメーションを動かすには数学的な発想が必要だということに気づいたり、今現在ある社会課題をどう解決するかを考えたりする機会に対しては、水を得た魚のように喜ぶのではないでしょうか。

CTYの学びは受験に役立ったり、成績を上げたりすることが目的ではなく、一人一人の子どもの学びへの欲求を満たすこと、学びは楽しいと没頭できるような環境を作ることが目的です。人は誰でもときには失敗するものですが、失敗をしたからこそ、そこから学びがあることも体得します。CTYは参加した子どもたちへ様々な刺激を与えます。子どもたちはCTYの経験から自分の特性や強みを知り、進学先で学びをさらに進める礎を作ることが出来るのでしょう。

ALの子どもたちの存在を知ってもらいたい

Education BeyondではALの子どもたちの個性を、日本においてより広く啓発活動をしていきたいと考えています。

CTYプログラムの説明のイベントでは、ジョンズホプキンス大のCTYの研究者からALの思考の特徴の説明がありました。

「たとえばALの子どもたちは、課題が出されたときに、時に段階を踏まずに飛躍して先生の求める答えの先までたどり着いてしまうことがあります。すると、通常クラスの教師には指示通りに反応しないことから理解しがたい子どもと思われてしまうことがあります。けれどもALの子どもたちは別の次元の話がしたいのかもしれません。ALの子どもは知識を受け取るだけの座学を好まず、自ら学びを複雑にかつ高度に深めて行くことが好きで、実は自分の学習ペースを持っている子どもたちなのです。学校という仕組みに合わない場合もあり、米国でも多くのホームスクーラーがCTYを受講しているケースもあります」

このようなALの子どもたちの個性への理解を社会で広めていくために、保護者のコミュニティ形成と教育者への情報提供と協働を今後進めていくそうです。

米国発の歴史あるプログラムの導入をきっかけとして、子どもたちの学びの場と関係者の情報共有の場が国内で形作られていくことが期待されます。

最後にEducation Beyondでは活動の資金としてEducation Beyond基金、目標金額1000万円として寄付を募っています。関心のある方はこちらを是非お読みください。

【インタビュー後記】

文科省が昨年より開催している「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」の審議のまとめ(素案)が公表され、外部組織のノウハウの活用もソリューションの一つとして取り上げられています。Education BeyondのCTYは米国で40年以上の実証研究の歴史とデータに基づいて作り上げられており、外部組織として信頼に値する活動だと感じます。パイロットプログラムを実証後、多分野で全国的にプログラムの提供が開始されると国内の学校と連携した外部組織の教育事例として育っていかれるのではないかと思いました。

今回、プログラムの具体的な内容をお聞きしていて感じたのは、とにかく面白そう!ということ。一つの答えに導くのではなく、現実の社会課題などを科目横断的に、複眼的な視野で考える思考の機会は、全ての子どもたちにとって大きな刺激となると感じました。これからの社会を支えていく子どもたちに必要とされるのはこのような柔軟かつ深い思考だと思います。日本でCTY導入というチャレンジを始めたEducation Beyondの活動。今後の展開がとても楽しみです。

(酒井由紀子)

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