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【才能はみだしっ子サポーターズ④】「生きづらさを抱えるギフテッド・2E、発達凸凹を抱える人を支援」 一般社団法人異才ネットワーク

多様性を認め合える社会の実現にむけて活動している「一般社団法人異才ネットワーク」を今回はご紹介します。(本文では「異才ネットワーク」と表記します)。また、代表である谷川知さんが「異才ネットワーク」を立ち上げた理由の1つとなる、ご自身の子育て経験についてもお話を伺いました。

「異才ネットワーク」は市民活動団体としてスタート

滋賀県大津市に拠点をおく「異才ネットワーク」は2018年2月に発達凸凹のある子どもを持つ親の会として発足しました。発足当初は発達凸凹の会という形で、特に学習障害での合理的配慮の進め方について保護者同士で情報交換する会として始めました。

「異才」という名前は、「障害」というネガティブな面だけを捉えるのではなく、なにか得意なことがあったり、ちょっと変わってるけれどもなにか面白い、光るものをもっているという側面も捉えていきたいという思いを込めて名付けられたそうです。

保護者と共に子ども達が集まってくる中でギフテッドやタレンティッド、2Eと思われるお子さんを抱える保護者の方も参加され、特有の悩みがあることから、新たに「生きづらさを抱えるギフテッド・2Eの会~SHINE シャイン~」を発足させました。ギフテッドは必ずしも「生きづらさ」とセットではありませんが、SHINEでは学校や社会にフィットせず生きづらさを抱える子どもとその保護者を対象にしています。

「異才ネットワーク」のFacebookページから一部抜粋しつつ、活動内容をご紹介します。

一般社団法人異才ネットワーク

生きづらさを抱えるギフテッド・2Eの子をもつ親の会 SHINE~シャイン~

発達にかたよりがあり、できることとできないことの差が大きいお子さんにとって、学校生活はみんな同じことを同じペースでしなければならず、上手くフィットできずに不登校になるケースも多く見受けられます。

という一文から始まり、「すべての不登校が発達障害を原因とするわけではありません」としたうえで、様々な理由で学校生活にフィットしない子どもの自尊心を高めるための活動や保護者のための活動を行っている、とあります。

「異才ネットワーク」では、ギフテッドの子どもを持つ保護者だけではなく、生きづらさを抱えた当事者の方々にもさまざまな方面から支援を提供されています。多様な活動内容をご紹介します

「異才ネットワーク」の事業活動

不登校の親の会 WAKUWAKU~ワクワク~
学校にフィットせず不登校となったお子さんを抱える保護者の方の会です。学校復帰を目標とするのではなく、不登校の今をどう過ごすか、何をするのがよいのかなど日常生活の困りごとについて話し合います。

生きづらさを抱えるギフテッド・2Eの子をもつ親の会 SHINE ~シャイン

生きづらさを抱えるギフテッド・2E(ギフテッド+発達障害)※のお子さんをもつ保護者の会。ギフテッドに関する書籍の読書会や交流会を開催。

※2E(Twice exceptional=2重に例外的という意味)はギフテッドの特性と共に発達障害を併せ持つ子どものことを示します。ギフテッドの中にはアンダーアチーバーといわれる学校や社会にフィットせず、生きづらさを抱える人たちもいますが、SHINEではそういったお子さんをもつ保護者の方も対象にしています。「2e」と表現する場合もありますが、当記事では異才ネットワークが使用している「2E」に統一して記載しています。

大人の発達凹凸の会 IROIRO~イロイロ

発達障害の診断がある人、発達障害の診断はないが、自分でそうかも…と思っている人、発達障害グレーゾーンと思われる人、生きづらさを抱える人が対象。基本的には18歳以上ですが、興味のある18歳未満の方も保護者ご承諾のうえ参加可能です。小グループに分かれて、なかなか他の人には話せない悩み事や困り感をお互いに話し、日常生活にちょっとした工夫や気づきを取り入れることで、より楽に楽しく生きることを目指します。

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大津オルタナティブスクールTRIUMPH~トライアンフ~

毎週水曜日と金曜日10時から13時開催。オランダのイエナプランを取り入れ、大津百町館という築120年の町家で、地域の方と交流しながら、子どもたちの「好き」を追求している。
https://www.facebook.com/isai.triumph

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イヤにならない勉強教えます。「異学舎~イガクシャ~」

1対1の個別指導で不登校生や学習障害を抱える子どもたちの勉強を教えます。
自分に合った方法で学ぶことにより、勉強を嫌いにならず、継続して学び続けることができます。必要に応じて、勉強以外にもカウンセリングや自己理解のためのワークなども組み入れます。

不登校の子どもたちが運営する珈琲焙煎所 
Cafe Ambitious ~アンビシャス~

学校にフィットしない子どもが運営するカフェ。スペシャルティ珈琲を生豆から自家焙煎し、丁寧にハンドドリップします。焙煎もドリップも子どもたちが実施。

ドリップコーヒー 1杯350円 コーヒー豆(要予約)1袋1000円。大津市明日都市民活動センター前にて毎月第1.3.5金曜日の11:30~13:00開催。

ピアサポート

認定心理士、教育カウンセラー、コーチング資格などを取得しているスタッフがカウンセリングやコーチングを実施。

セミナーの開催

発達障害やギフテッド、また不登校に関してなど外部講師を招いてセミナーを開催しています。オンラインでも実施。

保護者向けの会「SHINE」を立ち上げるまで

多岐にわたる活動を精力的に行う「異才ネットワーク」。特に生きづらさを抱えるギフテッド・2Eの子ども達を持つ保護者向けの会「SHINE」の成り立ちについて、谷川さんにお話を伺いました。

「ギフテッドや2E、タレンティッドについては、異才ネットワーク立上げ時から気にかかってはいました。自分の子どもがギフテッドかどうかなどはわからないままですが、学校には行かない、勉強はしない、かといって好きなことや得意なことはすぐに会得する、核心をついたような考えはもっているといった子どもで、とにかく面倒くさくてやりにくい子育てでした。どんな子育ての方法にも当てはまらず、カウンセリングも効果なく、似たような子育てに難しさを抱えている人とつながりたいと思っていました。

異才ネットワークの事業の1つである「生きづらさを抱えるギフテッド・2Eの子どもをもつ親の会 SHINE~シャイン~」を始めるにあたって、【ギフテッド=IQ 130以上の子ども】という認識だけではなく高い共感力や正義感・倫理感、豊かな精神性、創造力などをもち、学校や社会にフィットせず生きづらさを抱える子どもやその保護者を対象としたいと思ったのです。

定期的に開催しているSHINEでは、あまり人数を増やしすぎることなく現在15~20名ほどの参加者で、じっくりと話ができるような環境づくりを心掛けています。」

SHINEの活動について
「最近は幼稚園から小学校低学年のお子さんを持つ保護者の方が増えて、ギフテッドについての情報が広く知られつつあることを感じています。SHINEでは参加者と情報共有したり、日常生活で生じる困り感が改善されるように心掛けています。日本全国からオンラインでご参加いただいていますが、大津市では会場を借りて、リアルに保護者同士が出会えるようにもしています。実はオンラインが終わった後もいろいろ話に花が咲くことも多く、主催者ではありますが、同じ立場の保護者として、いろいろ勉強させてもらっています。

深く個別のお話になる場合は、ピアカウンセリングでしっかりとお話を伺うようにしています。近隣の方のみになりますが、必要に応じて、お子さん向けに当会で開校しているオルタナティブスクール(フリースクール*や個別指導をご紹介する場合もあります。」

「ギフテッドについては、保護者であってもなかなか特性を理解できなかったり、また日本社会においては自分の子どもをことさらに卑下しがちな文化があるので、子どもの特性として飲み込みづらいことがあると思います。そのような時には、WISCを受けることでお子さんの特性がよく分かり、学校に相談する時に参考になることもある、といったお話をしています。」

「SHINEでは角谷詩織先生の訳書である「わが子がギフティッドかもしれないと思ったら」を題材として、その日取り扱うテーマに即した箇所をあらかじめ読んだ上でご参加いただき、本の情報と参加者のエピソードを結びつけながらお互いに考えを出し合うようにしています。それは、子どもの特性はひとりひとり異なるので育て方には正解がなく、私個人だけの経験談を伝えるだけでは十分ではないと考えたからです。客観的な情報である本をベースに話し合いをすることが大切だと思っています。もちろん、まったく自分のことを話さないというわけではなく、我が家のエピソードも1つの事例として共有することもあります。」

谷川さん親子の子育て

さてここからは、谷川さん親子の子育てエピソードです。インタビューでは息子さんも同席してくださり、ご本人の言葉もあります。

言語の発達が早かった息子さん
谷川知さん/母(以下、知さん):「息子は言語力の発達が早く、2才ぐらいには普通に文章で話していました。2才頃にそろそろ断乳をした方が良いと助産師さんに言われたとき、それを聞いていた息子は、母乳を飲みながら『なぜ母乳が自分にとって大切なのか』『飲ませてもらえないとどのように困るのか」を説明し、断乳をしないようにと私を説得したのです。さらに、しばらくたったあるとき『口の中が成長して、舌が長くなってうまく飲めなくなったから母乳はやめる』と宣言し、自ら卒乳しました。私は息子の説明によって、母乳が出る仕組みを理解したのです。

また、幼稚園のころ、レストランで食事をしていたら、隣の席の人に『ぼく、かわいいわね』と褒められたことがありました。そのとき私が『いえいえ、そんなことはないですよ』と謙遜したところ、『なんで? 僕はかわいくないの?』と息子に詰め寄られてしまったこともありました。」

発達障害?ギフテッド?
知さん:「フリースクールや親の会、当事者会の運営を通じて、子どもに発達障害があるとか、ギフテッドであるとか、はたまた2Eであるとか、ラベルはもうあまり関係なくて、目の前にいる子どもが何に困っていて、どんなことが得意だったり不得意だったり、なぜ学校や社会にフィットしないのか、どうすれば健全に成長して社会に降り立つことができるのか、それをひとつひとつ注意深く見ながらサポートしていくことが大切だと感じています。
もちろん、ギフテッドやタレンティッドに特有の特性はあると思いますが、きっちりと線引きできるものでもありませんし、子どもの特性をラベルづけして、そのラベルで判断すると大事な部分を見落とす気がします。
ただ、実際に才能ははみでてしまっている部分がありますし、一般的に教育や福祉の領域ではマジョリティと異なるという点で「障害」という見方で支援されることが多いので、多くの人にギフテッドやタレンティッド、2Eについて知っていただきたいと思います。」

親子ともに葛藤の時代
今はとても仲よく見える谷川さん親子ですが、息子さんの不登校がきっかけで親子関係がうまくいかず大変だった時期を経験されています。息子さんはご自身で選んだ私立中学に入ったものの、2年生のときに行けなくなりました。知さんは、親としては息子を学校に行かせなくてはいけないと思い、毎朝説得したり怒ったり、という日々でした。それはとてもつらく、知さんは朝起きるとまた学校に行く、行かないで戦いがはじまるのか、このままでは精神的にまいってしまうと思ったそうです。

知さんは、友人の精神科医とたまたま話した時に、日本の今の教育について、それまでもっていた価値観とは違う見方があることを知ったそうです。つまり、日本の教育は同じことを同じように子どもにさせ、集団行動をよしとし、個々人の興味や関心は後回しであり、それは必ずしも子どもにとって良いものではないというものでした。そして、無理に学校に行かせなくてもいいと思い直すことになりました。

自分の人生を歩むために

小学校時代は医師になるという夢をもっていた息子さんですが、私立中学に入学後、勉強につまずき、学習障害と診断されました。ある日、学校から帰ってくると、カバンの中身を全部投げ出し、「もう二度と勉強はしない!」と宣言したまま、本当に二度と勉強はしなかったそうです。その後、公立の中学に転籍し、高校は音楽科に入学しましたが、ここでも周囲に馴染めず、疎外感を感じることになりました。

息子さん:「一昔前までは、音楽なら音楽を中心にやっていればよかったようですが、今は数学も英語も古典も体育もすべての教科を満遍なく、そこそこやっていて初めて音楽ができるという環境になっています。僕みたいな凸凹のある人間には困難なことが多かったですね。

結局、高校ではなかなか学習障害についての理解も進まず、合理的配慮にも限界があり、せっかく入学した音楽科でしたが、退学せざるを得なくなりました。それでも、音楽でやっていきたいと思っていたため、通信制高校に転籍し、今は海外の先生にオンラインで発声のレッスンをうけています。先生からはコロナ禍が落ち着き、声も体も安定してくる2年後あたりにこちらに来てはどうかと言われ、その時に向けて英語を学んでいるところです。」

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「異才ネットワーク」の活動の一つである、Cafe Ambitious カフェアンビシャスは、息子さんがコーヒー豆の焙煎に興味を持ったことがきっかけで始まりました。中学2年で不登校になった時にYouTubeで珈琲をドリップしているところを見て、関心を持ち、中学3年の時に焙煎器を自分で作りました。今、不登校の子どもがスタッフとしてアンビシャスを運営してくれていて、焙煎やドリップについて知識を伝授しています。

学習障害をほかの能力でカバーしてしまう「隠れディスレクシア」
谷川さんの息子さんには、ディスレクシアという学習障害があります。ディスレクシアとは、音韻処理に困難があり、音と記号である文字がつながりにくく、スムーズでないため読み飛ばしがあったり、読んでも理解できないというものです。

それを自分の持っている能力でカバーしながら発覚を遅らせ、さも読めている風に学習を進めてしまうのが「隠れディスレクシア」という概念で、知さんは「息子は隠れディスレクシアではないか」と思ったそうです。

息子さん:「自分の目が他の人と違う見え方をしているということは、当然自分ではわからないものです。文字を読んでも頭に入らない、意味がわからない。言葉が意味の無い記号としてしか見えなかったのです。ディスレクシアのわかりにくいところは、全く文字が読めないわけではなく、興味や関心があるものに関しては難なく読めたりもすることです。文字のフォントや行間によっても変わりますし、何より時間の制限や緊張感のある環境ではパフォーマンスはかなり落ちます。テストとかはとにかく苦手で、良い点をとることなんて僕には絶対に無理だと思っています。」

異才ネットワークでは「学習障害を知る」をテーマに専門家によるオンライン・オフラインでのセミナーの開催も行っています。

【インタビュー後記 ~酒井の思い~】

谷川さん親子は、異才ネットワークを通じて同じような悩みを抱える親子の支援活動を行っていらっしゃいます。息子さんがセミナーのスピーカーとして登壇し、ディスレクシアや不登校について話したり、最近では海外留学体験についてシェアされたりもしています。お二人は、不登校や発達特性に基づく様々な困難を体験しつつも、その経験をただ通り過ぎるのではなく、通ってきたからこそ得たものがあったと感じられているように思いました。

谷川さんは、息子さんの不登校を経験して「自分の子どもにはこんなフリースクールに行かせたかった」という視点を持ちフリースクールを開設され、そこではテストによる評価ではなく自分が得意なことや興味あることを中心に学びを追求することで、自己肯定感を身につけて行くことを大切にされています。

安心安全な居場所で自己肯定感を得ていくことは、特性のある子どもたち、またそうでない子どもたちにとり、とても重要なことだと思いました。





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