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ギフテッド教育への招待2022「専門家に聞く」シリーズ、第一回「ギフテッドとはどんな子ども?」ウェビナーご報告

2022年11月11日(金)に愛媛大学の隅田学先生をお招きして、「ギフテッド教育への招待2022」ウェビナーを開催いたしました。パート1は隅田先生に「子どもの『できた』を支援する」をテーマに講演をして頂き、パート2では事前に参加者の皆さまから頂いた質問にご回答を頂きました。

(今回は参加者の皆さまの個人的なご質問に回答を頂くという内容の性質上、アーカイブ配信を行わない形で開催をしました。また、有料での開催とさせていただきましたので、ご報告の内容は要約で掲載をさせて頂いております)

※隅田先生はギフテッド・チルドレンを「才能児」と表現されていますので、こちらでは才能児で統一して表記しています。

パート1:愛媛大学隅田学先生のご講演

「かけがえのない人になりたいのならば、人と違っていなければならない」というココ・シャネルの言葉を引用され、「誰一人取り残さない」という考えは重要ではあるけれども、みんなで一緒に取り残されることのないよう、突出した個性や能力もきちんと評価して育てることが必要ではないか。米国では公立校で約6%の子どもたちが才能児教育を受けていた実績がある。日本では70万人程度の計算になると話されました。

次に、才能児の行動特徴について紹介をして頂きました。「長い時間、何かにこだわり熱中する」「学習がはやい。考えをすぐに結びつけることができる」「同年齢の子どもと比較して、多くの語彙を保持し複雑な文章を作る」「数やパズルの問題を解くのを楽しむ」「感情深い。強い感情や反応があったり、傷つきやすい」「幼い時期から理想主義であったり正義感がある」「人とはことなる経験や行動を好む」などを挙げられ、また一方「心的な発達がアンバランス」「対人関係に困難を示す」「興味の無い分野で極端に学業不振になる」「まわりに同調できない」「極端な完璧主義である」などという特徴がある子どもも存在することを米国の研究を引用し説明を頂きました。

また、米国の研究から、才能児に対してよくもたれる誤解に「才能児はなんでもよくできる」「才能児は知能指数が高い」「親の熱意が子どもをダメにする」「才能児は心が健全である」「才能児は傑出した大人物に成長する」などがあり、才能児に対して偏ったステレオタイプの捉え方が存在することにも言及されました。

「才能」をどう捉えるか?という点ではコネティカット大学のジョゼフ・レンズーリ先生の「3輪概念=平均を超えた能力、創造性、課題への傾倒」、ウィリアム&メアリー大学のジョイス・ヴァンタッセルバスカ先生の才能児向け統合カリキュラムモデル「概念/課題/テーマ、高度な内容、プロセス/プロダクト(の3輪)」という考え方と合わせて、隅田先生が科学教育・特別支援教育・才能教育を組み合わせて研究分野を切り拓いていることを説明されました。

また、才能児教育には上位学年の内容を学ぶ「早修」と教科横断学習、プロジェクト学習などの「拡充」教育があり、早修と拡充を縦軸、学校内・外の別を横軸と見なして飛び級、早期入学、課題研究、家庭学習、サマーキャンプ、科学オリンピックなどがどの位置にあるかを例示され、個のニーズにあった教育支援や教育機会提供の手立てになればとのことでした。

講演の最後には愛媛大学で隅田先生が運営されている幼年期向けプログラムのキッズ・アカデミアについて事例紹介をして頂きました。2021年冬期と2022年夏期のスクールに参加した子どもたちについて、10日間でA4サイズ30頁の「りんごの観察」を提出した小学校1年生のエピソードや「筒で音の高さを比べる」「家のハウスダストを調べる」「酸性雨は土で変化するのか」「エッジワースカイパーベルト」などをテーマとして自由研究して発表した子どもたちなど、自分の興味を深めて共有する楽しさを感じていた様子を教えて下さり、日本においても幼年期から突出した子どもたちが存在し、教育支援の方策が十分に整備されていないことに課題を感じていると述べられました。

パート2:質問へのご回答

次に参加者の皆さまから事前に集めた質問に隅田先生からご回答を頂きました。ご質問の内容の中には下記のような特性を持つ子どもの保護者の方々から、家庭でどのように支援をしていけばよいかという隅田先生のアドバイスを求める声が多数ありました。

  • 小学校の環境に合わずアンダーアチーバーとなってしまっています。

  • 書字が苦手で自信をなくしてしまっています。

  • WISCの結果、IQが高かったが苦手もあります。

  • 待機時間が苦手です。

  • 通常クラスの授業への参加が難しく、日々調整をして頂いています。

  • 賢いのに色々と悪さをすると先生に言われてしまいます。

  • 好きなことでも反復が多いと挫折してしまいます。

隅田先生からは、それぞれのお子さんの詳しい状況や成長による変化などをお聞きしないと質問に即した回答は難しい。けれども、出来る限り自分がそのお子さんの保護者だったらという視点で回答をしてみましょうとおっしゃってくださいました。特定の科目での学業不振の場合は、保護者の方が一緒に勉強してみたり、苦手な分野は得意なことと結びつけてやってみたりする。親子で一緒に課題に対処して、うまくいったら認めてほめてあげることも大切。漢字の宿題などがあまりに困難な場合は学校へ合理的配慮を求めることもできる。家庭でうまくいったことを学校の先生に伝えられたら良いと思う。保護者の方はとてもよく工夫されている方が多いので、そのような情報は学校にとっても有益な情報となる。また、わざといたずらをするような場合には、年齢に関わらず高い倫理観を理解できるようにきちんと納得のいく説明をすることや、身近なこと、社会のことなど議論ができる相手を見つけ、話ができるような時間、一人でじっくり考える時間を持つようにすることも大切とアドバイスをされました。

その他では以下のような質問がありました。

  • 学校の先生に才能児の特性を持つ子どもにいかに対処して頂くようにお願いをすれば良いでしょうか。

  • 才能児かどうかの診断を受けるにはどうすれば良いですか。

  • 才能児を支援する学校は日本にはありますか。海外のギフテッド校と連携している学校はありますか。

米国と同じような「診断」を日本の学校で受けることはできないけれども、学校の先生への子どもの特性を説明する時や、周囲に理解をしてもらう時などに、子どもが今までどのようなことをしてきたかを共有できるように作品などをポートフォリオにしたり、学習履歴をまとめておいたりすると良いと思う。学校選びに関しては学校見学や行事に訪問してみて実際にその学校の雰囲気や特徴を知るとよいのではないかと述べられました。

実は日本の学校教育は世界的に高いレベルを維持しているという事実もあり、海外であればより良い教育が受けられるとは限らないので、学校選びはよく情報を集めることをおすすめするとのことでした。

隅田先生のまとめ

「日本の才能児の子どもはできることがあってもほめてもらえないことが多いのではないかと思うことがあります。今回、保護者の方からの質問もどちらかというと、できないことに関する悩みや相談の例が多かったように感じました。全米才能児協会は『子どもたちの強みをのばす』ためには子どもをよく観察すること、親が子どものロールモデルとなること、興味のあることはプレッシャーを与えずに軽い気持ちで楽しみながら行えるようにしてあげること、地域の多様な人びとと交流することなどを推奨しており、共感しました。また、才能児の保護者も周囲に理解されづらく孤立しがちなので、保護者仲間と情報を共有することや、保護者自身が幸せで自信を持つように心がけると、その子どもにも良い影響を与えると言われていることを知って欲しいと思います」

隅田先生は最後に海外で才能児教育に関わっている先生の特徴を紹介され「出藍の誉れ」の言葉を引用と共に「先生方には『自分たちを超えるような生徒を輩出することが出来れば素晴らしいことだ』と考え、才能児たちの能力を認めて更に伸ばすことを考えていただきたい」と締めくくられました。

2024年国際会議の告知

ウェビナーでは最後に2024年に日本で初開催される才能児教育の国際学会「第18回 Asia Pacific Conference on Giftedness (通称APCG)」についてご案内をしました。

アジア各地で隔年開催されてきたAPCGを日本に誘致し、香川県高松市で2024年8月17日(土)~20日(火)の4日間開催することが決定しました。実行委員長は今回ウェビナーにご登壇を頂いた愛媛大学隅田学先生で、来年1月20日にギフテッド教育への招待2023に登壇を頂く上越教育大学角谷詩織先生も実行委員会のメンバーです。

会議テーマは「Educational Environments for Transforming Gifted Minds、 Lives and Communities(ギフテッドマインド、生活、コミュニティを変革するための教育環境)」で、基調講演、特別講演、研究発表、ワークショップ、ポスタープレゼンテーションを行います。また、同時期に並行して世界各地の中学生向けユースサミットを小豆島で行います。ユースサミットではグローバル、ローカルな視点でサステナビリティを考えることを検討しており、日本の中学生の皆さんは世界の才能ある生徒たちと交流しながら体験的に学ぶ機会を楽しんでもらえたらと願っています。

現在2023年に参加者の募集を開始すべく準備中です。新着情報はウェビナーに参加された皆さまやSNSでフォローをして下さっている方々にシェアをしていきたいと思います。

次回ご案内

ギフテッド教育への招待2023は1月20日に上越教育大学角谷詩織先生をお招きして「ギフティッドの子どもの気持ちの理解」をテーマに開催します。
(既に満席となりお申し込みは締め切らせて頂きました)

隅田先生と実行委員メンバー

事例のご紹介

最後に、質疑応答時に参加者の方がご家庭で工夫されている事例についてシェアを頂きたいというご要望がありました。ご質問者に許可を頂き、参加者の方にも追加情報を頂きましたので、下記事例を掲載させて頂きます。

「子供は7歳女児、今年公立小学校に入学した1年生です。家庭だけでは娘の好奇心と活動の要求に応えることができなかったため、3歳からピアノ・バレエ・通信教育(2学年上)を利用しており、年長からはそろばんを始めました。入学後1学期はなんとかやり過ごしましたが、学校から下校すると疲れ果てており、自発的な活動のための体力が残っていません。9月は運動会の練習で座学の辛さは少なかったようですが、運動会が終わった後、算数が簡単すぎて地獄!と、不満の表現が以前より強くなりました。支援の先生と相談し、娘の望む魚の解剖や植物の観察、手芸などの制作活動のための時間を確保することを検討しています。

(その後)宿題の置き換え(足し算・引き算を、一部かけ算、わり算など習熟度に合わせたものへ、教科書の音読を、興味のある書籍へ)に取り組んだ結果、宿題をトリガーとする癇癪がほぼなくなり、頻繁に料理に取り組むことができるようになりました。料理は自分でレシピを検索、プリント、材料を揃えて料理し、足りない材料を置き換え、アレンジも楽しんでいます。また、休日の午後に念願の魚の解剖を行ったりすることができ、その記録を、パワーポイントを使って新聞に仕上げて学校に持っていき、翌日夜には少し前に取り組んだ栃餅作りを新聞に仕上げました」

「小学1年の息子はVCI、PRIが非常に高いものの、WMI、PSIが平均を下回るという凸凹児です。小学校に通っているのですが、学校とは密に連絡を取り、今のところうまく配慮いただいております。親として気になったのは、大人の目よりも同じ子どもたちの目です。息子は興味関心の高いものに集中し、その他が散漫になるので、その行動について、やがて子ども達に否定、非難され、本人が辛いことになるのではないかと心配していました。そこで、担任の先生に相談したところ「誰にでも、得意と苦手はある。息子君は立ち歩いたりしてしまうので、皆で苦手を応援しよう」と、皆の苦手と得意をカミングアウトし、苦手の克服を協力しあう方針を提案頂きました。親としては、息子が散漫なことは、克服されうる苦手であると思えなかったので、「克服すべき苦手」という設定をすると、克服できない場合、彼にとって内からも外からもプレッシャーになると思いました。そこで、「とても気になってしまうので、つい動いてしまう」という性質を伝えてもらうようにお願いしました。クラスメート達は、分かってくれたようで、「ちゃんとしなきゃダメ」という指摘ではなく「そっち見てないで今はこっちだよ」と教えてくれるようです。孤立しがちなギフテッド児も多いと思いますが、周りの理解を得られれば、周囲と連携して過ごしていくことができると思いました」

事例紹介にご協力を頂きました参加者の方々、ありがとうございました。今後はさらにご家庭で工夫されている事例を募集してシェアをしていくことも検討しております。


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