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ファッションヘルス「リザレクション」へようこそ

今日はなんだか面倒になって、待機所から個室に移って昼寝していると、インターホンが鳴り響いた。
ドアを開けて精一杯笑顔を作る。
「いらっしゃいませえ」
目の前の"客"は、俯いたままだ。
くしゃくしゃになったスラックスと、青に赤と白の線の入ったタータンチェックのシャツ。
所々泥で汚れた姿に、眉が少し引きつった。
「じゃあ今日は───」
シャワーの準備をしようとすると、向こうはこちらの手首をつかもうとしてきた。
その勢いは思ったより強くて、あたしは簡素な合皮製のマットレスにもつれるように倒れ込む。
「だーめ、そんながっつかないでよ」
向こうは口を開けたままこちらにのしかかろうとする。
その目を見て、あたしは愛想笑いを浮かべたままマットレスの横にあるサイドテーブルに手を伸ばした。
「しょうがないなあ───でもうちヘルスだからぁ」
ローションの隣にある物を指で探り当てると、あたしは今かぶりつきになっている"客"へ向けた。

「──ゾンビ、禁止なんですぅ」
指先から轟音が響き、頭が爆ぜる。
安物のトカレフもこの距離だったら絶対当たるのだ。

「誰だよ!!!ゾンビ引いてきたやつ!!!」
待機所のドアを壊す勢いで叩き開けたあたしに対して、店長は手元の鉄鍋のジャンから顔を上げもしない。
「あれコミュ障オタクじゃなかったんすか?」
黒服のヤスが素っ頓狂な声を上げる。
「ゾンビよ!!!そりゃ見た目はボチボチきれいだったけど!」
烈火の如く怒ってるあたしに、ようやく鉄鍋のジャンの21巻を読み終えた店長が顔をあげた。
「噛まれてねえならいいだろ、やったのか?」
「やったわよ!!ってか撃ったんだから音聞こえたでしょ!?」
ええっ、とヤスがまた素っ頓狂な声を上げる。
「サクラさんたまにアグレッシブなプレイするから」
「銃声響くプレイあるわけないでしょ!!!」
ゾンビが世界を埋め尽くして、ただでさえ少ない客がまた減った。
おかげでこうやってゾンビまで呼び込む始末だ。

(続く)

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます