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不老定命者ボラ

「喧しいな」
力一杯ドアを蹴破ると、相対した長身痩躯の男はぬらりとこちらに振り向いた。
部屋の床は一面に黒い液体に塗れている。
「指定不死者183番、現認。これより執行する」
「不老かよ」
男は足元に転がった肉塊を蹴った。
「せっかく歳を取ったところなのに」
俺は不貞腐れたような男に構わず『手錠』を取り出した。
手錠と言っても警察官が持つそれとは大きく異なる。
蒼く光る金属製の腕輪を繋ぐ鎖に繋がるのは、大きな死神のような鎌。
鎖を持って回すと、腕輪がヒュンヒュンと風を切る。
「やだやだ、やめろよ」
目の前の男の爪には赤い光が宿り、そのままスルスルと音もなく伸びていく。
男は30代半ばと言ったところだろうか。前回の目撃より10近く年齢が違っている。
──つまり10人は『食べた』のだ。

声もあげずに男と俺は得物をぶちつける。
男の長い爪に鎖がシュルシュルと巻きつき、男が一瞬怯んだ瞬間、大鎌がさくりと音を立てて男の首に刺さった。
血飛沫をあげながら、男の首と体が両断される。
だが、まだだ。
「こっちも対策してるんだよ」
首から離れた男の胴体は、しかし倒れない。
グッと踏みとどまり、反動で身をぐるりと反転させる。
刹那、俺の鼻先スレスレを男の爪が掠めた。
背筋を使って俺は海老反りにそれを避けるが、床に落ちたはずの男の首が俺の膝の後ろから強く頭突きをし、俺はそのまま後ろに倒れた。
強かに背中を打ち付け、俺はゲホリと息を吐く。
喜色満面で俺を貫こうとしていた手刀が、額の前5ミリの位置で爆ぜた。
「こっちも、対策してるんだよ」
「遅いっすよ、ムツさん」

明治14年。
定命の理から逸脱した『不死者』たちは死を求め、焦がれ、一つの方法を知ってしまった。
『人を1人殺せば1年歳を取ることができる』
不死者による、自死のため大量殺人を止めるべく、政府は呪術を駆使して『不老者』を作った。
不死者への憎しみを晴らすことで不老者は不老の呪いから開放されるのだ。

(続く)

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます