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農作物なのに、野菜や果物とは生産方法が全く異なる「お茶」の流通の不思議。

 静岡県がお茶処であることは、日本人なら誰でも(?)ご存知でしょう。私が二十年前に静岡県の主人の実家に越して来て驚いたのは、お茶屋さんがコンビニよりも数多くあること(感覚的にです^^;)。そして、不思議なのはお茶屋さんが大きな工場や倉庫を持っていること。倉庫の大型冷蔵庫にたくさんお茶を抱えていて、工場で少しずつ袋詰めをして販売しているのだろうと漠然と思っていたのですが、袋詰め用だけでなく、なにやら大きなお茶の機械があるらしいのです。でも、農家さんがお茶の生葉を運び込んでいるのは、お茶屋さんの工場ではありません。茶畑の横にある、長方形の大きなお茶工場です。畑のお茶工場と、お茶屋さんの工場はなにが違うのでしょう。お茶は一体、どんなふうに製造されて、私たちの手に届いているのでしょう? お茶屋さんに勤めてみて、初めてわかったお茶の流通についてお話ししたいと思います。

日本茶が茶畑から家に届くまでには、様々な人の仕事がありました。

お茶の旅 >>>> 生産者(農家):お茶の栽培・荒茶作り>>>> 斡旋業者:荒茶の仲買>>>> 茶商(お茶屋):荒茶仕上げ・卸販売

お茶農家の仕事 >>>> 茶 畑

お茶の葉は、温暖な気候の土地で、昼と夜の温度差が大きい山の斜面や高台に茶畑は広がっています。お茶の葉は人の手や機械で摘み取られます。
<摘採期は4回ほど>           
①新 茶  4月終わり〜5月           
②二番茶  6月下旬           
③三番茶  8月上旬           
④秋冬番茶 10月上旬 

お茶農家さんの仕事 >>>> お茶工場

各農家さんで摘み取られたお茶の葉は、お茶工場へ集められます。工場では生葉を蒸して揉みながら針の形に整えて乾燥します。一連の作業は機械化されています。この時すでに、お茶の形になっていますが、硬葉や木茎が混じっていたり、粉や茎、葉の大きさなど形が揃っていません。また、保存するには水分が若干多く、お茶を仕上げる加工が必要となります。このお茶工場で作られた、商品になる前の原料のお茶を「荒茶」と呼びます。
※仕上げまで行うお茶工場もあります。

農協や斡旋業者の仕事 >>> 茶市場・お茶の仲買

 新茶の時期になると、静岡県のテレビのニュースなどでは、茶市場での荒茶の取引の様子を映し、「今年の初取引は最高値1キロ139万円!」などと報道します。お茶時期になると茶市場には朝早くから売り手(農家さん)と買い手(茶商)が集まって、荒茶を実際に見て商談します。取引が成立すると、互いに威勢よく手打ちをする様子が風物詩となっています。ところが、競争取引となる茶市場に出向かず、仕入れをする茶商もいます。そこにあるのが、斡旋業者(仲買)の存在です。彼らはその茶商の好みや動向などを把握しており、できたばかりの荒茶の見本を朝早く茶商の元へ運ぶのです。茶商が荒茶の見本を見て買うことを決めると取引が成立する、というわけです。彼らは売り手、買い手の気配を読み、できるだけ仕入れもれや売れ残りの出ないように、荒茶が安定供給されるために動く役割をになっています。

製茶問屋・茶商の仕事 >>>> お茶の仕上げ工場

 茶商では仕入れた荒茶を、大きさや形を選別し、火入れをして仕上げていきます。仕上げることでお茶は色が明るくなり、香りがよくなり、保存しやすい分量まで乾燥されます。また茶商の仕事で重要なものの一つにブレンドがあります。お茶の世界では「合組」と呼ばれます。選別する機械、火入れをする機械、合組のための機械、どれも大型です。お茶屋さんの隣にある大きな建物は、このお茶の仕上げ工場だったのです。仕上がったお茶は袋詰めされ、お茶屋さんの店舗や、スーパー、全国の卸先へ運ばれていきます。
※生葉を集めて荒茶を作るお茶工場を持つ茶商さんもいます。

小売りの仕事 >>>>  仕上げて売る茶産地のお茶屋さん(茶商)と茶産地から仕入れて売るお茶屋さん

 デパートやスーパーでお茶を買うのも良いですが、一度、お茶屋さんでお茶を買ってみてください。最近は美味しい淹れ方はもちろん、飲み方の提案や、フードペアリングの提案などもしてくれます。自ら仕上げているお茶屋さんは、自分の所のお茶だけを売っています。仕入れ販売のお茶屋さんには、いろんな茶産地から仕入れたお茶が売られていることが多いですね。
また、日本茶カフェにも人気が集まっているようです。


まとめ


 茶畑の横のお茶工場では、生産者さんたちが自ら生葉を荒茶にし、お茶屋さんの仕上げ工場では、仕入れた荒茶を各茶商の味のお茶に仕上げる。静岡県内にお茶工場がたくさんある理由がわかりました。そして、生産者、茶商のみならず、その間を繋ぐ斡旋業者もいて、お茶には多くの人が関わっていることも見えてきました。また、生産・流通が野菜や果物などの農作物とは異なる点が多く見受けられます。

 近頃、コーヒーのシングル・オリジンに倣ってか、お茶でも一種類の茶の木の銘柄や、一つの農園によるシングル・オリジンが注目を集めています。すべてのお茶をそれで良しとするならば、それほど多くの人の介入は必要ないでしょう。ですがお茶は、その年の天候や生育の出来不出来に大きく作用されます。茶商は数種類のお茶をブレンドすることでお茶の味を安定させ、産地のお茶産業の安定化をになってきました。お茶は嗜好品なので、どちらが良いということもありません。

ただ、日本茶を買うときにお茶の流通について知らない私たちは、いくらシングル・オリジンだの、ブレンドだの、お茶工場直送だの、まかないのお茶だのと言われても、ピンと来ないと思うのです。実際に、私はちゃんと勉強するまで混乱していました。お茶を販売する人に、その辺の基本的な事をちょっと付け足して説明してもらったら、お茶を選びやすくなると思うし、興味も湧いてくるのでは?と思っています。

 静岡県に暮らしていると、自らがお茶生産者でなくても親戚・友人に必ず茶業関係者がいる人がとても多いことに気づきます。春先になると、天気予報では「遅霜予報」が聞かれます。春先になって成長し始めたお茶の新芽が霜で凍ってしまわないように、生産者さんに注意を呼びかけるためです。
霜の降りそうな夜は、茶畑にいくつも取り付けられた扇風機(防霜ファン)が、茶畑の上の空気をかき回し始めます。これも茶処ならではの風景です。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。日本茶と自家焙煎珈琲豆の小売り卸の会社で働き、日本茶インストラクターの資格を取りました。
日本茶や珈琲の楽しみ方、面白さを伝えたいです。まだまだ勉強中ですが、日々感じたことなども書いていければと思います。よろしくお願いします!



          





      





亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。