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千葉市美術館「目 非常にはっきりとわからない」展

2019.12.07 訪問

開催期間が終わってからしばらく経ち、どうやら図録が届き始めたようなので、今まで伏せてあった私の感想を公開しようと思います。

普段生活をしているとこんな遠い場所で行う展覧会の情報は入ってこないし仕入れようもないのですが、今回は「ネタバレ厳禁」の文字列と共にTwitterから情報が入ってきました。目の作品は瀬戸内国際芸術祭で“体験”しており、かなり楽しかった記憶もあります。時間を見つけ、期待しながら向かいました。

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美術館の入り口。

千葉市美術館改装前最後の企画展であること以外は事前情報が全くない状態でチケットを買い、エレベーターに乗って会場に向かいました。チケットを買うときにどうして「どっちの会場から観に行ってもいい」と言ったんだろう...と思いながら7階で下りました。目に入ってきたのは、ここ本当に会場なの?というくらい、準備中のような、雑然とした空間。 あちこちに養生テープやビニールが貼ってあり、何か入っているであろう箱が並べられている。恐る恐る歩き回って、大きな白い空間に入って初めて、作品らしい作品を見つけました。黒い群れのようなそれは、遠くから見たときには何が何だかよくわからなかったのですが、近づいてみると、黒いものひとつひとつが全て時計の針であり、針が動いていることがわかりました。机の上に置いてあるものもぴくぴくと分針が動いていました。まだ全部付けられていないのかな…?と思いながら木張りの壁の空間に行くと、これまた準備中のようでした。何かを塗った壁、ほったらかしの道具類。包まれているのは作品だろうか?大きなキャスターの上には人が寝てる…?まるで何が展示してあるのかわからない。瀬戸内国際芸術祭の体験から推測するに、この空間全体が作品と思うのだけれど、どういうこと…?と思いながら、エレベーターで8階へ向かいました。

エレベーターの扉が開くと、びっくりするほど7階と似た光景が広がっていました。そして、どこをどう歩いて見てみても、7階と同じ場所に同じものが置いてあります。私は、そうか、リアル間違い探しなのか、本当に全部が作品なんだ!と思って、隅から隅まで間違いを見つけるべくじっくり観察していくことにしました。途中でお昼を挟みつつ、何度もエレベーターを待ち、7階と8階を往復し、どこが違うのかと目を皿のようにして探しました。

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お昼は11階のレストランで食べました。美味しかったです。

まず、机の上にある時計の針の動きが違うことに気がつきました。ちょっと得意な気持ちで、まだ違うところがないか探しました。しかし、なかなか見つからない。ていうか、お客さんの動きで若干位置が変わったり、時間の経過で、例えば電池が切れたりして止まったりすることってあり得るよね?わたしが見つけたのって本当に間違いだったの…?と疑問を持つようになってきました。

途中で展示を変えるようなパフォーマンスが挟まりました。どこからパフォーマーが来たかわからなかったし、そもそも、彼らはこちらの存在を気にかけつつも自分の仕事をしていたことから、パフォーマーというより普通に仕事をしに来た人、という印象が強かったです。最初は、さすがに前の展示を覚えていられるほど記憶力はない...と思ってパフォーマンスを眺めていましたが、3回ほど見て、特に大きなモノの移動は行っておらず、単に動かしているだけだと気がつきました。

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1階。最初は作品だと思っていませんでした。

一度1階に降りて休憩を挟んだとはいえ、また展示を観に行ってフロアを往復して、としているうちに、もう自分が何階にいるのかもよくわからなくなっていました。それでも、どこかに大きな違いがあるはずだ、という思いで根気強く何往復もしたところで、何度も見た木張りの壁の空間で、 自分と壁までの距離が7階と8階で違うような感じを受けました。確かめるためにまた往復しましたが、何度かしているうちに少しずつ、それは確かに違いであるという気持ちを強めていきました。とはいえ、目の錯覚と言われればそんな気もして、やはり何回も往復して実感を実感たらしめようとしていたところで、壁に規則正しく描かれた四角形を数えるという発想に至りました。数えるためにまた往復して、数が違うことを発見しました。確実に「違う」ところでした。ようやく実感を持てた。不確かな感覚が確かな感覚になった瞬間。会場にいる人のどれくらいがこの間違いに気がついているのだろうか。周りの人は展示されたモノを見て間違いを探している。そんなわかりやすい小さな違いではない、もっと大きなところに違いがあるのに、と思いながら、最後に一往復して会場を後にしました。

人の記憶はとても曖昧で、エレベーターを待っている間にたった今見てきたモノの輪郭が失われてしまう。だから違うはずなのに違うと確信が持てない。確信を持ちたいから何度も見て覚えようとする。その「わかった」を確かなものにしようとする。そこに確かにあるはずなのにそれを確かなものにできない知覚の不安定さ。でも、本質的な違いには意外と気がつかない。だってあんなにわかりやすく空間が小さくなっていたのに、少なくとも目に入った人は誰もそんなことに気を止めないで小さなモノに視線を向けていたのだから。とはいえ、私も最初は小さな間違いを必死で探していた。周りの人々と一緒だ。要は視線の向け方を変えられるかどうか、なのかもしれない。自分の「わかった」という感覚がいかに不確かなものであるかを痛感し、ああ、確かに「非常にはっきりとわからない」だったと思いながら帰りの電車に揺られていました。

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入り口の前の柱にはびっしりAUDIENCEのシール。ちょっと怖い。
これだけ多くの人が来ていたんですね。

多分この手の作品は好き嫌いが分かれると思います。わからない状態にずっと置かれ続けるととてもストレスがかかります。わからないことはストレスだから何もわからせる気のない作品は好きでない、と感じることの是非を私が語ることは許されません。でも、私にとって、現代アートの面白さは、自分が当たり前に感じていた感覚が揺さぶられることにあると思っています。だから少なくとも私は、今回時間をかけてこの作品を見ることができて本当に良かったです。

千葉市美術館「目 非常にはっきりとわからない」開催概要
会期: 2019年11月2日(土)〜 12月28日(土)(終了)
開館時間: 10:00~18:00(金、土曜日は20:00まで)
休館日: 11月5日(火)、11日(月)、18日(月)、25日(月)
 12月2日(月)、9日(月)、16日(月)、23日(月)
 ※11月5日(火)と12月2日(月)は全館休館
観覧料: 一般 1200円(960円)(税込)
 大学生 700円(560円)(税込)
 小・中学生、高校生無料
 ※障害者手帳をお持ちの方とその介護者は無料
 ※( )前売り、団体20名以上、市内在住65歳以上の方の料金


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