素人がジャズをやった話。

ちょっと前に、軽音サークルの
ライブがあった。

いわゆる追い出しライブってやつ。

そのライブに、私もバンドを組んで
出ることになった。

前々からジャズをしよう、と
言っていた仲間がいたので、
そいつらと組んでジャズをやることにした。

担当はキーボードだ。

練習のために、大学や、
ライブハウスに通った。

練習はなかなか楽しかった。
少しずつだが、形になっているのが
わかってくると楽しい。

とは言っても、メンバーの4人は、
みんな素人だった。

4人中2人は、楽器の経験が浅い。

私はクラシックピアノをやっていたので、
ピアノは弾けるが、ジャズは初めてだった。

ソロ担当のギターのメンバーも、
ロックは長年していたが、
ジャズは初めてとのことだった。

ベースとドラムは大学に入ってから
楽器を始めたメンバーだ。

また、ジャズの知識も皆無だった。

私とベースのメンバーは、
ジャズが好きで、自己流で勉強もしていたが、
あとの2人は何もしらなかった。

そんな素人の集まりのジャズバンドで、
ついに本番当日を迎えた。

昼前、ライブ会場のある街に着いた私は、
時間があるので床屋に行くことにした。

どんな髪型にしようか迷い、
そして決心した。

坊主にしよう。

バリカンで極限まで薄くしてもらった。

生まれ変わった気分だ。
坊主にしたのは初めてだった。

さて、次は格好である。

スーツに、黒い中折れ帽子、
黒の蝶ネクタイで来ていたので、
なにかアイテムが欲しいと思った。

そこで古道具屋に向かい、
ステッキとピンバッジを買った。

合わせて2000円だったと思う。

ピンバッジを左胸につけ、
ステッキを持って、楽屋に入った。

リハも終わり、あとは本番だけだった。
本番の出順は1番目だ。

7バンドあるなかで、
ジャズをするのは私たちだけだった。

ステージ裏に移動する。

入場の音楽がかかる。
Moanin' だ。

ジャズをするから、と言ったら、
ライブ会場のスタッフさんが、
じゃあジャズで入場させてあげる、
とおっしゃってくれたのだ。

そして持ち場に着く。

音量をチェックする。

全員の顔を見渡して、
まずは即興だ。

C Jam Bluesである。

コード進行をそのままに、
ギター、キーボード、ベースの
ソロが繰り広げられる。

まずは一曲。
なんとか走り抜けた。

次は、Take the 'A' Train。

キーボードの遮断機の音から始まる。

本番前の最後の練習で、
テンポをかなり上げた。

それが功を奏している。

ライブ会場を、快速列車が
走り抜けている。

観客を乗せて、音楽のハーレムへと
向かっているのだ。

全員がソロをし終わり、
A列車は終点へ。

そして最後の曲、
Take Five。

5拍子の特徴的なこの曲は、
私たちが一番自信を持っている曲だ。

A列車に負けず劣らずのアップテンポ。
ベースから始まり、徐々にメンバーが
増えていくイントロ。

ギターソロ、キーボードソロが終わり、
主題に戻ってくる。

アウトロで段々と抜けていき、
最後は静かに終わる。

やり切った。

素人が、ジャズを、やり切った。

拍手に包まれながら、
私たちはステージを後にした。

楽屋に帰ってきた後、
ベースのメンバーと話した。

彼は落ち込んでいた。
もっと上手くできた、と。
もっと観客を楽しませることができた、と。

そんなことを言うので、
励ましてやることにした。

簡単にすると、

「私は、とても楽しかった。
 なぜなら、結果だけを見ていないからだ。
 練習も、本番も、どちらも楽しかった。
 それでいいんだ。
 プレイヤーが楽しんでいない演奏で、
 観客が楽しめるわけがない。
 もっと上手くできた、なんてのは
 プレイヤーなら誰もが思うことだ。
 私はピアノを弾けるが、
 音楽の天才ではない。
 努力の天才なんだ。
 だから、君も努力の天才になれる。
 またこのバンドで、ジャズをしよう。」

といった具合だ。

こんな素人の言うことに説得力なんて
ないのだが、励ましにはなっただろう。

そうして、その日は解散した。

さて。

ジャズに限らないことだが、
私は音楽をしていてよかったと思う。

吹奏楽もやった。
ピアノもやった。
合唱もやった。
指揮もやった。

だからこそ、言えることがある。

音楽は、とても簡単だ。

よく、音楽は難しい、苦手だと
言う人がいる。

確かに、音楽をよくしらないうちは、
難しく感じることもあるだろう。

では、音楽に合わせて、
体を揺らしたことはあるだろうか。

実は、この何気ない動作が、
指揮の基本であったりする。

カラオケは老若男女問わず楽しめるし、
ピアノは押したら音が出る。

ほら、案外、簡単でしょ?

音楽は簡単だ。
難しく考えるのは、それを知ってから。

私たちは素人だった。
でも、ジャズをすることができた。

音楽、ええやん。

終わりに

素人がジャズをやった話でした。

とても楽しかったです。

またやりたいです。

またね。

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