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ラブサバイバー

『スケベがマイアミ方面に広がっています。住民の方々はご注意ください』
 テレビの女が言う。ビリー・マツザカは平日真昼間に電気もつけずそれを見ていた。
「パパ大変、奴らが隣町まで来てる! 早く逃げないと!」
 カエデは玄関から猛然とリビングに走り込んで来る。息を切らし、薄暗い部屋で父の背中を見つめ、そのまま五秒。沈黙。
「……パパ?」
「なあ、カエデ。その”奴ら”ってのは」
 父がゆっくり、のっそりと背後に振り返り、カエデにその表情を、見せつけた。
「……こ~んなスケベ面だったかい!?」
 耳を劈くカエデの悲鳴が、マツザカ家を貫いた。

 202X年、夏。フロリダ州はドスケベゾンビの侵略を受けていた。
 奴らはスケベ特有の笑みを浮かべて逃げ惑う住民に猛ダッシュで追いすがり、耳たぶを甘噛みして感染を拡げていった。
 今、マイアミは21世紀のソドムだ。見渡せば市民たちは老若男女問わず路上でエアフラフープ回しに励み、星条旗は星を切り取られて両胸に貼られている。交通機関は痴漢で溢れ、訴訟も起こらないので裁判官は法服を脱ぎ半裸になった。テレビではいなりかずきとケイン・デカスギが猥談に熱を上げ、WWEのレスラーたちが関節技と619ばかりキメている。
「ジミー! 死んだ奥さんに恥ずかしくないのか!?」
 俺はハイウェイを爆走するトラックの荷台から、後方の老刑事バイカーに叫んだ。
「お前みたいな筋肉エロエロナイスバディを野放しにできるかっ! 太腿おっぴろげて神妙に荒縄を頂戴しろ!」
 ジミーは狂笑を浮かべ叫び返す。そしてベルトのバックルをヌンチャクの如く振り回し、フルスロットルで突っ込んできた! 俺は刺又を構え、突き出す。
「ぐぼぉ」
 喉仏に一撃入り、ジミーはハンドルを手放し痛がる。そして脇へとそれて行き、バイクはマイアミの海へ勢いよく飛び込んでいった。
「あの世で詫びてこい」
「パパ、まだ来るよ」
 助手席から愛娘の声。

【続く】

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