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試飲会でのレアな体験

数年前、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」に通っていた頃の話。当時は土日出勤だった為、平日昼の講義を受けていた。平日の昼に私が取っていた初級クラスは奥様方や定年退職されたばかりのおじさま方が多く、和気あいあいとのんびりした雰囲気の授業だった。

ある日、別室で開催されていたとあるインポーターさんの試飲会に参加させてもらう機会があった。授業中に突然告げられてドレスコードは大丈夫かと心配にもなったが、勉強になる良い機会と思い喜んで参加させてもらった。そこで印象に残ったいくつかのワインがある。惜しむらくは当時まだワインの勉強を始めたばかりの初心者だったため、もう少し知識と経験値を持って臨みたかったところではあるが。

講義室をぐるりと囲むようににセットされたテーブルに、多くのカリフォルニアワインが並ぶ。講師には「特別に参加させてもらうのでお行儀よくね」と言われていたので酔い過ぎないように、また商談の邪魔をしないように遠慮がちに、気になる銘柄をテイスティングしていった。

・ヴァレンタイン・ヴィンヤーズ・メルロ2003

こちらは生産量282ケースという希少なもので、当主の逝去により自家消費用のバックヴィンテージがリリースされたとのこと。フレンチオーク(一部新樽)で20ヶ月熟成されたリッチでまろやかな味わいの逸品。当時(2016年)はまだ通販サイトで入手できたので、自家用と友人への誕生日プレゼント用にすぐさま購入した。既に入手不可なのであと数本買っておけばよかった……

・RAVENS WOOD シャルドネ

こちらは「参考品」として出品されたもの。バリューワインとして知名度もあり価格もお手頃のこのワインが参考品?と思いきや、ヴィンテージがなんど1996年。このタイプのシャルドネで20年ものとは!と驚きながらもどんな味わいか試してみる。

……ん?これは。馴染みのあるシャルドネとは違う。色合いは枯れた黄金色というのが正しいか。もっとも当時はテイスティングの作法すらよくわかっていなかったのでうまく思い出して表現するのは難しいのだが、口にしたとたん濃厚な、炒ったようなナッツの香りが広がった。ナッツというよりマロングラッセやモンブランのような厚みのあるオイリーな風味。私これ好きかも知れない、と一緒に試飲したクラスメイトに言ったら頭を捻っていた。何とも言えない表情をしながら「ツナ缶のようなにおいがする」と。ツナ缶?と思ってもう一口含んでみると、熟成がそうさせるのかわからないでもない。とはいえ私はやはり強烈なナッツ香として感じていたし、ここまで熟成してしまうとテイスティングの正解なんてないのかも知れない。まあ、こういったレアな熟成ワインはまず試験には出ないだろうし。

個人的にはこのヴィンテージワインをとても気に入ってしまった。ものによってはその場で即売可だったがこちらは参考品で試飲のみという。ただ「在庫についてはお問い合わせください」とあったのでダメ元で購入できるか尋ねてみたが、やはり購入は不可とのこと。残念。この味わいに再度出会うには現行ヴィンテージを買って20年熟成まで待つのみ。しかし個人宅での保管でその味わいになるかは限りなく期待できないが。

その話をワイン友に後日話したら「20年後一緒に飲もうか!それまで元気でいよう」と非常にポジティブな答えが返ってきたので、まずは同タイプのシャルドネを買うことにした。あれから何本シャルドネを買ったか知れないが、熟成させるどころか片っ端から楽しんでしまっているのであの味には恐らく再び出会えることはなさそうだ。いや、それが本来の在り方なのだが。



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