見出し画像

ゲームで学び、ゲームを学ぶ(4)

ゲームの参加人数とそこに出てくる課題

 今回からは具体的なゲームの紹介をしていきたいと思います。ゲームは構成する人数が増えることによって、状況判断の複雑さが増していきます。その点を踏まえて、ゲームの参加人数とそこに出てくる課題に焦点をあてながら紹介していきたいと思います。

「1対1」のゲーム

 バレーボールの「戦術アプローチ」を実践する上で「ラリーの中断」が目的のゲームをデザインすることができれば、どんな人数のゲームであっても、バレーボール・ゲームに必要な「思考・判断・技能」を学習できる環境は整い、バレーボール・ゲームに求められる力は高まります。そこで、今回は最少人数である「1対1」のゲームをテーマに挙げ、特徴や具体的な実践例を紹介していきたいと思います。また、形式的(見た目)は同じである「ボールを繋ぐこと(ラリーの継続)」を目的とした「1対1」(対人パスやネット越し)と異なる点も説明していきます。

「1対1」の特徴

初心者導入にオススメ

 初心者導入における最適なゲームの1つです(初心者以外でも「学習」できます)。バレーボールの指導教本(日本バレーボール協会,2004)においても、初心者指導の章では「初心者には基礎的なものにとらわれず、ゲームに入りたい子もいる」「初心者は誰でも出来るだけ早くゲームをしてバレーボールを楽しみたいという欲求を持っている」というモチベーションに関する記述があり、最低限の技術は必要なものの、可能な限りゲームを導入してあげる必要性にも触れている。

 「1対1」は、ネットを挟んで、相手コートにボールを落とし合うゲームです。ルールはシンプルで、相手コートに「1回返球」でボールを落とし合います。ラケットのないバドミントンのようなイメージで、バレーボール・ゲームの「学習」として、結びつく印象がないかもしれません。

 そこで、今回のテーマである「1対1」の特徴から「なぜ初心者にとって簡単にゲームができるのか」「具体的にどんなこと(What)が学習できるのか」「どのように(How)学習が進むのか」を紹介していきます。
【参考文献】日本バレーボール協会(2004),バレーボール指導教本,大修館,東京.

なぜ初心者にとって簡単?

(1)  プレーが必然的だから

 コートに1人ということは、毎ラリーを自分で必ずプレー(ボール・タッチ)するという「必然的」なプレーが保たれることで「思考・判断」における難易度が下がり「技能」(ボール操作)に集中できます。一方で、2人以上になると「選択的」なプレーが必要になります。初心者段階では、少しの「迷い」がボールの操作を難しくするので「思考・判断」の部分にかかる負荷を小さくすることが大事です。また、前方だけに気をつければよく、必要な視野が狭くても良い(味方が複数いると色々な方向に向く必要がある)ゲームになるので、その点で比較的易しいものになります。

(2)  1回返球が可能だから

 どの位置からでも、ある程度山なりに返球できるコートの大きさ・ネットの高さを設定することが必要です。オススメのコート設定は、アタックラインを利用して、フロントコート3分割です。(図1参照:3m×6mを3コート)。コートの大きさの基準はプレーヤーがあまり動かずにプレーでき(ボレーに集中できる)、かつ、1回で相手コートに返せる距離を保つことです。また、ネットが低すぎると、ラリーの中断が容易になりすぎ、攻防のバランスが悪くなります。目的はあくまでも、ラリーの中断でありながら、ある程度のラリーの応酬(学習機会を保障)があることを目指します。

図1 フロントコート3分割

(3)  攻防の目標が明確だから

 【攻撃】狙うべき的(成功)が比較的大きいことです(3m×3m=9㎡)。ある程度の力の加減ができれば、相手コートにボールをボレー(運ぶ)ことができます。逆に、繋ぐことが目的のドリル(例えば、対人パス)であれば、狙う的(人)は小さい上に、動くことになり、その点で難しくなります。

 【守備】守るべき範囲が限定的であることです。限定的であるからこそ、無理に追うボールが少なくなり、比較的易しいボールに集中できます。逆に、繋ぐことが目的のドリルであれば、コートの概念がないので、どんなボールでも落とさないことになるので、その点で難しくなります。

どんなことが学習できるのか?

 ネット型スポーツにおいて、1回返球は「攻守一体」のゲームと呼ばれます。なぜなら、守りながら(ボールを落とさず)、攻める(ボールを運ぶ)という、常に2つの意味を持っているからです。つまり、1回返球のゲームであっても、必然的に「守る」(守備戦術)・「攻める」(攻撃戦術)を学ぶことができます。
(1)守備戦術(得点されない工夫)
・ポジショニング
相手の返球に対して、コートのどこで守るか、どんな構えをとるのか。
(2)攻撃戦術(得点するための工夫)
・ボール操作(コントロール)
相手を見て、コートのどこに・どんなボールを送るか。

 これらのことを、具体的に2つの例をプレーで示すと、以下のようになります。
①「エンドライン際の返球に対して低い構えから(A)、アンダーハンド・ボレーで返球した(B)」場合
②「ネット際の返球と判断して、ネット際に詰めて(A)、オーバーハンド・ボレーで返球した(B)」場合
これら2つ例では(A)が守備戦術、(B)が攻撃戦術です。
 また、コートが設定してあるので、自然とボールの「in」「out」(ラインジャッジ)を学習することもできます。

 次回は「どのように学習が進むのか?」という話につなげていきたいと思います。

▶︎縄田亮太のプロフィール

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。