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運動学習(モーター・ラーニング)を考察する

科学的知見に基づき、コーチングを行うことの重要性は言うまでもない。

しかし、日々現場でコーチングをしている方が次のような質問を受けるとすれば、一体どんな反応を示すだろうか。

いつでも科学的な知見に基づいて練習を計画・実践し、プレーヤーへ問いかけ、フィードバックを行えているか?

躊躇なく「イエス」と言えるコーチは少ないのではないだろうか。

私も自信をもって「イエス」と言い切れない一人のコーチである。しかし、だからこそ日々バレーボールについて学ぶ時間を確保し、他のコーチやプレーヤーと議論する機会を意識的に持つようにしている。(それでも十分に学ぶ時間を確保できているとは言えない)

そんな私ではあるが、久しぶりにバレーボールの良書に出会うことができたので、その学びを日々現場で思考錯誤をしているコーチたちと共有したいと思い、筆をとった次第である。

取扱書籍『バレーボール コーチングの科学』

私が今回の記事で取り上げたい書籍は『バレーボール コーチングの科学』である。

表紙の写真から見ても分かってもらえるだろうが、なかなかのビンテージ書籍である。著者はカール・マクガウン氏。アメリカバレーボール界の重鎮だ。本書は主にアメリカのバレーボール代表チームからの知見を中心に書かれているものである。いかにもアメリカらしいと感じるところも多い。

さて、本の概要説明もほとほどに本題に入っていきたいと思う。

今回のこの書籍の中でも特にコーチたちと共有したい内容は運動学習(モーター・ラーニング)についてである。なんとなく言葉自体は聞いたことがあり知っているつもりになっていたが、本書を読み進めるにつれ、自分自身が完全にバカの壁(知っているつもりになって学ばない)に阻まれていたことを痛感した。

本記事では、書籍から学んだことにまとめつつも、私自身の解釈も存分に付け加えようと思っている。その点については留意いただきたい。

運動学習(モーター・ラーニング)とは

それでは、まずは言葉の意味や定義について考えていきたいと思う。

本書によると、次のように説明されている。

運動学習(モーター・ラーニング)※motor learning:科学的分野の一つであり、運動技術(motor skill)の学習に影響を及ぼす諸要因を研究する心理学の一領域である

う〜ん。難しい。いまいちピンとこない。

これが正直な感想ではないだろうか。では、早速私の解釈を挟んでいこうと思う。最も平易な言葉で運動学習を表現するなら、新しい運動技術を習得するための学びのプロセスとする。

眼前のプレーヤーが新しい運動技術を習得する学びのプロセスを最適化することはコーチにとって極めて重要な仕事の一つである。であるにもかからわず、この最適化するための知見について体系的に学び、それをコーチング現場に落とし込めているコーチは少ないのではないだろうか。

こうした日本のバレーボール界における課題(だと私が勝手に思っている)の解決に本記事が1ミリでも貢献できれば幸いである。

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