見出し画像

執筆実績:コロナ禍の外国人技能実習生 それぞれの決断

コロナ禍の2020年当時のものです。

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令され、日本では多くの人が自宅にいることを余儀なくされました。
このような状況となった場合、大きな影響を受けるのが飲食店や中小企業の従業員です。
仕事をしたくても思うように仕事が回らない場合も多く、中小企業では在宅勤務ができない職種なども多くあります。
こうした状況下で、仕事の手が足りずに中小企業に受け入れられた多くの外国人技能実習生は無給の自宅待機や解雇などの扱いをされました。
こうした場合、どうしても日本人の雇用を守る方向に行ってしまいがちです。
今年10月に群馬県のアパートでベトナム人が鳥や豚などの窃盗を行い、アパートの一室で解体を行っていたとして、4人が逮捕された事件ですが、容疑者にベトナム人技能実習生も含まれています。
彼らが事件を起こすきっかけとなった技能実習制度の闇を考えていきます。

技能実習生の失踪は、年々増えている

群馬の事件が起こった際に注目されたのが技能実習生の失踪です。
平成30年には約9000人の技能実習中の実習生で失踪した人が報告されており、全体の2%の技能実習生が失踪しています。
これは平成30年に限った話ではなく、毎年、技能実習生全体の2%程度の人が失踪しています。
外国人技能実習生は増加傾向にありますので、失踪者の数も年を追うごとに増えています。
失踪後の技能実習生は正規の仕事につくようなことはできません。
失踪した技能実習生はその後見つかることが少ないことが大きな特徴です。年間の失踪者数が増えていて、見つからないとなると、失踪した人が日本に増えていっているという不安が募る状況となっていることは否定できません。

失踪した外国人技能実習生がどういう生活を送っているのか?

現状の技能実習の労働環境に耐えきれずに失踪する人や、もっと多くの給料をもらいたいということで失踪するような人までその理由は様々ですが、失踪後の生活はどのようなものなのでしょうか?
実際に、失踪する場合、技能実習生を相手にした失踪ブローカーなどがいるようです。
こうしたブローカーの存在は違法なのですが、技能実習生たちは現状の受け入れ企業の労働環境が過酷であっても、監理団体などに申し出ても職場の変更を受け入れられない場合がほとんどです。
技能実習生は事実上、転職や職場の変更ができないことを受け入れて日本に来ているので、過酷な状況から逃れるためには失踪など違法な手段に出る他ない場合が多いのです。
近年では、労働環境の改善要求を訴えるために、誰でも入会できる労働組合に入って窮状を訴えるという動きもありますが、技能実習生は明日の生活も保障されない状態でなかなかそういった活動を行うことが困難です。
このため、他の職場に移るために失踪するという外国人技能実習生が多くいるというのが現実です。
失踪後の職場は、もちろん合法な形で雇用されている職場ではありません。しかし、仕事内容は通常の製造業や農業などの仕事に従事することが多くなると言われています。
これは失踪した技能実習生を斡旋するブローカーの存在によるものです。
入国管理局などに状況が把握されれば、即座に収監されるような状態です。
ここまでのリスクを冒してまで、失踪をする技能実習生は受け入れ企業や監理団体から不当な扱いを受けても助けを求められない、転職などができないという状況が起因しているとも言えます。

技能実習制度が失踪者を増やす状況を作っている??

技能実習制度が多くの問題点があるという指摘は様々なメディアや専門家が行っているということは広く知られています。
しかし、政府は技能実習制度を廃止する方針は示さず、特定技能など技能実習を拡大した在留資格を創設しています。
その間に毎年技能実習生全体の2%の人が失踪しているという現実は、決して見過ごせるものではありません。
最低賃金は支払わなければなりませんが、労働環境下では様々な天引きがされて技能実習生に支払われる賃金は少ないものになっていることもあります。
また、途上国の外国人だからということで下に見てハラスメントをする雇用主もいます。
こうした状況を改善しようと政府と厚生労働省などは、監理団体や受け入れ企業の評価を行って、問題のある企業には技能実習生の受け入れを停止するなどの規制を強化していますが、失踪者の減少には効果が上がっていません。

そんな中に起こった新型コロナウイルスによる緊急事態宣言

そんな状況の中に発生した新型コロナウイルス感染拡大は多くの人の就業状況に影響を与えました。
特に、緊急事態宣言による操業停止などは多くの技能実習生の職場を奪いました。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために自宅待機などが多くなったことで、製造業であれば今まで工場が操業することが難しくなったり、受注量が大きく減ってしまったりという理由で、外国人技能実習生が解雇されるという事態が多く発生しました。
外国人技能実習生が雇用されている職場では、日本人従業員も働いていますが、日本人従業員が解雇されずに先に技能実習生が解雇されるということも、外国人技能実習生にとってはやはり不満となることになります。
日本人を解雇すると、法的な問題となることを恐れている経営者も多いのではないかと思います。外国人技能実習生も日本人と同じ労働法で守られているということが知られていないことと、技能実習生自身が労働法などの知識がないため、解雇をやむを得ないと受け入れてしまうということも、外国人技能実習生だけが解雇されている主な理由となります。

解雇された技能実習生の再就職先がない

就業に問題があったわけではないのに解雇された場合、日本人であれば再就職の際にそこまで大きな障害にはなりません。
外国人技能実習生の場合、解雇された企業からの外国人技能実習生を監理団体が再就職を斡旋する義務がありますが、コロナ禍による産業全体の不況になっているため、なかなか再就職先が見つからないという状況があります。
また、技能実習が終了した実習生がコロナ禍により、帰国ができない状況でも在留資格がないため就業ができないという状況に陥っている外国人もいます。
こうした状況に追い詰められた外国人は、仕事もなく日本に居続けることを強いられてしまいます。
こんな状況下であれば、生活のために何等かの措置を取らなければと考える外国人も多くなってしまうというのは仕方がないのかもしれません。

群馬の農作物盗難事件にも元外国人技能実習生

2020年10月に群馬県内の家畜や果実などを盗難し、豚や鳥などの家畜をアパートの一室でさばいていたとして、ベトナム人グループが摘発、逮捕さました。
盗難してさばいた家畜や果実を、インターネットなどを通じて販売して生活費を稼いでいたとのことです。
この時にいたベトナム人の中には、コロナ禍により実習先を解雇された元外国人技能実習生も含まれていました。
報道では、在留資格の期限が切れても帰国する実費を準備することができず、日雇い労働者として働いてきたが、コロナ禍により日雇労働がなくなってしまったため、窃盗グループに入ったとされています。技能実習制度を利用して日本に来ても、こうした犯罪をしなければ生活ができないという状況に強いられてしまうというのがやはり制度を改善しなければならないということではないでしょうか。
こうした犯罪は決して許されることではありませんが、技能実習が終了しても帰国もできずに仕事ができなかったり、技能実習での不当な扱いの防衛手段としては失踪しか残されていなかったりと、技能実習制度自体に欠陥があると言っても過言ではありません。

コロナ禍においての技能実習期間切れは半年間の就労可能な在留資格発給のみ

コロナ禍において、様々な制度が変わっていっていますが、技能実習制度においては何の変更もされていません。
コロナ禍により、帰国ができない外国人技能実習生を対象に、在留資格を特定活動に切り替えを行い、今までの仕事を半年間就労可能なものに変えるというだけの暫定措置が取られているだけとなります。
技能実習の1号から2号への切り替えが基準を満たしていないために切り替えを行うことができない外国人向けには特定活動の4か月間の就労可能な暫定措置が取られています。
これらの措置は1年以内の措置となり、極めて限定的な在留資格となります。
コロナ禍は依然として先が見えない状況ですが、こうした在留資格を更新する綱渡りを技能実習生たちは行わなければならない状況です。

技能実習制度はコロナ禍により大きな転換期を迎えている?

技能実習制度は、一歩間違うと移民制度となり、犯罪の増加を心配する人たちが以前からいました。
群馬での事件はその心配が現実のものとなった事件として多くの報道機関が取り上げました。
こうした状況にあっても、技能実習制度自体は廃止の動きはありません。
しかし、コロナ禍以前のように、人手が足りないから外国人を雇用すればすべてが解決するという意識は持てなくなりました。
外国人であっても慎重に雇用しなければ、群馬の事件のような犯罪グループを増やす結果となってしまいます。
やはり、対策は無責任な外国人雇用や、外国人技能実習生を人間として扱うなど、日本人の労働者に対して行っていることと同じことを行うという当然のことを、外国人技能実習生にも行うことが重要です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?