【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 16/30

「それは、自由がほしかったというか、恋人という距離感が、しんどくなってしまったからなの。

じつはわたしたち、同棲していたのね。付き合ってしばらくしてから。

というのは、お互い、ちょっと人とずれているところがあって、わたしも彼も、実家を離れるまでは、家族とうまくいってなかったの。そういうこともあって大学では一人暮らしをしたいとおもってたのね。

その一方で、将来的に、だれかと同じ空間を共有しながら生きてはいくことに対して不安があったの。

でもね、彼と出逢ってから考えが変わったわ。人生に対するいろんな価値観がマッチングしたのよ。ほんと、すごいわよ。だからわたし、うれしくなっちゃって、同棲したいっていいだしたの」

「ほんと、この人は、人騒がせな女人なのだよ」
と亮介さんがいった。

「ちょっと、黙ってもらってもいいかしら」
とあおいさんはいい返した。

「それで、半年くらい、おはようからおやすみまで一緒にすごしたわ。それで、わたしという人間は、他人と生活はできる、って感じたの。

それは今後の人生で、ものすごい重要なことだとおもってるわ。じぶんの人生にすこし安心ができたの。

でも、他人と暮らしていけるという確信を得てから、妙に亮介といっしょにいるのが、なんだかとっても窮屈になったの。

この人への気持ちがさめたとか、ほかにすきな人ができたとかそういう種類のものではないの。わたしの感覚の問題。

やっぱりお互い、まだ二十歳だし、お互いのことは大事なんだけど、落ちついてしまうのは、まだ早いじゃない。

落ちつくのは、もっと広い世界をみてからでもいいんじゃないかという結論に達して、適度な距離をとることにしたの。

いまでも二人でお出かけはするし、ごはんもたべにいくし。気をつかってるわけじゃなくて、わたしたち仲良いわよね?亮介?」

「・・・」

「なんでそこで黙るのよ」

「『ちょっと、黙って』ってきみにいわれたからだよ」

「おおん、これだから、亮介ったら」

「わしは別れるのは、いやだったけれどね」
亮介さんなかなか女々しい。

「こらこら、いいかんじで話がまとまりかけてたのに」

「きーぽん!そういうわけだ。この美女人氏とは、数々のエモをともにしてきたわけだ。とにもかくにも、豚の角煮。ということで、よろしく。五條のおじさん。名前なんていったけ?フビライ・ハンだったっけ?」

 

わかったような、わからないような、そんな世界が二人にはあるのだろう。初対面の会話で、こんなにつよく印象が残ることは、なかなかない。

あおいさんに対する認識は、そのときは、先輩の元カノで、地元が同じなのか、という程度だった。

そして、この二人はねんごろな関係だったんだな、という健在な青年男子の、ざんねんでたくましい想像力がはたらいたのだった。


ーーー次のお話ーーー

ーーー1つ前のお話ーーー




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